Side コナン
「ねえ、コナン君。あれって何だろう?」
小学校からの帰宅中、少年探偵団としての活動を兼ねて普段通らない道を通ると、規制テープで封鎖されたビルを発見した歩美がコナンに問いかける。
「妙だな…」
彼女の問いかけにつられ、歩美の視線の先のビルを見るとあたかも事件現場といった様相であった。
しかし、それにしては付近にいる警官の数はかなり少ない。
この街では犯罪が多く、規制テープで建物が封鎖されること自体は日常茶飯事だがここまで警官が少ないことはまずない。
なにせここの警察は優秀で、たいていの事件は即日または数日で解決するため現場から警官の数が減少するという事はまずない。
解決後の撤収中であればこの数もそこまでおかしくはないが、それにしては警備しかしていない警官の行動はおかしい。
気になってニュースサイトを確認しても、この場所で事件が起きたというニュースはない。
これらの状況証拠から、ニュース化されていない、事件から数日経過しているにも関わらず解決していない事件となる。
つまり、訳がわからない。
その野次馬根性ともいうべき好奇心に導かれるまま現場に近づいたコナン達一行は、現場から出てくる知り合いの男の姿を目にし、声をかける。
「高木刑事!」
その声を聴いた彼の反応はまるで、見られてはいけないものを見られたというもの。いつもの、うわまた事件現場にいるよこいつらといった反応ではない。
警察のいつもと違う態度にコナンが考え込んでいる間にも、探偵団の面々が質問を投げかけているが、高木刑事は一向に口を割らない。いつもであればなんやかんや情報をくれる彼とは思えない態度に、ますます怪しさを覚えつつも、コナンは情報収集の糸口を探していた彼は、後ろから近づく男の存在に気付かなかった。
彼はその男に首根っこを掴まれ、気が付くと、持ち上げられていた。
「こら、坊主。また事件現場でうろついて。お前らもさっさと帰りな。ここは遊び場じゃねえんだぞ。大変だったな。高木」
やってきたのはコナンの保護者の毛利小五郎。たまたま近くを通りがかっただけのようだ。
彼はコナンを持ち運んだまま少年探偵団を追い立てて交差点近くまで歩くと、コナン達が帰路に就くのを監視していた。
そんな彼の様子を見た探偵団の子たちは諦め、後ろ髪を引かれつつもとぼとぼと歩き出すが、コナンだけは眼鏡に手を当て、どこか上の空で歩いていた。
Side 小五郎
少年探偵団の面々を追い返した小五郎は、袖口に取り付けられた盗聴器に気づかぬまま、高木刑事のもとに戻ると、事情を聴き始めた。
「毛利さん、ありがとうございます。今回の件はとてもじゃないですけど、子供には伝えられない内容でして。」
「R-18か。」
「後ろにGがつきます。全身隙間なく、外部から強い圧力をかけられたようで、内出血で体中が青く変色し、骨が粉々で発見時は人間とは判別できませんでした。」
「そりゃあ言えねえな。死因は脳挫傷か?原因はわからないのか。」
「ええ。少なくとも大型重機並みのエネルギーを加えられたほどの傷ですが、重機といったものが付近を通った形跡はないうえ、被害者の3人以外の人間が現場に入った形跡もありませんでした。」
「犯人が消したのか?」
「いえ。実は被害者3人はその、性犯罪の被疑者でして、犯行の拠点として使っていた現場を証拠隠滅もかねて彼ら自ら定期的に清掃していたようです。その後、彼ら以外が侵入した形跡はありません。」
「一切の形跡がなしか。天罰が下った…わけはないわな。そんなもんがあったらこの街は不審死だらけだ。窓は…無理そうだな。忍者ならいけるか?」
半ば投げやりになりながらそう言った小五郎は、ビルから出てくる男を見ると、姿勢を正す。
「…毛利君。またかね?」
「いえいえ、警部殿。今回は今日たまたま近くを通りかかっただけでありまして、私が事件を呼び込んでいるわけでは…」
出てきたのは目暮警部。小五郎が事件に巻き込まれては顔を合わせるため彼を死神ではないかと疑っているらしく、事件現場で出会ってはこのやり取りをしている。
「話は変わるが毛利君。君の出番はないぞ。早期解決の見込みがないとして、この現場は別の班に引き継がれることとなった。」
「そうですか。事件の解決を願っております。」
Side コナン
探偵事務所についたころ、コナンは盗聴器の受信を終了させた。ほとんど情報は得られなかったうえ、さらなる調査も難しい。こうなってしまってはさすがの彼の手にも余る。
彼の正義感が苦汁を垂れ流しているが、できる範囲でできることをするほかない。
苦虫を嚙み潰したような表情の彼は、事務所1階で働く安室の様子に違和感を抱くことはなかった。
Side 安室
黒の組織に潜入捜査をしている彼の下には、組織の任務がちょくちょく入る。今回のメールもよくある任務だ。
ースプモーニがしくじった。サツに捕まる前に消せー
よくある任務の中では、マシな部類の任務である。組織の中でコードネームを与えられるほどの悪人がこの世から減るのだから。
大きな悪を倒すため様々な悪を見逃すストレスに晒される生活に慣れきってしまっている彼はこういう任務には積極的である。
自身の所属する公安と組織の情報網を駆使し、他幹部を怪しまれない程度に邪魔し、自らの狩場に誘導するようにスプモーニを手助けする。
バイトのシフトが終了し、自分が狩場に到着し準備を終えた段階でスプモーニが到着するよう時間の微調整を行い、仕事に戻る。
いつものように仕事をこなしている中。
レジにやってきた少女を見ると所々違和感がある。伝票の内容はコーヒーだけ。テーブルを見るとブラックで飲んだようだ。この年齢でブラックは珍しい。しかも彼女は、自分の顔を見ては不思議そうな顔をしている。
まるで、どこかで会ったことがある気がする人間を見かけたかのような。
とはいえ、その違和感はとても小さい。これからの任務と比べては例えるものがないほどに。
もし彼がもう少し早くバイトに戻っていたら。彼女の手帳の中身を何かの拍子に覗き見たかもしれない。
だが歴史にIFはなく、覗き見ることによって連鎖的に起こる未来もIFとして消えていく。
その手帳の今日の日付の予定に書かれた時間と場所、そして“狩り”の文字を見ていたとしたら。
果たして一体、どうなっていくのだろうか。
そう言ったIFを考えていくのが後世の人々のお楽しみである。
誤字の指摘ありがとうございます。