力が未だに弱い事実は変えられない。だが希望はある。きっと突破口はあるはずだ。
視線を走らせた。周囲の瓦礫、壊れた自動販売機、散乱する空き缶……すべてが武器になり得る。その中でひとつの鉄パイプが目に留まった。地面に転がるそれから妖しい光が放たれている。
「まさか……」
手を伸ばして掴むと、パイプの表面が淡く青く輝き出した。俺の意思に呼応するかのようにその形が変貌していく。鋭利な刀身が現れ、柄が形成される。鞘こそないが紛れもない日本刀だ。
「これなら……!」
重みは驚くほど軽い。しかし振るうと空気を切り裂く独特の音が響く。クマグロンギが再び突進してくる。張り手が轟音と共に迫る。
俺はその攻撃を避けて、すぐに刀で斬る。
けれど、刀はグロンギの身体を切り裂くことが出来なかった。火花が散るのみだった。
(クソっ、やっぱり硬すぎか?)
だが敵は怯まず次の攻撃態勢に入る。再び旋回した張り手が全方位を薙ぎ払うような動き。
「避けるだけじゃダメだ……!」
俺は刀を構え直す。軽やかなステップで横へ逃れようとした瞬間、背後から風切り音。振り向きざまに刀を振るった。その動きが結果的にカウンターとなる。
──ザンッ!
刃がクマグロンギの側頭部に食い込む。硬い表皮を裂く感触。
(手応えあり!?)
クマグロンギが悲鳴を上げた。
俺自身も驚愕した。なぜ今の一撃は通用した? さっきの斬撃は弾かれたのに。
考えている暇はない。奴が怒り狂って突進してくる。大振りのパンチが鼻先を掠める。反射的に俺は刀を盾にして衝撃を受け流すような形になった。
次の瞬間。
信じられないことが起きた。
俺の左腕に触れた敵の拳が「ズシン」という衝撃を伴って跳ね返されたのだ。まるで水を打ったような反作用。クマグロンギ自身がバランスを崩し後退する。
(え……?)
俺は呆然とした。今のは何だ? 敵の攻撃が跳ね返された?
試しに俺は自ら攻め込む。
刀を振り下ろすが相手の装甲に阻まれる。逆に張り手が襲ってくる。慌てて刀を横薙ぎに振り敵の腕を止めようと試みる。
すると──。
またしても跳ね返し現象が起きた。
今度はより明白だった。俺の刀が触れた箇所から青い閃光が奔り、そのエネルギーがクマグロンギの腕へと逆流して、巨体がよろめく。
「もしかして……この姿の力は……」
言葉にして腑に落ちた。
受け流すだけではない。
先程から俺自身の跳ぶ力が高まっているのは、敵の攻撃を受け流し、その攻撃を正確に切り裂く為。
つまりは。
「カウンター、それがこの姿の戦い方」
そう、刀を握りしめる。
相手の攻撃を最小限の力で受け流し、その勢いを自らの攻撃に乗せて反撃する。
まるで水の如く受け流すことで生まれる反作用を最大限活用する。
それがこの青の真価なのだ。
クマグロンギが再び突進してくる。巨大な手が拳を作り、豪快に振り下ろされる。
だが俺は冷静に受け流す準備をする。刀を斜めに構え、その先端で敵の拳を“滑らせる”イメージで──
「そこっ!」
ガキンッ!!
青白い光が炸裂。敵の拳が跳ね返され、自身の顎に直撃する。巨体が軋む音と共に膝をつく。
(これだ……!)
新たな確信を得た。相手の力を利用する戦法。これが俺の切り札。
「まだまだ行くぞ!」
俺は地面を蹴る。軽やかに跳躍しクマグロンギの肩口へ着地。振り落とされる前に背後へ跳ぶ。再び張り手が空間を裂く。避けながらもその軌道を読み取り、刀を傾斜させて攻撃を受け流す。
その勢いそのままに敵の脇腹へ横薙ぎに振りぬく。
「だぁあっ!!」
斬撃が深く入り込む。クマグロンギが苦悶の雄叫びを上げる。
「お前の攻撃力は俺の盾であり矛でもある!」
俺は連続攻撃を繰り出す。
相手の張り手を受け流し反撃。
爪の引っ掻きを避けつつカウンターで刀を突き立て。
一撃一撃に込められた反作用エネルギーが蓄積していく。
やがてクマグロンギの動きが鈍くなった。
「今だ!」
俺は最後の一撃を叩き込むために跳躍する。空中で刀を振りかぶる。
相手の最後の抵抗として振り上げた剛腕を──
受け流す!
青い光が爆発的に拡散。そのエネルギーが俺の斬撃へと結実する。
グロンギが断末魔の呻きをあげた。その巨体がぐらりと揺れ、刀が根本までめり込む感触が手に伝わる。
『ガ……ゴ……!?』
次の瞬間だった。内部から光が溢れ出る。肉と骨が歪む不気味な軋み音。
俺の目の前で巨大な火花が散った!
「くっ……!!」
反射的に刀を引き抜き、跳び退いた──が間に合わない。
ドンッ!!!
至近距離での爆発。青白い閃光と焦げた臭気が一瞬で周囲を支配する。
背中が壁に叩きつけられた衝撃で息が止まる。視界が真っ赤に染まる。鼓膜が破れそうな轟音。
熱波が装甲越しに肌を焼く。
「っ……あっ……!」
喉奥から漏れ出す苦痛の声。意識が遠のきかける。
壁面にめり込んだまま咳き込むと血の味が口中に広がった。
煙幕の中、爆発の残滓が蠢く影が見えた。それは既に原型を失い、グズグズになった肉塊に変わりつつある。
「はぁ……はぁ……」
荒い呼吸を繰り返すうち、周囲の景色が戻ってくる。煤けた壁。割れた窓ガラス。散乱する瓦礫。そして血と硝煙の混じった異臭。
俺はゆっくり立ち上がった。膝が震えている。全身の関節が悲鳴を上げている。
「こんなの……初めてだ……」
これまで倒したグロンギは単純な爆散か炭化だった。こんな内側から焼き尽くされるような爆発は見たことがない。
(これが……本当の終わり方か……)
地面に転がる刀は元の鉄パイプに戻っていた。煤だらけだが依然として奇妙な青い紋様が浮かび上がっている。
ふと気づけば左手首の紋章がまた脈動している。今度は優しく温かな光を放っている。
「終わらせられた……のか……?」
俺の問いに応える者はいない。ただ静寂と血臭だけが答えだった。