なりそこないと、壊れた生徒   作:クレナイハルハ

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亡き王女のためのレクイエム

 

 

肌寒さを感じながら目が覚めると、タブレット端末らしき物を抱えている俺は、路地裏のような場所に座り込んでいた。

上を見上げれば夜空に浮かぶ星が綺麗に光輝き、月と共に大地を照らしている。

キラキラだ……いや、ニュータイプしてる場合じゃないか。

どこだここ?てかいつの間にか着替えられてる?てかなんだよこれ、白のスーツに青いネクタイって……こんな服持ってねぇし。 

 

「こんな暑い時に手袋なんてしてられるかよ、夏嘗めんな40度だぞ」

 

そんな事を思いながら、両手の手袋を外して気付いた。そもそも何故知らない格好で知らない場所にいるのか、そして夏なのにいつもの暑さを感じないのか。

 

「コンプライアンス的に、流石にテレビのドッキリでもこんなことしないよなぁ…」

 

手袋の感触といい来ている服の感触といい、夢なら早く覚めてくれと思いながら立ち上がったとき、膝に乗っていたタブレットらしき端末が床に転がり落ちた。

 

「そういや持ってたなタブレット……いや俺タブレット持ってない筈だけど」

 

そう思いながら落としたタブレット端末を拾い上げたとき、電源が入ったのか、元から入っていたのか分からないが灰色のタブレット端末から発せられた光が地面を照らし始めた。

画面を確認すると、そこには真っ黒な背景に見覚えのある青い封筒が一枚表示されていた。

 

「これ、ブルアカのガチャ画面か?」

 

タブレット端末に表示されていたのは、有名なゲーム。ブルーアーカイブの画面であり、動画でもよく見る、いわゆるキャラクターを入手するためのガチャ画面が開かれていた。

 

「夢でまでブルアカって、とうとうアイツらの事を弄れなくなったな俺も」

 

よく旅行や友人宅での泊まりで「青封筒が……」とか「石、石を……」と魘されるのを見て動画に撮った翌日に見せたのは良い思い出だ。

一人は夢でブルアカをプレイしており、ガチャで爆死する事を繰り返し、すり抜け続ける内容だと聞かせたときは思わず笑ってしまった。

もう一人はブルアカでガチャ石が無くなり、課金するためにコンビニへと自転車で走り続ける夢を見ていたらしい。

課金ライダーをリアルで見るなんて、とあの時は笑っていたが。

 

「とうとう俺もアイツらの仲間入りですかー」

 

ブルアカを始めての半年、欲しいキャラを引いて無課金で駆け抜けてきた。

錯覚の夢なら、推しに会いたいもんだ。

 

「アリスに会えたなら、きっと良い夢だろうな」

 

推しキャラの一人、ホーム画面の一番最初に設定している彼女の姿を思い浮かべ、クスリと笑いながら画面に表示されている青い封筒の枠をトンっと軽くタップした。

表示されている画面に何度もノイズが走り、封筒の中から一枚の灰色の紙が表示される。

 

──はい、その声に呼ばれる時を、ずっと待っていました──

 

見覚えの文章が表示された次の瞬間、タブレット端末を持つ俺の目の前に、画面で何度も見た推しである彼女がいた。

 

「勇者よ、光が貴方と共にあらんことを」

 

だけど、違う。

目の前にいる彼女は俺の推しキャラ、ゲーム開発部の天童アリスじゃない。

確かにミレニアムの制服を着ているし、背中には光の剣ことスーパーノヴァは背負っている。

だが本来の瞳は青ではなく赤、そしてヘイローもまた青ではなく赤く光り彼女の頭上に輝くヘイロー。

 

「ケイ?」

 

「ち、違います。私は……アリスはアリスです!ケイではありません!!」

 

「いや、ヘイローと目が赤だからアリスじゃ……ってなんで自分の夢なのに思い通りに行かないんだ?」

 

