仮面ライダーダグバ   作:ボルメテウスさん

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再会

正面にいるゴ・ガドル・バは、相変わらず静かだった。

低く構え、重心は微動だにせず、拳をだらりと下げている。油断ではない。いつでも動ける姿勢だ。武人としての完成度が、その佇まいだけで伝わってくる。

 

俺は白に踏み込まない。

まだだ。

力を抑え、身体の感覚を前に出す。勝つために来たが、最初からすべてを賭けるつもりはなかった。ここは、流れを掴む場所だ。

 

踏み込んだのは、ほぼ同時だった。

拳と拳がぶつかり、鈍い音が夜気に溶ける。衝撃が腕を走り、骨に残る。ガドルの拳は正確で、重い。無駄がない。俺はそれを受け、衝撃を殺し、次の動きに繋げる。以前より、確実に対応できている。だが、主導権は向こうだ。半歩の誘い、視線のフェイント。俺が前に出る瞬間を、正確に読んでくる。

 

――まだ、測られている。

 

腹の奥が、じわりと熱を持った。

考える前に、身体が反応する。防御よりも距離を詰める判断。拳を引くより、肩をぶつける選択。思考が一瞬、置いていかれる。それでも、動きは噛み合っていた。

 

拳を振る。

ガードの上からでも、確かな手応えがある。叩いた衝撃を戻そうとした瞬間、肘の内側で遅れて振動が返ってきた。相手に当てたはずの力が、沈むように自分の奥へ残る。重い。ただ強いだけじゃない。質が変わっている。

 

ガドルの体勢が、わずかに崩れた。

視線が鋭くなる。

読めていたはずの間に、微妙なズレが生じている。理由は分からない。ただ、近いほうが正しいと、身体が言っている。

 

踏み込む。

殴る。

押す。

離さない。

 

最短距離。最小動作。

それだけを繰り返す。ガドルが一歩、下がる。その瞬間、胸の奥がざわついた。押せる。確かな感触がある。

 

だが、その時だった。

空気が、変わった。

 

金属の匂いが、微かに混じる。乾いた風が頬を撫で、産毛が逆立つ。嫌な予感が背中を走る。次の瞬間、ガドルの拳を受けた腕に、これまでと違う衝撃が走った。鈍いだけじゃない。内部から弾き返されるような感触。痺れが一気に広がる。

 

「……なるほど」

 

ガドルの声は低く、落ち着いていた。

喜びでも焦りでもない。積み上げてきた者が、新しい段階を理解した時の声音だ。

 

俺が踏み込もうとした瞬間、世界が一段、速くなった。

拳が来る。

避けきれない。

 

衝撃と同時に、雷が身体の内側へ流れ込む。視界が白く弾け、音が遠のく。ベルトの鼓動が乱れ、熱が引いていく感覚がはっきりと分かった。

 

「……っ!」

 

膝が崩れ、地面に叩きつけられる。

変身が、解けた。

夜の冷気が、むき出しの肌に突き刺さる。息を吸おうとして、肺が焼ける。身体が言うことを聞かない。終わった――そう思いかけた、その瞬間だった。

 

「――やめろ!」

 

聞き慣れた声が、闇を切り裂いた。

次の瞬間、視界の端に飛び込んできた影が、俺の前に割って入る。

 

五代雄介だった。

 

迷いのない動きで、俺とガドルの間に立つ。変身はしていない。生身のままだ。その事実に、頭が追いつく前に、ガドルの拳が振り下ろされた。

 

雷光。

轟音。

 

五代の身体が弾き飛ばされ、地面を転がる。

俺の喉から、声にならない音が漏れた。

 

「五代さん……!」

 

立ち上がろうとして、足がもつれる。視界が揺れる。そんな俺の前で、五代はゆっくりと身体を起こした。痛みに顔を歪めながらも、無理にでも立つ。

 

「……ほら、無茶するなって言っただろ」

 

軽い口調だった。

だが、その目は真剣で、俺だけを見ている。

 

「大丈夫だ。まだ、動ける。だから……君は下がるな。今は一人で抱えるな」

 

胸の奥に、別の感情が湧き上がる。

怒りより先に、恐怖。

そして、後悔。

また、一人でやろうとした。だから、こうなった。

 

「……すみません、五代さん」

 

声が、少しだけ震えた。

謝るべき場面じゃないのは分かっている。それでも、言わずにはいられなかった。

 

俺は歯を食いしばり、地面に手をついて立ち上がる。身体中が痛い。それでも、今は一人じゃない。

 

五代が、こちらをちらりと見る。

いつもの、少しだけ不器用な笑い。

 

「並ぼう。今は、それでいい」

 

それだけで、十分だった。

 

俺たちは、同時に構える。

 

「変身」

 

五代の声は、少しだけ先輩らしく、落ち着いていた。

俺も、遅れずに続く。

 

光が弾け、二つの姿が並び立つ。

クウガと、ダグバ。

 

並んで立った瞬間、不思議と胸の奥が静かになった。暴走しかけていた熱が、形を持つ。金の力は消えていない。それでも、制御できている感覚があった。一人で背負っていないからだ。

 

ガドルは、二人を見比べる。

その視線に、興味と警戒が混じる。

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