生まれ変わったら死んでました 〜怠惰なゾンビは隠者になりたい〜 作:かんた ※ノベプラで活動中
『【ゾンビ】』
『この世界において、アンデッド系の最下位にあたるモンスター』
『放置された人や動物・一部のモンスターの遺体に淀んだ魔力が溜まり、生物の負の念や未だ浮かばれぬ魂などが定着する事で発生する、動く死体の総称。またはその現象のことを指す』
『霊体が定着しても、宿主の肉体に準じて機能するため、知性に乏しい個体が大半を占める。“生”に対する執着によってか、総じて動くものに襲い掛かり噛みつくという習性を持つ』
『浄化や火葬などの正しい処理をせずに埋葬すると、数週間から数ヶ月かけて確率で発生する。魔術などによって防腐処理が施されない限り、通常の肢体と同様に劣化し続ける』
『なお、衛生的な意味で脅威とされ、見敵必殺が一般的な対処となる』
『以上がこの世界における【ゾンビ】と呼ばれる存在の概要になります』
スキル【天の声】は、頼んでもいないのに彼に情報を送ってくる。情報は声ではなく知識として瞬時に脳にインストールされるようだった。おかげで解説は一瞬、この説明も僅か0.2秒。速読王も真っ青である。
しかし、そんなものをまとめて送られても、血が巡らない彼の頭では理解が追いつかない。
(えーと、つまり?)
『……ハァ、「情報開示/自分」と念じて見てください』
(今あからさまにため息ついたな)
システムちっくなスキル【天の声】の人間味に驚きつつ、ケロックは言われた通りに「情報開示/自分」と念じてみると、先程と同様に情報が送られて来た。
名:ケロック・クロムハーツ(享年11)
種族:ゾンビ(劣等種)
●称号
【フレッシュイモータル】【女神の死徒】【転生者】
●スキル
【鈍感】【天の声】【触覚】【平衡感覚】【深部感覚】【視覚】【聴覚】
(享年て。劣等種て。死徒て。鈍感て)
突っ込みどころ満載の情報に彼は困惑を抑えきれなかった。さらに続けて声は言う
『【称号】とは、その者が生涯に渡って起こした行動の中で、上位の事象存在や神々などの高次存在によって認められた実績を指します。
本人の能力や状態に影響を与えるものがほとんどですが、所持者が称号に反した行いを繰り返せば、剥奪される可能性もあるのでご注意ください。
【スキル】とは、本人の特性や技術を明示したものです。この世界の人類が神々の協力のもと作り出したシステムであり、個体の基本的な能力を把握するための指標として分類されます。
他は個体名などの基本情報ですね。年齢表記に関しては実年齢に変換する事も可能です、後ほどお試しください。
なお、魂が定着したばかりですとゾンビは例外なく劣等種になります。特定の条件を満たすことで階位も上がっていくので、是非頑張ってください。
あと、【女神の死徒】という称号名は女神様のヒドいネーミングセンスによるものです』
(全部応えてくれてありがとう。あと、君って何気に辛辣だよね)
『光栄です。次に情報の一部をピックアップし、そこから「情報開示」と念じてみてください』
感謝を受け取ったのか褒め言葉として受け取ったのか、それともただの皮肉か。いまいち感情が読めない【天の声】。
そんな彼女? に言われた通り、先の疑問の中で回答がなかったスキル【鈍感】に「情報開示」を試してみる。
【鈍感】
取得者の先天的な特性が技能へと変化したパッシブスキル。
危機感が弱くなり、物事に動じなくなる。ON/OFFが可能。
OFFにしたところで、元からの性格は治しようがない。
(良いモンなのかよくわからない上にさりげなくディスられとる)
『前世との結びつきが強いのか、魂自体はある程度成熟しています。その中で最もアクが強かったであろう特性が、スキルとして表示されているようですね。ハハッ』
(わざとらしく笑うなよスキルの癖に……んっ、前世?)
【転生者】
輪廻の輪を越えて異なる世界に生まれた者に与えられる称号。
前世の記憶は受け継がれ、成長率に補正がかかる。
(……ほとんど記憶に無いんですケド?)
