その日、俺はとある人物と待ち合わせをしていた。
その人は、五代さんとは別の協力者。
その協力者こそ、夏目実加。
彼女は、俺の大学の恩師の娘。
俺が大学で研究をしていた時代に、様々な指導を受けた恩師の娘。
それが夏目実加だった。
そして、恩師である夏目教授は。
未確認生命体0号に殺された人物だった。
俺は今日まで。
そんな恩師を失った夏目実加と連絡がつかなかった。
けれど、彼女はその真実を知りたくて、俺に尋ねてきた。
「宮崎さんは、父が殺された事件の目撃者ですよね」
夏目実加。彼女の澄んだ瞳には怒りが宿っていた。まだ高校生らしい制服に身を包みながらも、その佇まいは大人びている。
俺は黙って頷くしかない。カフェのテーブルが重苦しい沈黙を運んでくる。
「だったら教えてください。あの怪物――0号のこと」
彼女の声には抑えた震えがある。握りしめた拳の関節が白くなっている。
「俺が見たのは……ほんの一瞬だったから」
言い訳めいた言葉しか出てこない。実際に0号の正体なんて知らない。いや、知りたくないんだ。
「警察は何もしてくれない! 父の死は未だに調査される……それで終わりです! でも父は……研究員でした。現場にいたのは偶然じゃないんです!」
夏目実加が机を叩く。周りの客が振り返るが気にしない。
「あなたが生き残った唯一の人なんです。何か知ってるはずです」
「ごめん……本当に何も覚えてなくて」
嘘だ。全部憶えてる。あの日、0号が教授に囁いた言葉。そして、その瞬間に教授が崩れ落ちたこと。
でも言えない。言えば俺自身が疑われる。俺の右手の痣と0号は繋がっている。警察も薄々気づいているだろう。
「じゃあなんで最近になって大学に来なくなったんですか?」
鋭い指摘。彼女は気づいているのかもしれない。
「・・・なんで、そのことを」
「大学にも、何度も尋ねましたが、答えが見つかりませんでした。けれど」
そして。
「私の父が調べていた事に関係があるんじゃないですか?」
その言葉を聞いた瞬間。
俺は絶句する。
言葉が出なかった。
俺が何を話したとしても。
その話を真面目に受け入れないだろう。
ただ、それは夏目実加にとって、父の死の真相に近づけるものだとしても。
そんな俺の反応を無視して彼女は畳みかける。
「誰も信用しなくて……」
彼女の目に涙が滲む。怒りと悲しみが入り混じった表情。俺はただ俯くことしかできない。
「お願いです。少しだけでも教えてください。父は……」
彼女の手が俺の袖を掴む。
その手が震えているのを見て、胸が痛んだ。
でも……俺にはどうすることもできない。
「ごめんなさい……」
そう言って席を立つ。財布からお金を出してテーブルに置く。
「待ってください!」
夏目実加が呼び止めるが振り返らず店を出る。
この戦いに、彼女を巻き込まないように。
カフェの扉を閉めた瞬間、異変に気づいた。
空気が違う。街の喧騒が妙に遠く感じる。まるで膜一枚隔てた世界にいるような感覚。
(来る……!)
反射的に身体が強張る。視界の端で何かが閃いた。黒い影。鳥? いや、それよりも大きい。
次の瞬間。
ドシュッ!!
俺のすぐ隣の街灯が砕け散った。鋭い何かが貫通した跡。火花と金属片が舞う。
振り返ると、そこには――女? いや、違う。
漆黒の羽毛に覆われた身体。赤く鋭い嘴。背中に広がる翼は鈍く光る。足には猛禽類のような鉤爪。
「グロンギ……!?」
しかも女性型。初めて見るタイプだ。キツツキをモチーフにしているのか?
そのグロンギ――キツツキの女がこちらを見据えている。瞳孔が縦に細長い。爬虫類みたいな眼だ。
「ニィ……?」
小さく声を漏らす。聞き取れないが、嘲笑されている気がする。
「……ッ!」
咄嗟に横に跳ぶ。キツツキの嘴が風を切り裂きながら直前まで俺がいた場所を貫いた。アスファルトが抉れ飛沫が散る。
(速い……!)
今までのグロンギとは違う。空中からの奇襲。嘴の鋭さ。まるで鋼鉄製の槍だ。
しかも厄介なのは……
「ギャアッ!」
羽ばたきと共に再び空へ舞い上がる。上空から急降下攻撃を仕掛けてくるつもりだ。
(このままじゃ、さっきのカフェも……夏目さんが!)
頭によぎるのは彼女の泣き顔。巻き込むわけにはいかない。
俺はビル街の路地へ飛び込む。狭い道幅なら空中での旋回が制限されるはずだ。
背後でキツツキが追いすがる。羽音が迫る。
「……変身!」
叫びと共に青いダグバとなり、その場から離れる。
「来いよ」