ねえ、知ってる?最近、米花町に化け物がでたんだって。
SNSに投稿されたその一文は、ある日、自称JKのアカウントから投稿された。
画像もない、ただの根拠のない噂話としてネットの海に埋もれるはずだったその一文は、続いた投稿によって風向きを変えた。
私のお父さんが警察なんだけど、どうやったのかわからない、グロテスクな殺人があったらしいよ。
それを見た人がたまたま興味を持ち、詳細を尋ねたところ、詳細が帰ってきた。
なんでも、重機を使ったかのような大きな力を加えられたはずだが、重機が侵入できるような広い場所ではない。そもそもどのような形のもので力を加えられたのかさえ不明。とても持ち運びできるような状態ではないことから、別の場所から運び込まれたことはないとのこと。
一連の投稿を見て、ほとんどの人間が作り話だと思って流そうとした。しかし、他のアカウントからもその話を補強する話が出てきた。
それって3日前の事件?うちのお父さんがPTSDを発症するような事件に巻き込まれたの。なんでも所々の皮膚から骨が突き出てたとかで…
次々と情報が集まり、それっぽい事件が特定される。しかし、化け物とやらの影も形も出てこない。
やがて、ネット民たちはどのような化け物なのかと大喜利を始める。自分には関係ないと思っていればまあ、あり得る反応だろう。
Side 喰種
喰種の少女は今や高校生程度まで成長した。ボロを出すことはなく、誰にも脅かされることもなく。
しかし、つい先日。初めて大きな失態を犯してしまった。
「うげえ。やっぱニュースになるよな…」
ネット記事には凄惨な殺人事件の発生を告げるものがあり、それの下手人が彼女だ。
彼女は、数日前に外出をしていた。目的は特になく、通りがかった本屋で興味をひかれた漫画を買い、いい匂いがするカフェでコーヒーを飲み、話題の映画を鑑賞し。
そうしていつの間にか夜になると、突如後ろからやってきた男3人組に襲われ、抱えられたうえで連れ去られてしまった。
喰種は人間よりも身体能力は高いが、体重は人間と大差ない。油断している隙をついてしまえば、男数人に連れ去られてしまうのは仕方のないことである。
そのまま彼女はどこかのビルの中に連れ込まれる。
もちろん、喰種の力を使えば容易に脱出できるが、変な場所で暴れたせいで正体が露見してしまっては困る。
そこでおとなしくアジトまで連れて行ってもらって、ばれにくいところで始末しようとした。
ビルの一室に入ったと思うと、少女はベットの上に投げられる。
「おお、やっぱ美人じゃん。胸も大きいし。D?E?」
「胸ってお前、まだおっぱいと言うの恥ずかしいのかよ」
「まだまだ童貞臭いな」
男たちの視線が少女の全身をじっくりと眺めていく。
男たちの言葉や視線に、ベットから漂う性的な匂いから男たちが何のために自分を攫ったのかを悟った少女は苦笑いをするが、性欲に振り回されている男たちには気づいた様子がない。
少女は小さなため息を吐いて立ち上がる。
前世が男だった少女は男の裸を見ることも自分の裸を見られることも別にいやだと感じることはない。しかし本番となると興味がないわけではないがこのようなシチュエーションはごめん被る。
とは一瞬思ったものの、人間を食料とする喰種の本能ゆえか、別に嫌ではないかと思い至った。
それは喰種の体が人間にどうこうできるものではなく、小動物がじゃれついてくるようなものと、自然と見下しているが故のもの。人間がペットに裸を見られてもそこまで気にしないのと同じこと。
一般人が気まぐれに募金をするかのように、付き合ってあげるかと服を脱ぐ。
それを見た男たちはぎょっとして目を見開いたが、すぐに顔をだらしなくゆがませる。
男たちが少女の体に手を伸ばした瞬間、喰種の聴覚が複数の車が近づいてくる音と、通行人らしき人のパトカーや警察といった単語を含む話し声を感じ取った。
これらとベットからの匂いをもとに考えた結果、男たちは結構前科があると判断した。
警察がやってきている以上、このままここにいるのはまずい。被害者として保護される可能性が高いとはいえ、少女はとあるヒキニートの家を乗っ取って生活しているため、警察とお話しするわけにはいかない。
そしてただ逃げても顔を覚えている男3人をそのままにするのもよろしくない。
となるとどうすればいいのか。
口止めの上逃走すればいい。
未だ警察の到来に気づけていない男たちを冷たい目で見つめつつ、服を脱いでよかったと少女は思う。少女が着ていた服は狩り用の衣装とは違い、赫子を出せるようになっていないのだ。
男の手が少女の胸に触れた瞬間、一対の鱗赫と1本の尾赫が男に巻き付いた。
男たちは急に起こった出来事に驚き、悲鳴を上げようとしたが、すでに赫子が口に巻き付き声を上げることすらできない。
赫子の隙間から男たちが見た光景は、自分を縛り上げる赤黒い触手のような何かが目の前の少女から生えていること、そして少女の目が黒目が赤に、白目が黒くなっている光景であった。
恐ろしい化け物に手を出してしまったことを理解した男たちは恐怖のあまり何も考えられなくなり、股間が濡れて行ってるのにも気づかない。
男たちが最後に見たのは、粗相をしてしまった野良犬を見るかのような、苦笑いの顔であった。
何かが割れる音、何かがはじける音、何かがつぶれる音。生々しい音とともに数秒赫子が動いたかと思えば、それは少女の体に巻き取られるように戻っていく。あとに残ったのは、かろうじて人としての形を残した肉らしき何かとしか表現できない物体がのこっていた。
本来であれば、最低限のダメージで仕留め、何も残さず回収するが、そのための道具を一切持っていない少女は手っ取り早く始末し殺害手段をわからないよう最低限の細工をしたのち、服を着てビルの窓を開け飛び出す。
近くのビルから先ほどまでいたビルを見ると、複数人の警官がビルの中に入っていく瞬間であった。
彼らは中の人間を確保するためか、極力音をたてないようにしているのがよくわかる。
事実、喰種の少女の耳には聞こえるが普通の人間には到底聞き取れない音量である。
一通り眺めた後、少女はビルを後にし、拠点へと帰っていった。
ばれる可能性はほとんどない。天才的な警官が殺害した手段を考えたとしても、せいぜい巨大な蛇に巻き付かれ絞殺されたと考えるだろう。
そこから触手を生やす人型の怪物の存在にたどり着く可能性はない。せいぜい捜査に行き詰った際に妄想の一つとして思いつくかもしれないが妄想と一蹴されるだろう。
そしてここから先、少女がミスを犯し正体を漏らしてしまったとしても、同族がいないと証明する手段はない。
である以上、警察は逮捕することはできない。唯一の懸念点はマンション一室の不法占拠とクレカの不正使用。そこさえバレなければ問題ない。
バレてもクインケ持ったお兄さんお姉さんがやってこない以上命に危険はない。
ならばさっぱりと忘れて日常に戻るのが一番である。
下手に気にしてミスを重ねてしまうのが一番の悪手なのだから。
少女はスマホを鞄にしまうと、夜の街へと飛び出した。