泡沫紀行   作:みどりのかけら

926 / 1192
春の気配がまだ淡く地表に滲む頃。
足元の土は冬の名残を抱え静かに冷える。
遠くにかすむ緑の峰が霞の奥で息づく。
風は柔らかく頬をかすめ静かな道を開く。
その淡い揺らぎに導かれるまま歩み出す。


歩みを重ねるほど土の匂いが深くなる。
掌に触れた草の湿りが指先へ残る。
遠い峰の緑は霞に包まれ柔らかく揺れる。
その静けさが胸の奥へゆっくり沈む。
まだ冷たい風が袖口を静かに満たす。



926 春霞に浮かぶ静謐なる緑の峰

朝の淡い霞が尾根の輪郭をほどく。

湿り気を帯びた土が足裏にやわらぐ。

まだ冷たい風が袖口を静かに探る。

遠い緑の峰が春の息を含んで揺れる。

 

 

踏みしめた落葉が薄く乾いた音を返す。

やがて斜面の色が柔らかな若緑へ移ろう。

掌に触れた幹は夜露を残してひんやりする。

霞の奥で山の起伏がゆるく呼吸している。

 

 

緩やかな坂を登るほどに光は淡く広がる。

足首に絡む草がまだ冬の硬さを残している。

かすかな甘い匂いが風の端に漂いはじめる。

遠くの峰は水に溶けた墨のように揺らぐ。

歩幅の揺れに合わせ胸の奥が静まり返る。

 

 

小石を踏むたび足裏へ細かな振動が届く。

斜面を渡る風が草の穂を同じ向きへ倒す。

霞は光を抱えたまま谷へゆっくり沈む。

緑の峰は沈黙のまま輪郭を深めてゆく。

 

 

陽の温みが肩口へ静かに溜まりはじめる。

掌で触れた岩は乾ききらぬ冷えを宿す。

靴底の下で砂がやさしく崩れて流れる。

その感触が足取りの奥に柔らかく残る。

遠くの峰は霞の衣をまとい静かに浮かぶ。

 

 

斜面の陰に入ると空気が少し重くなる。

湿った苔が指先へ静かな弾力を返す。

葉の重なりの下でかすかな水音が揺れる。

霞は谷の奥へ溶けるように流れてゆく。

 

 

やがて緑の峰が近く深い色を帯びる。

草の先が膝に触れ淡い水気を残す。

息を吸うたび土と若葉の匂いが満ちる。

霞の向こうで空がゆるくほどけている。

 

 

歩みの合間に風が衣を軽く押し戻す。

掌に残る苔の湿りが静かな冷えを呼ぶ。

霞は陽に透けて淡い白へほどけてゆく。

峰の稜は柔らかな光を背にして沈む。

足裏の熱が土へ静かに預けられてゆく。

 

 

緩い尾根に出ると風が少し澄み渡る。

草の匂いが乾き始め胸へゆっくり満ちる。

霞は遠くで細い糸のようにほどける。

緑の峰は静かな重みでそこに留まる。

 

 

夕の光が斜めに草の影を引きのばす。

足裏に残る温みが一歩ごとに薄れてゆく。

掌に触れた岩は昼のぬくもりを抱えている。

霞の奥で緑の峰がゆるく息を潜める。

沈む光の中で風だけが静かに流れ続ける。

 

 

尾根を離れると空気は再び柔らぐ。

草の穂が足首に触れ細かな水気を残す。

土の香りがゆるく胸へ広がり満ちてゆく。

霞の底で緑の峰が静かに重みを保つ。

その輪郭が歩みの奥に淡く残り続ける。

 

 

斜面の陰へ入ると風の温度がわずかに沈む。

掌で触れた幹のざらつきが指先に残る。

落葉の層が足裏で柔らかく沈みこむ。

霞は低く流れ草の匂いを運び去る。

 

 

ゆるやかな下りで視界がひらけてゆく。

遠い峰の緑が淡い水色に溶けている。

息を吐くたび胸の奥の重みがほどける。

霞の流れがゆっくりと谷へ傾く。

足音だけが静かに道の上へ落ちてゆく。

 

 

小さな石を踏むたび乾いた感触が返る。

指先で触れた草の茎がかすかに軋む。

風が通ると葉の裏が白く揺れかえる。

霞の奥で峰の影がやわらかく沈む。

 

 

やがて光は少しずつ低く傾きはじめる。

草の匂いが昼よりも深く濃く漂う。

掌に残る苔の湿りがまだ冷たい。

霞はゆるくほどけ空の色を受け取る。

遠い緑の峰は静かな影をまといはじめる。

 

 

斜面の石肌に触れると微かな温みがある。

足裏の疲れが土へゆっくり沈み込む。

風が吹くたび袖口が柔らかく揺れる。

霞は光の端で薄く裂けてゆく。

 

 

道の曲がりで緑の峰がふと姿を隠す。

その空白が胸の奥へ静かに広がる。

湿った土の匂いがゆるやかに漂う。

霞だけが尾根の上で淡く残る。

 

 

足取りは自然にゆっくりと重くなる。

小石の感触が一歩ごとに深く伝わる。

遠い空の色が少しずつ淡く沈む。

霞の残りが峰の形をやさしく覆う。

その静けさが歩幅の間に滲んでゆく。

 

 

やがて草の揺れが小さく落ち着いてくる。

風は柔らかく頬をなぞり去る。

足裏に残る温みがゆるく冷えてゆく。

霞は細い帯となり遠くへほどける。

 

 

薄い夕の色が斜面に静かに溶けてゆく。

掌で触れた土は昼のぬくもりを残す。

遠い緑の峰は影の奥へ深く沈む。

霞だけが淡く空へ漂い続ける。

その気配が歩みの奥で静かに揺れている。

 




斜面の向こうで光がゆるやかに薄れてゆく。
歩みの奥に残る土の温みが静かに冷える。
遠くの緑の峰は霞の底へ深く沈む。
風は一日の匂いを淡く運び去る。


掌に残る草の湿りが静かに消えてゆく。
足裏に宿った熱が土へ戻っていく。
霞は細くほどけ空の奥へ溶けてゆく。
見えなくなった峰の重みだけが胸に残る。
その静かな余韻が歩みの先へ続いてゆく。
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