前世を思い出して生き方を見直す日々   作:naoki2525

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第十四話

褒美のことが気になりすぎて、正直――飯の味なんてあまり分からなかった。

 

 

 

……いや、嘘だ。めちゃくちゃうまかった。

 

腹の底からうまいと思った。

 

口に入れた瞬間、肉はほろりとほどけ、香辛料の香りが鼻腔を突き抜けたときには、思わず目を閉じたくらいだ。

 

 

 

けれど、それでもなお頭の隅には、魔道具のことが居座り続けていた。

 

騎士たちの褒美として、あの冷却魔道具は本当に最適だろうか。

 

価格は?大きさは?運用のしやすさは?

 

そんな考えばかりが、味覚の邪魔をしてくる。

 

 

 

それでも舌が勝手に「うまい」と判断してしまうのだから、料理人の腕は本物だ。

 

さすが、メニューに金額すら書かれていない店だけある。

 

 

 

前に座っている二人もご満悦そうだ。

 

頬はほんのり赤らみ、表情は満たされた猫のように緩んでいる。

 

どうやらこの店の料理は、彼女たちの胃袋にも深く刻まれたらしい。

 

 

 

「行くか」

 

 

 

そうつぶやいて席を立つと、リサとエリルがほぼ同時に顔を上げた。

 

 

 

「ごちそうさま」

 

「おいしかったよ、ありがとう」

 

 

 

二人は自然な笑顔で俺に礼を告げた。

 

 

 

会計には、ぎりぎり有り金で足りた。

 

メニューに値段がないということは、つまりそういうことなのだと、今さらながら実感する。

 

 

 

飲み物を冷やす程度のものなら……と期待したいが、魔道具は魔石という貴重な資源を用いるぶん、価格も跳ね上がる傾向がある。

 

 

 

もっと持ってくるべきだったな。

 

軽く舌打ちしたくなるが、それは今さらの話だ。

 

この世界には、銀行も、コンビニも、ATMもない。

 

「遊び先で金を下ろす」という発想自体が存在しない以上、常に多めに持ち歩くのが正解なのかもしれない。

 

 

 

過ぎたことはしょうがない。

 

そう思いながら、店の扉に手をかける。

 

 

 

外の空気は、食後の余韻も吹き飛ばすような熱気だった。

 

肌にまとわりつくような湿った空気と、日差しの暴力。

 

俺たちはそろって顔をしかめながら、石畳の道へと足を踏み出す。

 

 

 

「この街に魔道具屋はあるのか?」

 

 

 

俺の問いに、リサが日差しを避けるように手をかざしながら答える。

 

 

 

「ああ、あるぜ」

 

 

 

視線の先、石畳の向こうに見える通りを示すように顎を少し動かす。

 

どうやら、それほど遠くないらしい。

 

 

 

「ミズキ様、さっき話してた魔冷箱を買いに行くのかい?家にはないの?」

 

 

 

隣を歩いていたエリルが、汗を拭いながら不思議そうに俺を見上げてくる。

 

その目には、素朴な好奇心がにじんでいた。

 

 

 

「屋敷にはある。だが、それとは別だ」

 

 

 

「褒美にするんだろ?個人で持ってるのは貴族が富豪ぐらいだ、センスはいいと思うが……結構高くつくぞ?」

 

 

 

そう続けて、ちらりとこちらを見やる。

 

軽口に見せかけたその一言には、実用性と経済感覚に根ざしたリアリズムがあった。

 

 

 

……まあ、仕方ない。これ以上にふさわしい褒美は、今のところ思いつかない。

 

 

 

飯屋といい、褒美といい。今日の俺はやけに金遣いが荒い気がする。

 

もちろん、どれも無駄ではない。だが、財布の中身は嘘をつかない。

 

 

 

貴族らしい振る舞いといえば聞こえはいいが、こうもポンポンと使っていては、さすがに先が思いやられる。

 

 

 

それに、こんなに金を使っておいて、リサの護衛代を渋ったのは、まるで金を使うべき場所を間違えている気分になる。

 

器が小さいというか、根っこが庶民のままというか。

 

 

 

「……リサ、悪いな」

 

