仮面ライダーダグバ   作:ボルメテウスさん

45 / 79
雷嵐

左手に握る金属塊が重力に逆らうように震えている。

 

表面に這う青白い電弧が鱗のように蠢き、その度に大気が焦げる匂いが立ち上る。持ち手の感触は液体金属と化し、指先から微弱な痛みが走る。帯電量が飽和点を超えている証拠だ。

 

「……」

 

地面を睨む。砕けたコンクリートの隙間から苔の匂いが立ち上る平凡な路面が、今や磁場の坩堝と化している。

 

鉄球を水平に保ったまま膝を折る。屈伸の勢いで全体重を預ける直前、

 

パチッ。

 

手のひらから逃げ出した電流が空間を引き裂いた。瞬間的に形成された磁界が視界を歪める。

 

「行け」

 

宣告とともに投擲。スローイングボールを放つ野球選手のように全身を使って加速させる。

 

鉄球は空気抵抗など存在しないかのように一直線に疾走する。通過した軌跡に電磁波の花火が咲き乱れ、コンクリートの亀裂から火花が噴出する。

 

ゴトッ。

 

着地音がしたときにはもう遅い。接地した衝撃で帯電したエネルギーが爆発的に放出され——

 

ヴゥン!

 

低周波の轟音とともに周囲の大気が収斂した。直径三メートルほどのドーム状の真空が発生し、コンクリートの塵さえも内部へ飲み込まれていく。

 

「!?」

 

グロンギの驚愕が空洞に吸い込まれる。鎌を構える暇も与えず、

 

ブワッ!!

 

収縮が極限を迎えた真空の中心から解放された気体が炸裂した。竜巻のごとく渦巻く風圧がカマキリ型グロンギの四肢を拘束する。

 

鉄球を中心にして生まれた竜巻は不可視の檻だった。内部で荒れ狂う電磁嵐が相手の動きを完璧に封じている。

 

「くっ……このッ!」

 

グロンギが鎌を振りかざすも、雷電をまとった竜巻に触れると火花を散らせて弾かれる。

 

嵐の中を走る鉄球は生き物のようだった。電磁気を帯びた金属塊が龍のように踊り狂い、嵐の壁に衝突しては反転する。毎回角度を変え、速度を増し、獲物を追いつめる捕食者の動きだ。

 

「避けろ!」

 

叫ぶ間もなく鉄球がカマキリの腹部を抉った。火花と肉片が飛び散る。しかし鉄球は減速せず、百八十度向きを変え再び襲いかかる。

 

「チッ……!」

 

グロンギが鎌を振るうが遅い。嵐の内部では物理法則が歪み、動きが鈍くなっている。鉄球が再び横腹を穿つ。黒い血液が噴出し、独特の腐敗臭が漂う。

 

嵐の中で鉄球の軌道を読もうとするが不可能だ。反響定位が追い付かないほどの高速変化。ただ一つ分かるのは——必ず奴に戻ってくるという確信。

 

「アァァァッ!」

 

三度目の直撃で鎌を支えていた前肢が粉砕された。金属音に似た断末魔が轟く。今度こそ勝機だ。

 

俺は嵐の中心へ飛び込んだ。重力異常の中でも体が馴染む。鉄球の軌道を予測し、最高到達点でキャッチする。掌の中で灼熱のエネルギーが脈打つ。

 

「これで終わりだ」

 

振りかぶる。嵐が螺旋を描いて集束する。雷光が一点に収束し——

 

「ウガァァッ!」

 

最後の抵抗でグロンギが飛びかかってきた。鎌のない腕を振り回し、剥き出しの牙をむく。だがその姿はもはや獣以下の哀れさだ。

 

鉄球を投げる。正確無比な直線軌道で奴の胸板を貫通する。肉の破裂音と金属の断裂音が重なり合い、黒い血飛沫が嵐に散った。

 

「オ……オン……」

 

絶命の言葉すら完成しないまま、グロンギは膝から崩れ落ちた。鉄球が地面に転がり、嵐が急速に萎んでいく。

 

静寂。

 

嵐の残滓が灰色の霧となり立ち上る中、俺は立ち尽くしていた。変身が解け、疲労で膝が震える。耳鳴りが収まらない。過剰に活性化した聴覚機能がまだ戻っていない証拠だ。

 

ふと気配を感じて振り返る。誰もいない。ただ霧の向こうに朽ちた電柱が見えるだけ。

 

(終わったのか……)

 

安堵と同時に新たな不安がよぎる。こんな力を使い続けていたら、いずれ自分自身が制御できなくなる。0号のような……

 

思考を遮るように遠くでパトカーのサイレンが聞こえた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。