崖っぷちの採掘場。砕けた岩石が散らばる荒野で、俺と五代さんは肩を並べていた。
あれから、俺達は特訓を重ねた。
そして、戦うべき奴に、対峙している。
正面には山のような巨体。
サイのグロンギがいる。
「……行こう」
五代さんの低い声が風に乗る。俺の左腕の銀色の紋章が微かに震える。
「フゴオオオ……!」
獣のような唸り声。ザインの筋肉が盛り上がり、岩盤すら砕きそうな鋼鉄の質量が迫る。その皮膚は太陽光を鈍く反射し、まさに生きた要塞だ。
「構えろ宮崎くん! 同時にするぞ!」
「はいっ!」
五代さんの叫びと共に、俺たちが地を蹴る。同時にザインも突進。衝突直前―
―ダン!
五代さんのミドルキックが奴の大腿部に炸裂! 岩が砕ける音! だが奴の脚はびくともしない。
「まだまだっ!」
続けざまにストレートパンチ二連発。拳が弾丸のように突き刺さる。でもダメだ。奴の厚い筋肉層がすべて衝撃を吸収している。
「くそ……硬すぎる……!」
汗が額を伝う。それでも―
―ブン!
俺の右ミドルが脇腹を狙う。骨格を捕らえるため低空から掬い上げるように。
「ヌゥ……!」
初めてザインが呻いた。効いている。だが即座に巨拳が振り下ろされる。間一髪で避けるが、地面が粉砕されて小石が爆ぜた。
(間合いが不利だ……!)
俺が後退しかけた瞬間―
「逃げるなっ!」
五代さんの檄が飛ぶ。彼は正面突破を選んだ。左ジャブ連打で牽制し、右フックで脇腹を抉る!
―ゴォン!
肉と骨のぶつかる音。ザインの巨体がわずかに傾いだ。だがすぐさま反撃のラリアット! 風圧だけで皮膚が裂けそうだ。
「宮崎くん! こっちだ!」
五代さんの声を頼りに踏み込む。連携が回復した。俺が左から膝蹴り、五代さんが右から肘打ちを打ち込む。挟撃の嵐!
「うぉおっ!」
―ドガァッ!
拳と拳がシンクロし、奴の胴体へ連打の雨。ズシン、ズシンと鈍い衝撃が響く。汗と蒸気の混じった臭いが鼻腔を満たす。
打たれるたびに筋肉の密度が増しているのか? だが五代さんは止まらない。
「まだだ! 全弾叩き込め!」
怒涛のパンチを浴びせ続ける。俺も必死に右足でローキックを繰り返す。ついに―
「グッ……!」
ザインの膝がガクンと折れた! 効いている! これが突破口か!?
「今だっ!」
五代さんの絶叫。同時に俺の左腕が灼熱を帯びる。ダグバの力が血液に溶け込んで奔流となる。だが今は躊躇しない。この敵を倒すしかない!
五代さんが高く跳躍。両腕を左右に広げ、腰を深く落とす構え。俺も同調するように右腕を固く握り締め、膝を曲げる。
風が逆巻く。炎が走る。
「はぁああっ!」
五代さんの足裏からオレンジの光が迸る。俺の右拳からも同様に閃光が弾ける。二つの熱線が一直線に引かれ、採掘場全体が昼間のように照らされた。
「行くぞ宮崎くん!」
「了解っ!」
一歩で十メートル進む超速ダッシュ。地面が爆ぜる。ザインが巨腕を振り上げようとするが遅い!
「うぉりゃあああああっ!!」
―ドギャン!!
五代さんの飛び蹴りが十字架を描きながら突き刺さる。ザインの胸部中央に黄金の炎が咲く。続けて俺も―
「てりゃあああああっ!!」
―シュンッ!
高速回転。腰をひねり、拳に全霊を乗せる。雷のような突きが放たれ、奴の喉元を穿つ!
「グギョォォッ!?」
耳障りな悲鳴。奴の角がメキメキとひび割れる! そのまま―
「ゴッ……ガァッ……!」
巨体が宙に浮いた。俺の拳が貫き、五代さんの足裏が焼き切った。二つの打撃が一点で爆ぜる。
―ボッ!
白光。熱波が円を描く。俺たちは衝撃で後ろへ吹き飛ばされたが、すぐ体勢を整える。
「はぁ……はぁ……!」
視界の奥。ザインの巨体が倒れている。額の角は根元から折れ、内部の赤い核が露出している。
「終わったか?」
俺の問いに五代さんが静かに頷く。
「……まだだ。最後まで見届けよう」
倒れた巨体から黒煙が立ち昇る。奴の全身が痙攣し始め―
―ドーン!!
轟音と共に炸裂した。炎が渦巻き、煙と肉片が粉雪のように舞い散る。ザインの身体は赤い灰となって採掘場の谷間に溶けていった。
「……勝ったな」
五代さんの小さな呟き。俺もその場に膝をつきそうになりながら頷く。
(まだ終わっちゃいない……)
ダグバの力が体内でうねっている。次のグロンギはもっと厄介かもしれない。でも五代さんがいる。俺は一人じゃない。
燃え残った夕陽が採掘場の岩を茜色に染めていた。