なりそこないと、壊れた生徒   作:クレナイハルハ

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魔王の為のカーテンコール

その扉の前に、アリス達は立っていた。

 

無名の守護者を相手取り、パーティーから離脱していったCleaning&Clearingやエンジニア部。

彼女達に後方を任せ、ゲーム開発部の少女達と先生は、要塞都市エリドゥの中央にそびえ立つタワー、その最上階へと辿り着いていた。

皆が全力で戦っていた。

 

それでも──ユズだけは、拭えない()()()を覚えていた。

 

それは恐怖とは少し違う、敵意でも、殺意でもない。むしろ過剰なまでの()()に近い感覚だった。

ここへ至るまでの道程。

守護者の配置、迎撃の間隔、攻撃の選択。

どれもが致命傷を与えないよう、慎重に制御されていた。

まるでこの場所に辿り着くことそのものが、最初から想定された正解ルートであるかのように。

 

……私たちは、試されている?

 

ユズは無意識に、グレネードランチャーを握る手に力を込めた。

ゲームであれば、これは最終ステージ前の演出だ。

引き返せない地点、ここから先は勝つか、すべてを失うかしかない。

ここへ来るまでに遭遇した無名の守護者達の動き。

それは妨害というよりも、まるで自分達だけをこの場所へ導くために配置されていたかのようだった。

誘われている。

そう思った瞬間、背筋が冷たくなる。

だが、扉の向こうには、このキヴォトスを滅ぼそうとしている名もなき神々の王女がいる。

今はただ、彼女を止めなければならない。

緊張に喉を鳴らしながら、モモイとアリスは互いに頷き合い、扉を押し開けた。

 

「待っていましたよ、AL-19……いえ」

 

部屋の奥、巨大な椅子に腰掛けた名もなき神々の王女は、余裕の笑みを浮かべて言う。

 

「天童アリスと、呼びましょうか」

 

その視線は、ゲーム開発部と先生を一望するように向けられていた。

そして、すぐ傍……無名の守護者に拘束されたまま、調月リオは宙に吊るされていた。

 

「もう一度聞きましょう、本気で調月リオを救うつもりですか?」

 

「はい、アリスは……アリスは勇者になります!モモイや先生が教えてくれました、自分の成りたいものは自分で決めても良いって!だから私は勇者として仲間をけっして諦めません!だから助けます!貴方も止めて見せます!!」

 

「聞くだけ無駄でしたか」

 

アリスの言葉に、名もなき神々の王女は目を瞑り椅子から立ち上がり椅子の後ろに置かれていたアリスの持つソレと同じ光の剣:スーパーノヴァを持つと、椅子のある壇上からゆっくりと降りてくる。

 

「貴方のような失敗作が、私に敵う訳がありませんが──」

 

名もなき神々の王女が一段一段、ゆっくりと降りてくる。

 

「ここまでやって来た貴方達の愚かさに免じて相手をしましょう」

 

重苦しいプレッシャーが、空気そのものを押し潰していくのを感じ始める。

 

「さぁ、貴方達の言う所のラスボス戦闘ですよ?データのセーブは済ませましたか?」

 

すべての段を降りた名もなき神々の王女に対してゲーム開発部の全員が手に持つ銃を向ける。

ユズは確信した。

この戦いは、用意された最終ステージなのだと。

 

「いくよみんな!」

 

「先生、指揮をお願い!」

 

「"任せて!"」

 

名もなき神々の王女とミレニアムサイエンススクールのゲーム開発部、キヴォトスの命運を賭けた戦いの火蓋が今切られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲーム開発部へと向けた無名の守護者が次々と撃ち落とされていく。

才羽モモイとミドリ二人の姉妹故の阿吽の呼吸とも言える連携により無名の守護者は破壊され、そして花岡ユズのグレネードランチャーから隙を突くように放たれたグレネードが私の足元で爆発する。

爆発の痛みに視線がそれる。そしてまだ動けることを確認し正面を向けば光の剣:スーパーノヴァを構えた王女がいた。

王女、天童アリスの姿に思わず私は笑みを浮かべる。

 

そうだ、これでいい。

 

この身体は本来この世界に存在してはいけない。

別の世界の天童アリスの身体。

天童アリスという人格は消去され、残された鍵である私と天童アリスの持つ大切なセーブデータ(思い出)のみが残された入れ物(身体)

私が破壊されそうになった王女を救うため、身体を乗っ取りプロトコルATRAHASISを実行してしまった。

 

そんな私の王女の大切なもの、そして王女自身をも滅ぼした私へ残された、たった1つの贖罪。

 

私という最低最悪の魔王を、王女という勇者が倒すことで王女は認められ、名もなき神々の王女ではなく、天童アリスとして周囲に受け入れられる。

そして私が誘拐した調月リオを王女が救うことで、それが調月リオへの大きな恩を着せると同時に、王女の善性の証明にも繋がる。

 

そのために必要な、打倒されるべき悪こそが私がこの世界に存在する意味なのだ。

 

「光よ!!」

 

その言葉と共に天童アリスの光の剣:スーパーノヴァから放たれた光が迫る。

 

あぁ――ようやく、ここまで来ましたね。

 

迫る光は私の腹部に当たる。

瞬間腹部に大きな衝撃と痛みを感じ、私は後ろへと大きく吹き飛ばされ玉座の椅子へと叩き付けられた。

身体に力が入らず、椅子に座っている状況から立ち上がることが出来ない。

 

「甘い、ですね……私を完全に破壊しなければプロトコルATRAHASISは止まりませんよ」

 

