なりそこないと、壊れた生徒   作:クレナイハルハ

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ホワイトバインド

要塞都市エリドゥ、その中央に存在するタワー中央隔離施設。

本来ならば調月リオが名もなき神々の王女AL-1Sを破壊するために用意した場所。

その最上階は、まるで神殿のように静まり返っていた。

高い天井に円形の広間、本来ならば調月リオの合理的なデザインだったその部屋は、名もなき神々の王女により、大きく変化していた。

壁も、天井も、床さえも、光を拒むような漆黒で統一されている。

ただひとつ、その闇を裂くように深紅の絨毯が、部屋の入口から奥へと一直線に敷かれていた。

 

まるで、勇者を導く血の道のように。

 

広間の最奥には、数段の階段が設けられ、その頂に巨大な椅子が鎮座している。

王座……否、玉座。

それは人のための椅子ではなく、“世界を見下ろす者”のために作られたもの。

まるで、RPGゲームの最後に倒すラスボスである魔王のいる部屋を思わせる空間。

その中央、赤い絨毯の上に調月リオはいた──その身に純白のドレスを纏って。

本来、彼女が選ぶはずのない装い。

それは祝福のための衣装ではなく、供物のように飾られるための衣装。

 胸元は最低限の布でまとめられ、背中は大きく開いている。布地は軽く、動くたびに微かに揺れ、彼女の呼吸すら暴いてしまう。

だが、それ以上に目を引くのは──拘束だ。

リオの両腕は背後に回され、赤黒い光を帯びた“鎖”が、空中に浮かぶ無名の守護者から伸びて彼女を縛り上げている。

床に触れない足先、わずかに浮かされた身体。

 

赤い絨毯の上で、拘束された彼女はまるで魔王の前に差し出された、生け贄のようだった。

 

「……趣味が悪いわね」

 

かすれた声で、リオは呟いた。

 

その視線の先、階段の上。

巨大な椅子に腰掛け脚を組み、肘掛けに頬杖をつき、玉座に座る天童アリスと瓜二つの存在。

名もなき神々の王女AL-1S、彼女の姿はまさしくゲームに登場する魔王そのものだった。

 

「そうですか?私は、とても合理的だと思っているのですが……魔王に歯向かった姫には罰が必要ですね」

 

そんなリオに名もなき神々の王女はそう口にしながら指を鳴らす、すると鎖がきしりと音を立てる。リオの身体がわずかに引き上げられ、ドレスの裾が揺れた。

 

屈辱。

 

だが、リオは歯を食いしばり、視線を逸らさない。

 

「……こんな真似をして、何がしたいの。私を誘拐したところで貴方にとってのメリットは存在しないわ」

 

「何がしたいか?決まってるでしょう」

 

彼女はそう言いながら玉座から立ち上がり、階段を一段、一段と降りてくる。

玉座の後ろに置かれた光の剣:スーパーノヴァをそのままに、まるで此方を脅威とも感じない様子で赤い絨毯を踏む。

 

「告発です」

 

 リオの前に立ち、彼女を見上げる形になると、名もなき神々の王女は微笑んだ。

 

「調月リオ、愚かなミレニアムの孤独の王よ。貴方が“この世界を守るため”だと豪語してやってきたことを、あなた自身の口で語るのです」

 

両手を広げ、愉しそうにそう話す彼女はそう言いながら調月リオの罪を告げる。

 

「私は一人で守ろうとした、そのために防衛都市エリドゥを建設した。建設に必要な資金は、ミレニアムサイエンススクールの部費から横領した」

 

瞬間、調月リオの瞳がわずかに見開かれた。

 

「そして横領の罪をセミナーの一人に擦り付けた。更に一人の少女に“死”を選ばせ失敗し、結果として、世界滅亡を手伝った」

 

ほんの一瞬、息が止まり、次の瞬間には何事もなかったかのように表情を戻す。

だが、その変化を見逃すほど、彼女は鈍くない。

 

「……?」

 

リオは何も言わない。

ただ、ケイを見下ろすその視線に、微かな揺らぎが宿っていた。

 

「不思議そうな顔ですね」

 

そんな調月リオに名もなき神々の王女は微笑む。

 

「“そこまで知っているはずがない”と、思いましたか?」

 

鎖がきしりと音を立てる、リオの身体が、わずかに揺れた。

 

「……」

 

沈黙───だが、それが答えだった。

 

調月リオは初めて、この場で、完全に余裕を失った。

調月リオの横領の事実。

防衛都市の資金の出どころ、そして何より横領の罪を擦り付けた相手が()であったか。

それらは、彼女と限られた者しか知らないはずの情報だったから。

 

「ふふ、安心してください」

 

名もなき神々の王女は、どこか愉しげに言う。

 

「私はあなたの“罪”を、全て把握して話していますよ?誰が言いましたか、()()()()()()()()()()()、よい言葉ですね。この状況にぴったりだと、そう思いませんか?愚かなミレニアムの孤独な王よ」

 

「……どこまで」

 

