なりそこないと、壊れた生徒   作:クレナイハルハ

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従うという自由

 

「単刀直入に申し込みましょう、クランバトル倶楽部会長、なり損ない殿……私と契約を交わしませんか?」

 

そう話す目の前の存在、黒服に俺は困惑していた。

ゲマトリアが俺と契約、何の冗談だよ。

俺らと仲良くしたところでコイツらに何の得もない筈だ……クランバトル倶楽部ではなく俺を指して話した感じからしてコイツの目的はこの施設じゃない。

恐らくはこの世界の住人じゃない俺やホルス、レイサ達か?

それとも……。

服の内側に作ったポケットに入れてあるパンドラの箱……シッテムの箱とも似たこれか?

 

「契約ね、こんな弱小企業にそんな価値があるもんなんてねぇと思うが」

 

「あまり自身を卑下なさらない方がよい、このキヴォトスにおいて賭博場でクランバトル倶楽部の話題が上がらない訳がない。それ程に、ここは大きな場所(企業)となっているのですよ」

 

「そりゃどうも、お世辞だとしても嬉しいですよ。それでゲマトリアの黒服さんは、何を思ってウチに契約を?」

 

俺が目的にしても、ケイやレイサ達が目的でもまずはゲマトリア、黒服の狙いを確かめなければ。

 

「そうですね、私達の求めているのは……彼女です」

 

そう言って黒服が手を向けたのは、俺ではなく俺の背後に並ぶクランバトル倶楽部特殊部隊ハウンズの1人。

イヴと名付けた彼女は、極めて異質な姿をしている。

白髪は別に普通だ。だが左耳が()()()()で、右耳は()()()()

長い前髪で覆い隠された右目、露わになった赤い左眼。

背中からは黒い片翼が生えており、尻からは狐らしい明るい黄土色のキツネの尻尾が生えている。

見るからに、普通の存在ではない彼女はハウンズとなった彼女達と行動を共にしていたわんわんヘルメット団の1人だ。

彼女を改めて見れば、ゲマトリアならば接触して来ても可笑しくないであろう異質さを彼女は持っていた。

 

「彼女は……恐ろしい程に魅力的です。クックック……()()()()として、ですが」

 

黒服の言葉は、ある意味で想像通りだった。

俺やケイ、レイサのようなこの世界の住人が目的じゃないことに少しだけ安堵してしまう。

小鳥遊ホシノ、彼女を狙った時と同じようにホルスに目を付けられたのかと思った。でも奴らはイヴを目的として接触してきた。

確かに、イヴはゲマトリアが気になりそうな容姿をしている。

 

「キヴォトスの生徒全てに当てはまらず、全てにおいて当てはまる要素を持っている。他に前例のない彼女が、文字通り喉から手が出る程に欲しいのです」

 

だが俺はゲマトリアが何をしているのか、黒服がどんな実験をしているのか知らない。

ゲームではあまり多く語られなかった、ゲマトリアの神秘実験。

だが確実にゲマトリアに渡してはいけないことを、ブルアカのバッドエンドスチルが示している。

 

「生体データ、戦闘ログ、脳活動、記憶の断片。可能であれば、精神負荷時の反応も……どうでしょうか?」

 

「それを聞いて、はいどうぞ……なんて言うと思うか?ウチのハウンズはファイブマンセル、専門に訓練されたメンバーの入れ替えを求めるのなら…“相応の対価”は必要だと思うが」

 

「クックック…勿論分かっています。対価として此方は……貴方が今、最も欲している情報を提供しましょう」

 

「……何の事だ」

 

俺が今、一番欲しい情報。

まさか、知ってるのか俺達が"ケイ"が今何処にいるのか探していることを。

いや、それはない筈だ。

だとしたら、俺の最も必要としている情報は何だ?

