Side 喰種
まっずい。いつの間にか爆睡してた。
とあるビルの屋上にある臨時拠点の中で喰種の少女は内心で結構焦っていた。
現在、本拠点の男の家があるマンションは外装の修繕工事を行っており、工事用の足場のせいでベランダからの出入りができない。
監視カメラに映るわけには行けない都合上、しばらく本拠点に帰ることはできない。
幸い、購入履歴から調べた限り、次の食糧購入の時期には工事が終わるため、しばらく家を空けてもカード会社に不信感を与えることはないだろう。
ただ本拠点が使えない以上、臨時の拠点が必要となる。
今まで狩ってきた人間の財布から回収した現金を使ってキャンプ用品を買い集め、狩場として使っていた廃ビルの屋上に臨時拠点を設営する。
欲を言えば屋内に設営したかったが、放置された物品を回収するために業者やホームレスの人間がちょくちょく入ってくるため断念した。
そんな臨時拠点の役目も明日で終わりとなる。工期はもう少し残っているが、出入り口のベランダ付近の足場が解体されるため帰宅可能となるのだ。
拠点の撤収準備を進めたせいで寝るのが遅くなり、冒頭の一言につながる。
人間が階段を駆け上がる音で目を覚ましたかと思うと、ちょうど大きめの貯水槽で影になっているあたりから男二人の声が聞こえる。
とりあえずばれる前に殺してしまおうかと思ったが、火薬の匂いを嗅いで断念した。
どうやら男は拳銃を持っているようなのだ。この日本で拳銃を持ち歩いているアウトローな人間に手を出すと目を付けられ、命の心配はないとはいえ平穏な生活は不可能になってしまう。
完全に証拠を隠滅さえしてしまえば問題はないのだが、大荷物があり、仲間と思しき足音が近づいてきている以上、下手に刺激せずに立ち去るのを待ったほうがいい。仮にこちらを排除しようとした場合でも、増援が集まりきってから処理すれば証拠隠滅の時間が長くとれる。
とはいえ、隠れたままの状態で待つよりはさっさと出て行って、いるのであれば口封じようの人間を集めたほうが何かとやりやすい。
外していたマスクを着けなおし、男たちの前に姿を現す。
「何をしてるの?」
少女の言葉に、男たちは不意を突かれこちらを向く。二人の整った顔はザ・困惑といった表情をしていた。
なにせ、声や背格好、肩より若干長い髪からしてJC程度の人間が廃ビルの屋上で、口から上を隠す仮面を被った状態で姿を現したのだから当然だ。
一早く正気に戻ったニット帽の男が、髭の生えた男から銃を取り上げようとし、もみ合いになった拍子に銃が二人の手から滑り落ち、地面に落ちていく。
「「「あっ」」」
その場にいた三人の声が重なり、銃が地面にぶつかる音が響くと同時に暴発。その凶弾が胸に突き刺さり、誰もが言葉を失った静寂の中、薬莢が地面に落ちる高い音のみが響いた気がした。
Side バーボン
走れ、早く、速く!
俺はとにかく走っていた。
公安警察の一員として、日本を始め世界で暗躍する謎の組織、通称黒ずくめの組織に潜入捜査官として潜入し、極秘捜査をしていたある日、とんでもない情報が飛び込んできた。
同じく潜入捜査をしている仲間のスコッチの正体が公安の人間であるとの情報だ。彼も自分も、決して正体がばれないよううまくやっていたはずなのだが、どこからか漏れてしまったようだ。
この組織において、裏切りは死を意味する。このままでは友人、スコッチは組織が差し向けた刺客によって殺されてしまうだろう。そうなる前に彼を救出し、その安全を確保しなくてはならない。
組織の中で探り屋として活動してきた実績から彼の足取りを早々に掴み、接触しようとしたのだが、運命のいたずらか、一歩上をいかれてしまったのか、組織の幹部、ライに先手を取られてしまった。
だからと言って仲間であり友でもある彼を見捨てることはできない。最悪ライを殺してでも助ける。
ライの死によって自分の立場が危うくなっても構わない。
覚悟を決め二人が入っていった廃ビルの、屋上へ向かう階段を駆け上がる。
階段を登り切り、屋上と屋内を隔てる扉のノブに手をかけようとしたその刹那、銃声が扉の向こうから響いた。
一瞬のうちに血の気が下がり、最悪の想像をしてしまい、震えそうになる手に力を籠め扉を開けると、もみ合いになったまま動かない友人とライ。
そしてその視線の先には胸を押さえて倒れるJCらしき不審者がいた。