いや夢だからって自分の思い通りの展開にするなんて出来ない、出来たなら昔にみたバイオハザードな事件に巻き込まれる夢は途中で別の夢に変えられる筈だ。

薄々と感じてたけど、これは夢じゃなく現実だ。

先程から時折吹いてくる風で感じる寒さも、手に持つタブレットの重みも全部が全部、夢にしてはリアルだ。

 

「貴方は、先生なのですか?」

 

「違う」

 

気がつけば、ケイの質問に即座にそう言葉を返していた。

 

「違うんだよケイ、俺は……」

 

確かに俺はブルーアーカイブをプレイしているし、彼女たちにとって俺は先生と言って過言ではないのかもしれない。

でも、俺はその言葉に頷くつもりはない。

俺は、俺は大人になりきれない。

俺はまだ、子供だ。

とてもじゃないが、ブルーアーカイブ本編で通った先生の生き方は出来ないし、大人としての責任を取るような、決まった覚悟なんてない。

イオリの足を舐めたくなるような事もなければ、ヒナを吸いたいと思うような事もない。

 

「先生どころか大人にすら、なれてない……なり損ない。それが俺だ、俺なんだよ」

 

「ですが、そのタブレット端末は間違いなくシッテムの箱では……あとケイではなくアリスです!先生は意地悪です!ずっとアリスの事をケイと間違えるなんて!」

 

俺の言葉に、そう返す彼女の言葉に手に持っていた灰色のタブレット端末の画面を確認する。

所持している生徒一覧が見れる画面には、目の前のケイらしき一人だけが表示されている。

レア度で表示されていない訳ではないし、ソートで変化しているわけでも無さそうだ。

ふと彼女の顔が表示されているアイコンをタップする、そこには彼女の名前が表記されていた。

 

─名もなき神々の王女─天童 アリス

 

「名もなき神々の王女?なんだこの称号…ゲームではこんなの無かった筈」

 

「っ」

 

タブレット端末に表示された言葉に首をかしげていると、名もなき神々の王女という言葉に反応したのか、ケイ?の表情か僅かに曇ったような気がした。

俺はそんな彼女からタブレットへと視線を下ろす、どう見てもブルーアーカイブのゲーム画面。正確に言うならば所持している生徒を見れる画面を開いているタブレット端末は、いくら触れようが、この状態から変化する様子がない。

取りあえず色々と試して、ケイが落ち着くのを待つとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ暗な世界で、光に照らされた玉座。

目の前に広がる景色は、愛と勇気の物語とはかけ離れた終焉とも言えるものだった。

奇跡なんてものは起きず、全ては土へと帰っていく。

滅びの景色が広がる世界を見た彼女、名もなき神々の王女はその瞳をゆっくりと閉じる。

 

「王女?」

 

そんな彼女の様子に、彼女の対面に立っている王女と呼ばれた少女と瓜二つだが目と頭に浮かぶヘイローが赤い少女……私は、王女の様子に困惑しつつ彼女を、キヴォトスの生徒達から天童アリスと呼ばれていた彼女を呼ぶ。

 

「ケイ、アリスは決めました」

 

「お、王女?なにを言って」

 

「アリスは、全てを滅ぼしました。アリスは勇者ではありません。モモイもミドリもユズも先生も傷付け、そしてキヴォトスを滅ぼした最低最悪の魔王……そんなアリスを、アリスは許したくありません。ですからアリスは、()()()()()()()()()()()

 

そう言いながら目を開いた王女は鍵へと向け笑う、自身の何かがきゅっと苦しくなるような錯覚に鍵である自分に違和感を持つ。

 

「アリスは自身を消去しますが、アリスのセーブデータ(思い出)は消しません。このデータはモモイやミドリ、ユズや先生達がくれた大切な宝物なんです。これはアリスが消えても、絶対に消したくない、残しておきたいものです。だからケイ、どうかアリスのセーブデータだけは、残しておいてください」

 

一方そう言いながら王女が目の前に手を翳す、すると手を翳した場所に巨大な一つの銃が現れる。

それは私が王女と呼ぶ彼女が、まだミレニアムサイエンススクールと呼ばれる学園のゲーム開発部に所属する一人の生徒、天童アリスであった頃。

ゲーム開発部という仲間達と共に冒険し、手に入れた勇者の証『光の剣:スーパーノヴァ』。

その矛先が、王女へと向けられていた。

 

