なりそこないと、壊れた生徒   作:クレナイハルハ

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黒き王女のアポカリプス

 

その日、ゲーム開発部の部室の空気はいつもの元気さが嘘のような静まり返っていた。

その理由は、先程少女達の身に起きた異変。

天童アリスがヴェリタスがミレニアム地区の範囲ギリギリに存在する場所から持ち帰ったいくつかのドローンと似たようなロボット。

それに触れた天童アリスの変貌と暴走、アリスの暴走による攻撃で才羽ミドリの姉、才羽モモイの怪我による意識不明が原因だ。

 

「あの時アリスが何をしたのか……何も、思い出せませんが」

 

まるで別人に切れ変わったようなアリスの行動と、その間のアリスの記憶がないこと。

自分の体に存在するセーブデータのような何かと、自分が、大切な人を傷付けた。

自分がモモイを怪我させたのだという変えようがないその事実に、膝を抱えたアリスは体を震わせた。

 

「アリスが、アリスがモモイをッ」

 

「アリスちゃん落ち着いて!」  

 

「"アリス、ゆっくり深呼吸して落ち着こう"」

 

「先生、アリスは……アリスは一体どうすれば」

 

アリスを励ますように才羽ミドリと花岡ユズは寄り添い、アリスの問に"先生"はどう答えるべきかを考えながら、少しでもアリスが落ち着けるよう頭を撫でようと手を伸ばした。

 

その時だった。

 

「えぇ、あなたが怪我をさせた。それは逃れられない真実」

 

アリスの心を容赦なく傷付ける、そんな言葉が背後から聞こえ先生が振り返る。

 

「せ、先生……」

 

「か、会長が」

 

怯えたようにも、驚いた様子にと聞き取れるユズとミドリの声、ゲーム開発部の部室の入り口。

そこに立っていたのは黒を基調とした衣服と長い黒髪、それらと対照的な白のタートルネックを着用した色白の肌を持つ生徒。ミレニアムサイエンススクールの生徒会長、調月リオだった。

 

「あぁ、やはり……危惧していた通りになってしまったようね」

 

「"君が、会長?"」

 

「あなたが噂のシャーレの先生?先生、貴方との記録的な出会いがこうなってしまったのは極めて極めて残念だわ。私は調月リオ、貴方そして彼女たちに……()()を教えに来たの。本来ならシャーレの先生とは、正式に挨拶を交わす席を設けたかったのだけど、今日は別の用事があるから、また次の機会に...」

 

「"真実って……"」

 

リオの指す真実の意味が分からず困惑する先生とアリス、ミドリ、ユズ。そんな全員を他所に、リオは話を続けていく。

 

「貴方達は数日前の事件で一つの考えに到達したのではなくて?今まで友人だと思っていた彼女の見せた、異なる姿。そして同時に生じた破壊と混乱。貴方達はこう思ったのでは?今まで友人だと思っていたものは、そうではないかもしれない……と、そうでしょう?シャーレの先生」

 

「っ!!」

 

「"リオ、一体何を……"」

 

「単刀直入に言えば、貴方の後ろにいる少女……少女の外見を備えた()()は、普通の生徒ではないわ。貴方たちがアリスと名付けたソレは未知から侵略してくる不可解な軍隊(Divi:Sion)の指揮官であり『名もなき神』を信仰する無名の支配が崇拝したオーパーツであり、古の民が残した遺産。その名も『名もなき神々の王女AL-1S』」

 

「"名もなき?"」

 

「アリスは…アリスには、理解できません……。」

 

「そうですよ!何を言ってるんですか!?一方的に脳内の独自設定を話さないで下さい!よくお姉ちゃんがそうやって話してたから分かるんです。勝手にアリスに設定を付与しないで!!」

 

「み、ミドリ……」

 

一方的に話を続けるリオの話の内容に困惑する先生とアリスとユズ、リオの展開する話の内容とその内容からアリスが傷付くのが用意に想像でき、怒りからか感情的に反発するミドリ。

だが、そんな怒りを露にするミドリに対してリオは慌てることも気遣う様子も見せずに淡々と謝罪の言葉を紡ぐ。

 

「ごめんなさい、私の配慮が足りなかったわ。もっと理解しやすいよう、貴方たちの好きなゲームに例えましょう」

 

そしてリオがゲーム開発部への配慮によって導かれた例え、それはアリスにとって最悪な物だった。

 

「つまり、アリス。貴方はこの世界を滅ぼすために生まれた……()()なのよ」

 