 

 

つい、ぽつりと零していた。

 

声というより、ため息のような音だった。

 

自分でも、誰に向けての言葉なのか分からない。

 

ただ、口から出てきた。きっと、心から溢れてしまったのだろう。

 

 

 

誰かに向けた謝罪ではない。

 

ましてや、リサに聞かせようと意図したわけでもない。

 

 

 

それでも、そのささやきは、耳に届いてしまったようだ。

 

 

 

「なにがだ? まさか私に買わせようって魂胆じゃないだろうな?」

 

 

 

声の方を見ると、リサがこちらを見上げている。

 

片眉を上げて、にやりとした笑み。軽口めいた調子だが、そこに悪意はない。

 

 

 

「違う。金の使い方を間違えたと思っただけだ」

 

 

 

俺がそう告げると、リサは目を伏せ、「ふーん」と鼻を鳴らした。

 

それ以上は言葉を続けず、また前を向いて歩き出す。

 

 

 

照り返しの強い石畳に、熱がじっとりと立ち込めている。

 

風はなく、空気は鈍く、まとわりつくように重い。

 

しばしの沈黙が、暑気の中にとけていく。

 

 

 

そして、リサがぽつりとを開いた。

 

 

 

「ミズキ様が昨日言ってただろ。ネフェリウス家との縁を得たと思えばいいってさ」

 

 

 

声は平坦だったが、その裏に、少しばかりの照れが感じられた。

 

 

 

「私は今回の護衛の報酬は、ミズキ様と知り合えたことが一番の報酬だと思ってる」

 

 

 

その口ぶりはあくまで軽妙で、冗談めいた響きもある。

 

けれど、その言葉の端々には、確かな真心が宿っていた。

 

 

 

胸の内が熱を帯びる。

 

 

 

それが、この蒸し暑さのせいなのか。

 

あるいは、彼女のあの真っすぐすぎる言葉のせいなのか。

 

 

 

その区別は、つかない。

 

 

 

ただ一つはっきりしているのは、

 

あんな風に、迷いなく人を想う言葉を聞いたのは、いつ以来だったかということだ。

 

心が静かに波立ち、熱がこみ上げる。

 

 

 

こいつ、いいやつだなぁ。

 

 

 

リサは、それ以上何も言わない。

 

ただ、いつものように前を向き、石畳を踏みしめて歩いていく。

 

 

 

俺も、黙ってその背を追った。

 

頭の中ではいろんな思考が巡っていたが、口に出せるものは何一つなかった。

 

 

 

エリルは状況を理解しきれていないのだろう。

 

俺とリサの間をきょろきょろと見比べ、戸惑いながらも数歩後ろをついてくる。

 

その小さな足音すら、今は妙に静かに感じられた。

 

 

 

やがて、通りの雰囲気がわずかに変わる。

 

耳に届く音が、日常の喧騒から、どこか金属的なものに変わっていた。

 

カン、カン、と鉄を打つ音。風に揺れる看板が、わずかに軋んでいる。

 

 

 

「着いたぜ」

 

 

 

リサが立ち止まり、示した先にあったのは、無骨な造りの石造りの建物。

 

鉄枠の看板には『鋼環機構』と刻まれており、強い陽射しを反射して鈍く光っている。

 

 

 

重厚な扉には細かな魔紋が刻まれ、ただの店舗とは一線を画す雰囲気を放っている。

 

装飾は最小限だが、構えだけで品質を語っているようだった。

 

 

 

「普段私が使っている魔道具もここで作られたものだ」

 

 

 

その声には、どこか誇らしげな響きがあった。

 

 

 

「へえ……」と、エリルが小さくつぶやく。

 

目を丸くしたまま、石造りの建物を見上げている。

 

その顔には、素直な驚きと興味が浮かんでいた。

 

 

 

リサはそんな彼女の様子を横目に見やりながら、肩を軽くすくめるようにして言った。

 

 

 

「信用にたる店だぜ。道具で命が左右されるような現場でもな」

 

 

 

淡々とした口ぶりだが、言葉の奥には実感がこもっていた。

 