「待ってください王女!」

 

「もう、続きから始めるなんて出来ません...でも、それでいいんです。アリスの旅は、ここまでです」

 

王女の言葉を、終わりを示すように『光の剣:スーパーノヴァ』のエネルギーが充填されていく。

チャージされるエネルギーが数字が100%へと到達し、銃口が光を発し始める。

 

「………光よ」

 

「アリスっ!!」

 

私の言葉と共に『光の剣:スーパーノヴァ』から放たれた光が、王女へと向かって高速で飛んでいく。

 

「ようやく、名前で読んでくれましたねケイ」

 

まるで、眠る前に子供が浮かべるような笑顔を浮かべたアリスは『光の剣:スーパーノヴァ』の銃弾に貫かれゆっくりと倒れ伏した。

こうして私は王女を……大切なアリスを失った。

アリスが消え、暫くしてふとアリスの残したセーブデータが気になった。

キヴォトスに存在したミレニアムサイエンススクールと呼ばれた学園で過ごした王女の記憶。

自分が死ぬとしても、残しておきたいと強く願ったデータに、私は無意識に引かれそして触れてしまった。

 

『め、目を覚ました……?』

 

『…情報把握、難航。会話を試みます、説明をお願い出来ますか?』

 

『え、えぇ!?説明ってどういうこと?』

 

これは、王女が始めてあの人間達と話したときの記憶?

そんなことを考えているうちに、王女は二人の少女。才羽 モモイと才羽 ミドリ、先生に連れられミレニアムサイエンススクールのゲーム開発部部室へと連れてこられた。

 

『さて、取りあえず名前が必要だよね。()()()って呼ぼうかな!』

 

『本機の名称、アリス。確認お願いします』

 

『ちょ、ちょっと待って!それはお姉ちゃんが勝手に着けた名前でしょ!?本当ならAL-1Sちゃんなんじゃ……』

 

『そんなに長いと呼びにくいじゃん!どう?アリス、気に入った?』

 

『……肯定。本機、アリス』

 

『見たか!私のネーミングセンス!』

 

『本人がいいならそれで良いけど……』

 

これが王女が、アリスの名前が決まった瞬間。

そして王女は、人としての話し方を学ぶため初めてゲームと呼ばれるものに触れた。

 

『アリス、ゲームを開始します』

 

……何故、指示に従ってボタンを押したのにゲームオーバーに?

装備できたと思ったら、何故?装備した武器、剣で始めて出会った敵に切りかかった瞬間、敵が放った銃でゲームオーバーとなった。

その後も摩訶不思議な事が続いた。

何故、ヒロインが母親?実は前世の妻?

子供の頃に別れたきりの腹違い友人がタイムリープしてきている?

わからない分からないワカラナイ!

エラー発生、エラー発生、エラー発生!

やがて、王女のプレイするゲームをクリアしていた時、私は未知の感情を覚えていた。

これが、ゲーム?

分からない、でもこれはまるで、自分の全く知らない別世界を旅するような……これが、楽しい?

王女が、彼女たちと通じて獲たもの?

ゲーム開発部の少女達が進めた様々なゲームを通じて、言葉を学んでいく王女()はやがて、自分の武器を探すこととなり、エンジニア部へと訪れた。

そこで王女()は運命の出会いをした、エンジニア部が年間予算の70%の部費を費やして開発した宇宙戦艦搭載用レールガン『光の剣:スーパーノヴァ』。

そこで勇者の証を受け取った私は、ゲーム開発部と共に新たな冒険の日々を過ごした。

早瀬ユウカの質問を無事?クリアし、ゲーム開発部を存続させるため、ミレニアムプライスで優勝するため冒険した。

王女()達はG.Bibleがあると思われる廃墟で、一台のコンピューターを見つけた。

いや、見つけてしまった。

 

『あなたは、AL-1Sですか?』

 

そのコンピューターの画面に表示された、覚えのある言葉に、体が冷たくなっていくのを感じる。

そんな私の他所で王女とモモイとミドリ、ユズは困惑しながらも、私を……Keyをゲーム機へと保存しミレニアムへと戻った。

そしてヴェリタスを頼った私達はG.Bibleの保存されたファイルを開くため、ミレニアムサイエンススクールの最強と言われる少女達、C&Cとの対決。

そうして迎えたミレニアムプライス、受賞した作品が発表されて行く中で私は自分が緊張していた。記憶を見ているだけなのに、なんで私はここまで?

