なりそこないと、壊れた生徒   作:クレナイハルハ

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勇者の為のキャロル

突如として現れた天童アリスと瓜二つの存在、『名もなき神々の王女AL-1S』の襲撃により、調月リオが連れ去られた数十分後。

キヴォトス滅亡まで本日をいれて2日、ミレニアムサイエンススクールの校舎の空気は重苦しいものとなっていた。

 

「まさか、そんなことが起こっていたなんて……」

 

ミレニアムサイエンススクールにある一つの会議室。そこではゲーム開発部の花岡ユズと才羽ミドリ、そしてシャーレの先生やヴェリタスのメンバー、そしてセミナーの早瀬ユウカと生塩ノアが集まっていた。

 

「その、アリスちゃんは大丈夫なの?」

 

「そこは会長の安否が先じゃないんですね……」

 

ミドリはミレニアムサイエンススクールの生徒会長である調月リオの安否より、ゲーム開発部の天童アリスを心配していることに少し驚いていた。

 

「アリスちゃんは……その」

 

「あれから……部室から出てこなくて」

 

ミドリの言葉を引き継ぐように心配そうに眉を八の字にしたユズがアリスが部室に閉じ籠ってしまった事を説明する。

そう、天童アリスは今ゲーム開発部の部室に閉じ籠っていた。

その心当たりはユズやミドリ、先生には多すぎた。

調月リオによる天童アリスの真実、Divi:Sionの指揮官であり『名もなき神』を信仰する無名の支配が崇拝したオーパーツであり、古の民が残した遺産『名もなき神々の王女AL-1S』、世界を滅ぼすための兵器であるという自身の存在の告発。

天童アリスを一人の生徒ではなく、人間ではなくモノとして発言した。

天童アリスがモモイを傷付けたことから、アリスは勇者ではなく魔王と表現したこと。

そして天童アリスはAL-1Sではなく、名もなき神々の王女が自身を隠すための身代わりとして使ったAL-19であり、失敗作と呼ばれたこと。

 

「せめて監視カメラに映ってたりしたら、情報が擦り合わせが出来るんだけど……」

 

ユウカはそう呟きながら情報を整理するように顎に手を添える、その時ガチャリと会議室の扉が開き一人の生徒が入ってくる。

 

「ご苦労ですエイミ、どうでしたか?」

 

「ダメだね、ドローンのメモリは見てみたけど

不自然なブランクがある。なんらかの広域的な妨害の介入があったみたい」

 

入ってきたのはヴェリタスの部長、明星ヒマリの信頼している後輩の一人、和泉元エイミ。

エイミはそう言いながら空いている席に座り、目を閉じ深くため息をつく。

 

「ゲーム開発部部室周辺の警備ドローン全てのメモリが不自然なブランク……そんなことあり得るんでしょうか……」

 

「先生達は、その名もなき神々の王女?と名乗った存在と会ってるんですよね、どんな人なのですか?」

 

ユウカの問いにユズとミドリは何も言わなかった、言えなかった。

何故なら、その名もなき神々の王女の姿は天童アリスと瓜二つでありアリスの存在について話したとき周りにいる人達が、天童アリスを否定する側に回ること、敵になってしまうことが怖かった。

 

「"名もなき神々の王女は、アリスと瓜二つの姿をしていたんだ"」

 

そんな中、先生の言葉にユズとミドリがビクリと体を震わせ心配そうに先生を見つめる。先生は安心させるように頷くと、言葉を続けた。

 

「"彼女は自分の事をAL-1S、アリスの事をAL-19と呼んでいてアリスの事を失敗作だと話していた。自身を魔王と例え、3日後にキヴォトスを滅ぼすため、ミレニアムに襲撃を仕掛けるつもりみたい"」

 

「アリスちゃんが失敗作ですって!?あんなに可愛いのに──」

 

「ユウカちゃん?」

 

「ん"ん"!それにしても自分を魔王だなんて……」

 

「それと!会長を助けたかったら、自分を止めたかったら止めに来いとも話してました……」

 

