なりそこないと、壊れた生徒   作:クレナイハルハ

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生還の代償

 

要塞都市エリドゥ、中央タワーの近くにはインビジブルクロークによって潜伏している虎丸零式と、虎丸零式内部で成り損ない達の帰りを持つイブキの姿があった。

運転席へと深く座り込んでいたイブキは、ケイは勿論だが成り損ないの安否を心配していた。

 

「HiNA先輩、センセー達……大丈夫かなー」

 

虎丸零式の戦車内で靴を脱ぎ、裸足で椅子へと座る彼女の仕草は何処か、パンデモニウムの一人の生徒を連想させるものだった。

 

『イブキ、ハンドラーが心配なのは分かるけど今は待つことが私達の任された仕事よ』

 

「そう、だけど……」

 

HiNAと会話をするイブキの声はいつもと違い少し暗く無意識かベルトにつけられていた4つの帽子を膝の上にのせ抱き込むような形で座っていた。

彼らがケイを止めるため、エリドゥへと来た際に作戦と呼べるものは存在しなかった。

虎丸零式で移動し、エリドゥでケイの安全を確保し保護を完了次第にブラックマーケットのクランバトル倶楽部へと帰る。

練られた作戦のない、行き当たりばったりにも見えるその作戦は不安の残るものだった。

ヘイローを持たない彼が、銃弾が飛び交う戦場へ出てもし当たりでもすればどうなるか、簡単に想像できてしまう。

正直な話、イブキにとって天童ケイが何故このような問題を起こしてしまったのかについては、少しだけ予想できていた。

自分がセンセーにエデン条約への介入を頼んだ時のように、自分のいた世界で起こってしまったことを変えるために、起こした行動なのだろうと。

だからこそ、自分に彼女をせめる権利はない。

イブキだけでない、エデン条約にて救済を願って行動をさせて貰ったレイサもだとそう思っている。 

 

『イブキ、此方へ接近する熱源を感知したわ。インカムの反応もあったしインビジブルクロークを解除するわ』

 

生徒同士に連絡や現状報告のために用意されたソレの反応にイブキは即座にHiNAへとインビジブルクロークを解除させた。

エリドゥの景色に溶け込んでいた虎丸零式の装甲色が変化し黒へ変化する。

イブキは脱いでいた靴を履き、抱えていた帽子を腰のベルトへ戻す。

きっと、ボロボロな彼女の手を引いてセンセーは帰ってくる、あの日の私と同じように。

この世界でまだエデン条約がなされていないと、そう聞いたときの私がクランバトル倶楽部を抜け出し、ゲヘナ地区へ出ていったあの日。

あの人が浮かべていた優しい笑顔で迎えに来てくれたように───。

 

「え?」

 

虎丸零式に映る帰ってきたあの人達の姿は、イブキの脳の思考を止めるのに十分だった。

ハウンズの一人に背負われたボロボロのケイちゃん、ホルス先輩に背負われた顔を青ざめさせ呼吸をしているレイサ先輩。

そしてハウンズ二人に抱えられている意識のない様子の成り損ないの姿は、閉じた片眼からは涙と血が流れた痕が痛々しく残り、口元にも血を吐いたのか唇から伝った血の痕がベッタリと着いている。

 

イブキの視界に過去の光景が過る。

 

自分を覆い被さるようにして、爆発をその体に受け死んでいったあの人の、姿が。

体が震え、失う想像をして自然と目には涙が溜まる。

 

「嫌だ」

 

また、居なくなっちゃうの?

なんで?なんで?なんで?

イブキはいい子にしてたよ?いい子には良いことがあるって先輩達が教えてくれたのに、どうして?

 

「イヤ、だ……いや、いや、イヤ!!」

 

いい子にしるのに、どうして……どうしてイブキから大切な人ばっかり取っていくの?

