仮面ライダーダグバ   作:ボルメテウスさん

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葛藤

夕焼け空がビル群を茜色に染め始めた頃。駅前のバス停で時間を潰していた俺の視界に見覚えのあるシルエットが現れた。

 

「やぁ」

 

五代雄介。相変わらず太陽みたいな笑顔を浮かべている。あの事件以来初めて顔を合わせるだけに居心地が悪い。

 

「久しぶり」

 

彼は手を挙げながら近づいてくる。その足取りには一切の無駄がない。流石はプロの冒険家といったところか。

 

「先週のニュース見たよ。公園で未確認が出たって」

 

「……」

 

「実はうちの妹もそこに居たんだ。みのりって言うんだけど」

 

「えっ」

 

思わず声が上擦る。あの人懐っこい幼稚園教諭の顔が浮かんだ。

 

「幸い怪我人も出なくてさ。君のおかげだって聞いてる」

 

「いや、別に俺は──」

 

否定しかけた瞬間、五代が俺の肩を軽く叩いた。

 

「ありがとう」

 

その声に含まれた重み。無茶な冒険を通してきた人間特有の、底抜けに誠実な感謝だった。

 

「……俺がしたことなんて」

 

言い淀む。守るべき者を巻き込みかけた恐怖が甦る。

 

「あの子たちの笑顔、凄く可愛かったでしょう?」

 

五代が冗談めかして言う。けれど目の奥には何か深いものが宿っていた。

 

「……守れて良かった」

 

偽りのない言葉だった。だが同時に胸の奥で疼く痛みもある。自分は本当に人間なのかという疑問符。そして未確認への憎悪。

 

「その気持ちがあれば十分だよ」

 

五代はそう言って微笑むと、突然真剣な表情になった。

 

「でもね。君みたいに危険を顧みないやり方は……心配なんだ」

 

「…………」

 

返す言葉が見つからない。事実だからだ。

 

「俺もそうだから」

 

「なぁ宮崎君」

 

五代が唐突に切り出した。黄昏時の柔らかな光が彼の横顔を照らしている。

 

「君にとって『守る』と『戦う』って……どっちが目的なんだい?」

 

核心を突かれた衝撃で息が詰まった。まさにそのことで頭を悩ませているのだから。

 

「わからないんだ」

 

絞り出すように答える。夕暮れの空気が冷たく感じられた。

 

「未確認を倒すために戦っているのか……守るために戦っているのか……どっちも正しいようで、どっちも間違っているような気がして」

 

五代は黙って聞いている。その静かな圧が逆に楽だった。

 

「戦いすぎれば怪物に近づく。でも戦わなければ守れない。どっちを選んでも結局……」

 

言葉が途切れる。喉の奥に錆びた鉄の味が蘇った。あの怪物たちの血飛沫。自分の腕の中で崩れていった肉塊の感触。そして無力だった自分。

 

「それで迷ってるんだろう?」

 

五代の声は優しかった。まるで親戚の兄貴が弟を慰めるような響きだ。

 

「でもさ」

 

彼は真っ直ぐに俺を見据えた。夕陽を背負った瞳が琥珀色に輝いている。

 

「咄嗟に身体が動いちゃった時は?」

 

「……」

 

「君はみのりを抱えて、あの子を守ったんだろう?理由なんか考えずにさ」

 

確かにそうだ。あの時脳裏に理論的な選択肢なんて浮かばなかった。ただ危ないと思った瞬間には身体が勝手に動いていた。

 

「それが君の本当の気持ちなんじゃないかな」

 

五代の言葉が胸に染み込んだ。固まっていた思考の殻がひび割れる音がする。

 

「戦うのも守るのも目的じゃなくて……結果でしかないのかもな」

 

彼はそう言って少しだけ寂しそうに笑った。まるで自分自身にも言い聞かせるように。

 

「俺だって最初は『笑顔を守りたい』って思ってただけだし」

 

その声には確かな実感が籠もっていた。長い旅路の中で積み重ねてきたであろう経験が垣間見える。

 

「まぁ要するに……」

 

五代はぽんと俺の肩を叩いた。硬い掌の感触が心地よい。

 

「まずは自分のしたいことを信じてみたら?小難しい理屈は後からついてくるさ」

 

そう言われてみると、肩の力が抜けた気がした。ずっと正義とか使命とか考えすぎていたのかもしれない。

 

「ありがとう……」

 

自然と礼の言葉が出てきた。嘘偽りのない本心だった。

 

「どういたしまして!」

 

五代は歯を見せて笑う。その笑顔の眩しさに俺までつられて笑ってしまった。

 

遠くからサイレンの音が聞こえてくる。新しい戦いの予兆か、或いは平和を取り戻すための警笛か。

 

(どちらでも構わない)

 

今はただ守るために走る。あの無邪気な笑顔たちを守るために。五代が教えてくれたように、理屈でなく本能に従って。

 

夕陽が完全に沈む前に、俺たちは並んで歩き出した。お互いの足音だけが静かな街に響いていく。

 

だけど、この時、俺達は知らない。

 

これまで出会った中で最悪の敵と戦う事になるとは。

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