「あ、あと自分を止められるのは自分と()()()()()()()を持つ()()()()()()()()だって」

 

ミドリとユズが聞いた、名もなき神々の王女の言葉にユウカやヒマリ達はますます首をかしげた。

 

「自分から滅ぼす宣言をして、それを止めろ……何がしたいのかしら」

 

頭を軽く押さえ、名もなき神々の王女の行動について頭を悩ませるユウカやヒマリ達。

名もなき神々の王女の目的は一体なんなのか、そう考え込む中でミドリはふとあることを思い出した。

 

「そういえば、名もなき神々の王女は会長にこういってました。『この女にはまだ罪がある。それを裁くのもまた、王女である私のすべき事の一つ』って」

 

「会長の……罪?」

 

「リオの罪ですか?ちょっとその話詳しく」

 

「部長?」

 

「……今はそんな事を考えている場合ではありませんでしたね。ともかくまだ今日をあわせて3日はあります。ここは一度、休憩を──」

 

ヒマリがそう言葉を続けようとした時だった。会議室の扉がバタン!と若干乱暴な動作で開かれ、一人の生徒が入ってくるなり、片手を上に掲げて派手にポーズを取る。

 

「モモイ、復活!!」

 

会議室へと入ってきたのは、アリスが名もなき神々の王女によって操られ暴れた際に怪我をして眠っていた筈の才羽モモイであった。

彼女はまるで会議室の重苦しい雰囲気を吹き飛ばすような笑顔でそう宣言する。

その言葉の通りに彼女の体にあった筈の包帯やガーゼの類いは外され、怪我が完全に治癒し発言の通り復活したことを示している。

 

「お姉ちゃんっ!!」

 

「うわっ!?ってえぇ!?いつのまにミドリがアンチコメントを大量に送られた時みたいな妹モードに!?」

 

数日眠っていたこともあってか、目が覚め現れた姉に抱きつくミドリの目の端には涙が出ていた。

訳が分からず、取りあえずとミドリの頭を撫でながらモモイは会議室にいる全員を流しみてからポカンと口を栗のように開けて一言呟いた。

 

「ヒマリ先輩にチヒロ先輩達、それにユウカ達まで……どういう状況?」

 

その後、モモイは先生やユウカ達から自身が眠っている間にあったこと。

名もなき神々の王女を名乗る存在の襲撃や、リオの会長の言動を説明され腕を組み頷きながら聞いていたモモイはポン!と掌に拳を打ち下ろす。

 

「そっか!これまだ夢なんだ!それじゃあ私は保健室で二度寝を……」

 

「お姉ちゃん」

 

まだ自分が夢の中にいるのだと逃避する様子のモモイに、どこぞのカワイイ妹のような気迫のある声をあげるミドリ。

すぐに冗談だよ冗談!と慌ててモモイは言いながら会議室の出入口へと向かう。

 

「まずはアリスの所にいかなきゃ!魔王を倒すためには、やっぱり勇者がいないとね!」

 

そう言いながらモモイは会議室を飛び出し、ゲーム開発部の部室へと向かって駆けていく。

 

「お姉ちゃん、アリスちゃんはそんな状態じゃ!」

 

そんなモモイを追いかけてミドリ、ユズが会議室を飛び出す。そんな二人を、先生やユウカ達もまた追いかけていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天童アリスは、ゲーム開発部の部室の隅に体育座りして俯いていた。

ゲーム開発部であるにも拘わらず、部屋の電子機器はひとつも稼働していない。

そんな部屋でアリスは俯き、ひたすらに思考を繰り返していた。

 

『貴方の後ろにいる少女……少女の外見を備えたソレは、普通の生徒ではないわ。貴方たちがアリスと名付けたソレは未知から侵略してくる不可解な軍隊Divi:Sionの指揮官であり『名もなき神』を信仰する無名の支配が崇拝したオーパーツであり、古の民が残した遺産。その名も『名もなき神々の王女AL-1S』

 

『つまり、アリス。貴方はこの世界を滅ぼすために生まれた……魔王なのよ』

 

「アリスは、魔王……」

 

『貴方は己を勇者と呼んでいるけれど……勇者とは友人に剣を向ける存在かしら?むしろ、あなたのやったことは魔王でなくて?』

 

アリスは、モモイを傷付けた。

もし、このままモモイが目を覚まさなかったら?

