「うわあああっ!」
夜の住宅街を歩いていた俺の胸に突然衝撃が走った。見下ろすと中学生くらいの少年が突っ伏している。ショートカットの前髪が汗で濡れ、顔は真っ青だ。
「おい大丈夫か?」
肩を支えると彼は激しく震えていた。小さな手が必死に自分の頭部を押さえている。その指の隙間から赤いものが滲んでいるのが見えた。
「痛い……頭が……割れるみたいに……」
鼻から流れ落ちた鮮血がアスファルトに点々と黒い染みを作る。明らかにただの喧嘩の怪我ではない。
(おかしい)
周囲を見渡すと民家の窓からは誰も覗いていない。こんな深夜に一人でフラついていたのか?
「落ち着け。病院に連れて行ってやる」
立ち上がらせようとした瞬間――
ゾクリ
背筋を逆撫でるような視線を感じた。首を巡らせても人影はない。だが確かに感じる。獲物を見つめる捕食者の温度のない視線を。
「ぐぅっ……!」
少年が更に強く頭を掻き毟る。その爪痕が白い肌に赤く浮かび上がった。
「暴れるなって!」
彼を抱き抱えようとした俺の手が止まった。
(なんだ……?)
少年の髪の間から細い管のようなものが見え隠れしている。うねるように脈動し、彼の頭蓋骨へと侵入しているかのようだ。
「やめて……取ってよぉ……」
「……くそっ」
掌を当てた少年の頭蓋骨が脈打つように膨張している。脳内で何かが急速に育ち始めている――その事実が皮膚を通して伝わってくる。細胞分裂の速度が尋常じゃない。これは既に感染症レベルを超えている。
「お願い……取ってよぉ……」
彼の哀願が引き金になった。迷う暇はない。
「変身」
稲妻が骨格を覆う。加速領域に突入した俺の神経伝達速度が十万倍へ跳ね上がる。肉眼では捉えられない速さで指先が少年のこめかみに触れた。
(いた)
血管と神経を避けながら潜り込む分子サイズの金属管――いや、針だ。昆虫の産卵管にも似た微細構造体が脳幹へ食い込んでいる。触診する俺の指紋感度がそれを捉えた。
「よし」
極小の力を集中させて針を剥がす。粘着質な体液が抵抗するが、振動数を調整することで組織損傷ゼロで引き剥がしていく。
微かに空気を裂く音。1本の針が空間に放り出された瞬間、少年の呼吸が正常に戻った。血管は傷一つない。
それと共に、こちらへと慌てる声が聞こえる。
「おい、どこにっ」「あっあれはっ未確認っなんでっ!」「ひぃ!」
俺を見てか、彼らは怖がる様子が見る。
けれど、俺は気絶している少年を抱えて彼らの前に行く。
怯えている様子が見えながらも、俺は彼らに少年を渡す。
そして、俺はその針も彼らに渡す。
「なっ何を?」
同時に、俺は少年を狙っていた殺気に、再び投げられた針を腕で受け止める。
その攻撃で理解出来た。
こいつはこれまでのグロンギ以上に、人間が苦しんでいる姿を見て楽しんでいる事を。