水面が不吉に揺れた。
荒川の堤防に降りた昼が、まるで俺を待ち伏せしているかのようだ。あの日以来――ダグバに直接会って以来――足が勝手にこの河へと向かうようになった。グロンギとの出会いはいつも河辺だ。まるで俺を呼び寄せるように……
「気のせいだと思いたい」
呟いた言葉が虚しく漂う。水鳥の鳴き声が遠くで響く。風が河面を滑り、波紋を広げる。
その瞬間だった。
「キャァァ――ッ!」
鋭い悲鳴が水面を切り裂いた。視線を巡らせると、水上バスが岸近くを航行している。通常ならば穏やかな午後の風景。だが乗客がパニックに陥っていた。
船尾から黒い影が伸びる。鱗に覆われた長い尻尾が波を切り裂き、バスのスクリューへ絡みついている。
「新種か……!」
水面が沸騰するように泡立つ。そこから姿を現したのは巨大な魚のグロンギ。エラの代わりに鋭利なヒレが肩から生え、両手には鰭と一体化した鉤爪。顔には海藻のような青黒い髪が絡みつき、眼窩から光る眼光は飢えた鮫のそれ。
「アッソ……!」
咆哮が船体を震わせる。鉤爪が船底を抉り始めた。乗客の叫び声が更に高まる。老婦人が転倒し、子供が泣き喚く。
「くそっ」
俺の拳が軋む。変身ベルトの欠片が脈打つ。内なるダグバの力が目を覚まそうとしている。抑えつけろ。今じゃない。
俺の指が銀色の欠片を握り潰す。
「うぉおっ!」
体内で爆ぜるエネルギーが脊椎を駆け抜けた。変身の代償は視覚の喪失だ。眼球が急速に濁り、色彩が霧散していく。ダグバの血統譲りの緑の装甲が皮膚から隆起する。だが今は盲目。その代わりに耳朶に神経が集中する。
ビーンッ!
鉄球が唸る。掌で超振動を与えた鉄塊が空中を疾走した。鉄球の回転速度に比例して生じる超高周波が水中で反射し合う。
ピュイィィ……
鉄球から発せられる金属の歌が聴覚神経を灼く。その反響パターンで把握した。
それと共に鉄球を真っ直ぐと船の上にいるグロンギに向かって、投げる。鉄球は、グロンギの顔に命中する。
(よし当たった)
外れても当たったとしても、鉄球に与えた超振動で敵の位置を特定する。
この超振動は、水中でも聴く事が出来る。そのため、緑のダグバは陸だろうが水中だろうが関係なく鉄球の超振動による索敵が可能となる。それを活かして俺はグロンギの居場所を見つけ出し、攻撃する。
次々と鉄球を投げる。だが当たったかどうかは分からない。けれど、位置は分かる。位置が分かれば狙い撃ちは容易い。
次々と鉄球を投げて、投げまくる。敵は河の中にいると分かっていればいい。水中にいる以上は地上と同じ速さで動くことは不可能。その差を利用する。
だが。
グロンギが岸に上がってきており。ついに水中にいると考えていた俺の盲点を突いてグロンギは出現した。
「超変身!」
それと共に、俺はすぐに別の姿へと変わり、ゆっくりと構える。