アリスは、モモイを殺してしまったのではないかと、震えてしまう。

 

「アリスは……」

 

『褒めてあげましょう、AL-1S……いいえ──AL-19。あなたのような失敗作が、わたしと“同じ扱い”を受けていたと知った時は、正直、面白くありませんでしたよ?』

 

「アリスは、失敗作……」

 

調月リオ、ミレニアムサイエンススクールの生徒会長が危惧していたという、危険な存在『名もなき神々の王女AL-1S』。

 

AL-1S、その単語はアリスが目覚めてすぐに聞いた言葉だ。

 

『さて、取りあえず名前が必要だよね。アリスって呼ぼうかな!』

 

『本機の名称、アリス。確認お願いします』

 

『ちょ、ちょっと待って!それはお姉ちゃんが勝手に付けた名前でしょ!?本当ならAL-1Sちゃんなんじゃ……』

 

『そんなに長いと呼びにくいじゃん!どう?アリス、気に入った?』

 

自分にとっての掛け替えのない彼女が、自分にアリスという名前をくれたきっかけともいえる文字。

でも、そのきっかけすらも、私が彼女を……魔王を目覚めさせるために作られたものだった。

 

『廃墟であなたたちが見た識別プレート。あれ、本来はAL-19と刻まれていたのですよ……もっとも、“9”の一画を削ってしまえば S に見えるでしょう?』

 

私の名前、それは天童アリスではなくAL-19。

名もなき神々の王女AL-1Sを守るために作られた偽物であり、魔王でも勇者でもない、何にもなれない失敗作。

 

「アリスは、もう分かりません……」

 

自分は失敗作であり、何にもなれないみんなに迷惑をかける存在。

 

アリスが廃墟から出たからDivi:Sionは現れた。アリスがそとに出たからAL-1Sまでもが現れた。

アリスがこの世界を滅ぼすきっかけを作ってしまった。

 

『そう、アリス貴方が消えること。この世界に存在してはいけない』

 

アリスは、存在してはいけない?

 

体が震え、目から流れる雫が頬を伝い床を濡らしていく。

流れる涙は止まらない。悲しくて悔しくて、苦しくて涙が止まらない。

 

「アリスが、アリスが存在してはいけないなら、それならどうして、どうして」

 

アリスは、生まれたんですか?

 

アリスの胸の奥で、何かがゆっくりと砕けていく。

痛い、苦しい、息の仕方さえ分からない。

大きなハートに、罅が入る。

 

ぽつりと落ちた声は、自分でも分からないほど細く震えていた。

 

「存在してはいけないなら、失敗作なら……何も守れないなら」

 

アリスは、勇者にもなれず魔王にもなれない。

 

「どうして、アリスを作ったんですか……?

どうして、アリスは目を覚ましたんですか……?

どうして、どうして……モモイ達と……出会ったんですか……?」

 

まるで誰かに答えを求めるように、アリスは両手を胸に寄せ、爪が食い込むほど強く握りしめる。

ピシリと音を立てて、ハートの罅が広がる。

 

出会わなければ、傷付けることもなかった。

 

出会わなければ、好きになってしまうこともなかった。

 

出会わなければ、心なんて持たないままでいられたのに。

 

胸の奥で、はっきりと“ひび割れ”る音がした。

 

どうして、アリスはこうして話せるんですか?

