ホルスと美甘ネルが1対1の戦いを始める、これで美甘ネルは押さえておける。
その瞬間、成り損ないの視界に赤い未来がいくつも浮かんでは消えていく。
ホルスとの戦いの中で成長したネル、そしてそんな二人の戦いが長引いた事で全ての増援が到着する未来。
時間は、想定より短い。
「ロナ、広範囲に銃弾をばらまいて牽制。イヴは常にグレイプニールを撃てるようにしておけ。続いてシズネとリクは見え次第に撃て!残弾を気にせず撃っていけ!」
「"ミドリ!一旦下がって、モモイはそのままでアリスはモモイの辺りで攻撃!ユズも少しだけ前に出よう!"」
成り損ないの言葉に、犬耳を揺らしロナと呼ばれるハウンズの中でも小柄な彼女がミニガンで弾幕を張る、その中からサブマシンガンを放つリクとリボルバーを構えるシズネ。
一方で先生は、レイサに狙われたことからミドリを後衛に下がらせアリスをモモイと同じ前衛、ユズを中衛へと配置する。
飛ぶ銃弾を避けるように走るミドリとアリス、そしてユズの様子に成り損ないは耳に付けたインカムへと触れ口を開いた。
「撃て」
次の瞬間、後衛へと下がっていたミドリの銃を持っていた腕に大きな衝撃と痛みが走りミドリは思わず持っていた銃、フレッシュ・インスピレーションがその手からこぼれ落ちる。
即座に拾おうと急ぐミドリだが、フレッシュ・インスピレーションへと何かが当たる。その衝撃で銃が遠くへと吹き飛ばされた。
「"これは一体……"」
驚く先生を横に、成り損ないは時間稼ぎが出来たことに安堵しつつも次の一手をどうするか思考する。
エリドゥ外からの
「レイサ、天童アリスを止めろ。ハウンズは才羽モモイと花岡ユズを警戒。ムニ、グレネードランチャーが飛んできたらすぐに撃ち落とせ!ロナは下がってリロードだ」
レイサが再び姿勢を低くしながら前へ出てきたアリスへ向けて駆け出し、ハウンズはそれぞれの銃をモモイとユズへと向け警戒する。
「"アリス、引き付けてから撃つよ!ギリギリまで近付けて!"」
レイサがアリスへ迫るなか、ユズの放ったグレネードがレイサの前へと向かっていく。
だが、即座に2発の銃声と共にレイサへと当たることなく爆発した。
ユズの一手はムニの拳銃によるダブルタップによって破壊され、レイサが光の剣:スーパーノヴァを構えたアリスへと近付いていく。
まるでこちらを撃てといわんばかりに真っ直ぐ、最速で、最短で向かってくるレイサにアリスは困惑しながらも引き金を引いた。
「光よ!」
光の剣:スーパーノヴァから放たれた光を見たレイサは、即座にレイサは、床を滑りながら低く身を沈め、勢いよく前へと滑り込む。
アリスの放った弾がレイサの上を通過する、そのスライディングの勢いのまま地を蹴り、低い姿勢から走りアリスへ向けたシューティング☆スターの引き金を引いた。
連続して放たれる散弾を、即座にアリスは光の剣:スーパーノヴァを盾にして受ける。
「アリスっ!」
そんなアリスの様子に、ユニーク・アイディアを構えたモモイだったが即座に顔のすぐ横を数発の銃弾が通過し、青ざめた顔をする。
モモイを狙ったシズネは外したことに悔しそうな顔をしつつも、リロードを行う。
「アリスちゃん!」
ユズの声と共に再びアリスとレイサの間にグレネードが放たれる。グレネードランチャーが此方へと向けて放たれたことを聴覚で察知したレイサは即座にその場を離れる。
そしてアリスもまた後ろへと下がり、ユズの放ったグレネードの爆発を回避する。
「"やっぱり人数差は苦しいね……"」
そう言いながらシャーレの先生の向いた視線の先では、ネルと対峙するホルスの姿。
ネルとホルス、互いに銃だけでなく格闘等を織り交ぜた戦闘だがどちらも一歩も譲らない。迂闊に援護にも入り込めない戦いを繰り広げていた。
「すいません、今戻りました!」
その手にフレッシュ・インスピレーションを抱えてミドリが復帰するのを横目にモモイが口を開く