リサが命を預ける道具、その重みは、冒険者ではない俺には計り知れない。

 

ただ、信用できる店だということは理解できた。

 

 

 

俺は頷き、重厚な石造りの扉を前に立ち止まる。

 

先に立ったエリルが、両手で戸口を押し開けた。

 

 

 

ぎ、と鈍い音を立てて開く扉の先から、鉄と油の匂いが鼻をかすめる。

 

一歩、足を踏み入れた瞬間、その匂いと空気が、場の空気を明確に変える。

 

 

 

店内は無骨で、機能性だけを追求した空間。

 

棚には魔石や、見慣れぬ器具の数々が並び、どれも使用感と手入れの痕跡が見て取れる。

 

 

 

カウンターの奥――鋼材の山と工具の陰から、視線を感じた。

 

 

 

無言のまま立つのは、中年の女。

 

作業着の袖を肘までまくり、煤と油の染み付いた前掛けを身につけている。

 

その灰色の瞳は、まるで機械のように冷静で、俺たちを一瞥しただけで把握しようとしてくるようだった。

 

 

 

「……いらっしゃい」

 

低く抑えた声が、空気を切るように響いた。

 

 

 

それだけの言葉に、店主としての矜持と職人気質がにじむ。

 

飾り気のない一言だが、それゆえに妙な圧がある。

 

 

 

リサが前に出て、軽く顎を引きながら言った。

 

 

 

「魔冷箱を探してる。贈り物に使いたいんだとさ」

 

 

 

俺に視線を促すように肩をすくめる。

 

 

 

「そこまで大きくなくていい。置いてるか?」

 

 

 

俺の言葉に、店主の視線がじっとこちらに向けられる。

 

まるで心の中まで覗かれているような静かな圧迫感を感じる。

 

俺の身なりや立ち振る舞いから立場や人柄を判断し、最適な魔道具を導き出そうとしているのだろう。

 

 

 

やがて、店主はほんの僅かに頷き、無言のままカウンターの奥へと身を翻した。

 

重たい革靴が床を鳴らし、棚の奥へと向かっていく。

 

 

 

無駄な言葉は交わさない――それが、この店の流儀なのだろう。

 

 

 

応対は丁寧でもなく、威圧的というわけでもない。

 

ただ必要なことだけを見極め、必要な行動だけを取る。

 

職人らしいといえば聞こえはいいが、客としては、なかなかに気疲れする。

 

 

 

俺は、もう少し愛想のある店のほうが性に合っている。

 

適度に会話があって、笑顔もあって、多少余計なことを言われたとしても、その方が気が楽だ。

 

 

 

なぜ、こちらが金を払う立場でありながら、こんなにも慎重に息を潜めるような心地にならなければならないのか。

 

一瞬、そんな理不尽な思いが頭をよぎる。

 

 

 

「待ってる間、店内見て回らないかい?」

 

 

 

エリルが小さな声で言いながら、興味津々といった様子で周囲を見渡している。

 

目はきらきらと輝き、目の前の世界に夢中だ。

 

 

 

「ああ、そうだな」

 

 

 

俺も一歩、カウンターを離れて展示棚の方へと足を向ける。

 

 

 

店内に並べられた魔装具の数々は、どれも一点物に近い造りをしている。

 

粗削りな金属をそのまま使ったような、無骨で実用性に徹した装備があれば、煌びやかな装飾が施された宝石付きの華美な道具もある。

 

 

 

用途や価格帯の幅は広く、冒険者はもちろん、貴族や裕福な市民までもが顧客なのだと察せられる。

 

まさに、階級の壁を超えて信頼されている店というわけだ。

 

 

 

「いろいろあるな」

 

  

 

展示棚に並ぶ魔道具の一つひとつに、確かな手仕事の痕跡がある。

 

精密に刻まれた魔紋、素材の組み合わせ、そして余計な装飾を排した構造。

 

 

 

エリルは目を輝かせながら、小さな魔導灯の前で足を止めていた。

 

手のひらに収まるほどのサイズで、触れると淡く光が灯る仕組みのようだ。

 

 

 

「これは、すごい……。小さいのに、ちゃんと光るんだね……」

 

