東京の工場地帯は、夜になると無音に近づく。
機械が止まり、人気が消え、残るのは錆と油の匂いだけだ。
そのはずなのに、俺の胸の奥は騒がしかった。
鼓動が速い。呼吸が浅い。
まだ戦えるはずなのに、0号との一戦の疲労が、遅れて牙を剥いてくる。
それを悟られたくなくて、無意識に肩に力が入った。
「……出てこい。いるんだろ」
声が少し掠れたのが、自分でも分かった。
工場の奥、止まったコンベアの影から、足音がひとつ響く。
ゆっくりだ。
急ぐ気がない。
それだけで、相手が俺をどう見ているかが伝わってきて、焦りが胸に広がる。
現れたのは、以前一度だけ遭遇した未確認だった。
他の未確認みたいな獣じみた殺気がない。
代わりにあるのは、研ぎ澄まされた静けさだ。
まるで、俺が動くのを待っているみたいに。
「警戒するのは当然だ。戦士として正しい」
その口調に、背中がひやりとした。
煽っているわけじゃない。
評価している。
それが、今の俺には一番きつい。
「……お前、何の用だ。俺を殺しに来たわけじゃないんだろ」
問いかけながら、内心では時間を稼いでいた。
息を整えたい。
体の感覚を戻したい。
でも、ゴ・ガドル・バはそれを許さない距離に立っている。
「我が名はゴ・ガドル・バ。グロンギの戦士なり」
名乗りは短く、揺るぎがない。
その一言で、この工場が戦場に変わった気がした。
逃げ場はない。
そう理解した瞬間、腹の奥が熱くなる。
焦りと一緒に、戦うための感覚がせり上がってくる。
「此度、我は貴様に会いに来た。理由は一つ。貴様はこれまで、多くのグロンギを打ち倒してきた。偶然ではない。選び、越え、進んできた。その歩みは、すでにンの力へ近づいている」
胸が、嫌な音を立てた。
認められたくない言葉なのに、否定しきれない。
俺は確かに、戦いを重ねてきた。
守るためだったはずなのに、いつの間にか数を積み上げている。
「……だから、俺を試しに来たってわけか」
声が低くなる。
焦りを隠そうとして、逆に硬くなったのが分かる。
「然り。我もまた、多くを斬ってきた。弱き者、戦に値せぬ者を退け、残った者とのみ刃を交える。その中で、貴様は戦士として認めるに足る存在となった」
評価。
認定。
その言葉が、胸の奥をざわつかせる。
俺は誰かに認められるために戦ってきたわけじゃない。
それでも、この場で背を向けたら、何かが決定的に壊れる気がした。
「……分かった。受けて立つ」
口にした瞬間、心臓が強く跳ねた。
体力は万全じゃない。
焦りも消えていない。
それでも、ここで引けない。
ゴ・ガドル・バは、静かに構えた。
その動きに無駄はなく、隙もない。
俺は歯を食いしばり、次の瞬間に備える。
焦りを押し殺しながら、ただ一つだけ確信していた。
この戦いは、今までとは違う。
相手は、俺を獲物ではなく――戦士として見ている。