「そもそも相手はミニガン持ちだよ!?ちょっとでも体を出したら蜂の巣だからね!?それにネル先輩はあっちの戦いに夢中だし、これじゃあ援軍の意味が無いよ!?」
「で、でも相手の一人を押さえてくれますし」
今のところ、大きな破壊力を産むが連続性の低いユズのグレネードランチャーとアリスの光の剣:スーパーノヴァ。
明らかに人数差と火力の差が大きく開いていた。
「やっぱり、弾幕量が……」
ユズがそう呟いた時だった。部屋の入り口から何かが迫ってくる音が響き渡る。
それはまるで何かが回転するような音。次の瞬間部屋の扉をバンと開けながら何かがこの部屋に入ってきた。
瞬間、ホルスとネル以外の全員の動きが固まり部屋へ入ってきた存在へと目を向ける。
ゲーム開発部やシャーレの先生はそのデザインに言葉を失い、ハウンズは警戒し。
成り損ないは……やっぱりダサいなと思った。
「待たせたね、みんな!!」
現れたのは子供の工作のような頭部に、ミレニアムの校章がでかでかと描かれたボディ。
4本腕があり右腕にはシールドとバズーカ砲、左腕にはガトリングガンとアサルトライフル。
下半身は戦車のようなキャタピラと、極めて独特かつ
頭部に生えた某モビルスーツなような角によってカッコいい風になっているのは間違いだと思いたい。
そんな前衛的なデザインのロボットの背中にしがみつく形で現れたのはエンジニア部のウタハ、コトリ、ヒビキだった。
彼女らを乗せたその謎のロボットは高速でゲーム開発部やシャーレの先生と成り損ない達を阻むように間に入り成り損ない達の射撃を防ぐ。
「うわぁっ!?ださっ……」
「先輩達が作ったんですか、ソレ」
「説明しましょう!これはトキさんが話していたアビ・エシェフなるものを探してエリドゥの倉庫を捜索していた所を発見した、謎のロボットです!少々デザインがダサ……んんっ!!よろしく無かったので、私たちが少し改造したものです!」
コトリの説明に、こんなロボット誰が作っていたんだろうと会話をするゲーム開発部の後ろ。
いつの間にか、ゲーム開発部の後ろへと回収されていたリオは視線を下に向けながら小さく呟いた。
「……ダサくないわ」
若干を頬を膨らませているのは勘違いだと思いたい。
この表情でご飯三杯食べれるとはヒマリの発言である。
「そして、このロボットの操作だがユズ。君にお願いするよ」
「えっ!?む、無理です!こんなロボットなんて、ゲームでしか乗ったことが」
青ざめて目を泳がせるユズに対してウタハが謎のロボットの背中から
「勿論これに乗り込むのは不可能、だから操作して貰うためにコレを用意した。ウタハ先輩」
「アーケードコントローラ~♪ふーふーふ♪ふざけるのはここまでにして、コトリ操作方法を」
「はい!此方はユズさん専用にカスタムされたアーケードコントローラーです!此方のロボットの操作は格闘ゲームのような操作感を実現しています!」
そう言いながらユズへと渡されたのは、ネットでも販売されている筐体に設置されたアーケードコントローラーと呼ばれる、特別なゲームのコントローラーだった。
パッドと呼ばれるものではなく、スティックとボタンの押し込みにより操作される物でありゲームの猛者はこれを手足のように操る。
ただし、メンテナンスが大切である。
「"ユズならきっと出来るよ、エースパイロットだもんね!"」
「それはその、ゲームの中の……」
「"あなたなら、出来るわ(裏声)"」
「せ、せんせぇ……」
「"君になら出来ると、信じているよ。(キメ声)"」
「勝利の栄光を……ユズ、キミに」
そう言いながらシャーレの先生とウタハに背を押されたユズはアーケードコントローラーを握り、ボタンとスティックへと手を合わせる。
すると、先程までの青ざめた表情から打って変わり鋭い目で確認するかのようにボタンを数回叩いてロボットの操作感覚を確認する。
