画面に映し出されたのは、あの忌まわしいヤマアラシ型グロンギの姿だった。
《警察関係者によると、被害者はこのように宣告されていたそうです。「あと4日。苦しんで死ね」》
アナウンサーの淡々とした声が耳障りに響く。スタジオの空気が凍りついたのがカメラ越しでもわかる。
《そして昨日午後8時37分。家族が見守るベッドの枕元に現れたそうです。「約束通りだね」—その声と共に被害者は痙攣し、数分後に死亡が確認されました》
俺はソファの肘掛けを握りしめていた。皮膚が白くなるほど力を込めて。
(ふざけるな……)
映像が切り替わる。喪服姿の同級生たちが涙を流す葬儀場。だが突如として画面が乱れた。カメラマンの悲鳴と絶叫。
「あそこに!あそこに!」
スロー再生された映像には、列席者たちの悲鳴を楽しむように影が蠢いていた。棺桶の傍らに佇む黒いシルエット。口吻が確かに笑っている。遺族の嗚咽がマイクに入り込んだ。
(……殺す)
沸き起こった感情は理性的な判断を凌駕した。臓腑が熱を帯び、皮膚の下で何かが蠢く。左手の指輪が疼いた。いや正確には指輪を通して〝それ〟が共鳴しているのだ。
《専門家は今回の事件の分析につきましては、まるで玩具に飽きた子供が……》
CMに入る前にリモコンを叩きつけた。液晶画面が一瞬曇り、すぐに明るさを取り戻す。だが俺の脳裏には呪われたような怨嗟の光景が焼き付いていた。
「遊んでるだけだと……?」
喉から搾り出した声は自分のものと思えなかった。血の味がした。噛みしめた唇の裏が裂けたのだろう。
テレビのブルーライトが血走った眼球を照らす。赤黒い薄膜に覆われた瞳孔が狭窄するのを感じた。人間のままでいられる限界——ベルトの宝石が内側で蠢動し始めた証だ。
(助けてやれなかった)
葬儀の映像に映っていた女子生徒の姿。制服の襟が皺だらけになるほど泣きじゃくっていた。父親らしき男が肩を抱く。その背後に忍び寄る影。カメラはそれを追いきれなかった——撮影者自身が混乱していたのだ。
(だったら今度こそ)
警告の言葉が頭蓋を殴る。だが歯を食いしばる必要もないほど口角が吊り上がる。笑みではない。憎悪が肉の形を変容させていただけだ。
廊下の鏡に映った顔。すでに人間の輪郭を失いかけている。
けれど、少なくとも今は。
「あいつらを止めるまで、俺は絶対に怪物にならない」
そう、今も人殺しを続ける未確認達を止める為にも。
その先で、俺が死んだとしても。
「人の未来を守る為に」