呼吸が荒い。
胸の奥が焼けるように痛み、視界の端が揺れていた。拳を握ろうとするたび、指先から力が抜け落ちていく。力は確かに増している。それでも、身体がそれに追いついていない。クウガが幾度も経験したであろう、力と肉体の乖離。その感覚が、今の宮崎を内側から蝕んでいた。
「……まだだ。逃げるな、0号……!」
前に出ようとする。
だが脚が言うことを聞かない。地面を蹴ったはずの足裏が、空を踏む感覚だけを残して止まった。
「はは……いいね、その声。でもね、君、もう限界だよ」
0号の声は軽い。
まるで遊び場で、息を切らした相手を見下ろす少年のように、楽しげで、残酷だった。
「黙れ……まだ、戦える……!」
言葉とは裏腹に、喉がひくりと鳴る。呼吸が追いつかない。体内を巡る力が、統制を失い始めているのが分かる。
「立ってるだけで精一杯じゃないか。息も荒いし、力の流れもぐちゃぐちゃだ」
「それでも……お前を……!」
一歩、踏み出す。
その瞬間、世界が傾いた。
「無理しなくていいよ。今の君を壊しちゃったら、次がなくなる」
「……次だと……?」
視界の奥で、0号の影が揺れる。
近いはずなのに、ひどく遠い。
「うん。まだ十分に楽しめない。君はもう少し、ちゃんと壊れてからの方がいい」
「待て……! 逃げるな……!」
身体が前につんのめる。
追おうとした意思だけが先に走り、肉体がそれを裏切った。
「追えるなら追ってみなよ。でも……ほら」
「……っ、ぐ……!」
膝が砕けるように落ちる。
次の瞬間、地面の冷たさが額に伝わった。力が抜ける。指先が、もう動かない。
「倒れたね。やっぱり、今はここまでだ」
「……くそ……!」
悔しさだけが、まだ燃えている。
それだけが、身体を動かそうとしている。
「大丈夫。がっかりしてないよ。むしろ、すごく楽しくなってきた」
「……0号……!」
夜の闇の中で、0号の気配が一歩、遠ざかる。
「また遊ぼう、君。今度はもっと、いいところまで行けそうだから」
「待て……次は……!」
言葉は、闇に吸い込まれた。
「楽しみにしてるよ」
「……!」
「じゃあね」
その声を最後に、気配が消える。
夜だけが残る。
「……!」
視界が、ゆっくりと暗転していく。
拳を握ろうとして、動かないことに気づく。怒りはまだある。憎しみも消えていない。それでも身体は、限界だった。
0号は去った。
だが、この戦いは終わっていない。
また遊ぼう――その言葉が、胸の奥で何度も反響する。
それは約束であり、宣告だった。