証拠がなければ捕まらないよね   作:アパオシャ

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第一話

少女は転生してから、いつも通りの生活を送っていた。

 

いつの間にか日常になっていた殺人を犯し、その肉を喰らい、自身を追いかける捜査官を撃退し、逃走し。

時には同族を喰らい戦闘の訓練をし。

 

そんな日々の中、捜査官を撒くため入り組んだ路地を進み、民間人の中に紛れようと大通りに出るべく足を踏み出し、水たまりを盛大に踏み抜いた瞬間、驚くべき光景が広がった。

 

今の天気は曇り。つい先ほどまで雨が降っており、地面はびしょぬれ。にもかかわらず目の前には乾いたアスファルトが広がっていた。

 

混乱して追手のことを忘れて立ちすくんでしまった。慌てて後ろを振り返ると、クインケを振り上げた捜査官が困惑した表情でこちらを、正確にはその周りの地面を見ている。

 

そして彼女の目の前で雑な編集で消したかのようにその姿が消え、濡れていた路地裏の地面も乾いていった。

 

訳が分からないまま路地に戻り、匂いで索敵しようとするが、クインケ独特の匂いが完全に漂ってこない。

ますますどうすればよいのかわからなくなるが、何か行動をしないと腹が減るだけで何も事態が好転しない。

 

そこでビルの壁を蹴り屋上に飛び移ると、身体能力に物を言わせた似非パルクールで街を飛び回っていく。

 

 

日没が近づいてきたころ、近くのビルの屋上で一休みしていた彼女は被っていた仮面を取り外しため息をついた。

 

知っている地名や建物が全然見つからなかったのだ。厳密にいえばよく似た建物はちらほらあったが、どれも名前が違ううえ、東京という地名がなくその代わりといった感じで東都という地名が頻出している。

 

長きにわたる生活で得た地の利を失い軽く絶望するが、良いこともあった。CCGの影も形もないのだ。時々、人間離れをした動きを通行人に見られてしまったが、一向に白鳩がやってこないのだ。そのうえ、同族の存在も確認できなかった。

 

これらの情報を再確認したことで、彼女の思考に少し冷静さが戻る。よくよく考えてみたらここは理想郷なのではないか。

 

敵は居ないがエサは沢山。逃げ道も隠れ場所の候補も豊富。

 

そう考えたと同時、眠気が襲ってきた。最近食事をとったばかりなのでおなかはすかないが、運動したせいというよりはいつもより頭を使ったため脳が休憩を求めていたのだ。

とはいえ、硬いコンクリートの上で寝るのは最終手段なので、適当な単身者の家にお邪魔して寝床を確保しようと跳び立った。

 

 

Side 萩原

 

警視庁警備部機動隊隊員として働く俺は、とある爆弾を解体していた。

 

設定された時間までに解体はできなかったが、犯人との交渉により遠隔操作でタイマーはストップ。爆弾の構造を分析するため作業を続けていたところ、何故かタイマーが再始動した。

 

その瞬間、時間の流れが遅くなったように感じた。残り数秒もないタイムリミットを前に、他の仲間に避難を呼びかけるべく立ち上がり、後ろを向こうとする…

 

…前に、目の前が真っ暗になった。あれ、柔ら…

 

 

Side とある警察官

 

急に、止まったはずの爆弾が爆発したときは、思わずフリーズしてしまいました。

思考が真っ白なまま走り出していたようで、気づいた時には爆心地間近で、そこで不自然な光景を目にしました。

 

明らかに生存は絶望的な破壊の跡が残っていたのですが、ある1方向だけ被害が軽かったのです。

 

そしてその方向には、爆発物処理班の…名前なんでしたっけ?そうです、萩原さんが倒れていたんです。

 

手足に傷が多く、直ちに治療が必要な状態でしたが、命に別状はなく。

何が起こったのかはわかりません。すみません、役に立つ情報がなくて。

ほかには何もないですね。

 

 

Side 喰種

 

体中が痛い。寝床探しのためにあちこち跳びまわっていたら、突如物陰から立ち上がった男とぶつかってしまった。

前世が男だったため胸が男の顔に触れたからといって別に何とも思わない。ましてやどう見ても事故なのだから。

そんなことよりこのまま男を押し倒し、頭を打ち付け意識を飛ばしたのち逃げよう。

そう考えた瞬間、背後から爆発が起こった。

 