「……っ!!」

 

「"アリスが、魔王?"」

 

「またそんな設定を……どうしてそんなことを言うんですか!?いったい何を企んでいるんですか!?」

 

アリスは自身とは勇者とは程遠い、むしろ正反対とも言える存在であるという発言にショックを受け、そんなアリスの様子にミドリはリオを睨み憤慨する。

 

「企んでなどいないわ、むしろ逆に聞きたいのだけど……貴方達は直接みたのでなくて?不可解な軍隊(Divi:Sion)とアリスが接触したことで何が起きたのかを」

 

「"不可解な軍隊(Divi:Sion)……あのロボットのこと?"」

 

「その通り。本来、あんなことになる予定ではなかったのだけれど、完全にこちらのミスよ。C&CとAMASを通じて全部追跡したと思っていたのに。まさか、監視網を掻い潜った個体がいたなんて、それは完全に私の不手際によるもの。謝罪をここに」

 

「えっ!?会長が謝罪!?えぇ!?」

 

突然頭を下げ謝罪する様子に先生とユズは困惑し、ミドリはリオの頭を下げる姿への驚愕と困惑からか怒りを忘れて驚きの声を上げる。

 

「でも、そのおかげで私の仮説は証明されたわね?貴方たちが接触したソレは廃墟から溢れ出した災禍。ミレニアムに、ひいてはキヴォトス全土に終演をもたらす悪夢。そしてアリスの存在が廃墟からヤツらを呼び寄せているという証明がされた。今回は、運良く壊れかけの個体と接触するにとどまったけれど……次はこんなものではすまないでしょうね」

 

その言葉に先生やミドリ、ユズは前日にアリスが可笑しくなった時の光景が脳裏に甦る。

 

「この脅威を解決する方法は一つよ、アリス」

 

「解決する、方法……?」

 

「そう、アリス貴方が消えること。この世界に存在してはいけない」

 

リオの言葉にアリスは俯き、床を見つめその瞳から涙を流す。頬を伝ってポタ、ポタ、と地面へと涙が落ちていく。

簡単にここから居なくなれ、そう淡々と告げたリオの様子に先生は眉を潜め、ミドリはアリスが悲しみ、涙を流す原因を作ったリオに対して明らかな嫌悪感を顔にだしていた。

 

「そ、んな……アリスは、ただ……勇者に……。みんなと一緒に、ゲームを……クエストをしたかった、それだけなのに」

 

「いいえ、それは叶わないわ。私はゲームには詳しくないけど、辞書的な知識ならあるの。だから、あなたに質問をするわね」

 

そう言いながら、リオはアリスの元へと近寄ると膝をついてアリスに視線を合わせる。

そうしてリオの口から紡がれた言葉、質問は───。

 

「貴方は己を勇者と呼んでいるけれど……()()とは友人に剣を向ける存在かしら?むしろ、あなたのやったことは悪役(魔王)でなくて?」

 

「!」

 

──アリスの心からの願いを、夢を…壊した。

 

「アリスちゃん!あんな人の言葉聞かなくていい!!会長がこんな人だなんて知らなかった!」

 

「せ、せんせぇ……」

 

ミドリがそう言いながらリオとアリスの間に入り、アリスを守るように抱き締める。先生もまた、これ以上アリスを必要以上に傷付けるリオを止めようと口を開いた。

 

「"リオ、止めて"」

 

「止める?何を?事実から目を背けるのは思いやりではないわ、先生。それは単なる現実逃避に過ぎない。追うべき責任の放棄は、極めて非合理的行動よ」

 

「"合理、非合理の問題じゃないんだ"」

 

先生がそう話すが、リオは訳が分からないといった様子で眉を顰めるだけだった。

そんな様子に先生はどう話すべきか、どうすればリオに伝わるのかを考えていた時だった。ミドリに抱き締められていたアリスはボソリと口を開いた。

 

「それじゃあ、アリスは……アリスはどうすればいいんですか?」

 

「さっき言った通りすべての元凶はアリス、貴方がここにいるから起きている。ならば、後は簡単でしょう?()()は、安全な場所で解体すればいいだけだもの」

 

「爆弾を、解体?」

 

「あぁ、分かりづらかったかしら?つまり、貴方の()()()()を破壊すれば解決するという事よ」

 

リオの口から発せられた、アリスのヘイローを壊すという発言にユズは恐怖から目の端に涙を溜め、ミドリは怒りからか口からギリッと歯を鳴らす。

 

