夜の倉庫街は、雷を呼ぶには出来すぎた舞台だった。
錆びた鉄骨、剥き出しの配管、砕けたコンクリート。空気は乾ききり、わずかな衝撃でも火花が散りそうな気配を孕んでいる。俺は五代さんの半歩後ろに立っていた。意識したわけじゃない。ただ、そこが一番しっくり来た。
ゴ・ガドル・バが、低く唸るような呼吸とともに踏み込む。
「――来るぞ」
五代さんの声は短く、落ち着いていた。
次の瞬間、雷鳴のような衝撃音。拳と拳が正面からぶつかり合う。
「ぬうっ!」
五代さんが受け止める。衝撃が空気を震わせ、その余波が俺の頬を打った。俺は同時に動く。
「――っ!」
声にならない息とともに、横へ。
五代さんが受けた衝撃の“外側”をなぞるように踏み込み、ガドルの懐へ拳を突き出す。
「はああっ!」
だが、当たらない。
いや、当たっているのに、弾かれる。拳が触れる直前、雷の壁に叩き返されたような感触が腕を走る。
「……ほう」
ガドルの低い声。
次の瞬間、床を蹴る音が重なり、空気が鳴る。
「ぐっ……!」
痺れが腕に走る。それでも退かない。退く理由がない。
戦いは一気に加速する。
拳が交錯し、叫びと衝撃音が倉庫街に反響する。
「はあっ!」
「おおっ!」
「――来い!」
雷が、目に見える形で散り始めた。
火花が飛び、金属が軋み、空気が焼ける匂いを放つ。
五代さんの雷は、内に籠もっていた。
「……っ、耐える!」
声と同時に、五代さんは前に出る。真正面から雷圧を受け止め、踏みとどまる。
俺の雷は、違う。
抑えきれず、身体の外に走る。
「くそっ……!」
感情が力を引き上げる。
白と金が混じり合い、身体が限界を超えていく感覚。
ガドルの雷は、さらに一段、質が変わった。
空間そのものが唸りを上げる。
「これが……電撃体か!」
叫びながら踏み込んだ俺に、ガドルの拳が返る。
「ぬああっ!」
痺れが全身を貫く。それでも、五代さんが前にいる。
「下がるな! 今だ!」
言葉は短い。だが、十分だった。
五代さんの姿が、雷に包まれる。
「うおおおっ!」
アメイジングマイティ。
制御された怒りが、雷となって収束する。
俺も、同じ領域へ踏み込んでいた。
「はあああっ!」
似ているが、同じじゃない。
俺の雷は荒々しく、身体の輪郭を走る。それでも、今は暴走していない。
追い込みが始まる。
ガドルの雷圧が、正面突破を拒む。
「――っ!」
五代さんが吼え、真正面から踏みとどまる。雷を受け、流し、耐える。
その隙に、俺は回り込む。
「今だ……!」
誰に言ったわけでもない。
ただ、身体がそう叫んだ。
雷が、収束する。
三者の力が、同時に最大へ。
踏み込み――
「うおおおおっ!」
「はああああっ!」
叫びが重なる。
視線は交わらない。だが、距離も角度も、完全に一致している。
クウガの必殺キックが、雷を纏って空を裂く。
俺の拳が、雷を纏って地を砕く。
「これで――終わりだぁっ!!」
完全な同時。
白い閃光が、世界を焼き尽くした。
爆音。衝撃。
倉庫街が揺れ、雷鳴が遅れて轟く。
ゴ・ガドル・バは、その中心で崩れ落ちた。
静寂が戻る。
雷が消え、金属の軋みだけが残る。
俺は荒い息を吐きながら、拳を下ろす。