泡沫紀行   作:みどりのかけら

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冬の風が、まだ名も持たぬ朝を撫でていた。
凍った土を踏むたび、静かな響きが胸へ沈む。
白い息が空へほどけ、薄い雲に溶けていく。


遠い斜面に、丸い影が眠る気配があった。
その沈黙が、歩みをそっと奥へ導いていく。
足裏の冷えだけが、確かな道しるべになる。


乾いた風が頬をかすめ、骨の奥まで澄んでいく。
まだ触れていない静けさが、すでに胸に満ちていた。



986 禅の祈りが宿る達磨の聖域

薄い雲が冬の空を低く撫でていた。

凍った土を踏むたび、靴底に鈍い響きが返る。

冷えた息が白くほどけ、静かな坂へ流れた。

 

 

石の段は霜を抱き、指先ほどの光を返していた。

私は歩幅を縮め、足裏の冷えを確かめながら登る。

 

 

風の薄い谷間に、丸い影がいくつも眠っていた。

乾いた土の匂いが、胸の奥でゆるく広がる。

赤い面のざらつきが、掌の記憶を呼び起こす。

かすかな雪が肩に触れ、すぐに水へほどけた。

 

 

鈍色の雲の奥で、光が静かにほどけていた。

 

 

石壁の冷えが背へゆっくり染みてくる。

掌を当てると、冬の重みが骨へ沈んだ。

遠くの枝がこすれ、乾いた響きが空へ散る。

閉じた瞼の裏で、赤い丸い影が揺れる。

吐いた息が頬を撫で、細い霧になって流れた。

 

 

細い道の脇に、古い木の肌が立っていた。

指で触れると、裂け目に冷たい粉雪が残る。

その感触が、胸の奥へ静かに沈んだ。

 

 

足先に触れる石が、わずかに温もりを返す。

歩みを止めると、雪の粒が衣をかすめた。

 

 

丸い影の列は、黙って斜面を見つめている。

その沈黙に触れるたび、胸の奥が澄んでいく。

風が衣の裾を揺らし、乾いた布の音を残す。

雪がひと粒、唇へ触れて淡く消えた。

 

 

段の上に立つと、冷えた空気が胸いっぱいに満ちた。

遠い雲の隙間で、淡い光がゆっくりほどける。

 

 

段の縁に残る霜が、淡い光を静かに抱いていた。

私は指先でそれをなぞり、薄い冷えを確かめる。

砕けた粒が爪の間で静かにほどけた。

 

 

丸い影の列は、雪の気配をまとい沈んでいた。

粗い面に触れると、冬の乾きが掌へ移る。

そのざらつきが、胸の奥に長く残った。

風が通り、粉雪が静かに面をかすめた。

 

 

空の色は、鈍い灰からわずかに淡む。

薄い光が斜面をゆっくり撫でていく。

 

 

石の段に腰を下ろすと、冷えが骨へ深く沈む。

衣の内で体温がゆっくり広がる。

足先の感覚が、じわりと戻ってきた。

遠くで枯れ枝が折れ、乾いた音が落ちる。

その余韻が、冬の空へ長く漂った。

 

 

白い息が目の前でほどけ、空へ混じる。

それを見送るうち、胸の奥も静かに澄んでいく。

 

 

丸い影の一つに手を置く。

冷たい面の奥に、かすかな温もりが潜んでいた。

指の腹に伝わる重みが、ゆっくり脈のように沈む。

雪が肩に触れ、すぐに水へ変わった。

 

 

斜面を渡る風が、衣の裾を軽く揺らす。

その冷えが背を通り、静かな震えを残した。

私は足裏で土を確かめ、ゆっくり立つ。

 

 

雲の切れ目から、淡い光が落ちてくる。

丸い影の面が、わずかに明るさを帯びた。

その静けさの中で、胸の奥が深く沈む。

凍った土の匂いが、ゆっくりと満ちていった。

 




雪はいつの間にか、音もなく止んでいた。
丸い影の列は、冬の光を静かに抱いている。
その前で立つと、足裏の冷えが穏やかに落ち着いた。


掌に残るざらつきが、まだ微かに温かい。
触れた面の重みが、胸の奥でゆっくり沈む。
風は遠くへ流れ、空は深く澄んでいく。


石の段を降りると、土の硬さがやわらぐ。
背に残る静けさが、歩みの奥で揺れていた。
吐いた息は白くほどけ、やがて空へ溶けた。
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