なりそこないと、壊れた生徒   作:クレナイハルハ

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未来へのプロローグ

 

先生の襲来から数日、俺はケイに頼まれミレニアム地区にあるゲームセンターにいた。

そして今、俺の操作していたぎこちない動きをしていたキャラが隣に座りアーケードコントローラーを操作していたケイの操る無駄のない動きのキャラの蹴り技によって体力ゲージがゼロとなった。

 

『あの時こんな力があったらって、今更か……』

 

画面にYou Loseというお決まりの台詞と操作していたキャラの悲しげな呟きと共に画面がタイトルへとリセットされる。

隣の台では長い髪の毛を帽子にしまったケイが操るキャラクターが勝利ポーズを決めている。

 

『何も出来ないって言って、何もしなかったら、もっと何も出来ない…』

 

「先生……弱すぎませんか」

 

「……俺アケコン苦手なんだよ。家のコントローラーなら、まだ戦えるはず」

 

「そういうことにしておきます」

 

そう言いながら勝ち抜き戦を始めるケイの横で、俺は買ってきていた炭酸飲料に口を付ける。

ブルーアーカイブのプレイヤーならば、2章のパヴァーヌやゲーム開発部のメモロビで有名であろうゲームセンター。

そんな場所に、俺とケイは来ていた。

それにしても、何でケイはここに俺を誘った?いつもならクランバトル倶楽部の家に引きこもってゲームをしている筈。

あと、そろそろゲーム開発部の関わるメインストーリーであるメインストーリー2章時計仕掛けの花のパヴァーヌ編が始まるだろうからあまりミレニアムには近付きたくなかったんだがな。

そう、俺がケイとミレニアムのゲームセンターにいる理由、それは普段は全く我が儘を言わないケイがオレとミレニアムにあるゲームセンターへ遊びに行きたいと仕事後に部屋に訪ねてきたのが始まりだ。

それにしても、とうとう家庭版だけじゃなくてこっちにも興味を持ち始めたか。

ケイの給料のいくら分がゲームセンターのゲーム機へと吸い込まれていくのか、想像するだけで恐ろしい。

 

「俺は少し向こうに行ってくるから」

 

「はい、()はここでゲームを続けます」

 

そうケイに声をかけてから格ゲーの台から離れて、ゲームセンター内に設置されたUFOキャッチャーの景品を眺めていく。

なんだか、こうしてUFOキャッチャーの台を眺めて歩くのは久々だ。

キヴォトスに来てからこうしてゲームセンターにきて遊ぶなんて事、無かったな。

それにしても今日のケイの様子は少し変だな。

素直になったというのも変な感じだが、アイツは自分の事をアリスと呼称せず私と呼称していた。

アイツも、たまには重い荷物を下ろす日があっても良いと思う。

そんなことを思いながら眺めていたUFOキャッチャー台の一つに落下口近くまで動かされたまま放置されている、所謂取れそうなぬいぐるみを見付けた。

見るからにペロキチ……ファウスト、いや阿慈谷ヒフミがこよなく愛するキャラクター。

常に舌を出していることが特徴的なその鳥のぬいぐるみはペロロ。モモフレンズに登場するキャラクターである。

そんなペロロが片手?いや片翼なのか?に桶を抱えており、どこかの温泉や入浴施設とコラボしているような感じだ。

 

「やってみるか」

 

この世界に来たときからは考えられない程に厚くなってくれた財布から硬貨を取り出してUFOキャッチャーの台へと投入する。

そして取れそうになっているのだから当然......取れなかった。

 

「………」

 

追加で硬貨を投入する、取れそうから最初の位置へとぬいぐるみが回転した。

 

「……」

 

硬貨を投入する、ぬいぐるみをアームが持ち上げたが少ししかずらせなかった。

 

硬貨を投入する、硬貨を投入する、硬貨を投入する、硬貨を投入する、硬貨を投入する、硬貨を投入する、硬貨を投入する、硬貨を投入する、硬貨を投入する、硬貨を投入する、札を両替する、硬貨を投入する、硬貨を投入する、硬貨を投入する、硬貨を投入する、硬貨を投入する、硬貨を投入する、硬貨を投入する、硬貨を投入する、硬貨を投入する、硬貨を投入する、札を両替する、硬貨を投入する、硬貨を投入する、硬貨を投入する、硬貨を投入する、硬貨を投入する、硬貨を投入する、硬貨を投入する、硬貨を投入する、硬貨を投入する、硬貨を投入する、札を両替する、硬貨を投入する、硬貨を投入する、硬貨を投入する。