 

どうして、どうして……。

 

ぽたぽたと涙が床を濡らす、その涙は決して止まらない。流れるほど、アリスは自分の価値が薄くなるように思えて怖かった。

 

「アリスは壊れるために、生まれてきたんですか……?苦しむために、痛むために、誰かを傷付けて……失って、その罰を受けるために……?」

 

まるで“プログラムされた運命”を読み上げるように、アリスは息を震わせる。

 

「それなら……アリスは──」

 

声が震えすぎて言葉にならない。

 

「アリスは……最初から……もういない方が……」

 

その瞬間、アリスの瞳から光がひとつ、すっと消えた。

自分という存在の境界線が曖昧になる。

“アリス”という名前が遠くなり、呼ばれた思い出の声だけが、脳裏に残る。

 

『アリス!』

 

『アリスちゃん!』

 

『アリス、ちゃん』

 

どれも温かくて。もう二度と触れられない気がして。

その優しさが、いまは逆に胸を刺す。

 

「アリスは……失敗作です……アリスは……誰の役にも立つ事も、勇者にも、魔王にも、なれない……」

 

ぽつり、ぽつりと呟くたび、アリスは目の前の世界が更に暗くなっていく気がした。

 

「アリスは……どうしたらいいんですか……?」

 

まるで助けを求めるように、誰のいない部室で手を伸ばす。

けれど掴むものは何もない。

 

その時だった、バタン!と言う音と共にゲーム開発部の部室の扉が勢いよく開かれる。

ビクリと体を震わせたアリスは、顔を上げる。

 

「モモイ!参じょって!?えぇーーーッ!?本当に部室の壁がぁ!?待って待って待って!?私の大切にしてたゲームがーー!?私の大切なセーブデータがぁ!こっちは課金データが入っててこっちには限定映画配付キャラが入ってた奴がー!?」

 

そんな明るく、ハツラツとした声と共に部室へと入ってきた少女を見てアリスは目の前の光景が夢なのかと思った。

部屋に入り、部室に空いた穴と穴付近においてあったゲーム機器やソフト類の置かれた棚の元へと駆け寄り、ミドリがいたら女の子して良い泣きかたじゃないと言われそうな声で「私のゲームが、もう終わりだ~!」と目から涙を流している。

そんな彼女は頭に猫耳が特徴的なピンク色のラインの入ったヘッドフォンとしっぽを身に付けている、才羽モモイだった。

 

「モモイ、ですか?」

 

目の前の景色が信じられなくて、でも現実であってほしくて、夢であって欲しくなくてアリスはそう声を漏らした。

 

「あ!今はこっちを確認してる場合じゃなかった!コホン!……うん、そうだよアリス。才羽モモイ、ただいま完全復活だよ!!」

 

「モモイ、良かったで……ぁ」

 

アリスは思わず立ち上がりながら、モモイへと駆け寄ろうとして、その場から一歩を踏み出せなかった。

今自分は、何をしようとしていた?

自分が怪我をさせた彼女へと、自分がいなければ怪我もせず平和に過ごせたであろう彼女の元へ、アリスが近付く?そんなの、ダメだ。

 

「アリス、アリスあのね」

 

アリスの様子に、モモイはアリスの元へと歩み寄ろうと一歩を踏み出した、その時だった。

 

「近付かないで下さいっ」

 

「あ、アリス?」

 

アリスは一歩を踏み出そうとしたモモイを止めた。アリスの言葉にモモイは少し驚いた表情を浮かべ、心配そうにアリスの名前を呼ぶ。

 

「やめてください……アリスはもうモモイを傷付けたくありません。アリスは失敗作です。アリスは勇者ではありません。アリスは存在してはいけない存在なんです。モモイ私はもうパーティにいられない存在なんです……」

 

俯きながらそう話すアリスの目からは、涙が流れていた。

そんな彼女に、モモイは自身が眠っている間に彼女がここまでの状態になっていたことに驚いていた。

勇者になりたいです。そう言って行動し続けていたアリスを見ていたモモイにとって目の前のアリスの姿は、まるで親とはぐれて迷子になった幼子のように見えたから。

自分が迷ったことを理解していて、踏み出すのが怖くて、一歩前に進めない。

 

「アリス!アリスは!!」

 

そんな雰囲気のアリスに、モモイはそう叫びながら一歩を踏み出した。

 

