筋肉繊維一本一本に鉛が流れ込むような重さ。指先から肘へ、膝から腰へと浸透する鈍痛。毒は血管という血管を這い上がり、脳幹へ到達しようとしている。
(動け……指一本でもいい)
瞼が鉛のように重い。焦点が合わない視界の中で、未確認が滑らかな動きで姿勢を整えている。背中の花弁がさらに開き、紫色の内部組織から粘液が糸を引いている。それは紛れもなく第二射の準備だった。
「まだ抵抗する気?」
未確認の声が歪んで聞こえる。
「でももう遅いわ」
公園の方へ向けられた花弁の先端で、無数の微細な針が蠕動する。雨上がりのアスファルトのように湿った光沢が不吉だ。
(ダメだ……子供たちがあそこにはいる)
呼吸すら困難になる。肺胞が蝕まれているのだ。視界の端で遊具の陰に隠れた少年の怯えた顔が見える。みのりさんの必死の声が遠くで木霊する。
「やめろ……」
掠れた声は毒液と共に咽頭で弾ける。同時に体内で何かが弾ける感覚。変身解除による光粒子が散乱するが、肉体は毒から解放されない。
未確認の唇が妖しく歪む。発射寸前の緊張感。花托の膨張と共に大気中の湿度が急上昇する。ジトッとした空気が頬を撫で、地面に雫となって落ちる。
(早く……!)
爪が皮膚を裂くほど拳を握る。だが痙攣する四肢は命令を拒絶する。鼓動が早鐘を打つ一方で、感覚は徐々に麻痺していく。耳鳴りが轟く。外界と意識の境界が薄れる。
「さようなら」
未確認の宣告と共に花弁が完全に開く。毒腺から凝縮された液体が蛇口を捻ったように迸り、空中で霧散しながらも確実に公園へと流れ込んでいく。
(逃げろ……)
喉の奥から血痰が溢れる。嗚咽すら許されないまま意識が暗転しようとする刹那──
ズキン!
腹の底で何かが胎動した。
(まだ……)
燃えるような熱が背骨を貫く。それは毒に対する抗体ではなく、もっと根源的な何か。原始的な生存本能なのか、あるいは怒りの炎なのか。
視界が赤く染まる。全身の毛穴が開き、皮膚が焼けつく錯覚。
「なに……?」
未確認の表情に初めて狼狽が滲む。第二射を中断し後退する彼女の足元から黒い蒸気が立ち上る。それは変質し始めた己自身の放つ異臭かもしれない。
「殺させない……」
声に出した瞬間、体内で核融合のようなエネルギーの渦が発生した。筋肉が修復される音。骨格が軋みながら再生する感触。
毒の奔流が目前に迫る。粘性のある紫煙が口腔を汚染しようと蠢く。だが俺の手にある刀が先に動いた。
「ハァッ!」
息を吐くと同時に刃が旋回。
「これは、一体」
そう、迫っていた全てを、俺は斬り刻んだ事。
それに驚きを隠せない。