風を裂いて飛び降りた瞬間、俺の体を包む“緑”の装甲が軋み、内側で熱が膨れ上がった。
胸の奥で燃え上がる怒りに呼応するように、全身が黒い衝撃波に呑まれ――
俺は黒の姿へと変わった。
周囲の空気が一瞬だけ重く沈む。
音も光もない世界の中で、俺の皮膚だけが異常に研ぎ澄まされている。
吹き飛ばされた“グロンギ”は、地面に転がりながらも、少年の病室へ向かおうとしていた。
腕を引きずり、俺たちを無視するように――まるで、そこにしか興味がないかのように。
(……許さない)
俺は、躊躇など一つも無く走り出した。
グロンギが片手を上げ、あの忌まわしい針を生み出そうとした瞬間――
俺はその腕を掴み、骨の形を確かめるように指を這わせる。
そして、力を込めた。
ボキィッ!!!
乾いた、しかし肉の奥まで響く破砕音。
グロンギの腕が本来あり得ない方向へ折れ、ぐにゃりと捻じれた。
悲鳴が耳元に爆風のように響く。
だが、離さない。
「……まだだ」
折れた腕を放し、逃げようとしたもう片方へ迷いなく手を伸ばす。
視界は無い。だが相手の筋肉の動き、血流の震え、そのすべてが“位置”を教えていた。
掴む。
締め上げる。
そして――潰す。
メキ……バギィ!!!
メリッ、と鈍く骨の軋む音が響いた。
グロンギは自分の腕があり得ない角度に折れたことを理解し、呼気を詰まらせた。
その顔に広がったのは、明確な“恐怖”。
かつて彼らが面白半分に追い詰めてきた人間とは違う。
目の前の“黒い存在”は、彼らの常識を超えた危険そのものだと、察してしまったのだ。
グロンギは後ずさりし、かすれた声を漏らした。
「……ァ、アァ……!」
その姿を見て、俺の胸の奥に、怒りがひどく重たく燃え上がる。
――人を苦しめて、泣かせて、奪っておいて。
――自分が危なくなると怯えて逃げるのか。
――ふざけるな。
黒の仮面の奥の視界が、赤く滲んだ。
「……逃げるなよ。お前が、どれだけの人間を――!」
怒りが限界を超えた瞬間、俺の全身に電流のような力が奔り、装甲が一瞬だけ黄金の輝きを帯びた。
そのまま腕を引き絞り、音を置き去りにする速度で拳を叩き込む。
空気が裂け、衝撃が走り、グロンギの身体は天へと弾丸のように打ち上げられた。
そして――
空の彼方で、小さく閃光が弾ける。
爆散した破片は、もう地上に届くことすらない。
俺は拳を下ろし、深く息を吐いた。
怒りが静かに引いていく。
だが、心の底にはまだ熱が残っていた。
「……これが、人の痛みだ。忘れるな。」