「"あなたに、力を(裏声)………さぁ、反撃いくよ!"」
「アバンギャルド君は、ダサくないわ……」
シャーレの先生の言葉と共に動き出すアバンギャルド君に、成り損ないは頭を抱える。
先程から感じる、まだ耐えられるレベルの頭痛と目眩を堪えながらも赤い絶望の未来を観測して次の一手を探す。
とうとうエンジニア部までもが増援、しかも花岡ユズが駆るアバンギャルド君MARK Ⅱ。
某天パを相手にしているレベルで戦術を組まなければ押し負ける。人数差も火力も一気に抜かれてしまう。
なら、まだ操作を覚えていない間に押しきる。
「あのロボを破壊する。イヴはグレイプニールを発射して援護、ロナとムニは近付いて関節を狙って破壊しろ。リクとシズネは引き続き敵の狙撃を」
ハウンズ全員の犬耳がロナとムニは互いに頷いてから飛び出し、それを援護するようにイヴがNIGHT FALLーTYPE:Rへと装着されたアンダーバレルグレネードランチャー、グレイプニールからグレネードを発射する。
「そこ!」
グレイプニールから放たれたアバンギャルド君へのグレネードは、アバンギャルド君が放ったアサルトライフルの銃弾によって破壊された。
「やっぱりエースパイロットですね、ユズ!」
そう言いながらアリスがロボットの背後から飛び出しチャージしていた光の剣:スーパーノヴァを、向かってくる二人へと向ける。
だが、向けたアリスの横に走り迫ったレイサがシューティング☆スターの引き金を引く。
「HPがっ!?やっぱりまた邪魔をするんですね、バーサーカー!」
「ここで、落としますっ!」
数発を受けてすぐに光の剣:スーパーノヴァを盾にするアリスと、シューティング☆スターを構えたレイサが対峙する。
アバンギャルド君から放たれる段幕をロナとムニは、左右に別れて避けながら前進する。ロナはミニガンを持って走るのではなく肩に掛けて背負う形で走る。
そしてムニは走りながら両手に持ったハンドガンで、自身とロナへと迫るグレネードを破壊し、アバンギャルド君へと牽制で数発を撃ち込む。
だが、ダブルタップで撃ち込まれた銃弾はその頑丈な装甲により阻まれてダメージが入らなかった。
「やっぱり、装甲を貫けないか……」
その様子にロナと、ムニは即座に走り出しながら、成り損ないの指示を脳内で繰り返す。
『ロナとムニは近付いて
「…狙うのは」
「関節!!」
その言葉と共に、再び駆け出すムニとロナ。
そんな二人を倒そうとユズはその手の動きを高速で動かし、コマンドを操作していく。
アバンギャルド君のバズーカから放たれ続けるグレネードをロナは空中へ向けたミニガンの掃射により破壊していく。
そしてミニガンの掃射でエリドゥの建物が削れていき土煙が上がる中、ムニはその両手でアバンギャルド君の銃口を撃ち、その衝撃で攻撃の狙いを自分達から外す。
アバンギャルド君が左右に別れているムニとロナに左右の武器で反応しようと両腕をそれぞれの方向へと広げる。
そこに、勝機はあった。
「イヴ、あのロボの肩関節にグレイプニールを撃ち込め」
「了解!」
瞬間、グレネードを装填していたイヴは即座にアバンギャルド君へと銃口を向け引き金を引く。
イヴには当てられないという考えもなかった。迷いもなかった。
何故ならば主が、成り損ないがそう指示したからにはそうできる。
明確に、あの関節にグレネードを撃ち込むことを指示してくれた、ならば自分はそう実行するのみだから。
「グレイプニール、第二射装填。発射!」
迷うことも、躊躇うこともない。
グレネードが一つ放たれ、即座に二つ目が放たれ宙を舞う。
ユズは目の前のロナとムニの存在に目を奪われ、反応できなかった。
ゲーム開発部の全員が、レイサやリク、シズネの射撃に集中していたが為にグレネードへ対処出来なかった。
故にアバンギャルド君の両肩関節へと、グレネードは入り込んだ。そしてアバンギャルド君が腕を動かすため肩の関節を圧縮する。
