「そんな大層なものじゃないと思うけど……」
「そもそも部としての申請がまだ通っていないだろう」
「うるさいうるさい!――コホン。真相探究 "部" のご活躍、決してお見逃しなく!」
齢百を優に超えた、伝統ある某高校。そこには、三棟と呼ばれる建物が存在する。
コンクリートの壁はひび割れ、一面に蔦が這い回る。すでに人々の記憶からは消えてしまったようで、今ここに訪れる人といったら肝試しに来るやんちゃな高校生か……私、いや私達くらいだ。
「いち……に……さん……よん……ご!」
五階に続く唯一の階段を上ってまず見つかる正面の扉。他の扉と何ら変わりない、知らなかったら開けようとすら思わないだろうそれは私達にとって、秘密の活動をするのにうってつけだった。
「もう、遅いよ!」
……遅刻してしまったようだ。
「ごめんごめん。出ようとしたらお母さんに『遊ぶ前に宿題を終わらせなさい!』って言われちゃってさ。でも、たった15分で終わらせたんだよ?すごいでしょ!」
「君が日頃宿題を提出していれば、そもそも何も言われなかっただろうな。その速さが普段からあれば良いんだが」
「ぐっ……。いや、しょうがないよ、めんどくさいんだから!そんなことより、早く今日の活動を始めよう。だだでさえ遅れてるんだし!」
「それはマキちゃんが遅れて来たからでしょ」
「はい!今日の『真相探究部』活動開始を宣言します!」
そう、普通なら人っ子一人いないような寂れた部屋を拠点に、この街に潜む様々な真実を探り出す。それが、我らが真相探究部!……実に良いネーミングだね。
「『真相探究部』って名前、どうにかならないのかな……」
「当の本人が気に入っているからな、意地でも変えないだろう。そもそも部活として認められていないのに部を名乗っている時点で間違っている」
「はいそこ、私語しない!」
あそこで何やら文句を垂れている二人はレイとリク。誇り高き真相探究部……もう一度言おう、『誇り高き』真相探究部のメンバーだ。あんなことを言ってはいるが、実は照れ隠しであることを私は知っている。好きなコにイジワルしちゃうというアレだ。
「いや、本当に恥ずかしいんだけど……」
……。
「気を取り直して、次の解き明かす謎を考えよう。そして早く部活に昇進しよう!」
そう、これまでに数多の謎を解き明かしてきた真相探究部だが、悲しいことにまだ同好会の身を抜け出せないでいる。なぜ認められないのだろうか……。
「理由は明らかだな。部にするには胡散臭すぎる」
「はーい、聞こえませーん。さあ、何か良い謎、持ってる人ー」
リクが手を挙げる。
「はい、さっきから余計な事ばっかり言うリク君」
「……学校近くの森で夜になると叫び声がするという話がある」
「ふむふむ、森・夜・叫び声っと」
壁掛けのホワイトボードにメモしていく。こんな感じで進めるのが真相探究部スタイルだ。
「森かぁ……夜の森はあんまり行きたくないかも……」
「そっか、レイは虫苦手だもんねぇ」
「うん。あの見た目が……」
想像してしまったのか、顔が青くなっている。
「すまない、無配慮だった」
「じゃあ他!」
森に赤でバツをつける。真相探究部は民主主義を採用しているからね。
「代わりと言ってはなんだけど。最近、高校生の間で流行ってる噂があるの。駅の近くに大きな公園があるでしょ。夜になると、そこで……出るんだって」
「出るって、何が?お化け?」
「それがね、わからないの。色んな人に聞いてみたんだけど、何が出るかはみんな知らないらしくて」
申し訳無さそうにするレイ。
「知らなかったな、その噂。でも面白そうだね!何もわからないのが逆に良い」
公園、夜、そして謎の『ナニカ』。真相探究部の血が疼いてきた……!
「それに、そんなに噂になってるなら、もし私達が解決できれば先生も実力を認めるはず!」
おめでとう、私達!おめでとう、真相探究部!
「どうやら決まったようだな」
「うん。ズバリ、真相探究部が今回解き明かすのは『夜の公園に現れる謎のナニカ』!」
ここで決めポーズ!……ふっ、完璧にキマった。
「一度、昼に下見に行くべきだろう」
「私はもう少し噂についてみんなに聞いてみようかな」
「頼む」
……え、まさかの無視!?
「ちょっとちょっと、私抜きで話を進めないで〜!」
「さあ、時刻は午後六時三十分、やってきました夜の公園。……どうやら公園内には誰も居ないようです」
明かりは沈みゆく太陽と空に浮かぶ満月のみ、私達は例の公園にやってきた。あ、もちろん小声だよ!真相探究部はご近所付き合いを大切にしております。
「まだどちらかといえば夕方だろう」
「いいの!どうせすぐ暗くなるんだから。何時くらいに出るのかもわからない以上、夜の始まりから終わりまで、徹底的に見張るんだよ!ああ、私ってば天才、ジーニアス!みんなもそう思うよね?」
「誰に向かって言ってるんだ」
リクの視線が冷たい。
「ちょっとテンションが上がっちゃっただけ!つれないな〜リクは!」
いつも通りの事ではあるけどさ!