リオの口から、低く、抑えた声が漏れる。

 

「どこまで、知っているの……?」

 

その問いに、名もなき神々の王女は即答しない。

ただ、赤い絨毯の上を一歩進み、リオのすぐ下で立ち止まると言った。

 

「──何処までだと思いますか?」

 

リオの指先が、体がはっきりと震えた。

俯いているが、その顔は恐怖に歪んでいるのが名もなき神々の王女には分かった。そんな調月リオの様子に彼女は満足そうに頷く。

 

「ええ、その反応で十分です。さぁ、続けましょうか」

 

そういいながら名もなき神々の王女は、また指をパチンと鳴らす。すると調月リオの拘束が緩み、持ち上げられていた体が勢いよく落下して絨毯の上へと落下する。

体に感じる衝撃と痛みからか、リオの口から苦しそうな声が漏れる。

調月リオは目を伏せなかった、だが視線を逸らすこともできなかった。

 

「……何故、こんなことを。こんなことをしたところで、貴方にメリットは」

 

名もなき神々の王女は首を振る。

 

「言ったでしょう、罪人を裁く事もまた……王女のすべき事だと」

 

床に両膝をつく形となった調月リオの顎へ、名もなき神々の王女が伸ばした指先が触れ、俯いていた顔をあげさせる。

そして、震える調月リオの耳元へ。

 

「あなたは“全てを救うために1人を犠牲にした”つもりだった。でも、そのせいで全てを失うことになる」

 

囁くように言うと、嗤いながら再び指をパチンと鳴らすと、無名の守護者は調月リオの手に繋げられた鎖を引っ張り、調月リオを最初のように吊るす。

高い塔の最上階、黒き玉座の間。

世界を見下ろす場所で、かつて世界を守ろうとした少女は、無力に吊るされている。

 

「……あなたに、裁かれる覚えはないわ」

 

吊るされたまま、調月リオは一度だけ目を閉じた。

深く息を吸い、吐く。

 

「……それでも」

 

小さく、だが確かにそう零す。

 

「それでも私は、間違っていないわ」

 

自分に言い聞かせるように。

あるいは、世界そのものに言い放つように。

 

「一人を犠牲にしてでも、全てを守ろうとした。その判断を、私は後悔していない。結果がどうであれ、私は」

 

そこで言葉が途切れる。

だが、その沈黙は敗北ではない。

むしろ、最後まで折れなかった“意思”の証だった。

 

「……あなたに、裁かれる覚えはないわ」

 

「ええ、そうでしょうね」

 

ですから、と彼女は告げる。

 

「裁くのは、勇者とミレニアムの生徒達です」

 

赤い絨毯の先、いつか、そこを駆け上がる者の姿を思い描き彼女は目を瞑る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラックマーケット、クランバトル倶楽部会長室では沈黙が続いていた。

椅子に座るなり損ないは、対談している相手に対して弱みを見せないよう表情を取り繕う。

そんななり損ないの背後には()()の犬耳を持つ少女達が整列しており一切の乱れなく、眉ひとつ動かさずその場を見つめていた。

クランバトル倶楽部特殊部隊ハウンズ、以前にシャーレの先生が訪ねてきた際に、なり損ないの元へと案内していた4人と、その時離れていた1人。

合計5名で結成された部隊だ。

なぜ彼女達がなり損ないの側にいるのか、それは突如として姿を眩ました天童ケイを捜索するためホルスやレイサ、イブキにミユと全員がブラックマーケットへと出ていたのである。

何でこんな時に、とケイへの心配と早く見つけたいと言う焦り、そして予想出来ない、出来るわけがない目の前の突然の来客になり損ないの心は、乱れに乱れていた。

 

「クックック……そんなに警戒しないで下さい、クランバトル倶楽部会長殿」

 

目の前にいる黒いビジネススーツを身に纏った、影の様に黒く無機質で右目にあたる箇所に発光部があり、そこから顔全体に亀裂が走っている異形の存在。

ブルーアーカイブにて、小鳥遊ホシノや先生を苦しめた存在、ゲマトリアの黒服だ。

 

「悪いね、こういう場所で生きてるもんで警戒しなきゃ生きてられないもんでね」

 

「それはそれは、改めて私はこういうものです」

 

そう言いながら黒服が両手で差し出してきたのは、黒い一枚のカードのようなもの。見れば真っ黒なカードに白い文字でゲマトリア所属、黒服という文字と信用できない電話番号が並んでいた。

 

「これは丁寧にどうも、悪いが名刺なんて無くてな。口頭での自己紹介で許してくれ、俺は……なり損ないとでも呼んでくれ」

 

「なり損ないですか、承知致しました。」

 

そう言いながら黒服はティーカップに入れられた紅茶を1口、口に……口でいいのか?に含むと口を開いた。

 

「単刀直入に申し込みましょう、クランバトル倶楽部会長、なり損ない殿……私と契約を交わしませんか?」

 

 





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え?拘束されたリオ会長の一枚目?スチル?

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