瞬間、轟音と共に両肩から火花と煙が上がり4本の腕が地面へと落下する。
両肩の装甲に、隙間が出来た。
ロナは即座に地面を蹴って、アバンギャルド君の腕が取れたことによって生まれた右肩の隙間へとミニガンを付きだし、そのまま引き金を引く。
彼女はミニガンの銃身を装甲の裂け目へと押し付けるように突き出し、引き金を引いた。
唸り声のような音と共らに、銃口が回転を始める。
回転数が跳ね上がり、次の瞬間、暴力的な連続音が空間を塗り潰した。
排莢された薬莢が雨のように床へと叩き付けられ、灼熱の弾幕が至近距離から装甲内部へと流し込まれていく。
装甲の内側で何かが砕け、削れ、千切れる感触が、振動となってロナの腕へと返ってきた。
そしてムニは反対の左肩へ、両手に持ったハンドガンの銃口を向け撃ちきるつもりで連射する。
金属同士の擦れる音と、金属が歪んでいく音。
そうして銃弾が撃ち込まれていったアバンギャルド君はそのまま前のめりに傾き、動かなくなる。
駆動音が途切れ、巨体は完全に沈黙した。
「目標の破壊を成功!」
「任務完了」
ゲーム開発部の少女達が驚きの声をあげるなか、成り損ないは、新たな赤い絶望の未来を見る。
それはこの場にいない生徒による増援、来る前に手を撃たなければ、そう考えた瞬間。
轟音と共に天井から、戦闘を繰り広げていたゲーム開発部とハウンズの間を塞ぐように巨体な何かが降ってきた。
成り損ないは先程までより明確に痛みが増した事から頭を片手で少し押さえながら次の手を探す。
落ちてきた巨体、それは巨大な人形だった。
両腕らしき場所には3銃身のガトリングガン『トライ・ポッド』が装着され、中央にはレオタード姿で頭にはバイザーを装着した少女……飛鳥馬トキの姿が見えた。
「お待たせしましたリオ様、そして先生。どうやら、そこの先輩ではこの状況を打破できないようなので、アビ・エシェフにて現着しました。ぴーすぴーす」
そう言いながらトキは操縦桿から手を離して両手でピースサインを、いじけているリオと何処か興奮した様子でアビ・エシェフを見つめる先生やエンジニア部へと向ける。
「おう新人、誰が!!打破出来ないって!?!」
「余所見とは、余裕ですねっ」
「おわっ!?そこは空気読んで待たねぇのかよ!?」
「戦場にそんなものありません」
トキの言葉を聞き流す事は出来なかったのか、怒った様子で振り返ったネルだが、即座にその場から横へと飛び退く。
ネルが先程までいた場所を数発の弾丸が通りすぎる。その銃弾は盾を構えながら拳銃を向けたホルスから放たれていた。
彼女の戦闘する様子はネルと対比するように違っていた。
ネルの視線は常にホルスを追っている。
目の前の敵だけを見据え、怒りと闘争心を燃料に突き進む。
判断は速いが、選択は感情に引きずられている。
一方でホルスの視線は、ネルだけを見ていなかった。
周囲、遮蔽物、距離、弾数。
戦場そのものを俯瞰したうえで、最適解だけを切り取るように行動する。
そこに迷いはなく、あるのは冷徹な計算だけだった。
成り損ないは思考する。記憶からトキのアビ・エシェフの注意点を思考する。
原作、花のパヴァーヌ2章に登場するトキの駆るアビ・エシェフは、エリドゥの電力と演算処理による支援を活用することで未来予知にも等しい回避機動を取ることができていた。
だが、今のアビ・エシェフにエリドゥの電力が供給されているとは思えない。
あの回避機動が出来るとは思えない。重要視するならあの火力だけ。
「ロナは下がってリロード、ムニ、イヴは引き続き新たな敵の対応を頼む。レイサは引き続きアリスを、シズネとリクはゲーム開発部を押さえろ!」
「"頼んだよ、トキ!"」
「はい、パーフェクトな私とアビ・エシェフにお任せください」
ハウンズの犬耳が揺れ、動き出す。
トキのアビ・エシェフがその両腕のトライ・ポットから放たれた弾丸の雨。