 

『落ち着いて、イブキ』

 

「だ、だって!だってセンセーが!」

 

『ハンドラーは恐らくは眠っているだけよ、()()死んでないわ。』

 

HiNAの言葉にイブキの体の震えが少し収まった、イブキはこれからどう行動するべきかを考える。

まず、イブキがすべきこと。

 

「HiNA先輩!零式に先生達を乗せる、ハッチを開けて!!」

 

『それで良いわ、イブキ』

 

虎丸零式のハッチが解放され、ハッチが開いた瞬間にホルスが先に中へ入りながらハウンズの補助を受けつつ、眠ったままの成り損ないを支えながら虎丸零式内で横に寝かせる。

 

「ホルス先輩、これは──」

 

「イブキ、全員を乗せたら即座にブラックマーケットに戻りますよ!早くブラックキャット先生に見て貰わないとッ、イブキは全員を乗せたら即座に出発する準備をしていて!追手が来る前にでないとっ」

 

『ブラックキャット医師へは私から連絡しておくわ。イブキ、連絡をしている間は虎丸零式の操作を全て貴方に委ねるわ』

 

「わかった!」

 

HiNAの言葉に即座にイブキは運転席へと座り直しつつ、ここからブラックマーケットへの最短ルートを考える。

虎丸零式の操作パネルに表示されたここら一帯の地図と通路から、最短で乗り手に負担をかけずに帰る道を考案する。

そんなイブキの後ろでホルスは、ハウンズの補佐を受けながらハッチを下ろされた体を震わせたままのレイサを受け止め、椅子へとおろす。

同じようにして、ボロボロな姿のケイが中へ入って来た。

ケイは一言も話さず、縋るように倒れた成り損ないの元へ近寄り俯く。

怪我人が全員を乗せられたからか、即座にハウンズが次々と虎丸零式へと乗り込んだ。

最後にイヴが乗り込んだのを確認し、ホルスはイブキへと出発の指示を出した。

 

「イブキ、出して!」

 

「で、でもまだミユが…」

 

「合流ポイントを用意します!いま通信をするので、まずは走って!追手が来る前に!」

 

ホルスの指示に、イブキは即座に虎丸零式を発進させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

要塞都市エリドゥのタワーから少しだけ離れた建物の屋上に、一人の少女が両手で胸を押さえて深呼吸を繰り返していた。

 

「はァッ!?ぁっ?!」

 

スコープ越しに見てしまった、自分を見つけてくれた唯一の人が片眼からは血を流し、口からは血を吐いた瞬間を。

 

イヤだ、イヤだ、イヤだ、イヤ!

もう一人はイヤだ、あの人がいたから私はこうして生きていられるのに、あの人が居なくなったら、私はっ。

 

虚ろとなった両目から涙を流し、苦しそうに呼吸を繰り返す。

ふとミユの瞳に以前に先生から護衛を頼まれた対象であるシャーレの先生の姿が映る。

 

あの人が、あんな風になった原因を作った人。

 

あの人が、先生を傷付ける人。

 

あの人が、先生が自分を自虐する理由。

 

あの人が、先生があんな事になった原因。

 

あの人が、あの人さえ───。

 

やがて、ミユの呼吸がゆっくりになっていった。

 

だがミユの瞳は虚ろだった。

 

その虚ろな瞳の奥、真っ暗な泥々した何かが、ゆっくりと一筋のナイフのような鋭さを持ったものへ変わっていく。

それは、越えてならない一線を越える行為へとミユの思考を誘導する。

決して踏み越えてははいけない一歩の、背中に追い風を吹かせるような勢いで押していく。

ミユはいつも通りの動作で狙撃位置に戻り、その銃口を自身が撃つべき敵へと向けた。

スコープが映したのは、いつの間にか成り損ない達が消えたタワーで悔しそうに黒いカードのようなものを握るシャーレの先生。

 

『ミユ、聞こえますか?』

 

風は吹いていないし、遮る壁はない。

 

───銃を握り、狙いを固定する。

 

『ミユ、これから合流して早くクランバトル倶楽部へ撤退を……ミユ?』

 

誰も此方に気付いていない。

 

───躊躇う理由はない

 

『聞こえていますか?ミユ?』

 

相手は、その場から動かない。

 

───引き金に指をかける。

 

殺すなら、今……

 

『返事をしてください、ミユ!』

 

─返事をお願いします、Rabbit4─

 

何故か脳内に、あの日ミヤコちゃんにコールサインを呼ばれたときの記憶が過る。

そしてミユはようやく耳へと装着していたインカムから通信が来ていることに気付いた。

 

「こ、こちらミユです。すいません、通信に気付いてなくて」

 

『早くブラックマーケットへ戻ってブラックキャット先生の元へ行きます!私達は虎丸零式にのって移動しています!合流ポイントは──』

 

