病院のベッドで目覚める宮崎
消毒液のにおいが鼻をつく。無菌状態の病室の天井は奇妙に清潔すぎて、むしろ不安を煽る。
「……ここは」
声が掠れている。喉がカラカラだ。手を伸ばそうとして……激痛!
「痛っ!」
右腕が吊られている。骨折か? 全身が重い。特に腹部に鈍痛が。
(そうだ……俺は変身して……)
記憶が断片的に蘇る。紫の装甲の暴走。金属のクワガタ。あの激しい解放感と破壊欲……
「気がついたか?」
すると、そこにいたのは椿先生がいた。
その表情は、かなり厳しい様子。
「俺、一体何が起きたんですか」
俺は、その疑問を問いかける。
それに対して、椿先生は少しだけ悩んだ結果。
「お前、少し前の戦いでとんでもない事になったぞ」
「とんでもない事」
「そうだ」
椿先生の声は重く沈んでいる。白衣の襟を直しながら、こちらをじっと見据える。
「あの暴走状態……通常の脳活動ではない。脳波測定ではベータ波が異常に増幅していた。交感神経がフル稼働して闘争本能だけが残る状態だ」
彼がタブレットを操作すると、グラフが映し出される。鋭い山型の波形が狂ったように跳ねている。
「戦闘中の脳内物質の乱舞が観察された。エンドルフィン……βエンドルフィンが通常値の数十倍。これが快楽中枢を狂わせている。つまりお前は戦うことを快楽と認識し始めた」
「……痛みさえ喜びに?」
「そうだ」
椿先生の指が液晶画面を叩く。別の画像が現れた。脳の断層写真だ。
「見てみろ。前頭葉辺縁系……衝動抑制を司る部分の機能低下が著しい。そして扁桃体の過活動。恐怖と快感の神経回路が強化されている」
冷や汗が背中を伝う。自分の知らないところで脳が書き換えられている恐怖。
「原因は明白だ」
椿先生がため息交じりに言う。目が真剣そのものだ。
「あのエレベーター落下時、ケーブルが高圧電流を伝えた。お前のベルトがそれに反応した」
「ベルトに?」
「あぁ、五代の方でも似たような事が起きた。だが、あいつの場合は電気ショックでの蘇生だと思う。けれど、お前が受けた電気はそれ以上だ」
「・・・だから」
それと共に、俺はあの時の自分の情況を思い返す。
(こんなはずじゃなかった……)
病室のベッドで拳を握り締める。石膏ギプスの冷たさが皮膚に沁みる。点滴スタンドの影が壁を揺らしている。
「あのベルトは脳を直接改造してる」
椿先生の言葉が針のように刺さる。彼は患者カルテをめくりながら続けた。
「電磁パルスが脳幹を刺激することで快楽物質を強制的に分泌させる。戦い=生きがいという生存本能を刷り込んだ。まさに洗脳装置だ」
「でも戦わなければ犠牲者が増えます……」
喉から絞り出すように訴える。視線は布団の皺を追っている。
「犠牲がゼロになる保証はない。むしろ被害拡大の方が可能性が高い」
先生の言葉が耳に刺さる。まるで鋭利なメスで心臓を撫でられているようだ。
「お前は今、恐怖よりも興奮を選択してしまう状態にある。これが固定すれば……人間ではなくなる」
窓ガラスに反射する自分の姿。寝間着姿でも右腕の拘束具が禍々しい。額の血管が青く浮き出ている。
「どうすれば止められるんですか……」
声が震える。窓の向こうでカラスが鳴き始めた。不吉な響きだ。