 

 

その声音には素直な驚きと喜びがにじんでいる。

 

彼女にとって魔道具は、まだ夢の世界の延長にあるのだろう。

 

触れるたびに新しい扉が開くような、そんな表情をしていた。

 

 

 

これは、屋敷にもある品だ。

 

使用人が夜の見回りに使う、ごくありふれた常夜灯。

 

魔道具の中では廉価な部類で、貴族の暮らしの中に溶け込んでいる。

 

だが、一般市民にとっては、魔装具は高価で、手の届きづらい代物だ。

 

日常に入り込むには、あまりに高尚で、あまりに遠い

 

 

 

「野営用の常夜灯だな」

 

 

 

背後から、リサが何気なく声をかけてくる。

 

軽い口調だが、その目は灯の奥を見つめていた。

 

 

 

「魔力効率がいいんだ。あれで五日はもつ。軽くて壊れにくいし、夜の野営じゃ欠かせない。たいていの冒険者は、多少無理してでも手に入れる。」

 

 

 

語る彼女の声音は淡々としているが、その一言一言には、現場で実際に使ってきた者ならではの確かな実感がにじんでいる。

 

彼女は、すでにそれを“選ぶ側”ではなく、“使う側”として語っている。

 

流石は、高ランクの冒険者だな。

 

 

 

店内を一通り歩き回り、展示されている商品はほぼ見尽くした。

 

どれも精巧な造りではあるが、前世の機械技術と比べれば、同等か、あるいはそれ以下のものばかりだ。

 

冷却、照明、火種――便利だが、どこか「補助」にとどまっている印象を受ける。

 

直接的な攻撃に使えるような魔道具は、ないのだろうか?

 

 

 

「魔法を打ち出すような物はないのか?」

 

 

 

思わず口にしてしまった問いに、リサはじっと俺の顔を見つめ、眉をひそめる。

 

 

 

「ん? どういうことだ?」

 

 

 

その声には多少の戸惑いも混じっていた。

 

 

 

「火の玉を撃ったり、土の塊をぶつけたり――そういう、攻撃用の魔道具だ」

 

 

 

俺の説明に、リサはしばらく黙り込んだ。

 

やがて小さく鼻を鳴らし、吐き捨てるように答えた。

 

 

 

「そんなもん、あるわけないだろ。魔道具の出力じゃ大した威力にならねぇよ」

 

 

 

彼女の言葉には経験に裏打ちされた確かな説得力があった。

 

魔道具はあくまで補助であり、本当の攻撃力は魔法使い自身の魔力の強さで決まるのだということか。

 

 

 

前世で見てきた魔道具のイメージに、つい引っ張られすぎていたのかもしれない。

 

直接的な魔法攻撃を放つような派手な装置を期待していた自分に、少し呆れつつも、俺が魔法を使えるチャンスが少なくなるという事実に、どこか小さなショックを受けている。

 

 

 

「あ、戻ってきたよ」

 

 

 

エリルの言葉を聞き、振り返ると、店主がカウンターに戻ってきていた。

 

その無言のまなざしと動作は、まるで機械のように無駄がない。

 

彼女の前には、片手で持てるほどの箱が三つ、並べられていた。

 

 

 

目の前に並べられた魔道具たちは、いずれも地味な外見をしている。

 

金属と木材を組み合わせた質素な枠に、控えめな魔紋が刻まれているだけ。

 

装飾はほとんどなく、輝きもない。けれど、その落ち着いた風格は信頼感を漂わせていた。

 

 

 

騎士の褒美として選ぶなら、見映えよりも実用性を重視したいと思っていた。

 

そういう意味では、ありがたい選択肢だ。

 

 

 

「サイズ、重さ、冷却の持続時間、全部違う。用途に応じて選ぶといい」

 

 

 

店主が短く説明する。それを聞いたリサが一歩前に出て、無造作に箱のひとつへ手を伸ばした。

 

 

 

「……これ、旧式だけど、実働時間が長い。最近じゃ、あまり見かけない型だな」

 

 

 

その声には、どこか懐かしむような響きがあった。

 

 

 

