未確認との戦いが、激しくなる。
だが、幸いというべきか。
前回の未確認との戦いの中で、倉庫で見つかった奴らの所有物から様々な手掛かりを見つける事に成功した。
そこから、ゲゲルに関する情報や、今後の対策など。
捜査に必要な事が見つかった。
だからこそ、多くの者は喜んでいた。
だが。
「っ」
俺の胸は未だに苦しいままだった。
その夜。
俺は研究所の屋上でひとり星を見ていた。
街の灯りに負けそうな淡い光点をぼんやり眺めながら、頭の中をグルグル巡るのはたった一つのことだ。
--- 俺の力が五代さんを殺してしまう ---
何度否定しても湧き上がるその可能性は、心臓に直接杭を打ち込むような痛みを伴う。あの日以来、ダグバの力が暴走する兆候は何度もあった。そしてその度に……五代さんの姿がちらつくのだ。もし万が一……俺がこの力を制御できず、クウガとなった五代さんに牙を向けてしまったら?そんな悪夢のような想像が頭から離れない。
「やっぱりここにいた」
背後からの声に振り返らずとも分かる。少し高い、でも芯のある女性の声。
「桜子さん」
振り返ると、白衣姿の沢渡桜子さんが缶コーヒーを片手に微笑んでいた。城南大学で夏目教授と共に未確認生命体(グロンギ)の研究をしている彼女は、俺の秘密を知る数少ない協力者の一人だ。
「寒くない?まあ冬じゃないから大丈夫よね」
そう言いながら隣に腰を下ろす。彼女の髪が夜風になびく音が妙に心地よい。
「……あのさ」
言いかけたところで彼女の視線が止まる。
「『自分の力が五代さんを殺してしまう』って言ってたでしょ」
「えっ?」
驚いて目を見開く。まるで心の中を見透かされたようだ。
「今日、研究室で独り言みたいに呟いてたの聞いちゃって」
申し訳なさそうな顔で彼女が続ける。
「立ち聞きするつもりはなかったんだけど……ちょっと心配になって」
胸の奥がキュッと縮こまる。この不安は俺だけが抱え込むべき問題だと思っていた。それを他人に、しかも大切な仲間に知られるのが恥ずかしくもあり、少し楽になった気持ちもある。
「……はい」
観念して認めた。
「最近……妙に落ち着かないんです。自分の身体が言うことをきかなくなる感じがあって」
「うん」
桜子さんの真摯な眼差しが俺を捉える。屋上の鉄柵越しに広がる街の灯りがぼんやり滲んで見えた。彼女の言葉が続く。
「宮崎くん。確かに君の中にあるその……グロンギの力は未知の領域が多い。制御できない恐れがあるのもよく分かる」
彼女は膝の上で小さく拳を握った。
「でもね」
ふと空を見上げる彼女の横顔が月明かりに浮かぶ。
「どんな力も結局は使い方次第なの」
その言葉が胸に刺さった。
「五代くんを殺す力だって?そう思うならそれだけ強い力を秘めているってこと。でもそれは……」
彼女が振り向く。力強い瞳。
「逆に言えば、同じくらい大きなものを守れる力でもあるんじゃない?」
息を飲んだ。そうだ。この力で初めて五代さんと共闘した時。あの時感じたのは殺意じゃなかった。一緒に守る意志だった。
「宮崎くんが今一番守りたいものは何?」
「……みんなです」
即答した自分が少し意外だった。
「実加ちゃんも、一条さんも、もちろん五代さんも。もう誰もグロンギに……」
言い淀む俺を彼女が優しく見つめる。
「だったら迷わず使いなさい。その力で誰かを傷つける前に、誰かを助けるために使うの。それが君の選択肢よ」
缶コーヒーを一口啜った彼女が小さく笑う。
「それにね」
とんとん、と自分の胸を指で叩くジェスチャー。
「力を持つ限り責任は付きまとう。でも責任を感じてる時点で君はもうちゃんと力の向き合い方を分かってる」
風が吹いた。さっきまでの焦燥感が少しだけ薄らいでいる気がする。
「ありがとうございます……」
頭を下げた途端、感じたのは安堵だった。ずっと心にあった棘が一つ抜けたような。
「ただし!」
突然の威圧感に顔を上げると彼女が指を突き付けていた。
「定期検査はサボらないこと。あと五代くんともっとちゃんと話すこと!」
「えっ?」
「あの二人ずっとすれ違ってたじゃない?今こそ本音でぶつかるべきよ」
そう言われるとぐうの音も出ない。確かに五代さんには隠し事ばかりだ。
「じゃあ……そうします」
苦笑しつつ承諾すると桜子さんは満足げに微笑んだ。