そう思っていた瞬間、7つの受賞した部活の名前に私達の名前が無かった。

瞬間、ゲーム開発部の全員はいつもの明るさを他所に暗く諦めの雰囲気が漂う中で現れたユウカの告げたのはミレニアムプライス特別賞に、ゲーム開発部の製作したゲーム『テイルズ・サガ・クロニクル2』は選ばれたことだった。

 

アリス()はこれからも、みんなと一緒にいて、良いのですか……?』

 

『『うんっ!』』

 

『これからも、よろしくね……!』

 

その言葉にモモイとミドリは強く頷き、ユズは照れながらそう笑う。

 

『アリスちゃん!私達、これからもずっと一緒だよ!』

 

『っ……はい!これからも、よろしくお願いします』

 

これからもモモイやミドリ、ユズといられることに私は嬉しかった。

 

『まだ私は見習いですが、これからもクエストをこなし、沢山レベルアップして……いつかはこの光の剣で世界を脅かす魔王を倒します!その、その時まで、アリスと一緒に冒険してくれますか?先生』

 

このまま、ずっとみんなと楽しい生活が……冒険の日々が続いていくのだと。

でも、それは叶わなかった。

ある日、ヴェリタスがミレニアム学区の郊外で発見したロボットを一目見るため私達はヴェリタスの部室に足を踏み入れた。

そしてそこで話す全員を他所に、アリス()は、目の前で沈黙し動くことなく置かれているロボへと近付く、それを知っているような気がして近づき、ソレは起動する。

 

『アリスちゃん?』

 

その記録を見た私は、今更ながらに後悔した。

 

あぁ……分かっている。

 

『起動開始』

 

アリス()の口から出た言葉に従うように、部室に転がる他のソレらが起動する。

 

『コードネームAL-1S、起動完了』

 

『プロトコルATRAHASIS、起動を実行します』

 

知っている、アリスの冒険を……日常を壊したのは……私だと。

 

『私の配慮が足りなかったわ、もっと貴方達が理解しやすいよう、貴方達の好きなゲームに例えましょう。つまりアリス、貴方は』

 

だが、自身の存在の実態が───。

 

『この世界を滅ぼすために生まれた、()()なのよ』

 

キヴォトスを終焉へと導き、滅ぼす名もなき神々の王女だとミレニアムの生徒会長である調月リオから告げられた。

 

『この脅威を解決する方法はたった一つ、アリス。貴方が消えることよ、貴方はこの世界に存在してはいけない』

 

理解したくない、分かりたくない、聞きたくない。

アリスは、私は……ただ。

王女は、勇者となりたかった。

 

『そんな……私はただ勇者に、みんなと一緒にゲームを……。クエストを、したかった……それだけなのに』

 

『貴方は自身を勇者と呼んでいるけれど、勇者とは友人に剣を向ける存在かしら?むしろ、あなたのやったことは悪役(魔王)でなくて?』

 

その言葉に、アリス()の心の中の大切な何かが粉々に壊れた気がした。

アリス()は魔王、勇者に倒されるべき悪であり、平穏を壊す厄災。

その後、調月リオの作った要塞都市エリドゥを利用した私は、彼女の言う通りとなった。

エリドゥを拠点として、キヴォトスの全てを滅ぼした。

その光景はいまだに覚えている、だが何故?