先生もまたリオの発言に、呆然としていた。

 

淡々と、まるで壊れた機械があるから捨てようとする日常のように放ったリオの言葉。

ヘイローを壊す、それは紆余曲折ありながらもエデン条約を終えた先生にとってどんな意味を持つのか、理解していた。

 

生徒の持つ『ヘイロー』の破壊。

 

それは即ち、生徒の命を奪うこと。

 

ヘイローの破壊は、生徒の死を意味していた。

 

「あぁでも、貴方のソレは本当にヘイローなのかしら?生徒ではない貴方が、どうしてヘイローを持っているのか……理由は分からないけど、()()()()()である貴方がヘイローを持っているのは………そう、狂気に包まれたあのAIと同じ。なおさら貴方を放ってなどおけない」

 

「"リオ、それ以上の言葉は許さないよ"」

 

アリスを人ではなく、破壊すべき対象としてしか見ていない様子のリオに先生もまたアリスを、生徒を守るためにそう話したときだ。

 

突如としてゲーム開発部の電気が消えた。

 

「?」

 

「て、停電!?」

 

唐突な消灯により、明かりが消えた真っ暗な部屋で困惑した様子のリオや先生達の行動が、からだの動きが止まった。

 

「滅びよ」

 

それは聞きなれた、一人の少女の声。

それはアリスの声に“似ている”。

けれどアリスではない。

語尾の震えも、息の揺らぎもない。

“感情”というものが完全に削除されたような、まるで機械がアリスの声を模倣したかのような声だった。

だがその少女、アリスは今、口を開いておらずその少女を抱き締めていたミドリは困惑しユズもまたアリスの方を見る。

 

「今……アリスちゃんは、喋ってない……?」

 

直後だった。

 

ドガンッ!!

 

部室の壁を何かが大きな衝撃と共に破壊され、崩れ落ちる。普段は暗いゲーム開発部の室内に、強い日差しが流れ込む外から日差しが入り込む。

そしてそんな光に遮られて生まれた影は、その場に居た全員が知っている少女……天童アリスの姿をしていた。

長い黒髪と容姿が特徴的だがその瞳は赤く、そして黒いワンピースを身に纏い光の剣、スーパーノヴァを持っている。

 

「アリスちゃんが……」

 

「もう一人……」

 

「……」

 

その姿に、ユズやミドリは驚き目を見開く中でアリスは呆然としたまま自身の同じ姿で同じ武器を持つ目の前の存在を見つめる。

彼女はゆっくりとゲーム開発部の部室に空いた穴から部室へと舞い降りる、部屋を見回す。

そしてゆっくりとアリスの元へと近付いていく、そんな姿に呆然としたまま動けないアリスとアリスを守ろうと抱き締めたまま、未知の恐怖から体を震わせるミドリ。

アリスと瓜二つの姿の彼女はアリスを見下ろし、口を開いた。

 

「褒めてあげましょう、AL-1S……いいえ──A()L()-()1()9()。あなたのような失敗作が、わたしと“同じ扱い”を受けていたと知った時は、正直、面白くありませんでしたよ?」

 

「失敗、さく?」

 

「AL-19?」

 

少女の発言にその場にいた全員が、その言葉に驚愕していた。特にリオはアリスをAL-1Sとして見ていた為に、少女が放ったその衝撃の発言に目を見開いた。

 

「で、でもアリスちゃんを見つけたとき確かに」

 

「"……確かにAL-1Sって"」

 

「廃墟であなたたちが見た識別プレート。あれ、本来はA()L()-()1()9()と刻まれていたのですよ……もっとも、“9”の一画を削ってしまえば S に見えるでしょう?壊れた遺物に見えるよう、わざと雑に傷をつけておきました。その方が自然でしょう?考古学は専門外ですが、騙すのに必要なのは真実より“それらしい嘘”ですから」

 

少女はその場にいる全員の視線すべてを愉しむように、その場いる全員の感情の動きを、変化を楽しむように嗤いながら、まるで“答え合わせ”を始める教師のように語り出す。

 

「彼女は私を隠すための、ただの身代わりに過ぎません」

 

アリスが怯えたように眉を寄せ、ミドリはアリスを庇うように腕を回し、リオは目を細め警戒を強める。

 

「貴方がDivi:Sionに触れ暴れた事も、調月リオにこうして名もなき神々の王女、AL-1Sとして目をつけられ狙われる状況となったのも、全ては私の掌の上だった、それだけです」

 