イヴとムニはその弾丸を避けるように駆け抜ける。そんな中でイヴとムニの視線が交差する。
イヴがグレイプニールを放ちトキへグレネードを放つ。
そしてグレネードがトキの近くへ向かった瞬間、ムニがハンドガンをグレネードへと向けて構える。
無言の連携、この爆発でダメージが与えられることは明らかだった。
瞬間、成り損ないの視界に赤いノイズが走る。
それは未来ではなかった。
予測の失敗でも、演算誤差でもない。
前提そのものが、書き換えられた。
トキとアビ・エシェフは、爆風が到達するよりも先に動いていた。
否、正確には『避ける位置』に『最初から存在していた』と言うべきだった。
無駄のない後退、角度の調整、弾幕の切り替え。
そのすべてが、まるで答えを知っているかのように噛み合っている。
成り損ないは見た。
原作には存在しないはずの装備。
アビ・エシェフの背部、簡素だが明確な目的を持ったバックパック。
「そんな、エリドゥからの電力供給がない今。アレは……」
リオの声が震える。
それは本来、都市規模のインフラと演算支援を前提にして、ようやく成立する機構。
未来予知に等しい回避機動は、“条件付きの特権”であるはずだった。
だが今、目の前ではその条件が現地調達と即席改修という、あまりにも雑で、あまりにも暴力的な方法で踏み倒されている。
「説明しましょう!」
楽しげな声が、その理不尽を肯定する。
「ここへ来る前に、トキさんのアビ・エシェフを完全に機能させるには電力が足りないと聞きました。なので、簡易式ですが外部供給可能な付属バッテリーを用意しました!」
「ふふ、マイスターとして……ロマンを追求するものとして!!完全稼働出来ない人型兵器は見ていて我慢できなかったからね。手を加えさせて貰ったのさ」
「前に作ったやつの応用だよ。その場にあった資材で、十分だった」
そう話すエンジニア部の言葉を遮るようにいくつもの足音が、入り口から聞こえてくる。
ずっとAlternative Protocolが警告してきていた、見せていた赤く、最悪の未来が目の前に現れた。
「先生!アリスちゃん!みんな!援軍に来たわよ!」
「ユウカ!と……えぇ!?」
「み、皆さんがどうして……」
入り口から現れたのは、銃を構えたミレニアムサイエンススクールのセミナー会計、早瀬ユウカ。
その後ろからは生塩ノアに和泉元エイミ、Cleaning&Clearingのアスナ、アカネ。
トレーニング部のスミレにレイと、様々なミレニアムサイエンススクールの生徒達が続いていた。
「アリスちゃん達を助けるために声をかけたら、すぐみんなが来てくれたわ!ここから一気に行きましょう!」
原作に存在しない、イレギュラー。
成り損ないはパンドラの箱を持たない手を強く握り締める。強く握り締めるがあまり、その手から血を流す程に、その心の奥底から感じる黒い感情を堪え続ける。
いや、ずっと耐えていた。
目の前の理不尽を、世界の理を。
抗っても、抗っても、抗っても。
選んでも、選んでも、選んでも。
絶対に俺を勝たせないようにしているのではと、そう思せてくる結果。
たった一人の生徒のためにと、その学園が総力をあげて立ち上がる。そんなゲームなら定番で、感動するような目の前の光景。
成り損ないにとってそれは残酷であり、苦みと怒りを抱くものだった。
なぜならその奇跡が、世界がシャーレの先生を勝たせるように世界が動いているようだから。
今の俺は、シャーレの先生に倒されるモブでしかない。
「これだから、お前は……嫌いなんだよ」
成り損ないは、耐えられなかった。
全部持っていて、全部を動かせる主人公……本当に見ているだけですべての未来が赤く染まっていく。
イライラさせる、主人公だから勝てるように世界が動いていく。本当に見ているだけで、自分を比較して嫌に成る。
「まだ、だ……?」
成り損ないは首をかしげた。何故口から言葉が吐き出せない?