「アリスはそれでいいの!失敗作のままで、その何とかの王女の偽者で!何にもなれないままでいいの!?」

 

「ぇ……」

 

「ミドリやユズ、先生達から聞いたよ。アリスが会長や何とかの王女って奴に言われてたことも!!」

 

「なら、聞いたなら」

 

「本当にアリスはそのままでいいの!」

 

そう言いながらモモイが一歩、アリスへと近付く。そんなモモイにアリスは声を震わせながら返事を返す。

 

「アリスは、アリスは存在してはいけない……」

 

他の誰かに言われた事は知らない!!アリスは、天童アリスはどう思ってるの?教えてよ、聞かせてよ!アリスはどうしたいの!アリスは()()()()()()()?!

 

「アリスっ、アリスは……」

 

アリスの喉の奥がひゅ、と鳴る。

声にならない胸の奥で、モモイの言葉とアリスの声がぶつかって、混ざって、ほどけていく。

 

アリスは、勇者になりたかった。

 

みんなで笑って、ゲームを作って、冒険したかった。

 

「アリスは……アリスは……っ」

 

涙がぽたぽたと床に落ちる。アリスは言葉を続けられなかった。

 

その沈黙ごと、モモイの声がぶった斬る。

 

「だったら!!」

 

部室に響くほどの大声だった。泣き叫ぶ子どもみたいに、でも誰よりまっすぐで強い、モモイの声。

まるでアリスを覆う全ての声を振り払うように、自分の声だけを届けるように。

 

()()()がどうしたの!?()()だって言われたから何!?()()って呼ばれたら、それで全部終わりなの!?」

 

アリスが見たモモイの目は怒っていた。

でも怒りの矛先はアリスではなく、アリスを傷つけた“言葉たち”だ。

 

「アリス!『勇者になりたい』って願ったのは、アリス自身でしょ?じゃあね!」

 

モモイは歩みを止めず、アリスが「近付かないで」と叫んだ線を、平気で踏み越える。

モモイはアリスの目の前まで迫り、アリスの顔を、目をまっすぐに見据えた。

 

「そんなので!アリスとの冒険も、アリスの想いも、アリスが頑張って来た全部が!!消えるわけないじゃん!!」

 

「モ、モモイ……」

 

「いい!?アリス!!」

 

モモイは胸を拳でドンと叩いた。

 

失敗作だろうが!偽物だろうが!魔王だろうが!!本物の勇者になれないなんて“道理”はないんだよ!!無いなら作ればいいじゃん!アリスが!自分で!!

 

アリスの胸の奥で、パリンと音がした

でも、さっきまで砕けていた心とは違う。

今度は、閉じ込めていた“ナニカ”の欠片が、殻を割る音だった。

 

「アリス……アリスが、決めていいんだよ」

 

モモイは最後の一歩を踏み出し、アリスをギュット抱き締める。つま先立ちで、アリスの頭へと手を伸ばし、包み込むように、離さないように抱き締める。

アリスの喉から、ひゅ、と震えた息が漏れる。

涙が溢れ、抱き締められた体が小さく震え出す。

 

「アリス……アリスは……っ」

 

その声は、泣き声と希望の混ざった、

天童アリスの“本当の声”だった。

 

「アリス、誰かが言った役目じゃなくて、誰かが押しつけた“名前”でもなくて。アリスが“なりたいアリス”になっていいんだよ」

 

それは、異なる世界で先生がアリスへと送った言葉と似た、彼女を変える言葉だった。

 

「アリスは、アリスは勇者に、なりたいです」

 

