なりそこないと、壊れた生徒   作:クレナイハルハ

13 / 41
熱い意志、固い決意

 

あれから2日、クランバトル倶楽部には銭湯が建築された。

まぁ、アニメや漫画のように偶然自分の土地に温泉の源泉があった、なんて事はなく見つからなかった為に、銭湯を作って貰う形となったが。

まぁ、現実はそう簡単にいかないものだ。

今さらだが、キヴォトスのゲヘナにおいて風呂の平均温度は70℃となっておりかなり高い。

そのため熱すぎるお湯になっていないか心配していたが、流石は温泉開発部なのか丁度良い自分でも入れる温度に調節されている。

そうして新たに増えた施設により、クランバトルだけでなく銭湯を目的として訪れる人も増え更に収入を増やすことに成功した。

レイサの傷も無事回復し、今では仕事終わりに銭湯での入浴を楽しみに過ごしている。

温泉開発部はというと『銭湯も作った!これで契約は完了だな!さらばだマナカケン……じゃなくて、クライアント!新たな温泉が私達をまっている!いくぞ諸君!暁の水平線に勝利を……じゃなくて温泉を刻むのだ!!はーっはっはっは!』とブラックマーケットを出ていった……ブラックマーケットの出口に風紀委員会とオプションでヒナまで待機している事をしらずに。

あれから再びホシノが襲撃してくることを警戒していたが、今の所はそのような状況はない。

取りあえず、ホシノの襲撃はないと考えて良いだろう、問題はエデン条約が来週に迫っていることだ。

あれから先生側からのメールの返事は来ない、恐らくは補習授業部やミカへの対応に力をいれてくれた………のなら良いんだけど。

そう思いながら、シャワーで体を流し個人的に丁度良い温度の薬風呂に浸かり濡れたタオルを頭にのせる。

 

「それにしても、ここからどうなるか……」

 

夕方、暗い時間帯だからか浴場のぼんやりてした灯りに照らされ何処か、すこし神秘的で落ち着くような静かな浴場を眺めつつゆっくりと湯船に体全体を浸からせる。

じんわりと体が温まるのを感じながら、近くのいい感じに枕に出来そうな段差に頭を預けて天井を向き、目を閉じて頭に乗せていたタオルを目元に移動させる。すると、ちょっとしたホットなアイマスク的な感じになる。

これが気持ち良くて、風呂に入るときに必ず俺がやってしまうことだ。

 

「ふぅ……」

 

それにしても、メインストーリー3章のエデン条約、このストーリーではかなり多くの生徒が死ぬ可能性の中にいる。

まずティーパーティーホスト、百合園セイア、聖園ミカ、桐藤ナギサこの3名だ。

次にアリウススクワッドの4人、特にサオリとアツコは注意が必要だ。

他にも、ユスティナとの戦闘を行う生徒達も危険があるし下手したら死ぬ可能性だって完全にないとは言えない。

もし、トリニティでの戦闘で多くの生徒が巻き込まれるとするなら恐らくレイサは動くだろう。

最初に彼女を召喚したとき、彼女は学校を辞めたと話していたしトリニティへと行った日に走って帰ってきたのを覚えている。

彼女はエデン条約をどう思っているのだろう?

そもそもどうして彼女は学校を辞めた?

本人に聞かない限りは分からない、もし彼女たちにエデン条約に対して何かをする気があるなら俺はどうする?

彼女たちと共にいく?"先生"のような大人に成りきれない、シッテムの箱のような生徒を補助する"何か"を持っているわけでもない俺が?

戦闘能力のない、1発の銃弾で重傷になるようなお荷物で役立たずな俺が行って、彼女たちの邪魔になるだけだ。

 

「俺は……本当に何もないな……はは」

 