ハウンズへと指示を、みんなへ指示を出さないといけないのに。
視界の端で、床に落ちる雫があった。
赤い雫が、一滴、二滴と床を汚していく。
誰かの血だと理解するまでに、わずかな遅れが生じる。
「……ぅえ?」
成り損ないを見たホルスの拳銃を持つ手が震える。持っていた盾が、投擲や牽制と意味をなしていた盾が、意味もなく手放された。
戦闘中にも拘わらずネルから完全に目を離し、兵士から少女へと表情が戻る。
銃声が止んだ。
ゲーム開発部の少女達が、シャーレの先生が、ミレニアムサイエンススクールの生徒達が動きを止めた。
成り損ないの頬を、赤黒い筋が伝っていた。
左目の端から、ゆっくりと血が溢れ出している。
「え、ぅぁ…え…?」
「かい、ちょう?」
アリスと対峙していたレイサが見た成り損ないの顔は、何故か過去……カズサを失ったときを思い起こさせる。
戦闘ではない
レイサの顔がどんどんと青くなっていく。
ショットガンをその手から取りこぼし、乾いた音を立てて床を跳ねた。
レイサは両手で胸を押さえ呼吸を繰り返す。
イヴやハウンズが動きを止め、目の前の敵から目を離し呆然と立ち尽くす。
指示を飛ばそうとした成り損ないの口から、声の代わりにゴポっと赤い液体が床へこぼれ落ちた。
床に飛び散った赤い液体が床を汚し、跳ねて座り込んでいたケイの服へと、掌へと付着する。
成り損ないは床に広がる赤黒いソレから目を逸らした。
逸らさなければ、見ないようにしなければきっと、止まってしまう。
止まれば……無駄になってしまうから。
ケイは自身の掌に付着したソレが血だということを理解していた。理解しているが何故そうなっているのか理解できなかった。
でも、そうなっている原因がわからなくても彼女には過去に成り損ないとの会話が過った。
『俺は"先生"じゃない。俺にはこれ以上誰かを背負うなんて出来ないんだよ』
かつて、レイサ……もう一人の生徒が召喚されるかもしれないと理解し、俯き体を震わせた彼の姿がやけに脳内のアーカイブへと残っていた。
目の前に立つ彼は、身長も何もかもが同じの筈なのに、何故かあの日よりも大きく見える。
でも、その体はあの時と同じように震えていた。
「もう、やめて下さいっ」
まるですがるように成り損ないの足へ取り付いたケイは此方をみず前を見たままの成り損ないに、そう言った。
「いいんです……もういいんですよっ」
それでも、成り損ないはケイを見ずに目の前……赤く染まる最悪の未来を見据えたままだった。
止まっていない、止められない、抗い続けている。
「もう私なんか、背負わなくていいんですよっ!!」
ケイの言葉がその場に響き渡る。
自身がずっと見詰めてきた罪、自身へと与えるための罰、贖罪のためにこの世界の王女のために犠牲になる。
そう決めて、成り損ないもハウンズも全てを置いて帰らないつもりで抜け出した。
そんな私を、目の前の彼が迎えに来た。
自分がきっかけで、彼がそうなっているののだとそう思ったケイはそう言わずにはいられなかった。
「知るかよ」
そんな成り損ないを気にもせず、Alternative Protocolは新たな赤い未来を見せ続ける。
1分で、いくつのもの赤い絶望の世界を。
成り損ないの体に忘れかけていた感覚が体を襲う。
感じなくなり馴れた、馴れてしまった未来を観測することで感じていたもの。
最悪の未来を観測し続け、なにも感じなくなり麻痺していると思い込んでいた。
『頭痛』『強い悲しみ』
『強い苦しみ』『忌避感』
『拒絶反応』。
抗っても、抗っても、抗っても。
瞳に映るのは、勝利などない絶望の未来。
それでも────。
「前に、言ったろ。アケコンより、家のコントローラーの方が手に馴染むって」
成り損ないが、ようやく視線を落とした。
血で汚れた床でも、敵でもなくケイへと。
「へ?」
その言葉に呆然としたケイは思い出す。
自身がクランバトル倶楽部から抜け出す前に彼と向かったゲームセンターでの会話の一幕を。
「負かせてやる。だから……ゲームしに、帰るぞ」
Alternative Protocolは、なおも赤い未来を映し続けている。
それでも、成り損ないはまだ……選ぶことをやめていなかった。
朧のようにも見える視線は、確かにシャーレの先生を捉えて離さなかった。
「俺はこいつをつれて、帰───」
「
瞬間、目の前の赤い景色に大きなノイズが走り成り損ないは自身の横から聞こえてきた声に理解が追い付かなかった。
何故、奴の声がする?
