なりそこないと、壊れた生徒   作:クレナイハルハ

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玉響に問う

 

時間は、なり損ないとイロハの出会う前。

早朝のゲヘナ学園、場所はパンデモニウムソサエティー生徒会室へと遡る。

棗イロハは、朝早くにパンデモニウムソサエティー議長である羽沼マコトに呼び出されていた。

朝早くに起きなければならないめんどくささ、それは彼女にとって何にも変えがたい苦痛だった。

ここまで登校し、部室へと歩いてくるまでにいくつため息をついたのか分からない、恐らく両手では数えきれないだろう。

朝から呼ばれる原因など思い当たらないし、こんな早朝から呼び出されたことから、面倒ごとの予感しかしない。

そうして棗イロハは、またため息をつきパンデモニウムソサエティーの生徒会室へと入室した。

 

「キキキッ!待っていたぞイロハ!」

 

「はぁ……おはようございます。こんな朝から何の用ですか?」

 

生徒会室には、椅子に座りテーブルに両肘をついたマコトがおりいつものような笑顔で挨拶をする。

こんな朝早くからそんな笑い声を聞くことになるとは思わなかったと、イロハはため息を付きながら、マコトへと呼び出された理由について言及する。

すると先ほどまでの笑顔とはうって変わり、真剣な目でマコトは口を開いた。

 

「以前、エデン条約で見たイブキと瓜二つの姿と名前を名乗っていた奴らについてだ」

 

マコトの言葉に、どうこの面倒事を避けるか考えていたイロハの思考がカチリと変わる。

同時に思い出したのはエデン条約で見た、イブキと瓜二つの少女が駆る虎丸と酷似した戦車。

突如として現れた存在による武力介入、そのときに彼女が放った一言。

 

『キキキっ!私は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!』

 

パンデモニウムソサエティー議長の丹花イブキと、確かにそう宣言していた。

 

「奴は、自身をパンデモニウムソサエティーの議長と偽るどころか、丹花イブキだと名乗った……これは許されることではない。特にイブキを摸倣するなど、断じて許されん!!」

 

そう言いながら、マコトは怒った様子で拳をテーブルへと叩き付けた。

あと、そこはパンデモニウムソサエティー議長を名乗られたことについて怒ってるんじゃ無いんですね。

 

「……で、何が言いたいんですか」

 

「どうやら奴はブラックマーケットの賭博施設……クランバトル倶楽部なる場所にいるらしい」

 

「クランバトル倶楽部?」

 

「イロハ、クランバトル倶楽部に行って奴について調べてこい」

 

「はいはい、分かりましたよ。暫くは学園を空けますからね、出席日数はちゃんと付けといて下さいよ」

 

そう言いながら棗イロハはパンデモニウムソサエティー生徒会室から出ると、携帯端末を取り出し『クランバトル倶楽部』について検索をかける。

流石というべきか、当たり前と言うべきか検索エンジンからは『該当する内容はありません』という結果が帰ってきた。

その後はひたすらにブラックマーケットについての記事やニュース、サイトを確認していく。

そうしてようやくヒットしたのは、恐らくは不良生徒と思われる存在のブログだった。

この不良はどうやら、クランバトル倶楽部にて活動をしておりその行動についての内容が記されている。

 

──────────────────────

 

●月○日

今日からブログを始めてみた。

生活に少し余裕が出来たし、携帯端末を使う時間もとれるようになったので記念に色々と呟いて行こうと思う。

まずこうなったのは、ブラックマーケットにあるクラ部のお陰だ。

クラ部…クランバトル倶楽部はアタシらのような奴らでも真っ当な金を稼げる場所だ。

だからアタシらのような奴らがわんさか集まって盛り上がってる、良く大人も見に来てる。

 

◎月□日

今日はクラ部の試合で勝ったからいつもより稼ぐことが出来たので、手に入ったお金で最近クランバトル倶楽部に出張販売に来ている美味しいと噂の柴関ラーメンを食べた。

勝った後に食べるラーメンは格別!

大将さん曰く本店はアビドス地区にあるんだって。

どうやら話によると柴関ラーメンは会長が大将さんに直接頼み込んで出張販売を決めてもらったとのこと。

アタシらの為にわざわざアビドスまで行ってくれてありがとう会長!

ずっとクラ部で稼がせてもらうね!

 

◯月▲日

今日はすごいビッグニュースがあった。

クラ部のマスコットであり、試合やクラ部の放送を担っていたケイちゃんに後輩が出来たみたい。

ケイちゃんよりちっちゃくて可愛かった!