彼の前世の思い出には「旅行先で打たせてもらった自分のうどんがめちゃくちゃ美味しかった」記憶しか残されていない。
『テキトーを絵に描いたような女神様なので、何かしらのミスはあると思ってました』
(確信犯じゃないですかやーだー)
『あと、転生先の時間軸が11年ほど遅れてしまい、たまたま死にたての身体に魂が入ってしまったのも女神様のミスです。現場を荒らして楽しんでるんですよあの上司は』
(よし、当面の目標は神殺しで)
『頑張ってください応援しております』
ほんのわずかでも関わって来た
さて、主人公確定なケロック・クロムハーツが超高速脳内会議でぼけーっとしてる間にも、目の前にいた町医者のルシルは診察を続けていた。
いや、診察自体は既に終わっている。
彼女の目の前にいるのは【ゾンビ】。本能のまま動くものに襲いかかり、腐肉と疫病を撒き散らす。生きとし生ける全ての者にとって、害悪となる存在。
だからこそ、この場では慎重な判断を要する。
ルシルは長い人生経験から、少年の目に知性のようなものを感じ取った。目を開けたばかりの赤ん坊のような、周囲の景色を見て学習しようする視線と似通っていたのである。
今はボーっとルシルの首あたりの空間を見ているようだが、おそらく物思いにふけっているのだろう。どちらにせよ、動くものを獲物として追う【ゾンビ】の習性とは異なる。
まあ実際は、手に入ったばかりの視覚の眩しさに右往左往してただけだったが。
死後数時間が経過しているが、現在の季節は冬。腐敗が進んでいるようには見えないため、今のところ衛生的な問題はクリアしているように思える。
しかし、相手は【ゾンビ】である。いずれ腐肉となる肉体は感染症を引き起こす菌床になりうるため、生かすも殺すもメリットはなし。何らかの処理を施すまで、放置するわけにはいかないのだ。
それゆえにまず、話の通じる相手か見極める必要があった。混乱を避けるため、既に
彼が垣間見せる“知性の眼”。それだけを信じ、ルシルはコミュニケーションを試みることにした。
「……調子はどうかな、ケロックくん」
『お呼びみたいですよ、「摂理」』
(だから「り」攻めはやめてって……ん?)
そんなルシルのハラハラドキドキなど露知らず、ケロックは「脳内しりとり」で【天の声】と戦っていた。
血の巡らない脳を魔力で無理矢理動かしている主人公が、意志を持って使用者をサポートするスキルと戦って勝てるわけがない。それ以前に、スキルとしりとりが成立すること自体この世界では異常なのだが。
そんなこんなで、ケロックの目は初めてルシルに焦点が合う。
ボサボサした長い白髪から若草色の巻きヅノが生えているので、自然と羊が連想される。眠そうな半目からのぞく瞳も同じ色だ。少なくとも、普通の人間からはかけ離れた姿だ。
やや幼い外見ながらも白衣を着ているので、「もしかしたら自分を診てくれるお医者さんかもしれない」と考えた。先程、自身の母親らしき長い茶髪の女性と話しているのを聞いて、少なくとも家族とは親しい仲なのだと、ケロックは大体のあたりをつけていた。
『どうしました? まだいくらでも反撃のしようはあるでしょう? 「理」「料理」「倫理」「理科室のえんぴつ削り」などでやり返せば良いじゃないですか』
(自分から振っておいて……今しりとりどころじゃないのわかって言ってるよね。あと最後のは絶対無い)
『……なるほど、確かにそれどころじゃなさそうです。目の前の人物は確かに医師ですが、この世界で希少な【エルフーン族】の末裔。魔力や戦闘力も高いと思われます』
(……なるほど! つまり?)
『少しは自分で考えてください。もうお忘れですか? この世界でゾンビは最優先討伐対象になるんですよ』
(あっ)
高速化された意識の外、この間わずか3秒。
ヤバい殺されるいやもう死んでる_____と、ケロックが思ったのも束の間。そんな動揺を即座に感じ取ったルシルは、彼のノドに尖った杖を突きつけるのだった。
※他称号とスキルの説明
●称号
【フレッシュイモータル】
死んですぐアンデッド化した者に与えられる称号。
自己再生能力に補正がかかり、腐食に対して無効になる。
【女神の死徒】
使徒として遣わしたつもりがすでに死んでいたため、悩んだ末に女神がテキトーにつけた称号。
スキル【天の声】を得る
●スキル
【天の声】
女神がつけたサポートスキル。なぜか自律思考し、学習しながら所持者を支えていく。
【触覚】
死体ゆえに本来得られない能力がパッシブスキルとして発生。
皮膚で触れたときに反応する。ON/OFFが可能。 状態⇒ほぼ完璧
【平衡感覚】
三半規管により平衡に対して反応する。 状態⇒まっすぐ歩けない
【深部感覚】
筋・腱・関節などで重量や抵抗に反応する。 状態⇒ほぼ完璧
【視覚】
視神経により光に反応する。 状態⇒ピント合わせるのに時間がかかる
【聴覚】
鼓膜の振動に反応する。 状態⇒ほぼ完璧だが、気を抜くとON/OFFが安定しない