目を開けたとき、最初に映ったのは彼女の顔だった。
「……実加ちゃん」
彼女は泣いていた。いや、もう泣き腫らした後の赤い目で僕を見下ろしていた。僕は仰向けに地面に倒れ、実加ちゃんが覆いかぶさるように屈んでいる。
その手には携帯電話が握られていた。
「どうして……どうして隠してたの?」
彼女の声は震えていた。画面には、さっきまでの戦いが記録されていた。青い鎧の男。鉄球を操る謎の存在。そして爆発。
「あれは……僕じゃない」
嘘は意味がない。彼女はすべてを見てしまった。
「嘘つき。だってあんなの普通じゃない。私……見たよ。先生たちも信じてくれなかったけど……」
実加ちゃんの言葉が詰まる。喉の奥で嗚咽が漏れている。
「ごめん」
立ち上がろうとするが全身が悲鳴を上げる。青い装甲はまだ解除されていない。この姿を見られたくない。でも動けない。
「教えて。あの遺跡でのこと。全部」
彼女の強い口調。逃げ道はない。
「……わかった」
深呼吸をし、記憶の蓋を開ける。
三年前の春。未確認生命体0号との遭遇。教授と僕を含む研究チームの惨劇。生き残ったのは僕だけだったはずなのに……なぜか僕だけが変身できるようになった不思議。
そして今回現れたグロンギたち。全てがつながっているように見える因果律の歪み。
話し終えるまで実加ちゃんは一言も発しなかった。ただ最後にぽつりと言った。
「怖くない?」
問いかけだった。
「0号と同じ力を持ってること。父さんを殺した奴と一緒だと思うと……怖くないの?」
その質問に即答できなかった。代わりに自嘲気味な苦笑が漏れた。
「怖いさ。毎晩夢に見る。遺跡でのこと。皆の絶望的な表情。0号の赤い瞳」
拳を強く握りしめる。爪が掌に食い込む痛みがリアルだ。
「でもな」
視線を上げる。実加ちゃんと目が合う。彼女もまた恐怖と責任感に苛まれている。それが痛いほどわかる。
「だからこそ戦うんだ」
「……え?」
俺は、実加ちゃんの父を殺した者の力を使っている。
それは間違いではない。俺もそう思った。
けれど。
「この力は……0号と同じかもしれない。でも」
言葉が自然と溢れてきた。
「あの葬式の日。君が泣いてる姿を見て思ったんだ。もうこんな思いをする人が増えないようにしなきゃいけないって」
胸元を掴む。鎧の冷たさが肌に食い込む。これが呪いでも祝福でも構わない。
「怖いけど……だからこそ僕は戦う。君みたいな人を守るために」
実加ちゃんの顔から力が抜けた。代わりに静かな涙が頬を伝う。それはさっきまでの恐怖の涙とは違うものに見えた。
「宮崎さん……」
彼女が僕の名を呼ぶ。その声には感謝と疑念と……そして何か新しい感情が混ざっていた。
「約束してください!生きている事を」
その言葉に胸が締め付けられる。こんな時でさえ他人を思いやれる彼女に、改めて敬意を感じた。
「ああ。必ず」
頷きながら立ち上がる。