光の差す瓦礫の隙間から姿を現した黒衣の少女は、愉悦を隠そうともせず、かすかに微笑みながら告げる。

 

「この世界を滅ぼすため、再びプロトコルATRAHASISを実行する準備を整える間。あなたは都合よく周囲の目を引きつけてくれた。感謝していますよ?失敗作にも、使い道はあるのですね」

 

感謝しているとは思えないような淡々とした、しかし僅かに口を三日月に嗤わせながら彼女は、興味がなくなったかのようにアリスへと向いていた体を反転させ、手に持った光の剣スーパーノヴァと酷似したそれを盾にして、少女へと放たれた弾丸を受け止める。

 

「何のつもりですか?調月リオ、愚かなミレニアムの王よ」

 

「……あなた、何者なの。いえ、名もなき神々の王女に関する存在なら、容赦はしないわ」

 

銃弾が放たれたのは、少女へ拳銃を向けた調月リオからのものだった。

失敗作であることや名もなき神々の王女であること、先程から自身を指す言葉が次々と変化する様子にアリスは困惑していたが、目の前の少女が持つ武器から目が離せずにいた。

自分が、自分しか持つ(装備)ことが出来ない筈の、たった一つしかない自分の勇者の剣が目の前に確かに存在していたから。

そんな視線に気付いてか、またもや少女は嗤いながら光の剣スーパーノヴァと酷似したそれを撫でながら言う。

 

「これですか?素晴らしい武器ですね。世界を滅ぼすには丁度いい、ですから……私も使わせてもらいました」

 

そう言いながら、少女はリオへと視線を戻すと黙って光の剣スーパーノヴァから片手を離しリオへと向け翳す。

 

「我が兵よ、王へ剣を向けた不届き者を拘束せよ」

 

部室に空いた穴から複数の赤い光点が浮かび上がった。

 

「っ……!Divi:Sion!?」

 

リオが発した驚愕の声と同時に現れたのは、球体状のボディに不気味な触手のようなものを持つクラゲの様なロボット、Divi:Sion。

Divi:Sionの黒鉄の触手がリオの手足を縛り上げ、拘束を締めつけ、調月リオを床へと膝を突かせ固定させる。

 

「"リオっ!"」

 

「か、会長!?ど、どどどどうすればっ」

 

そんな目の前で起こったことに困惑と混乱から、現れた黒衣の少女とDivi:Sionにより拘束された調月リオを交互に見るユズ。

 

「そういえば、まだ名乗っていませんでしたね。私としたことが失礼致しました」

 

少女は拘束されたリオを背後に、その手から光の剣スーパーノヴァを完全に離し片足を斜め後ろに引いて膝を曲げ、背筋を伸ばしたままお辞儀をする。

まるで此方を脅威とも見ていない、少女の余裕と傲慢をそのまま形にしたようなカーテシーはまるで機械のように綺麗で、テレビゲームのNPCのように無駄がなかった。

 

「私は───いえ、私こそが名もなき神々の王女AL-1S。このキヴォトスに崩壊と終焉をもたらす者、そうですね……貴方達に伝わるよう簡単に説明するならば──魔王です」

 

「"名もなき神々の王女……"」

 

「まおう……」

 

名もなき神々の王女AL-1Sの言葉に、ミドリに抱き締められたままのアリスは目を見開き自身とは酷似した存在を見つめ小さくそう呟く。

そうして拘束された様子のリオだが、その顔は苦悶の表情を浮かべていたが、その瞳はまだ諦めていなかった。

リオはアリスの拘束を考慮してCleaning&Clearing、通称C&Cにてコールサイン00と呼ばれる、ミレニアムの最強といっても過言ではない少女C&C部長、美甘ネル。

そして美甘ネルやC&Cのメンバーにすら存在を知られていないコールサイン04、飛鳥馬トキ。

その二人を配備していたからだ。だがここでリオは違和感を覚えた。

これだけの騒ぎと襲撃、Divi:Sionの出現に対して全く二人が動く様子がない。銃撃音も聞こえなければ、爆発音に走る音すら聞こえない。

まさか、その焦りがリオに過ったときだ。

名もなき神々の王女はリオへと近寄り、見下ろすと、まるで悪いことをした少女のように嗤う。

 

「あなたの用意した切り札、飛鳥馬トキでしたか?彼女には気の毒でしたが……Divi:Sionに少し触れていただいた結果、もう戦えません。美甘ネルは、ミレニアムサイエンススクールで暴れさせているDivi:Sionの鎮圧に向かっている事でしょう」