なんで、こんな俺がパンドラの箱を持っていたんだ?誰が俺なんかの先生なんて望むんだよ、誰が俺のような大人に成りきれない中途半端を必要とする。

子どもでいたいけど、気がつけばもう大人という年齢。

早く大人に成りたいと思っていた幼い頃の思いを裏切るように、否定するように歳を重ねるにつれて子どもでいたいと、大人に成りたくないと願っていた。

気がつけば、子どもに戻りたいと過去に縋っていた。

不確定な未来を想定して動くのが怖くて、安定がほしくて、ずっと変わらない毎日が楽しい冒険だった、子どもの頃の変わらない日常が良くて。

あの頃は自分が中心に世界が回っていると、本気で思っていた。

目の前の世界は自分のためにあり、主人公は自分だって思っていた。

でも、そんな考えは間違っていると気づいた。

世界は自分のために存在しない、何もない俺なんかは主人公に成れなくて才能がある奴が主人公だと悟った。

バスケが上手くて県大会でも大活躍したアイツ、勉強が出来ていつもテストで高得点を取ってたアイツ、空手の県大会で優勝したアイツ。

悔しくて、悲しくて、それでもって言うなんて、動くなんてできなくて、諦めて、逃げて、見て見ぬふりをして来た。

俺はヒーローなんてがらじゃない(なれない)

俺はモブで、主人公は他にいて誰かがやる(才能がなくて、主人公なんて無理だった)

きっと今までも、そしてこれからも俺は見て見ぬふりをし続けるのだろう。

 

『サオリ♡サオリ♡サオリ♡可愛い、結婚しよ♡マジ一生推してくよ♡だから早く紫封筒だせよアロナァっ!!ピックアップなのにすり抜けばっかだそぉ!?ピックアップどこぉ……』

 

『草、流石は夢でガチャして爆死して魘されてた奴』

 

『ほらあと100連で天井だろ?課金しろよ課金ライダー』

 

『課金ライダーって……はは、どうして俺はサオリのピックアップで☆3ミヤコを10連続で当ててんだよ、もういいよラビットは俺の優しさはもうハザードだよヤベーイなんだよ、もう限界なんだよそろそろオーバーフローだよ』

 

『ふっ、無課金勢には縁のない話だな』

 

『手が震えてるぞ自称無課金勢、いくら使ったんだ』

 

『ふっ、大した額ではないさ。三割だ』

 

『なんだ、給料の三割ならまだ──』

 

『貯金のな』

 

『バカじゃねぇの!?』

 

『アイドルマリーをすり抜けさせた、マリーにはそれだけの価値がある、それだけだ』

 

『俺よりバカがいたぜぇwww』

 

『こんの高給取りどもが……課金しまくりやがって』

 

『嫉妬か?飯くらいならいつでも奢ってやるぞー?』

 

『ふ、友と飯を食えるなら寧ろ出して当然だが──』

 

『自分で払うわ!!』

 

はは、懐かしいな。

なんでかなんの才能もない俺なんかと、才能があって主人公な奴らが仲良くしてた。

仲が良いアイツらと俺を繋いでいたのってブルアカだったんだよな。

 

「本当にこんな俺が先生なんて、アイツら知ったら大笑いだろうな……」

 

本当に、なにやってるんだろうな。

俺なんかより、あの二人の方がずっと先生が似合ってるのにさ。

 

ガララと、入り口の引戸が開く音がした。

この時間帯でも残ってるなんて、職員にいただろうか?

ブラックキャット先生なら、この時間まで残って風呂に入ってから帰ることもあるから、恐らくはブラックキャット先生だろうな。

 

「そ、その……失礼します、先生」

 

「は?」

 

背後から聞こえてきた声に驚き、目元においていたタオルを取って見ればそこには何故かスクール水着を着たレイサがいた。

 

「おま!?なんでこっち来た!?男湯だぞここ!」

 

そう叫びながら先程まで乗せていたタオルを腰に巻いて、レイサの方を見ないように背を向けてそう言う。

 

「そ、その……数日間はクランバトル倶楽部で働けませんでしたし、休んで先生に迷惑をかけてしまったので……せめてものお返しと言いますかその、良ければお背中をお流します!」

 

「いらん!?そもそも男湯にどうやって……」

 

「もう閉店後ですし、他にはお客さんは来ませんから大丈夫です?!」

 

此方を見つめるレイサの目が泳いでいるように見えて、言葉が止まる。

こんなに目が泳いでいるのは、男湯に入ってきたから?だが、そうまでして俺の背中を流そうとする理由が分からない。

 

「その、なんだ……何かあったか?どうしても話したいこと……話さないといけないことがあるのか?」

 

「そ、それは!ぅあっくしゅ!」

 

