グロンギの鎌が再び閃いた。
(もう……見えない)
視力ゼロの世界で迫る死の音を聞く。真空を裂く甲高い摩擦音。それが耳の中で爆発する刹那。
「ッ……!」
防御は間に合わない。右胸部を深々と貫く衝撃。装甲の破片が飛び散り、肋骨が粉砕される音が体内に響く。
「聴覚に頼りすぎたな」
冷笑が頭蓋を叩く。「見えない者ほど音に騙される」
地面に叩きつけられる。土埃と鉄錆の味。指一本動かせない。
(駄目だ……死ぬ)
諦めかけた瞬間だった。
「……!?」
胸中に異変。心臓ではない場所が熱を持つ。脊椎の最底部から沸き上がる電流。
(なんだ……この感覚は)
筋肉が痙攣する。神経が焼き切れる痛み。だが同時に全身を駆け巡る力の奔流。
「最後の悪あがきか?」
グロンギが嘲笑う。鎌を高く振り上げるシルエットが霞む視界に浮かぶ。
「消えろ」
殺意が降り注ぐ一瞬。
(負けるか……!)
意思が昂ぶる。鼓動と同期して蓄積されたエネルギーが解放される。
「ア゛ア゛ア゛――!」
獣のような咆哮と共に閃光が迸る。雷雲のような青白い電光が傷口から噴出する。
頭蓋骨が割れる音と共に変化が始まった。
脳内に浮かぶ幾何学模様。無数の音波が立体的な座標軸に変換されるイメージだ。
「ッ……!」
突然訪れた全能感。周囲三百六十度すべての微細な音を同時処理している。空気分子の動きすら感知できる精度だ。
(見える……いや、聞こえる)
敵の重心移動が可視化される。次に振るう鎌の軌道が残像のように浮かぶ。
「な……!」
驚愕の声を上げるグロンギ。当然だ。回避不可能なはずの斬撃を紙一重で躱されるのだから。
「驚くなよ。これが新しい俺だ」
「馬鹿な!視覚がないくせに……!」
「だからこそ分かる」
微弱な筋肉収縮音。腱の伸縮タイミング。空気抵抗の変化量。それらすべてを統合することで一秒先の行動を予測できる。
しかし、それと同時に襲い掛かる頭痛が強くなってくる。
「ッ……」
こめかみを押さえると血管が脈打っているのが分かる。タイムリミットか。
(あと30秒……)
脳内に赤文字でカウントダウンが始まっている感覚。処理能力の限界値に近づいている証拠だ。
「貴様!何をした!!」
混乱するグロンギに向かって飛びかかる。音波レーダーが導く通りのルートを選択。
「この能力……一分が限界らしい」
「何ィッ!」
「だけど、それは既に勝利までも分かったからな」
同時に、地面を軽く叩く。
それに合わせて、宙を舞ったボールを手に取ると共に、その形は、鉄球へと変えて、構える。