「マキちゃん、近所迷惑だよ」
はっ、つい声が大きくなってしまった。さっき気にしたばかりだったのになー。これが人間の悲しき定めか……。
「無駄なことを考える暇があったら足を動かすと良い」
……口に出てたか。だけど、リクの言うことにも一理ある。足で稼ぐのが真相探究部スタイルだ!
「よし、いざ彼の地へ。レッツゴー!」
「だから近所迷惑だって、マキちゃん!」
「あ、ごめん」
気をつけます。ボリュームダウンを心に誓ってリュックの紐を握りしめる。
「……なあ、そのリュック、いつも背負っているが一体何を入れたらそんなに大きくなるんだ?」
「おっ、よくぞ聞いてくれた!この中には真相探究部の七つ道具が入ってるのです!」
「それ前も言ってたけど、結局何が入ってるの?」
「もちろん秘密だよ。いざといときに使うものだからね」
いざというときには……フフフ。
「僕達にまで秘密にする意味がわからないな」
うっ、痛いところを突かれた。……こんな時は──
「はい、この話はおーわり!リク、情報の整理よろしく」
誤魔化すに限る!
「……公園には入り口が一つ。そこ以外は植え込みで覆われていて抜けることはできない。また、植え込みのせいで外から中の様子を見ることは難しい」
昼の下見で、いくつかこの公園の変わった部分を感じることができた。今リクが言ってくれたこともそうだし、木は入り口近くに多く植えられている。電灯は木々の間に一本あるだけ。それになにより……
「遊具が一つしか無いってどういうこと?しかもめちゃくちゃ大きなヤツをど真ん中にポツンと。ありえないでしょ」
設計した人、頭悪いんじゃないの?
「この公園、遊んでも楽しくなさそう……」
「だよね。私が親だったら、こんな公園へ大切な我が子を遊びになんか行かせないと思う」
事実、昼に行ったときにも子供の姿は全くなかった。親子連れくらい居てもいいと思うんだけど……それすら居ないとなると、噂が広がっているのかな。
「明らかに敷地の無駄遣いだが……。この公園が取り壊されないのはなぜなんだろうな」
そう、広いのだ、この公園。広さだけで言えばちょっとした野球をすることもできるくらい。もっとも、中心の遊具のせいで実際には恐ろしくやり辛い気がするけど。
「あの遊具が大きすぎて撤去できないのかもね。噂が嘘だったら、それを謎として調査しようか
な」
無駄に生やされた木々の間を抜ける。電灯はまだついていないようだ。
「虫が出ませんように虫が出ませんように」
「大丈夫。明るいから!……行きは」
「……もう帰ろうかな」
「余計なことを言って怖がらせるな。早く行くぞ」
「はーい」
遊具がある公園の中心に近づいてみる。街の明るさが遮られるせいか時間の割には結構暗く、距離感がつかめない。
「なんだか昼に見たときより大きく見えるね」
「暗さで輪郭がぼやけるからだろう。まあ、どれだけ大きく作られていても、使用者が居ないのでは意味がない」
「なんか、不気味かも……」
滑り台や階段、垂れ下がった綱などがついた、機能だけ見たら一般的な大型遊具。ただ一つ特別なところがあるとするなら、その大きさ。
学校の教室二つぶんくらいの幅で、高さも6、7メートルほど。上から落ちたら軽い怪我では済まされないであろうそのサイズに旧時代の産物臭が漂っている。そのわりには結構キレイだけど。
「噂通りの『ナニカ』は今のところ居ないかな」
辺りは静まり返っており、虫の声すら聞こえない。
「とりあえず……登ってみる?」
「え!危ないよ。ただでさえ暗いんだし……もし落ちたらどうなるか」
「でも、高いところから見たほうがその『ナニカ』も見つかると思うし」
「僕もマキに賛成だな。見通しの悪い低所よりも得られるものは多いはずだ」
「リクくんまで……」
「それじゃ、決定!目指すは頂上。一番早くついた人が勝ちだよ!」
「気をつけて、マキちゃん!」
階段や綱を使って駆け上る。ふっ、誰も私の速さには追いつけまい。やっぱり獲るなら一番だよね!というわけで
「とうちゃーく!はい、私の勝──げ!」
なんと、そこに居たのは……。
「ずいぶん……おそかった……な……」
「リク!?」
そうだ、リクはああ見えてとんでもなく負けず嫌いなんだった!