何かを言おうとしたレイサの言葉が、彼女自身の大きなくしゃみで遮られた。

くしゃみの声が、浴場に響き渡る。

流石に風邪引きそうな暗い寒い中で女湯に行かせるよりは、温まってから向かった方が風邪を引く可能性は減るか……。

どうせ閉店後だから男湯に来る奴なんて俺以外いないからな。

 

「……取りあえず寒いだろうし、隣の炭酸風呂入ったらどうだ。風邪引くよりはいいだろ」

 

「すいません……」

 

そういいながらレイサは何故か隣の浴室ではなく、俺が今入っている薬風呂に肩まで浸かると俺の隣へと移動してきた。

 

「おい、俺は隣の炭酸風呂って言ったんだが」

 

「ダメ、ですか?」

 

正直な話、そこまで女性に耐性があるわけではないから、もう少しは距離を取って貰いたい。俺に対して羞恥心や危機感をもう少し持ってくれ頼むから。

 

「はぁ……で、態々男湯にまで入ってきて話したいことはなんだ?」

 

「……」

 

俺の言葉に、レイサは迷っているのか視線を下ろしたまま何も言わなかった。取りあえず、あの本のように近くで、彼女から話すのを今は待つしかないか。

そう思い天井を眺めて、暫くしてレイサは口を開いた。

 

「先生、あと少しで()()()()()()調()()()……ですよね」

 

「そう、だな」

 

エデン条約の調印式は来週に迫っていた。

そう、迫っているだけで俺はまだ何も対策出来てない。

そもそも、エデン条約に介入する必要はないのだ。

俺たちはブラックマーケットに住んでいる、ここにいる限り俺たちは原作に巻き込まれず過ごすことが出来るから。

 

「その、エデン条約の調印式にいきたいんです」

 

「理由、聞いていいか?」

 

「怖いんです、もし……もしこの世界の杏山カズサが私の世界と同じようになったらって」

 

彼女が召喚したときのような姿になっていたのは、エデン条約が関わっている?

確かにエデン条約で彼女は一瞬だが登場した、スズミの通信している仲間として。

 

「だから、守りたいんです。杏山カズサを……トリニティを。もう辞めちゃいましたけどね、アハハ」

 

強い意思の籠った、覚悟をした者の瞳をしたレイサ。そんな彼女の様子に驚いていると、浴場の入り口の引戸が勢い良く開いた。

 

「イブキ、さーんせーい!!」

 

そこには、何故か体にバスタオルを巻いたイブキがいた。

 

「い、イブキちゃん!?」

 

「はぁ!?せめて水着着ろよバカ?!待て待て待て来るなよ!?入ってくるなよ!?来るなよ!?」

 

「むぅ、バカはせんせの方だよ!お風呂はタオルを着けたまま入るのはマナー違反でしょ!」

 

「性別を考えろぉ!!」

 

そういいながらバスタオルを巻いた状態で薬風呂に静かに入ってきたイブキ、さっきの引戸を開けた勢いで飛び込んでくるかと思っていたが、ゆっくり入ってきて安心だ……いや安心できねぇぞ!?

そんなことを考えていると、イブキもまた真剣な様子で話し出した。

 

「せんせ、イブキもエデン条約の調印式いきたい。マコト先輩もイロハ先輩もチアキ先輩もサツキ先輩も……みんなに生きていて欲しい。それに」

 

「それに?」

 

「この世界のイブキに、私のような思いはして欲しくない。あんな思いをするのは、私だけでいいから……」

 

幼い筈なのに、何処か大人のような雰囲気を纏った彼女の言葉は凄く重く感じて取れてしまう。

この言い方をするってことは、召喚したこいつのいた世界のパンデモニウムは、きっとイブキを除いてもういないのかもしれない。

別世界の、自分とは関係ない筈の世界のために頑張れる。

本当に、お前らは凄いな……だが、だがなぁ。

 

「お前らさっさと女湯いけーっ!ここは男湯だー!!」

 

エデン条約の調印式か、詳しくは明日にでも全員と話し合ってみるか。

そう思いながら俺は目の前で長湯しようとする二人に女湯へと行くよう促したのだった。





パンドラの箱、更新情報なし

ご愛読ありがとうございます。
お気に入り登録や高評価、感想等を頂けると続きを執筆するモチベーションとなりますので書いてくださると嬉しいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。