アリスは震えながらも、笑顔を浮かべてそう笑った。それをみてモモイは頷きながら、アリスから離れて部室の扉を開ける。

部室の外には、先生の他に沢山の生徒が集まっていた。

アリスを見て、安心した様子のユズ。

お姉ちゃんはやっぱり頼りになるねと、少し頬を赤くしながら笑うミドリ。

顔を両手で覆っているユウカと、ユウカの隣で微笑んでいるノア。

落ち着いたアリスの様子に、安堵した様子で息を吐くヒマリと解決したの?と少しだけ首をかしげるエイミと、聞いてた感じだと大丈夫ねと微笑むチヒロ。

アリスを鼓舞するモモイを映像と盗聴機で盗み聞きし、モモイの行動に対して心臓を跳ねさせているハレとコタマ、アリスの様子に満足し頷くウタハ、良かったですと笑うコトリと静かに微笑むヒビキ。

 

そんなみんながゲーム開発部の前に集まっており、アリスは目を見開いた。

 

「"アリス、自分が誰なのか……それは自分自身で決めるもの。モモイが言っていた様に、君がなりたい存在は、君自身が決めていいんだよ"」

 

「先生にも、モモイと同じことを言われてしまいましたね」

 

アリスの元へと一歩、歩み寄った先生の言葉にアリスはキョトンとした後に可笑しそうに笑いながらそう言った。

その時、パチンと手を合わせたヒマリに全員の視線が集中する。

 

「さて、アリスが元に戻った事ですしこれからのことを考えましょう」

 

これからの事、それは即ち今日を合わせて3日後……要塞都市エリドゥから世界を滅ぼすため名もなき神々の王女が、ミレニアムへと襲撃を仕掛けてくる事を示していた。

 

「今から我々で行わなければならないのは、名もなき神々の王女を止めること。そしてミレニアム、続いてキヴォトスを滅ぼそうとする彼女を止めることですね」

 

「部長、会長を助け出すの忘れてる」

 

「あら、そうでしたね」

 

まるで映画の作戦会議をするように両手を組んで話すヒマリ、そして調月リオが誘拐されたことを指摘するエイミ。

そんな彼女達の後ろから二つの足音が聞こえ、全員が振り返る。

 

「私も、参加します」

 

身体中にガーゼや包帯等を巻いているメイド服を着た少女、飛鳥馬トキだった。

そしてそんな彼女の後ろから歩いて来たのは、同じくメイド服を着ているがその上からスカジャンを羽織った少女、C&C部長コールサイン00美甘ネルだった。

 

「ようチビ!もう大丈夫そうだな?」

 

「はい!チビメイド先輩!アリスは、もう大丈夫です!」

 

「おまっ!?ここはソレじゃなくて名前だろうがぁ!!」

 

「どーどー部長!大丈夫だよ!ちっちゃくても可愛いから!!」

 

アリスの言葉に、即座に顔を真っ赤にしてアリスへと詰め寄ろうとしたネルを背後から現れた手が、ネルを背後から抱えるようにして止めた。

 

「チビっていうなっ!!」

 

ネルを止めたのは、同じくメイド服を着た生徒。C&Cコールサイン01一之瀬アスナ。

 

「ふふ、今暴れたら感動的なシーンが台無しですよ部長?」

 

「そうだぞ、今は大人しくしておいてくれ」

 

「お前ら……後で覚えてろよ」

 

アスナに続いて現れたのは、同じくメイド服を着た二人の生徒。コールサイン03、室笠アカネと同じくコールサイン02角楯カリンだった。

 

「さて、アリス!みんなが……パーティーが合流したよ!今まで、アリスが助けてくれたり触れあったりした皆が!アリスのための合流したんだよ!」

 

モモイのその言葉にアリスは、改めてその場にいる全員を見回す。

 

「お姉ちゃんの言う通り、全員アリスちゃんのために来てくれたんだよ?」

 

「アリスちゃんの、これまでの旅の成果だね」

 

ミドリとユズがそう言いながら微笑む。モモイは部室から一歩外に出ると振り返りアリスに向き直ると、手を差し出した。

 

「アリス……いや、勇者アリス!さぁ始めよっ!私たちみんなで、この世界を救うクエストを!!」

 

その言葉にアリスは、ずっと閉じ籠っていた部室から一歩を踏み出しモモイの手を掴んだ。

 

「はい!アリスは、世界を救います!()()として!!」

 

 





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