 

気が付けば財布からお札が三枚消えていた、そうして手元に残ったのは温泉ペロロ1体のぬいぐるみ。

恐らくはフリマアプリなら千円未満で買えるような、そんなぬいぐるみ。

 

「ふぅ……俺はぬいぐるみを買ったんじゃない、ぬいぐるみをUFOキャッチャーで取るという遊ぶ時間を買ったんだ。損じゃない、絶対に損じゃない……俺は負けてない」

 

いや負けてるだろ、なんて俺は思っていても口にしない。

これがUFOキャッチャーというゲームなのだと、そう自分に言い聞かせ、ケイがいるであろう格ゲーのコーナーへと戻る。

そこにはちょうどゲーム画面に十連勝と表示され、満足した様子のケイがいた。

 

「10連勝、おめでとう。白熱したバトルだったみたいだな」

 

「隣で見ていなかった癖に」

 

「悪かった、これやるから機嫌直してくれ」

 

ジト目で見てくるケイにそう言いながら手に持っていたペロロのぬいぐるみを投げ渡す。ケイが両手で抱えられる程の大きさのそれを無事受け止める。

 

「10連勝だし、報酬が必要だろ」

 

まぁ、正直ペロロじゃない方がよかったのでは?と思い始めてる。

もし要らないって言われたら銭湯の入り口か番台にでも飾っておくか。ちょうど温泉デザインだし。たまに来る温泉開発部がどう思うかは知らんがな。

 

「報酬であるなら受け取ります……先生、いえ()()()は」

 

「なんだ?」

 

受け取ったペロロのぬいぐるみを抱えているケイはそう口を開くと、真剣な様子で此方を見上げ、言った。

 

「あなたは、見つけられましたか?この世界に呼ばれた意味を」

 

『先生、私達は何故この世界にいるのか分かりません。でもこれから……沢山のクエストをこなし、沢山レベルアップして……いつかきっと私達が何故ここにいるのか、その意味が分かる筈です。その時まで私と……アリスと一緒に冒険してくれますか?先生』

 

脳内に思い起こされたのは、あの日の事。突如としてブルーアーカイブの世界に迷い込んだ俺が、パンドラの箱で彼女を……ケイを呼び出した時の記憶。

彼女は、一歩を踏み出せない俺にいつも一歩を踏み出す切っ掛けをくれた。

この世界の右も左も知らない俺たちは生きるために、そしてこの世界にいる理由を、意味を探すために()を始めた。

カイザーローンで金を借りて、クランバトル倶楽部を立ち上げた。

そしてクランバトル倶楽部の運営に尽力していたとき、その日は来た。パンドラの箱が新たな生徒の召喚を示していた。

 

『ケイ、俺には二人も背負うなんて無理だ。俺は大人じゃない、無理して大人のふりをしているだけなんだ……俺は"先生"じゃない、俺にはこれ以上誰かを背負うなんて出来ないんだよ』

 

新たに現れた生徒を召喚し、召喚した生徒の全てを背負う。そんな事は出来ないと、情けない姿を晒した俺にケイは失望することなく、俺の背中を押してくれた。

 

『なら、私が……アリスが一緒に背負います。一人でダメならアリスが一緒に、いや先生ごと背負います。みんなを助けて、進むべき道を照らし導くのが、私が背負った勇者の役目ですから』

 

こいつが俺の手を引いて、ここまで連れてきてくれた。

だから、俺もこの世界での居場所を作れた。

 

この世界で俺の生きる意味、やりたいこと……見つけられたと、そう思う。

 

──せめて居場所を失くしたり分からなくなってる人がいられる居場所に……渡り鳥が留まる木みたいな存在になりたいんだ──

 

確証はないが、そうありたいと思ったのは嘘じゃない。

 

大人になれない、俺が抱いた確かな願い。

 

「なんとなく、それっぽいのが出来たと思う。俺がこの世界にいる理由……まだ確証はないけどな」

 

そういうとケイは抱き抱えたぬいぐるみを見つめたまま、口を開いた。

 

「私も、()()()()()()()。私がこの世界に来た意味を、理由を」

 

「そうか」

 

「はい」

 

お互いに深くは入り込まず、詮索もしない。

これが俺の、俺たちの続けてきたことだ。

俺たちの会話は、ゲームセンターの大きな喧騒に紛れ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜、クランバトル倶楽部の一室。