血を流しながらも向けた視線の先に、奴はいた。
黒いビジネススーツを身に纏った、影の様に黒く無機質で右目にあたる箇所に発光部があり、そこから顔全体に亀裂が走っている異形の存在。
何故、アイツがここにいる?コイツはパヴァーヌには関わらない筈だろっ。
それに、そうして俺の側に来たら奴らから敵だと思われて……いやもう今更だな。
「黒服……」
「クックック……会長殿は随分と、
黒服の言葉に、成り損ないは瞬間的に手に持ったパンドラの箱を庇うように体勢を変えようとして、思ったように体が動かず膝をつく。
「な、にが……」
「ともあれ、彼女のデータはまだ少ない。それにあなたにはまだ利用価値があるようだ」
「ずい、ぶんな言い方じゃないか。少なくとも、契約者に向けた言葉じゃねぇだろぅに」
膝を杖にして、体を震わせながら立ち上がる成り損ないはそう口にしながら、ここからどうすれば逃げられるかを考えていた。
「クックック、貴方はこのような直接的な伝え方の方が好ましいのでは?」
正面にはシャーレの先生が指揮する生徒に黒服までいる、この状況からどうやって逃げるか。
そう思考しようとした瞬間、目の前にまた赤い絶望の未来が浮かぶ。
「ッ!?」
目の前の光景が歪み、体に力が入りづらくなりまた膝をつく。今度は立ち上がろうと膝を杖にする力すらない、ただ膝におでこをぶつけ、俯いたまま動けない。
立ち上がりたいのに、立ち上がらなければならないのに、体は応えてくれない。
「まだ、続けているのですか。もう一度、警告しますよ会長殿。会長殿が使っているものが何なのか、私にはわかりません」
そう言いながらも黒服は成り損ないを助け起こすことも、肩を貸すこともせずに淡々と話を続ける。
「ですがそれ以上続けたなら、壊れますよ?」
「っ」
それを言われた成り損ないは、自分が考えないように……目を背け逃げてきた光景に目を向けた。
自身の目から流れたと思われる血。
口から吐き出し地面に広がる血。
自分の口元に手を伸ばす、ベタリと指に着いた赤黒いソレに気付いてしまったらきっと、俺は………。
呼吸が、浅くなっていく。
自身から吐き出されたと思えない、テレビドラマや漫画、アニメでしかみない量の血。
それが、自分から出たものとは思えなくて、自分の物だと理解してしまったら今の自分の体がどのような状態なのか想像してしまって。
─────────プツン──────────
成り損ないが強く張り続けていたソレが、切れる。
怖い、怖い、怖い、怖い!
息が、入ってこない。
吸っているはずなのに、肺に届かない。
胸が痛い。 心臓がうるさい。
鼓動が、耳の内側で暴れている。
胸が痛い。
息を、吸って、吸わないと………。
怖い。
まだ、怖い。
見るな。
見るな、見るな、見るな。
赤い……赤い、赤い、赤い。
違う。
これは俺じゃない。
そうだろ?そうであってくれ?!
怖い。
怖い。
考えるな、数えるな、理解するな。
理解するな。
血が、多い………多すぎる、死ぬのか?
嫌だ、死にたくないっ
息が、浅い。
浅い、浅い、浅い。
逃げろ。
逃げろ、逃げろ!
どこへ?どこへ逃げれば良い?
わからない、わからないわからない!