想像もしていない事態に、とっさに甲赫を出すことさえできずに背中から爆発を受ける。

幸い、爆発で飛んできた破片は喰種の肉体に傷を与えることはできなかったが、衝撃波で広い範囲を打撲したようだ。

 

あまりの痛みにのたうち回りたくなるが、爆発事件の現場に居合わせたら面倒なことになるのは明らか。

ようやく痛みが引いてきた背中の打撲に顔をしかめながら。

かろうじて服としての機能を残しているコートを整え、逃げ去っていく。

 

 

 

その後、いい居場所を見つけた。親の遺産を食いつぶす親不孝な中年一歩手前の男性。生活に必要な物資はすべて通販で購入し置き配で受け取り、ごみ捨てはベランダからゴミ捨て場めがけて投げ落とす。

家賃や水道光熱費の滞納はないため追い出されてはいないが、近隣住民からは不気味に思われている、姿を消しても気づかれない男。

 

偶然見つけた居場所だったが、これ以上ない居場所だ。すでに胃の中にいる男に感謝しつつ、パソコンで人間の食糧を注文する。いきなり商品購入の傾向を変えてクレカを止められては困るのだ。

 

 

数年後

 

 

Side スコッチ

 

しくじった。疲労とこの先の対応に追われ思考がまとまらない中、彼は一言、自身のミスをそう断じた。

 

彼はとある犯罪組織の情報を得るべく潜入捜査をしていた公安のNOCで、組織の幹部の一人として酒の名前由来のコードネームを与えられるまで深く潜入できていたのだが、ある日自分の正体がどこかから漏れてしまったのか、今は組織から命を狙われる身分となっていた。

 

追跡者のコードネームはライ。比較的同時期に組織に加わった男で、同じく組織で幹部になるほど組織に忠誠を示している。見逃してくれるなどという甘い考えは間違いであるのは確かだろう。

 

こうなってしまった以上は自分から仲間の情報が漏れ、仲間を危険に晒してしまわないようにすることが第一。

情報が詰まったスマホと自分をこの世から消し去らなくてはならない。

 

追跡者の視線を切るために近くの廃ビルに忍び込む。だれも見ていない状況でスマホの情報の処分を始めるがとてもではないが数分では終わらない。高いところから地面にたたきつけて壊してしまったほうが早い。

 

そう考え屋上に向かって駆け出していく。少し遅れて後ろからは自分を追いかける足音が聞こえてくる。

 

足が痛い。肺が痛い。いくら鍛えていたとはいえ、このような危機的な状況で、ここまで長距離を走ったことなどなかったのだ。さすがに火事場の馬鹿力にも限界はある。

 

屋上に続く扉を開けると、エアコンの室外機や水のタンクらしきものが並んでいる光景が目に映る。

 

ここでとうとう息が切れ、動けなくなる。あと数歩歩き身を投げ出したら目的は達せられるのだが、ここにきて怖気ついてしまったのか。

 

そうこうしているうちに、とうとうライが扉を開きやってきた。

 

ライが何を言っているのか、自分がなにをして、なんと答えているのかがわからない。平静を装っているが酸素が足りず頭が回らない。息を整え脳に酸素を送るがまだ足りない。単語をわずかに理解するのがやっとだ。

 

「ー…ーーFBI…ーーー」

 

FBI?ライがFBIなのか?俺は死ななくてもいいのか?

 

いつの間にか自らの胸、そこにあるスマホに向けている銃と彼の顔を眼だけで交互に動かす。

 

だんだんと正常になってきた耳に、階段を駆け上がるような足音が聞こえてきた。別の追手か?まずい。早く自分ごと証拠を処理しなくてはーーー

 

「何をしてるの?」

 

女の声が聞こえてきた。それも、せいぜい中学生程度の声だ。この雰囲気にあまりにも似つかわしくないその声に、思わず俺もライもそちらに注意を向けてしまう。

 

そこにいたのは、全身黒ずくめの服に、ペストマスクを模した、口元以外を隠す仮面を被った女の子だった。

 

 

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