「新型は軽量化されてるが、そのぶん持続時間は落ちる。遠出にはあまり向かない」

 

 

 

店主の説明は簡潔だが的確だった。

 

 

 

新型旧型ともに利点があるのか。軽さを取るか、持続時間を取るか。

 

重いと持ち運びは不便だが、屋敷に置いて帰るにしても、個人用となれば必要なときに持ち出すのは自分だ。

 

冷たい水を飲みたいのなら、その都度運ぶことになる。

 

 

 

「リサは旧型と新型、どちらがいいと思う?」

 

 

 

騎士と冒険者、どちらも体を鍛え戦闘を生業としている。

 

だからこそ、彼女の判断を聞いておきたかった。

 

 

 

「私は旧型だな。さっき店主が言ったように遠出、いわゆる遠征を行ったときに食品が腐らなくなるからな」

 

 

 

なるほど、食品か。

 

 

 

冷たい水のことばかり考えていたせいで、その視点は抜けていた。

 

言われてみれば、これは簡易の冷蔵箱。保存機能を活かすなら、長時間の稼働は確かに重要だ。

 

 

 

「……新型は、長くて一日半。旧型は、三日は確実に稼働する」

 

 

 

リサの意見に店主が正確な情報を追加する。

 

 

 

三日も保つのか。それなら旅先でも十分使えるだろう。

 

ただ、我が家の騎士たちは、遠征なんて行っているのだろうか。

 

日々、どんな任務をこなしているのかも分からない。

 

 

 

「魔石に魔力を込めたら稼働時間は伸ばせるだろ?」

 

 

 

ふと、そんな疑問が口をついた。

 

単純な理屈だ。魔力を源として動いているなら、途中で補充すればいい。

 

騎士であれば、魔力の基礎くらいは扱えるだろうしな。

 

それなら、軽い新型のほうがいいに決まっている。

 

 

 

「ばか、戦場で魔力の補充なんてできるかよ」

 

 

 

リサが即座に言い放った。

 

困った子を見るような態度で説明してくる。

 

 

 

「命を落とすぜ。体内から魔力が減ったら、眠気で気絶するんだ。意識が飛んだ瞬間、斬られて終わりだ」

 

 

 

そうだったのか。

 

俺の中にあった「魔力」という言葉の響きは、便利な動力源のように感じていた。

 

大きなリスクもあるようだな。聞いておいてよかった。

 

 

 

「決めた。旧型を買おう」

 

 

 

「えらい選択だと思うぜ」

 

 

 

リサがにやりと笑いながら近づいてきて、俺の頭を軽くはたいた。

 

それから、優しく撫でるように手を滑らせてくる。

 

 

 

「いやー、貴族様はお金持ちだねぇ」

 

 

 

エリルがぽつりと呟いた。

 

視線は、旧型の魔道具に釘付けになっている。

 

羨望というより、遠い夢を見ているような眼差しだ。

 

 

 

俺が払おうとしているこの代金は、結局のところ自分で稼いだものじゃないので、どこか気まずい。

 

 

 

「あのなぁ、お前は働いてる日数が少なすぎんだよ。毎日働いたらすぐ買えるだろ」

 

 

 

リサが肩をすくめて茶々を入れる。

 

 

 

「エリル、仕事は何をしている?」

 

 

 

咄嗟に出た問いに、自分でも少しだけ戸惑った。

 

人の職業を尋ねるのは、時に無遠慮なこともある。

 

踏み込みすぎてしまっただろうか。

 

 

 

「私は薬を作ってギルドに卸してるよ。正式な資格も持っているのだよ」

 

 

 

俺の心配は杞憂に終わり、気分を害した様子も見せず、むしろ得意げな顔で胸を張った。

 

エリルは体格が小さいせいか、子供のような可愛げがある。

 

帽子をそっと取って、彼女のふわりとした髪をひと撫でしてやる。

 

 

 

「えらいな」

 

 

 

「ぅおぉぉ」

 

 

 

頭を撫でてやると変な声で鳴きだした。

 

こいつ、たまに俺のこと変人扱いするが、自分も大概なことに気づいたほうがいい。

 

隣では、リサが笑いを堪えている。

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