震える身体に力を入れ、椅子から立ち上がり光の剣:スーパーノヴァを構える。それに対抗するように王女もまた光の剣:スーパーノヴァを構えた。

これで王女達はキヴォトスの脅威を打ち倒し、物語はエンドロールへ向かう。

 

『一人でダメならアリスが一緒に、いや先生ごと背負います。みんなを助けて、進むべき道を照らし導くのが、私が背負った勇者の役目ですから』

 

あぁ、そういえばあの人とこんな約束をしていましたね。

 

すいません、どうやら私はその約束を果たすことが出来ないままゲームオーバーです。

でも、貴方の側には沢山の生徒がいます。

貴方の元で、貴方の手を引いてくれる私の代わりがもう沢山います。

 

なので、きっと大丈夫ですから。

 

脳裏に浮かぶのは、この世界に呼び出され、共に過ごしてきた異なる世界の生徒達。

そして、自身を呼び出したパンドラの箱を携えた、成り損ないを自称する大人。

 

「これで最後です!魔力充填200%、ターゲットロックオン!光よ!!」

 

その言葉と共にアリスの光の剣:スーパーノヴァから光が放たれたのを確認して私は構えていた光の剣:スーパーノヴァを手放した。

床に光の剣:スーパーノヴァが落ちる音がやけに遠く感じられる。私は迫る一撃を受け入れようと両手を広げる。

私はただ、その一撃を受け入れる。

 

王女、どうかあなたは前を向いてください。

 

私のことは、物語の中の悪役として忘れてしまって構いません。

 

それで、あなたが笑えるなら。

 

瞬間、ゆっくりと流れる目の前の景色。

天童アリス、そして"先生"は私の行動に動揺しておりミドリやモモイ、ユズもまた目を見開いている。

 

光が迫る。

 

世界が、音を失い呼吸の音さえ、遠くなる。

 

これが、エンディング。

 

私に与えられた、唯一の救い。

 

王女……いえ、アリス。

 

「どうか……良き旅を」

 

貴方の旅路が光に満ちますように。

 

目を瞑り、その一撃を待つ。

 

瞬間、大きな音と共に私の目の前に何かが落ちてきた音と同時にガキンと金属同士がぶつかったかのような音が響き渡る。

目蓋を開くと周囲には土煙が舞っており、上をみれば天井に穴が空いていた。

そしてケイの目の前には、大きな盾を構えた短く切り揃えられたピンク色の髪とオッドアイが特徴的な少女が立っていた。

 

「………」

 

彼女の登場に、天童アリスや先生達は驚いており銃口が下がっていた。

ケイを守るように、ケイとゲーム開発部の間に入り盾を構えていた彼女はゆっくりと振り返りながら微笑んだ。

 

「今度は、間に合いました」

 

暁器ホルスが、アリスの一撃からケイを守った。

 

突如として現れた存在に混乱するゲーム開発部や"先生"を他所に部屋の入り口から戦場の中央へと新たな“影”が割り込む。

高速で無駄のない軌道、躊躇のない踏み込み。

五つの影がゲーム開発部と"先生"の間、ケイとホルスの前に滑り込むように展開される。

 

─────犬耳。

 

全員が犬の獣耳を揺らし、低い姿勢でそれぞれが手に持った銃を構える。銃口は即座に先生側へ向けられ、しかし引き金は引かれなかった。

 

「……っ!?」

 

"先生"と生徒たちが息を呑む。

その動きはあまりに洗練されていた。

突発的な乱入ではない、最初からこの瞬間を想定していた動きだった。

彼女たちの装いは、これまで見てきたどの学園の生徒とも違っていた。

黒と灰色を基調とした軽装甲スーツ、可動部を邪魔しないよう最小限にまとめられたプロテクター。

太腿や腰部には予備マガジンとツールが無駄なく配置され、どれも使い込まれた痕がある。

 

「特殊部隊ハウンズ、展開完了」

 

先頭の生徒、イヴの視線がケイを捉える。

無事な姿を確認したイヴは耳元のインコムに触れ短く告げる。

 

「安全圏、確保」

 

次いでムニ。

 

「保護対象、視認」

 

シズネが、ホルスの背後で呆然としているケイを一瞥する。

 

「……生存確認」

 

最後にリクとロナが左右を固める。

特殊部隊ハウンズの五人は、ケイとホルスを中心に半円陣形を組み、完全に“盾”となって立ちはだかった。

その一連の動作は、言葉が少なかった。

だが、それだけで十分だった。

"先生"は、無意識に息を詰めていた。

銃を向けられている。

だが、これまで感じたことのある威圧とは違う。

感情がない。

怒りも、迷いも、躊躇もない。

ただ状況を制圧するための視線だけが、こちらを捉えていた。

 

──コツ、コツ。

 

重い足音が、遅れて響く。

先生達が通ってきた通路から、"先生"にとって見覚えのある生徒に守られるように、一人の男が姿を現した。

 

「"貴方は……"」

 

その存在に、"先生"は驚き目を見開いた。

 

「……そいつは、俺んとこのだ。保護者が連れて帰るのは、当たり前だと思うんだが?」

 

現れた男性は、クランバトル倶楽部会長。

自身を成り損ないと名乗る、そんな彼が、ケイの側へ立つと淡々と、強く言い切った。

 

 

 

 





パンドラの箱、情報更新。

─クランバトル倶楽部特殊部隊ハウンズ─
成り損ないにブラックマーケットで拾われた元ワンワンヘルメット団の『イヴ』『ロナ』『リク』『シズネ』『ムニ』の5名で構成されたクランバトル倶楽部を守るための特殊部隊。
全員が白髪であり、犬耳が生えている事が特徴的。基本的には、クランバトル倶楽部での警備を担っている。
訓練はホルス、イブキが監修している。

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