 

「そちらの彼女が、何処から来た存在なのか……」

 

なるほど、イヴの過去についてか。

チラリと背後を見れば、ハウンズの彼女たちは驚いた様子で目を見開いたり、イヴのことを視線だけ向けて見ていた。

当の本人、イヴはどこ吹く風でいつもの様子で立っている。

 

「悪いが、別に彼女の過去について興味はない」

 

「それは貴方の考えであって、彼女の考えではない。彼女にも意見を聞くべきでは?」

 

黒服の言葉に、まだイヴを諦めていない事が感じ取れる。もしイヴがここを離れる選択をしたのなら、果たして俺は止められるのか?止める資格はあるのか?

 

「イヴ、お前は意見を言え。考えていること、思っていることを、嘘偽りなく答えろ」

 

「私は私の過去に興味がありません」

 

想定より遥かに早いイヴの声に、俺は内心驚いた。普通ならば悩んだり、考え込むような所だろう。

なのに、イヴは即答した。

自身の過去に興味がない、と。

 

「貴方は自分が何者であり、どのような存在であるのか、知りたいのではありませんか?」

 

「私は、この人の飼い犬だ」

 

黒服の言葉に、イヴは又もや即答でそう答えた。

イヴの目線がまっすぐ俺に向かい、離れない。

 

「首輪をつけたのはこの人だ、命令をくれたのも意味を与えたのもこの人だ。だから、私はこの人の指示なら()()()()()、噛めと言われれば噛むし、守れと言われれば守る」

 

「貴方は、自分が何処からきたのか知りたくはないのですか?」

 

「過去は、知らない。思い出したいとも思わない。あの日より前に、私はいなかった。だから、今だけがあればいい。この人の声が聞こえるなら、この人の指示があるなら。それが──」

 

イヴは、一度言葉を止めると私から黒服へと視線を移しはっきりと言った。

 

「私の生きる意味だ」

 

その言葉が、静かに、だが確実に俺の胸に突き刺さった。

 

───ああ、そうか。

 

俺はようやく理解してしまった。イヴは俺に()()()()()()んじゃない、()()()()()んだ。

 

首輪をつけたのは確かに俺だ、命令を与えたのも、意味を与えたのも逃げ道を塞いだのも、俺だ。

……違う、俺にはそんなつもりじゃなかった。

彼女たちを見て拾ったとき、俺は言うならば勢い任せだった。

自身をハンドラーだと自虐し、それっぽく拾った。

たまたま好きな髪色だったから、そう理由をつけて。

生きていける場所を、無いなら名前を。

無いならば生きる意味を。

だが、その意味は俺からしか与えられない意味だった。

普通の生活をさせたかった、選択肢を与えたつもりだった。

けれど、振り返ってみればどうだ。

彼女たちをクランバトル倶楽部特殊部隊ハウンズとして命令を出し、役割を与え、期待し「お前たちは俺の部隊だ」と言い続けてきた。

逃げてもいい、と言ったことがあったか?

選ばなくていい、と言ったことがあったか?

─────ない。

 

喉の奥が、ひどく乾く。

 

俺はいつの間にか増やしていた、ケイやレイサ達のように背負うべき命。

彼女を、彼女達をこうなるように、仕向けてしまったのか?俺は………俺は。

 

「交渉は決裂ですね、ならば──」

 

そう言いながら黒服はイヴから俺へと視線を移し、言葉を続ける。

 

「なり損ない殿、私たちが彼女を観測する許可を頂きたい。その対価として私達は、彼女の武器を提供しましょう」

 

イヴの武器を?

 

「聞くが、観測は何処までだ?」

 

「基本的にクランバトル倶楽部での戦闘、日常生活の範囲のみの予定です」

 

「わかった、その程度の範囲なら構わない」

 

「では、此方の契約書にサインを」

 

そう言いながら黒服は何処からか取り出した契約書をテーブルへと置く。俺はその契約書を確認し特に問題がないこと、端に小さな文字で何か書かれていないか確認してサインをした。

 

「では、これで契約は締結ですね」

 

黒服の言葉に俺は頷き、この世界で初となるゲマトリアとの接触を穏便に済ませることが出来た。

 

それにしてもケイ、お前は一体、何処にいる?





サーモンの箱、更新情報なし

メリークリスマス先生、分かっているでしょう?
クリスマスは鮭を食え。

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