「くやし〜!」
「わ、ちょっとマキちゃん、揺らさないで!」
レイも追いついたようだ。
「ごめんごめん」
今は二位の座に甘んじるとしよう。
「いやーだいぶ暗くなっちゃったね〜」
空にはもう満月と星々しかなく、街の輝きがやけに目立つ。
「あれが駅で、あれは学校……お!あれ、リクの家じゃない?」
なんだか、街の新しい一面を見つけた気分。
「目的を忘れるな。噂を確かめに来たんだぞ」
「あ、そうだった」
目を下に向ける。……それにしても本当に高いな、ここ。落ちたらきっと……
「マキちゃん、なんかイヤなこと考えてない?」
「まさか。さあ、噂の『ナニカ』を見つけよう!」
「集中してくれるなら良いんだけど」
公園内を見下ろす…………だめだ。なんにも居ない。
「こっちは何も居ないかなぁ。そっちはどう?」
「こちら側も特に異常はない」
「うーん、やっぱりなんにもないなぁ。この公園」
先程より遥かに高い位置から見下ろす公園は、なんだか少し狭く見えた。……それでも馬鹿みたいに広いけど。
「レイ、そっちはどう?」
こうなったら、出てくるまで何時間でも、何日でも粘ってやるからな!私を本気にさせたんだ。覚
悟しておけ!
「……」
「レイー?まさか、寝ちゃった?」
もう、しょうがないな〜レイは!――違う、様子が変だ。身動き一つしない。いや、震えてる?一体何が──
「あれ、は」
今のは誰が発した言葉だっただろうか。その一瞬、思考は完全に停止した。レイが見ていた入口の方、木々の中に一本だけ立てられた電灯の明かりに照らされて、『ナニカ』がそこにいた。
「少なくともヒトじゃないな」
黒とも茶ともつかない暗い色をした『ナニカ』は、一旦縮んだかと思えば膨らみ、伸び、絶えず不規則な変形を繰り返す。
更に、夜の暗さ、距離では説明がつかない程に『ナニカ』の輪郭は揺れ蠢き、私達の理解を拒んでいた。
「……私の目、おかしくないよね」
『ナニカ』から目を逸らせない。
「恐らく同じものを見ていると思うが」
良かった。ここに居るのは私一人じゃない。そんな当たり前の事実に勇気が湧いてくる。
「あれ、なんだと思う?」
「……距離がありすぎて得られる情報が色と動きくらいしかない。特定するには些か足りないな」
話の最中も『ナニカ』はその場に形を変えながらも佇んでいた。
「そういえば、レイは?」
「とっくのとうに気絶している。脳が恐怖に耐えられなかったんだろう」
「リクはやけに冷静だね」
「それが僕の役目だからな」
……こいつ、感情持ってる?もしかしてロボットなんじゃないか……。まあ、それはさておき──
「どうする?」
「それはこっちの台詞だな。『ナニカ』を見つけた後、どうするつもりだったんだ?話し合いでは解決できそうになかったと思うが」
えーと、どうするつもりだったんだっけ?…………そうだ、このためにアレを持ってきたんだ!
「こんな時のために用意した七つ道具の内の一つ……じゃん!」
「それは……懐中電灯か?」
フフフ……甘く見られたもんだ。
「これはただの懐中電灯じゃあないよ。なんと、五十メートル先までピッカリ照らせるチョ〜すごいやつ!」
「……ソレハスゴイナ」
うわ、メチャクチャ棒読みだ……。
「まあ、リクくんにはこれの賢い使い方がわからないんでしょうね。いやあ、追いつけなかったか〜私の賢さに!」
天才すぎる私が悪いね!これは。
「ほう……。それなら聞かせてもらおうじゃないか。その『賢い』使い方とやらを」
やべ、なんか怒らせたかも。でも話は続ける!
「これで、あいつの目を潰す!そしてついでに正体も見破る!……どうよ、この賢さ」
ああ、我ながらなんてシンプル、かつスマートな使用!惚れ惚れするね。
「……」
どうやらあまりのスマートさに声も出せないらしい。なんだか視線が冷ややかな気もするけど。
「……それ、本当に言ってるのか?」
「当たり前!これより良い使い方があったら教えてほしいくらいだね」
あれ?寒くなってきたな……。天気予報では今夜は温かい夜になるって言ってたと思うんだけど。
「ここから入り口まで大体五十メートル。その懐中電灯で仮に目を潰せたとしても、僕だったらその場で目を覆って君のところまで行くだろうな。奴に敵意があるかはわからないが、そんな鬱陶しいヤツがいたら向かってくるに決まってる」
…………。
「……つまり、どういうこと?」
何が言いたいのだろうか。
「……馬鹿みたいな使い方だってことだ」
「誰が馬鹿だ!誰が!」
いくらリクといえど許せん。こうなったら──
「私の賢さを、この場で証明するまでよ!」
スイッチON!喰らえ、目潰しビーム!