 

リオの目が大きく見開かれ、かすかに震え出す。

 

「あぁ、それから貴方が作り上げた要塞都市。確か名前はエリドゥでしたか?調月リオ、あなたの計算された建造物の美しさは──本当に感動的でしたよ」

 

「っ!まさか!?」

 

リオを嘲笑うでもなく、ただ“美しい物を褒める”ように淡々と告げながらリオが縛り付けられた際にその手から離れたタブレット端末を拾い上げた名もなき神々の王女AL-1Sは、ゆっくりとリオに見えるように差し出す。

その画面には、赤い警告画面と同時にエリドゥがハッキングされた事を表示していた。

名もなき神々の王女AL-1Sはタブレット端末の画面を操作し、映し出されたのは無名の守護者で溢れかえった要塞都市エリドゥの姿だった。

 

「エリドゥを、掌握したというの……?!」

 

「えぇ、エリドゥは既に私の手の内。あなたが築き上げた()()()()()は、いまや私にとって()()()()()です」

 

その言葉にリオは俯き、先程まで拘束から逃れようと力の入っていた手足から力が抜ける。

名もなき神々の王女AL-1Sは拘束され項垂れたリオの顎を、指先で優しく持ち上げる。

 

「せっかくの要塞ですから、貴方には素晴らしい景色を楽しめる()()()を用意しておきました」

 

「……特等席?」

 

「キヴォトスが滅びる瞬間を、最も近くで、最も離れられない場所で眺められる座席ですよ。あなたがこの世界の未来を案じて築き上げた都市の中で、その未来が終焉する瞬間を見届けるんです。

これほどの栄誉、他にあるでしょうか?」

 

リオの表情が怒りとも絶望ともつかぬ色に歪む。

 

「"そこまでだよ"」

 

「邪魔をしないでください大人、シャーレの先生でしたか?自分の知る世界のみを救おうとしか考えない貴方など相手にしている暇はありません。それに、この女にはまだ()がある。それを裁くのもまた、王女である私のすべき事の一つ」

 

「"リオの、罪?"」

 

アリス、ミドリ、ユズ、先生達全員が名もなき神々の王女の言葉である罪について困惑するなか、リオはただ項垂れたまま黙っていた。

 

「実に可哀想ですね。彼女はこの女に利用され更に罪状を大きくされたのに、誰も気付くどころか受け入れているのだから」

 

黒いカードを持ち、構える先生に対して名もなき神々の王女は黒いカードを気にすることもなくそう言い、自身の左右へと無名の守護者が並び立たせる。

 

「まぁ、いいでしょう。それにしても、このまま私がただキヴォトスを滅ぼすだけでは芸がない、そうは思いませんか?」

 

「え?」

 

「"なにを………"」

 

「ここはあなたたちの大好きなゲームに倣いましょう」

 

名もなき神々の王女は光を失ったスーパーノヴァを背に背負い楽しげに両手を広げ、宣言する。

 

「三日後、私は要塞都市エリドゥにて()()()()() ()A()T()R()A()H()A()S()I()S()を実行しキヴォトスに終焉と破滅をもたらします。まずはミレニアム地区を滅ぼすとしましょう………止めてみてください?世界を救いたいのなら、この女を……囚われの姫を救いたいのなら……もっとも」

 

言葉の途中で名もなき神々の王女は視線をアリスに向くと、アリスは怯えたようにピクリと震える。

 

「魔王である私を止められる可能性があるのは、私と“同等のスペック”を持つAL-19──あなたくらいでしょうが……」

 

そして、まるで彼女の心を見透かしているように嗤った。

 

「あなたは……この女を救う気など、さらさらないでしょうけれど。連行しなさい、我々の城へ」

 

名もなき神々の王女はそういうと踵を返す、それに続くように無名の守護者はリオを拘束したまま浮遊し、ゲーム開発部の部室にできた巨大な穴を通り、空へと消えていく。

そうして、名もなき神々の王女は、もう一度アリスだけを見つめ口を開いた。

 

「三日後、魔王は玉座で待っていますよAL-19……あぁ、今は違いましたか。()()、天童アリス?」

 

そうして調月リオをつれた名もなき神々の王女はミレニアムから姿を消した。

Divi:Sionが暴れまわるという異常事態から、事態の終息に向けて動いていたC&Cの美甘ネル達や、早瀬ユウカ達セミナーがゲーム開発部の部室へと訪れるのは、少し後の事だった。

 

 

 





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