通信を聞き、ミユは即座にその場から虎丸零式との合流ポイントへと走り出した。

その時自分が何をしようとしていたのかを、忘れたまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クランバトル倶楽部に到着したホルス達は、虎丸零式から成り損ないを慎重に下ろした。

ホルスが成り損ないを抱き上げ、虎丸零式から出ると、HiNAから連絡を受け入り口で担架を持って待機していたクランバトル倶楽部に常駐している医者、ブラックキャットと担架を運ぶために来たと思われる生徒が待っていた。

 

「会長殿!」

 

「か、カイチョー!?カイチョーが……」

 

吐き出した血と目から流した血がついた姿に担架を持っていた生徒の手が震え出す。そんな状態で担架を持てばどうなるのか、結果は見えていた。  

 

「ブラックキャット先生、私が先生を運ぶ!何処に下ろせばいい!?」

 

「こっちだ、取りあえずベットがある医務室で状態を見る!」

 

ブラックキャットは短くそう告げると、担架を持つ生徒へ鋭い視線を向けた。

 

「君たちは下がれ。手が震えてる」

 

「で、でも……!」

 

「医療は勇気じゃなくて、手の安定が要る」

 

その一言で、生徒たちは反論を飲み込み、一歩引いた。

ブラックキャットは既にホルスの腕の中にある成り損ないへと歩み寄り、その顔を覗き込む。

 

閉じた左目の端に残る血痕。

唇にこびりついた暗赤色。

呼吸は浅く、不規則。

 

「……やれやれ。ずいぶん派手に吐血したな、会長殿」

 

ブラックキャットは独り言のように呟きながら、手早く懐からペンライトを取り出す。

 

「顎を少し上げろ。呼吸路を確保する」

 

「はい」

 

ホルスは即座に姿勢を変え、成り損ないの頭を安定させた。ブラックキャットは即座にペンライトを片目ずつ当て、素早く瞳孔反射を確認する。

 

「……左、反応が鈍いな」

 

「その、大丈夫なんですか……」

 

「今の段階では断言できん。だが脳に相当な負荷がかかっている奴の症状と似ているな、極度の精神負荷、過剰な集中、情報処理のし過ぎ……そういう頭を使い潰した奴の症状だ」

 

ブラックキャットは顔を上げ、ホルスを見た。

 

「聞くが、会長殿は何を?」

 

「それが、私にも分からなくて……」

 

「原因不明か……ともかく、出血したのなら処置が必要だな。肉体的な怪我は少なそうだ」

 

目的地である医務室へ歩き出しながら、ブラックキャットは淡々とそう告げた。

 

その数時間後、医務室にて点滴を刺され眠っている成り損ないの横にホルスはいた。

ハウンズには休息として自室待機を指示しており、ケイはブラックキャット先生による治療後に自室へと引きこもり、レイサは部屋の隅で膝を抱えて座り、イブキとミユはベッドのすぐ側に置かれた椅子へと座り、眠る成り損ないを見詰めている。

 

「心当たりは、ありますか?」

 

「ない、です……」

 

「特に、変なところは無かったよね先輩?」

 

「わからない、です」

 

ホルスの言葉にレイサやイブキ、ミユは首を横に振る。

その場にいた全員が、成り損ないがこうなった原因を知らなかった。

戦闘指揮の途中に突如として左目から出血し、更に吐血までした。

銃弾が貫通したり掠めた訳でもない、元から深刻な病気であったことすらも聞いたことがない。

急な症状の悪化や発病でも、いきなり吐血や出血はほぼあり得ない。

その時、ホルスの脳に戦闘中のある会話が過った。

それはシャーレの先生がシッテムの箱と呼ばれるオーパーツを取り出し、それに対抗して成り損ないがパンドラの箱を取り出した時だった。

 

『お前がそれを使うなら、俺も対抗させてもらう』

 

もし、先生が何かをしたのならあの時。

 

でも、何をした?

 

分からない、想像が出来ない。

 

何が原因で彼が吐血、出血することに至るのか。

ホルスは一度、成り損ないがこうなった原因について考えるのを止めベッドで眠る成り損ないを見る。

血が少ないからか、顔色は悪く死んだように静かに眠っている姿を。

 

「これを、守ったと言えるんですか……」

 

そう呟き、ホルスは腕を握りしめる。

 

この居場所と成り損ないを、先生を守る。

 

そう決めて盾を握った筈なのに、私は……結局守れていない。

 

 




パンドラの箱、更新情報なし

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