「うわっ、思ったより眩し〜」
「……馬鹿とは言ったが、ここまでだとは」
こちらの光が届いた途端、『ナニカ』は一際大きく体をねじらせる。
「お!効いてるんじゃない?ほら、やっぱり私って頭良い!」
「……どうやら怒らせてしまったようだが」
「へ?」
『ナニカ』の体が膨れ上がり、それと同時に浮き上がる。……まじ?
「飛んでる?ねえ、あいつ飛んでるよ!」
「飛ぶのは予想外だな」
「なんでこんな時もそんなに冷静で居られるの!」
やばいやばいやばい!飛び降りる?いやいや、こんなとこから飛んだら大惨事まったなしだ。
……落ち着け私!えーと、まず、今できるのは──
「万事休すだな」
コイツ、マジデ!
「あっあっごめんなさい、悪いのは全部こっちのリクってやつなんです!私はただ指示されてやっただけなんです!なのでどうか、見逃してください!」
「おい」
『ナニカ』はどんどん近づいてくる。えーと、こんな時に使える七つ道具は……ちくしょ〜、今は憎むぞ銃刀法!
「あー、もうだめだー!私はここで死ぬんだー!」
夜の静寂、聞こえるものといったら、木霊した私の叫びと羽音の数々。…………ん?羽音?
「ねえリク」
「なんだ」
「あいつに羽ってついてたっけ」
「少なくとも羽らしきものは見当たらないな。それに、この音はそういう翼の音じゃないぞ。もっと小さい翅の音だ」
「どこから聞こえる?」
「正面から。正確に言うと『アレ』からだ」
羽音、いや翅音が近づいてくる。それと一緒に、今まではボヤけていた『ナニカ』の姿がだんだんはっきり見えるようになってきた。
「ねえリク、もう一個聞いても良い?」
「なんだ」
「こっちに向かってきてる『アレ』って、もしかして……」
「僕には蛾の大群に見えるな。百、いや、百二十くらいか。……恐らく、あれはヒトリガの一種だな。街灯によく群れているアレだ。ちなみに漢字で書くと──」
「そういうことは聞いてない!」
さっきとは別の恐怖心が湧き上がってくる。
「どうにかならないの!」
「ふむ、かなり近くまで来てしまっている。今から躱すのは不可能だろう」
「そうですか!」
しょうがない、ここは心を決めて耐えよう。幸い、虫が苦手なレイは気絶してるし──
「うーん……わたしはなにを」
WOW, BAD TIMING!
「レイ、悪いことは言わない!目を閉じときな!」
「耳も塞いておくことを推奨する」
「なに、急に。……なんか変な音しない?」
間に合わない!
「わっ、何かが顔に!なにこれ……え?」
──瞬間、視界が黒一色で覆われた。……いや、正確にはいろいろ見えるものはあるんだけど、ここではあえて描写しません。
「っ──!」
公園中にレイの悲鳴が響き渡った。
「いやー、大変な事件だったね」
「本当にな。軽率な行動は控えてほしいものだ」
『アレ』が去った後、私達は再び気絶したレイを抱えて帰路についた。……その最中、いつもなら心強いはずの街灯のあかりが、なんだか恐ろしく見えたのはここだけの話。
「ごめんって。本当に反省してます!懐中電灯も『アレ』のせいでオシャカになっちゃったし」
結構高かったのになぁ……。
「ねえ、『アレ』ってなに?……やっぱり昨日の夜、何かあったんじゃ──」
「いやいや!なんにもなかったよ、ホントに。その……『ナニカ』は出なかったから、デマだってことで帰ったんだよ!レイは見張ってるうちに寝ちゃったから、覚えてないんでしょ!ね、リク!」
「結局、噂は噂だったということだ」
「それなら良いけど……」
レイの記憶がさっぱり消えていることは唯一の幸運だと言えるだろう。第一声が「あれ、私寝てた?」だったときは、二人で胸を撫で下ろしたものだ。
夜の間の出来事を思い出そうとするレイを必死で止めて、なんとかカバーストーリーに納得してもらい、事なきを得ることができた。
「なにはともあれ、真相探究部は今回も謎をバシッと解決!まだまだ歩みを止めない真相探究部の活躍に、皆さんご期待よろしくお願いします!」
「だから誰に向かって言ってるんだ」
「やっぱり真相探究部って名前、変えようよ……」
ああもう!締まらないなぁ……。
それでは、また次の謎でお会いしましょう。さようなら〜!
P.S.
結局、部には昇格しませんでした。チクショー!
次の謎で、名実共に真相探究部へ絶対昇ってやるからな!!!