思い出すその全ての光景を見るたびに、胸が締め付けられるように痛む。

あのときは感じなかった筈なのに、目の前の光景が揺れ動き、まるで体が拒絶するかのように視線が地面へと向かう。

アリス、貴方は私さえ居なければきっと勇者で居られた。

調月リオ、貴方は間違っている。

消えるべきなのはアリス(王女)ではなく、鍵である私。

鍵である私が居なければ王女は……アリスはきっとモモイやミドリ、ユズ達と平穏な日常でクエストをこなしていた。

私さえ、()さえ居なければ彼女は勇者で居られた……魔王になんて、ならなかった。

王女の、アリスの残したセーブデータ(思い出)に触れて、私にあるのは後悔と、何をしようともう遅いという事実だけが残っていた。

 

「こんな、こんな未来は……世界は」

 

その時だった、私は思った。

せめて、()()()()()()にクエストをこなし、経験を積んで行けば良いんじゃないかと。

 

「私は……いえ、アリスはクエストに向かいます」

 

こうして私は、ケイではなくアリスとして生きることを始めた。

壁に背中を預けて倒れ伏した隻腕のオートマタの前に、近くを漁って手に入れた腕をそっと置く。

 

「ぱんぱかぱーん!あ、アリスはオートマタへ換装パーツを届けました、お使いクエストクリアです!」

 

返事もせず、静かに沈黙したままのオートマタに背を向け離れた。

もう、誰もいないミレニアムサイエンススクールだった場所。散乱した瓦礫を道の端の方に寄せ、生い茂った植物を引き抜く。確かゲームでいう整地?でしたでしょうか?

 

「学園の草むしり終了です!ついでに瓦礫の除去も行いました!これでユウカから褒めて貰えます!きっと部費も増額ですね!」

 

そう言いながら、所々の天井が崩落し崩れ掛けた校舎を歩き、目的の部屋へと向かう。

自然と足が早くなり、胸が引き締められ息が荒くなってしまう。そうしてたどり着いた部室は何故か壊れること無く、そこにあった。

即座に私は部室のドアを開く。

 

『あ!アリス遅いよ!もう新作ゲーム始めちゃう所だったんだから!』

 

『お姉ちゃん、もうちょっと忍耐力持とうよ。お帰りアリスちゃん!』

 

『お、お帰りアリスちゃん。クエストはどうだった?』

 

そう言って、こんなときでもいつものようにゲームしてる三人の姿は、そこにはなかった。

倒れたロッカー、天井の崩落で破損したゲーム機器、散乱したゲームのカセット、誰もいない部屋がそこに広がっていた。

 

「あ、あぁ……」

 

分かっていた、分かっていたつもりだった。

全てを壊したのは、王女に引金を引かせたのは私だ。

私はゆっくりと部室に入り、なるべく丁寧にゲーム機へと乗った瓦礫をどける。

どのゲーム機も凹み、歪み起動不能となっている。

彼女たちが大切にしてきた、全てが壊れている。

 

「ぅぁ、ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ア゙!?」

 

それは、あまりにも遅すぎた慟哭だった。

知ってしまった、触れてしまったからこそ、大切な思い出の全てが壊れている。

いや、壊したのは自分なのだ。

過去の自分が選択したこと、全てに後悔と憎しみが溢れる。

自身の消去を思い付くが、自分を消去すればアリスの残したセーブデータ(思い出)はどうなる?

自分を消去したいのに、出来ない。

体を起こし残されたソファに座る。

立ち上がる力はある筈だった、でもできない。

そんなソファに座る私の目の前に真っ白なドアが現れた。

どうしようもなく、その扉に引かれて、気がつけばドアノブへと触れた。

次の瞬間、目の前の景色が一瞬で変わる。

まるで、ゲームのエリア移動のように。

建物の路地裏らしき場所で、私はあの大人が持っていたモノと似た物を持つ大人の男性の前に立っていた。

 

「違うんだよケイ、俺は……先生どころか大人にすら、なれてない……なり損ない。それが俺だ、俺なんだよ」

 

