証拠がなければ捕まらないよね   作:アパオシャ

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第四話

Side 安室

 

「どうだ?何かわかったか?」

 

だめだとは薄々思いながらも、一縷の望みをかけて調査を依頼していた部下に進捗を尋ねるが、振り返った部下の表情は良いものではない。

 

「ダメです。大半は完全に燃えカスで判別がつきません。残っていたのはコンビニの充電コードくらいで、手掛かりと言えるものは何も。あ、TYPE-Cのコードです。」

 

やはり大した情報は出てこなかったようだ。身元特定に必要なものは持ち帰り、あくまで指紋や体組織の隠滅のために不要物を燃やしたのだろう。

 

あの少女は中学生程度の背丈と声だったが、実際はもっと年を重ね後ろ暗い経験を積んでいたのではないか。

組織の中でさりげなく特徴をもとに探ってみたがそれらしきメンバーは居ない。手掛かりが一切ない現状、あの少女は不審人物として留意するにとどめるほかはない。

 

防犯カメラを当たったが周囲は組織の潜入捜査官が通過する経路なだけはあり、どの方向に向かっていったのかはわからなかった。である以上、この件は後回しにするしかない。

 

それより、スコッチとして潜入していた諸伏の処遇だ。彼の死を偽装し、組織から離脱するための工作はまだ終わっていない。

幸い、彼女がガソリンをまいて火をつけたおかげで、それっぽい生活物資の燃えカスが現場に大量に残った。それを利用し燃えたのはスコッチの隠し拠点の一つで、自分ごと火をつけ情報を抹消したという事にしている。

 

SNSに火事の焼け跡から成人男性の遺体が発見されたらしいと一般人を装った投稿をし、テレビやネットニュースにも同様の情報を流し今は情報の拡散を待っている状態だ。

 

大手を振って外出することは難しくなってしまったが、それでも命があっただけ儲けものだ。

これ以上求めるのは欲張りにもほどがあるのだろう。

 

 

 

 

Side 喰種

 

ようやく本拠点に帰還した彼女は、荷物整理を終えると思い出したかのようにおなかに手を添えた。食事の時期が近付いてきたのだ。

 

この拠点から離れる際にため込んでいた食料を喰いだめたおかげで1か月強空腹を感じていなかったが、そろそろ保存食の備蓄を含め狩りが必要だ。

そうとなれば善は急げ、悪も急げ。少女は闇夜に飛び出していった。

 

 

 

場所は変わってとある路地裏。ここは違法な物品を多数取り扱う闇市に近くの路地裏。闇市に警察の手が伸びた際、比較的安全に逃げ果せる可能性が高いルートの一部なのだ。そのため、日常的に後ろ暗い経歴の持ち主という喰種にとってかなり理想的な食糧がやってくる餌場なのだ。

 

そして少女がビルの屋上から見下している路地裏に、一人の男がやってきた。その男に向けて落ちていく少女は、その男から爆薬の匂いを嗅ぎ取った。

 

その瞬間、仮面の奥の少女の顔が怒りにゆがむ。この匂いはかつて少女が巻き込まれた爆発に使われた爆薬と同じ匂いなのだ。その匂いを嗅いだ少女は、同じ製造元の爆薬を使っただけの別人の可能性を忘れ、激情のままに赫子を放出し、男に巻き付ける。鱗赫に生えた鋭いうろこが男の衣服をずたずたにしているが少女にとって知ったことではない。

 

そのまま少女に持ち上げられた男は、屋上に放り出された。そのままの体勢で震えていたが、少女の足音を聞いた瞬間、彼は飛びのき距離を取る。が、すぐに壁にぶつかってしまう。助けを呼ぶために叫ぼうとしてもうまく息を吸えない。仮に吸えたとしても、場所が悪い。叫び声が聞こえたからと言って助けが来る場所ではない。来るのは漁夫の利やおこぼれを狙うハイエナだけだ。

 

少女の腰あたりから生える4本の触手を見て、恐怖のあまり持っていた爆薬を投げつけるが、意味はない。起爆装置がないのだから当然である。

 

「3年前はどうも。何か言うことある?」

 

その言葉で、彼は3年前に起こした爆弾事件を思い出した。ただ、この化け物の少女が復讐に来るはずはない。その場にいたのは…

 

「ま、まって!あの事件で犠牲者は居なかったはずだ!そもそもなぜ私だとわかった!証拠は何…」

 

彼がしゃべっている途中で、鱗赫が振るわれ、彼の首があり得ない角度に折れ、力が抜けた。

 

「言われてみればこいつが犯人とは限らなかったか。たまたま同じメーカーの爆薬を使っていた可能性も十分にあった。まあ、いっか。偶然とはいえ犯人だったんだし。」

 

幸い彼はトイレをすました直後だったのか、汚物を垂れ流すことはなかった。少女は近くに置いておいたバックを手に取ると、彼の遺体を詰めていく。

 

財布の中身は結構多め。さっきまで激怒していたとは思えないくらいに嬉しそうな足取りで少女は歩き出す。

 

そしてビルから飛び降り、路地裏を走る。

 

狩りは始まったばかり。冷蔵庫に入れる分を含めると、小柄な女性を狩る必要があるのだ。

 

男が入ったバックを拠点に置くと、再び少女は夜の街へ飛び出していく。

 

 

 

日本において、犯罪者が犯罪者として裁かれるには条件がある。簡単に言うと、犯罪が発覚し、犯人が特定され、証拠があり、そしてその証拠が合法な手段で捜査機関によって集められること。

 

この犯罪都市米花町において、ひと月あたりの行方不明者が数人増えた程度では誰も不審に思わない。彼女が法の裁きを受けることはあるのか。

 

それはわからないが、喰種を知らないこの国には困難を極めるという事だけは確かだ。

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