怖い……怖い、怖い、怖い。
片腕で胸を押さえ、浅く息を繰り返す成り損ないの瞳は朧だった。
恐怖からか、苦しさからか。
血が流れていたはずの場所には、いつの間にか涙が伝い、体は小刻みに震えている。
その様子に、ゲーム開発部だけでなく生徒全員、そしてシャーレの先生までもが困惑し、銃を構えた手を止めた。
ハウンズは次の行動を決められず立ち尽くし、レイサは彼と同じように浅い呼吸を繰り返す。
ホルスは腕だけでなく、体全体を震わせたまま動けずにいた。
成り損ないの異変に、ケイは慌てて彼を落ち着かせようと考える。
だが、何も浮かばない。
────ひとつだけを除いて。
以前に遊んだゲーム。
悲しみと苦しみに耐え切れず、座り込んで泣く主人公を、ヒロインが抱きしめるスチル。
何気なく見ていたその場面。
あれを真似れば、もしかしたら。
そう思って手を伸ばしかけ――ケイは躊躇した。
自分が原因を作った。
その自分に、彼を抱きしめる資格なんて、本当にあるのだろうか。
その沈黙の横で、黒服が再び口を開いた。
「さて、お久しぶりですね……シャーレの先生」
「“黒服……”」
「どうでしょう。ここは引き分けということで、互いに手を引く、というのは」
「“許すと、思っているのか”」
「以前にもお話ししましたが先生。ソレは、頻繁に行使するものではありませんよ」
いつの間にか生徒達の前へと出て黒服へと対峙するシャーレの先生の手には、黒いカード……大人のカードが握られていた。
なにより、先生にとって成り損ないには黒服……ゲマトリアと繋がっているかもしれないという疑惑が生まれてしまった。
故に、ここで逃がすという選択はなかった。
「"お前と彼が繋がっているかもしれないと分かった今、見逃すと思うのか?"」
「クックック、確かに。だが、私と彼は協力者ではなく契約者。ゲマトリアとの繋がりはありませんよ?あなたが、私の発言を信じるかどうかは別ですが……」
「"………"」
無言でカードを構えるシャーレの先生と、身動きひとつせずにシャーレの先生を観察する黒服。
その時だった、体の震えを押さえるように首を振り目を開いたホルスが口を開いた。
「ハウンズ!スモークグレネード出口並びに足元へ!あるだけ投げて!!」
瞬間、立ち尽くしていたハウンズ全員の耳がピクリと動きホルスの言葉を聞き即座にスモークグレネードを取り出して栓を抜く。
それはホルスが彼らの訓練での教官として、接していた経験からの反応だった。
「シズネはケイを、ムニとリクは会長を抱えて合流地点へ!私はレイサを抱えていく!イヴは最後尾にて殿!!」
スモークグレネードによって、一室が煙に巻かれていく。
ハウンズは即座にその聴覚を生かして、それぞれが告げられた言葉通りに行動していく。
その様子に生徒達は戸惑い慌てる中、先生は慌てた様子で煙の中でクランバトル倶楽部会長のいた場所を向く。
「"くっ"」
「クックック、どうやら彼女達が一枚上手だった様子ですね先生。では、私もここで失礼させて貰います」
「"待て!!"」
煙が晴れた部屋には、クランバトル倶楽部会長や対峙したハウンズ達の跡形も無く黒服の姿もなかった。
そんな光景にシャーレの先生は悔しそうな顔を浮かべた。黒いカードを握る指に力が籠もっていた。
パンドラの箱、情報更新。
【名称】NIGHT FALLーTYPE:R
【元銃】HK416&M320グレネードランチャー
&USFA Zip .22
&M870 Breacher
【アタッチメント】
アンダーバレルHG:グランドクロス
アンダーバレルSG:ガン:タブリス
アンダーバレルGL:グレイプニール
黒服が改造を施しイヴ専用にパーツ類をカスタムされているアサルトライフル。
アタッチメントでグレネードランチャー、ハンドガン、ショットガンをその場に合わせてカスタムが可能。
カスタムパーツを携行できる防弾ベストも一緒にプレゼントされている。
黒服がイヴの戦闘データを録るため、戦闘データと戦闘地点が常に黒服へ共有される。
ご愛読ありがとうございます
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お待ちしています。
21日、私はアリス(臨戦)とケイのアクスタを注文します。
ゲームでも引きます。
改めて考えると、メイドイベント復刻来ると聞いて、CMと二次創作がきっかけでブルーアーカイブを始め、CMでのアリスの「先生、アリスは勇者になりたいです!」の台詞から気になったアリスを引いて、ゲーム開発部推しになり、メインストーリーで更にアリスが一番の推しになった。
今度はブルーアーカイブ内で最推しであるアリスが最推しのガンダムSEEDの機体、フリーダムに似た姿で登場するとか、もう感動でヤバイですね。
アクスタはアリスとケイセットで買います!!
某コンビニコラボでも柴関らーめん器とレイサのアクスタを狙います。
あとやっぱりリオ(臨戦)、あれはダメでしょ。
何が合理的だよ、そんなπしやがって。