前世を思い出して生き方を見直す日々   作:naoki2525

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プロローグ

少し汗ばむ夏の夕暮れ。蒸し暑さに包まれたアスファルトが、夕陽の赤に染まりながらじんわりと熱を放っている。

 

その中を、平均的な社会人男性——年齢は二十代後半、身なりは地味すぎず派手すぎず、どこにでもいるようなスーツ姿——が、ようやく一日の業務を終え、駅から自宅へと歩いている。

 

ネクタイを緩め、シャツの第一ボタンを外す。通り過ぎる風がわずかに涼しく、背中の汗に触れて心地よさを運んでくる。

 

特にこれといった出来事もない一日だった。会議、メール、上司との雑談。何もかもが「いつも通り」で、「まあ、こんなもんか」と思いながら歩く彼の足取りは重くも軽くもない。

 

コンビニの脇を通り過ぎたとき、ふと、冷たいビールの映ったポスターが目に入る。

 

「帰ったら、風呂に入って、ビールだな」

 

誰に聞かせるでもない独り言が、口から漏れる。

 

彼のつぶやきをよそに、コンビニの自動ドアが「ウィン」と控えめに開き、誰かが店から出てきた。

高校生らしき二人組。片手にアイス、もう一方には炭酸のペットボトル。

笑いながら通り過ぎていく若い声が、夕暮れの空気に溶けて消える。

 

彼は一瞬立ち止まり、喉の渇きを思い出す。

 

「……やっぱ寄ってくか」

 

ふらりとコンビニに入り、冷蔵ケースの前でしゃがみ込む。ビールは定番の銘柄。

だが、隣には季節限定の缶が並んでいる。

パッケージには「瀬戸内レモン」「夕涼みホワイト」などの文字。

 

「こういうの、つい買っちゃうんだよな」

 

またも独り言。だが、表情は少し緩んでいた。

 

ビールと冷奴用の豆腐、あとは柿の種と小袋の枝豆を手にレジへ。

店員は無言でテキパキと袋詰めし、彼も特に会話を交わすことなく頭を下げて店を出る。

 

外に出ると、空の色はもうすっかり藍色に変わっていた。

道沿いの植え込みでは、夜の虫たちが短く鋭く鳴いている。

 

彼はビニール袋を片手に提げながら、再び歩き出した。家までは、あと十分ほど。

その足取りはさっきよりも、わずかに軽くなっている。

 

住宅街へと続く坂道にさしかかったときだった。

彼はふと足を止め、いつものようにイヤホンを取り出して音楽を流す。

プレイリストは何年も変わらない。スローテンポのジャズが、ゆっくりと鼓膜に届く。

 

左手にはコンビニの袋。右手にはスマートフォン。

辺りはすっかり夜に染まり、街灯の下には自分の影が長く伸びている。

遠くで犬が吠える声が一度だけ聞こえた。

 

「……明日、あの資料仕上げないと」

 

明日が来ることを、当然のように思っていた。

 

だが、その瞬間だった。

鋭いブレーキ音と、何かが弾け飛ぶような衝撃音。

 

そのすべては、一瞬の中に詰め込まれていた。

 

彼が歩いていた横断歩道に、スピードを出した軽トラックが突っ込んできたのだった。

運転していた若者は、スマホに気を取られていたという。

 

彼の体は宙に舞い、ビニール袋の中の缶ビールがアスファルトに叩きつけられて破裂した。

中身が飛び散り、泡となってゆっくりと地面を流れていく。

 

その泡は、やがて血と混じり合って、暗がりの歩道を濡らしていった。

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