河原の土を踏みしめた瞬間、硝煙と血の匂いが鼻腔を刺した。斜陽に照らされた川面が不吉に赤く染まっている。
「五代さん!」
声が裏返る。視界の先で青い装甲に身を包んだ戦士が、鋸刃のような爪を持つグロンギと激闘を繰り広げていた。五代さんの拳が敵の顎を捉えるが、同時にその腕が袈裟斬りに裂ける。
「くっ……!」
青の装甲が剥がれ落ちる。血の雫が河原の石に弾ける。
(駄目だ……あのスピードに対応できてない)
グロンギの腕部から伸びるカッター。まるで精密機械のように精密かつ無慈悲な切断兵器だ。
一振りごとに、五代さんの防御網を易々と切り裂いていく。
俺の喉が乾いた。足が竦む。また誰かが死ぬところを見なければいけないのか?
「宮崎くん!」
五代さんがこちらに向けた。その青い複眼をこちらに見つめる。
俺もまたすぐに変身すると共に、近くにある棒を眼にする。
再び眼を向けると、そこにはグロンギが既に五代さんの胴体を切り裂こうとしていた。
それを手に取ると共に、棒はそのまま刀へと変わり、真っ直ぐと投げる。放たれた刀はそのまま五代さんとグロンギの間を通り過ぎていく。
だが、五代さんはすぐにその刀を掴む。掴んだ刀を使って、グロンギの腕からの攻撃を避けた。
「グォッ!?」
グロンギが不意打ちを喰らい、驚く。
五代はその隙にグロンギの懐に入ると同時に、手にした刀で、グロンギを斬る。
グロンギにとっても、その攻撃は予想外であり、そのまま後ろへと下がる。
同時に五代さんは刀を持ったまま、河に落ちていた鉄棒を持つ。
すると、その鉄棒は、青のクウガの武器であるロッドへと変わる。
「・・・宮崎君」
それと共に、そのロッドは俺の方へと渡される。
「五代さん」
「同じような色の姿だからね、もしかしたら武器を交換しても戦えるかもしれないと思って」
そう呟いた五代さんの言葉に、優しさを感じられた。
俺の力は、奴の、クウガを殺す為の力だ。
けれど、同時に五代さんと同じであれば、互いに支える力になるかもしれない。
俺はそれに頷き、同時に構える。
五代さんの動きはまるで水流のようだった。グロンギが大ぶりにカッターを振るうたび、彼は体重を預けるように前方へ跳ぶ。足裏が大地を蹴る音が遅れて聞こえるほどの速さで。
「宮崎くん!」
青い兜の中で叫ぶ声。彼が刀を水平に構え、稲妻のごとき平刺突を繰り出す。狙いはグロンギの腋下――装甲が薄い急所だ。
しかし敵は俊敏だった。鋼鉄の腕を捻って直撃を回避する。その際に飛び散る火花が河面に映り込み、虹色に煌めく。
(五代さんを援護しないと……!)
俺はロッドを両手で持ち直し、足幅を広げる。グロンギが五代さんの脇腹を狙い、鎌状の前肢を振り下ろす瞬間───
カンッ!
間一髪でロッドを差し込み、敵の斬撃を受け流す。金属同士が擦れる耳障りな高音が鼓膜を叩く。だが力は全て横方向へ逸らした。グロンギの巨体がバランスを崩し、片膝をついた。
「ナイスカバー!」
五代さんが跳躍し、今度は頭上から刀を振り下ろす。だがグロンギは咄嗟に上半身を捻り、肩甲骨で刃を受け止めた。装甲の表面が削れて赤熱する。
「硬いな……!」
(だったら───)
俺はロッドを垂直に構え直し、グロンギの胸部めがけて突きを放つ。単純な威力では通用しない。ならばタイミングを合わせて……!
五代さんが跳躍の頂点に達した刹那。
「一緒に!」
俺の突きと、落下の勢いを乗せた五代さんの降下突きがぴたりと同期する。二条の青緑の光が一直線に重なり───
ズバァン!
グロンギの胸板を貫通した。
「ギガァアッ……!」
敵の絶叫が空を引き裂く。体躯が大きく仰け反り、そのまま数メートル吹き飛んだ。河原の石を巻き込みながら転がり、やがて動きを止める。
そして。
ボゥッ……
腹部を中心に炎が噴き上がる。グロンギの身体が内側から崩壊し始め、金属片と煤が天へ舞い上がった。
「はぁ……はぁ……」
変身を解いた五代さんが膝をつく。俺もロッドから棒へ戻した武器を杖代わりにし、辛うじて立っている。
夕陽に照らされた河面に浮かぶのは、消えゆくグロンギの残滓だった。
「ありがとう……宮崎くん」
五代さんが笑みを浮かべながら俺に手を差し出す。
「こっちこそ……助かりました」
その掌を握り返すと、伝わってくるのは温もりだった。命を懸けた戦いのあとに残るもの。
夕闇が深まりつつある河原に、二つの人影が静かに立っていた。