仮面ライダーダグバ   作:ボルメテウスさん

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葬儀

薄暗いアパートの一室。カーテンの隙間から差し込む朝日が、床に転がったスマホの画面をちらつかせていた。通知ランプが点滅している。五代雄介からのメッセージだ。昨夜別れ際に交換した連絡先を早速使ってきたらしい。

 

宮崎は布団の上で寝返りを打とうとして、左腕に走った鈍い違和感に動きを止めた。袖口をまくり上げる。そこには昨日と変わらず白い鱗のような紋様が浮かび上がっていた。指先で触れてみても温もりはない。皮膚の下にある異物──否、もはや自分の一部となってしまったものの感触。

 

(本当に……戻れるのか)

 

深く息を吐く。肺腑の奥まで冷たい空気が沁みわたる。昨夜の戦闘の記憶が断片的に蘇る。ズ・グムン・バの腐臭のような息遣い。白い怪人──五代と交わした拙い意思疎通。そして瓦礫の中で蠢く異形たちの目。

 

玄関のチャイムが鳴った。

 

新聞配達だ。配達員は無言で新聞を廊下に置くと去っていく。宮崎はしばらくそれを見つめていたが、やがて重い身体を起こし、扉を開けに行った。

 

新聞を手にベッドに戻る。社会面には昨日の事件が扱われていた。【東京都心でまた謎の怪物襲撃】見出しの下に添えられた写真は怪物との戦闘後の光景だ。ヘリの残骸。陥没した道路。規制線の向こうで怯える市民達

 

死亡原因は頭部挫傷。おそらくあの蜘蛛野郎の攻撃によるものだろう。

 

宮崎は無意識に唇を噛んでいた。舌先に血の味が滲む。

 

(俺がもっと……強かったら)

 

昨夜の自分ともう1人の異形の存在である五代雄介と共に共闘してギリギリの勝利を得ただけだ。もし彼がいなければ確実に死者は増えた。あるいは自分自身が。

 

(あいつらは一体……何なんだ)

 

考えたところで答えは出ない。ただ一つ確かなのは、彼らによって命が奪われたということ。そして今まさにこの瞬間もどこかで恐怖が広がっているかもしれないということ。

 

ふと目に入った時計の針は午前十時を少し回っていた。宮崎は枕元に置いていたスマートフォンを手に取る。五代雄介からのメッセージを確認する前にメールアプリを開いた。夏目教授の娘、夏目実加宛てに昨日送信した簡単な謝辞と弔意を伝える文面。

 

「・・・葬儀に行かなきゃ」

 

宮崎は呟くように口に出すと、重い足取りで立ち上がる。クローゼットを開き、喪服を探す。いつもよりも身体が重い気がする。いや、物理的な重量ではなく、精神的な荷物が増えたせいだろう。

 

左腕の紋様が疼いた。痛みではない。ただそこに"何か"があることを主張するような微弱な振動。宮崎は拳を握り締める。

 

(俺には……これがある)

 

昨日までただの大学生だった青年の瞳には、決意と諦念が入り混じった色が宿っていた。

 

「宮崎さん」

 

呼び掛けられて顔を上げると、夏目実加が立っていた。

 

まだ、14歳の少女なのに、突然、父親がいなくなった。

 

そんな彼女の悲しみが、こちらまで伝わる。

 

「昨日はありがとうございました……父のこと、気にかけてくれて」

 

彼女の声は掠れていた。泣き腫らした目元が痛々しい。

 

「いえ……俺の方こそ……もっと何か出来ていれば……」

 

言葉につまる。本当ならばもっと早く現場から脱出して救助を呼べば結果は変わったのではないか。遺跡発掘作業の危険性を認識しておくべきではなかったか。後悔は尽きない。

 

実加は小さく首を振った。

 

「俺がっ、俺がっ」

 

「そんなっ、だって、父が死んだのはっ宮崎さんのせいじゃないですっ!だって、宮崎さんはっ」

 

彼女は嗚咽を漏らし、声にならぬ悲しみを訴えていた。その小さな肩は震えていた。

 

宮崎は彼女の頭をそっと撫でた。その動作にどれほどの慰めの効果があるのかわからなかったが、そうしないではいられなかった。

 

「ごめんなさい」

 

彼はただ一言そう言うしかなかった。その言葉が、どれほど空虚で無力な響きを持っていても。

 

葬式は静かに執り行われた。参列者は多くなかった。夏目教授は比較的若くして亡くなったこともあって交友範囲も限られていたらしい。

 

葬儀場には、親族や友人、そして研究室の同僚が数名いた。宮崎はその中の一人として出席し、読経が響き渡る空間に身を置く。棺の中の夏目教授の顔は今は冷たかった。

 

俺は、そのまま外へと出てしまう。

 

葬儀が未だに終わっていない。

 

それでも、今の俺は。

 

そう、考えていると、実加は、外に飛び出した。

 

父の、悲しみに耐えきれず。

 

俺は、思わず追ってしまう。

 

実加の足取りは重く、俯いたまま道の端を歩いている。時折、足がもつれてよろめいた。

 

「おいっ」

 

思わず声をかけたが、彼女は振り向きもせず前に進む。

 

俺もその後ろを黙って追う。言葉が出てこない。どんな慰めも陳腐に思えた。

 

「どうして……」

 

ぽつりと実加が呟いた。その声は喧噪に紛れてしまいそうなくらい小さかったが、俺の耳には確かに届いた。

 

「どうして……こんなことになっちゃったのかな」

 

彼女は立ち止まり振り返った。泣き腫らした目が赤く充血しており、鼻先もほのかに赤い。

 

「父はただ……遺跡の研究をしていただけなのに……」

 

声が震えている。怒りと悲しみと不安が混ざり合い、行き場を失っていた。

 

「なんで……私たちがこんな目に遭わないといけないの?」

 

「・・・」

 

この場で、俺は。

 

そう考えていると、ふと、視線を感じた。

 

そこには、五代さんがいた。

 

「・・・何にも悪くないよ、君も教授も」

 

「ごめんなさいっ」

 

「良いよ、さぁ、中に」

 

そうして、俺は彼女を中に戻した。

 

同時に俺は五代さんの元へと行く。

 

「・・・ごめん、少し邪魔するような事をして」

 

「いいえ、とんでもないです」

 

そうしながら、俺はそのまま五代さんと共に壁に背を預ける。

 

「・・・今日、新しい奴が現れた」

 

「新しい奴」

 

「あぁ、その時、戦おうとしたんだ。けれど、全然敵わなくて。どうやら、俺の心が半端らしいんだ」

 

「半端って、何を」

 

「・・・嫌いだから」

 

「嫌い?」

 

「人を殴る感触が、相手が怪物だって分かっていても。あぁ、君の事じゃないから」

 

「・・・良いんです。俺は、あいつらに身体に何かを埋められて」

 

そうして、俺はあの時の恐怖を思い出す。

 

「今でも、俺、怖いんですよ。殺されそうになった時の事。戦うなんて、したくないですよ」

 

「あぁ、当たり前だ。俺も君も」

 

五代さんもまた、それを理解している。

 

けれど。

 

「だけど、それ以上に俺はもうあの子のような涙を流させたくない」

 

「・・・俺も、こんな気持ち、これ以上は誰にもさせたくないっ」

 

俺と五代さん。

 

互いの気持ちが同じだと理解する。

 

「・・・皆の笑顔の為に」

 

「・・・誰もこんな事で悲しませない為に」

 

恐怖と戦う決意が確かに出来た。

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