そう話しタブレット端末、恐らくはシッテムの箱であろうソレを操作する。目の前の男性は、自身が先生であること、端末がシッテムの箱ではないと言った。

だが、そのシッテムの箱?でこの人は私を呼んだのだろう。

何処かこの世界から浮き世離れした雰囲気を持つ男性は、私を呼んで何がしたいのだろうか。

そんなことを考えていると、男性の背後から武装したスケバンと呼ばれる少女達の姿が此方へと向かってくるのが見えた。

そして強化された目がスコープ代わりとなり、スケバン達が明らかに此方に狙いをつけ、悪意を持って向かって来ているのがわかった。

恐らくは、私達から金品を奪おうといった理由だろう。

邪魔だ、それに銃撃戦になったらこの大人は巻き込まれる。そして銃弾が当たれば、ヘイローのないあの大人のように、簡単に死ぬ。

それを理解した私は、先生の横を通り過ぎながら背負っていた『光の剣:スーパーノヴァ』を構える。

 

「魔力充填100%、ターゲットロックオン、いきます」

 

「お、おい?ケイ何を───」

 

「光よ!!」

 

その言葉と共に引かれた引金により光の剣:スーパーノヴァから放たれた光が溢れその場を強く照らす。

放たれた紫の銃弾が、狭く逃げ場の少ない路地を高速で突き抜けスケバン達を一瞬で制圧した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の背後へと突如として光の剣:スーパーノヴァを撃ち放ったケイは、背中へ光の剣:スーパーノヴァ背負い直すと、此方へと向き直り口を開いた。

 

「貴方も、そして(アリス)も自分に起きていることが分からない。そういう事ですね?」

 

「あ、あぁ……そうだな」

 

目の前で初めて放たれた銃弾、そしてそれによって地面へと倒れ伏した遠くのスケバン達を見る。

目の前の彼女の存在が、目の前で起こることが夢ではなく現実なのだと訴えてくる。

もし、いま彼女がスケバン達を撃たなければ撃たれたのは俺で、持っている全てを奪われていたのかもしれないと感じて、今更ながらに恐怖で体が震えた。

 

「私達はまだ何も知りません、なので……これから一緒に探しませんか?あなたが自身を先生ではないと、なり損ないだと定義していても構いません。シッテムの箱に似たソレを扱う貴方を、(アリス)は先生と認めます」

 

「いや、俺は……」

 

先生じゃないと、そう返そうとした俺の言葉を遮るようにケイは離す。

 

「先生、私達は何故この世界にいるのか分かりません。でもこれから……沢山のクエストをこなし、沢山レベルアップして……いつかきっと私達が何故ここにいるのか、その意味が分かる筈です。その時まで私と……アリスと一緒に冒険してくれますか?先生」

 

そう言いながら手を差し伸べてきたケイに、俺はこれが現実であることを、自分から行動しなければ、何も起きないと、起こらないことを悟った。

これは夢じゃない、現実だ。

何故か俺はブルーアーカイブの世界?と思われる場所にいて、何故かケイ?を召喚してしまった。

自分は先生ではない、責任だって取りたくない屑で怠け者だ。

前なら、俺は間違いなく逃げていただろう。

だが、もう戻ることは出来ない。

いまの俺に出来ること、それは進むこと。

あのアニメで言っていたな、逃げたら一つ、進めば二つを手にすることが出来る。

 

「分かった、お前と行くよ、何処へだって付いていってやるさ。ここが何処なのかも知らねぇが、何処へ行けば良いか分からない子供を放っとくのは、大人じゃないからな」

 

あのスチルを想像させる誘い文句に、俺はそう答えていた。

俺を、先生と認めてくれたなら精一杯、出来る限り大人らしく振る舞ってやるさ。

 

「行くぞ、ケイ。俺達の冒険の始まりだ」

 

「私はアリスです先生、冒険を始めましょう」

 

 

 

こうして俺達はまずこの路地裏を出て、ここが何処なのかを探す所から始めるのだった。

 






■■■■の箱、情報更新

─名もなき神々の王女─天童 アリス(Key)
天童アリスが最後に残した"思い出の記憶"に触れ、自身のした事への後悔から自分が彼女の代わりになればと天童アリスを演じている「ケイ」。


先生、どうかお気を付けて



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