電気の落ちた真っ暗な部屋で、赤い瞳と赤く輝くヘイローだけが淡く浮かび上がっていた。

Keyのデスクのモニターに映るゲーム……ミレニアムサイエンススクールのゲーム開発部が製作し、ミレニアムプライスを受賞したテイルズ・サガ・クロニクル2。

画面に流れるTSC2の幻想的なBGMだけが、微かに部屋の空気を震わせている。

 

アリスが残した思い出(セーブデータ)の通りに進めば、次にどんな敵が出てくるか、どんな展開が待っているかは、すべて知っている。

それでもKeyは、まるで初めて遊ぶ人間のように、一歩ずつ丁寧に操作していた。

 

「……ここでアリスは、仲間のために立ち止まるのですよね」

 

小さく呟き、Keyは画面上のキャラクターが歩を止めるのを見守る。

王女としてではなく勇者として、天童アリスが悩み、迷い、それでも進んだ道筋。

そのひとつひとつを、Keyは追体験するようにゆっくり辿り、マップを巡る。

ゲーム内のキャラクターが、仲間の手を取る。

Keyの指も、ほんのわずかに震えた。

 

「……王女は、この時、嬉しかったのでしょうか。それとも少しだけ、怖かったのでしょうか」

 

誰に向けた問いでもない。

ただ、モニターに映る光景へ落とされた、小さな声。

敵との戦闘が始まる。

Keyは冷静にボタンを押し、アリスが行ったのと同じ手順で必殺技を放つ。

やがて、最後のルートに差し掛かる。

ストーリーが終わりへと向かう独特の静けさが、部屋の空気に重く沈んでいく。

 

「ここから先は……本当に、王女の思い出の終わり」

 

Keyはコントローラーを見下ろし、胸の奥に薄く疼くものを感じた。

ゲームの結末を知っているのに、それでも丁寧に、慎重に、まるで儀式のように進めていく。

王女が旅を終える瞬間まで、アリスの冒険の終わりまで。

 

Keyはその一つひとつを、静かに、静かに拾い上げていった。

 

そして、エンディングの最後の一行が流れた時、ようやく彼女はコントローラーから指を離した。

 

「急いで遊ぶことになってはしまいましたが、遊べて良かったですね……」

 

コントローラーを置きながらぽつりと呟き、Keyはそっと瞼を閉じる。

胸の奥に、微かに温かい光が灯る。

この体の本来の持ち主……天童アリスが残したセーブデータ(思い出)の通りに行くのなら、次に起こる事は知っていた。

エデン条約が終わった後、王女…天童アリスが、自身が“名も無き神々の王女”であるという理由だけで、ミレニアムサイエンススクールの生徒会長、調月リオからヘイローの破壊を迫られる未来を。

 

『モモイ、ミドリ、ユズ…先生、みんなと一緒にもう一度冒険がしたかったです』

 

その言葉は、王女が最後に抱いた願い。

王女がまだ勇者であったとき、リオの元で拘束されているなかで呟かれた、たった一つの望み。

 

「調月リオ。貴方に、アリスは殺させない」

 

そのセーブデータにKeyは、この世界に、なり損ないに呼ばれこの世界に召喚されたときから考えていた一つの望みを叶えるために、覚悟を決めた。

ケイは拳を握りしめ、閉じていたカーテンを開いて窓から広がる夜空を眺める。

王女は……アリスは私が守って見せます。

例え私が消えるのだとしても、それが私が王女からセーブデータ(思い出)を引き継いだ意味なのだから。

 

王女、だからどうか……どうか。

 

天童アリスとして……勇者として、仲間たちとの冒険の続きを歩いてください。

 

名も無き神々の王女として生まれた重荷など、貴方が背負う必要はありません。

 

王女、貴方はどうか天童アリスとして、勇者としてずっと彼女たちとの冒険を続けて下さい。

 

消えるのは私でいい。

 

黒く塗り潰されるのも、呪いを抱きしめるのも、世界から憎まれるのも、全部私で構わない。

 

貴方が涙を流さずにすむというのなら、あなたがハッピーエンドの世界にいられるのなら。

 

名も無き神々の王女という役割は、全てを滅ぼす最低最悪の魔王は私の役目(ロール)です。

 

「さぁ──奏でましょう」

 

パヴァーヌではない。

 

亡き王女のためのレクイエム。

 

世界が終わるその時まで、王女が泣かずに済むように。

 

 






パンドラの箱、更新情報なし

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