何でもイブキちゃんというお名前らしい、凄く見覚えもあるけど、流石に気のせいだと思いたい。

 

□月☆日

やっぱり会長ってすごくね?

クラ部って会長が立ち上げて、まだ一年どころか半年すら立ってないらしいけど。

そんな短い時間でクラ部をここまで盛り上げるとかマジ凄いよね。

流石は大人って感じ!!

最近は温泉開発部?とかいう人たちをクラ部で見かける、どうやら会長からの依頼で銭湯を作ってるらしい。

会長ってマジで何者?噂で聞いてた温泉のために何でもするテロリストを従えるとか、マジヤバい。

 

──────────────────────

 

どうやら、クランバトル倶楽部にイブキと瓜二つの彼女がいることは間違いないだろう。

そしてクランバトル倶楽部の会長と呼ばれる大人、果たしてどんな人物なのだろうか?

そんなことを思いながら、ブラックマーケットへと向かうため駅へ歩いていたからか、体が少しだけぶつかった。

もし不良相手なら、そんなめんどくさいことを考えながら頭を下げる。

 

「前を見ていませんでした、その……すみません」

 

「……こ、こちらこそぶつかってしまい申し訳ない。こちらが……」

 

聞こえてきた声は自分と同じ生徒、そして女性ではなく男性の声だった。

顔を上げると、そこにはキヴォトスでは珍しい人間の男性が立っていた。

男性は何故か少しだけ顔を動かし、右目で私を捉えると元の場所へ顔を戻す。

どう見ても、左側が見えていない様子だった。

顔を戻すことから、恐らくは片眼が見えないか片目だけ異様に視力が低いか。

まぁ、後者ならメガネをかけるなり対策するでしょうし、前者ですかね。

 

「……怪我をしていますね。左目、歩幅と視線のズレが不自然ですね。あまり、見えていないのですか?」

 

私の言葉に、男性は言葉を詰まらせる。

どうやら当たっていたらしい。

見知らぬ人にここまで踏み込むのは、失礼すぎますかね。

 

「はぁ……めんどくさいですね。」

 

そういえば、私は今クランバトル倶楽部の情報を探すため学校の外で活動している。

この時間も出席日数は加算され、恐らく少しサボったところで私を見張る人間はいない。

更に言えば、調べる期限も定められていない。

 

これは……少しサボっても許されるのでは?

 

それに今話している相手は片目が不自由であり、その手助けをしたともなれば責められる理由は存在しない。

 

「目的地はどこですか?」

 

「え?」

 

「この辺りは不良も多いです、見たところ銃すら所持していませんし視界不良と……事故率が高すぎます。はぁ……ぶつかってしまった失礼もありますし、貴方を目的地までお送りします」

 

「いえ、そこまでして貰う訳には……」 

 

本当に、この人はキヴォトスに来た自覚はあるんでしょうか?

銃一つ持たず、そんな目の状態で。

こんなの、襲ってくれと言っているようなものですよ。

 

「では私が離れて、不良にカツアゲされて抵抗できますか?」

 

「それは……」

 

「無理ならば、いまここにいる貴方を送ると善意で話している私を利用した方が楽だと思いますが」

 

「ゲヘナにある、温泉開発部が管理している宿と聞いている。場所はここ、らしい」

 

観念したのか、私の(サボるため)善意にそう言いながら携帯端末を見せてくる。見るとそこには、温泉開発部が運営している温泉旅館らしき場所が示されていた。

 

温泉旅館、温泉に入ってゆったりと読書に昼寝……2日、いえ3日ぐらいはいけますかね。

 

「……私も、そちら方面に用があります」

 

これからの3日間を想像し思わず笑みを浮かべながら私はそうベタな台詞を口にした。

 

「そう、なのか」

 

「えぇ、そうです」

 

男性は非常に驚いたのか目を見開いて、呆気にとられた様子でそう呟いた。

私は男性からみて左側についてから、向かう場所を思いだし安全な通路を構築する。

 

「段差があったら言います……めんどくさいですけど。………行きましょう」

 

そう言いながら男性の前を歩いて温泉開発部の運営する温泉旅館へ向かって暫くあるいていた時だ。

突如として男性の知り合いらしい紙袋を幾つか抱えた不良生徒が声をかけてきた。

 

「え!()()じゃん!?なんでここにいるんすか?」

 

会長、確かに男性に向けて彼女はそう口にした。道案内をしているこの男性は思ったより大物のようですね。

会長だなんて、何かの営業でもしているんでしょうか。

 

「ウチ、()()()()()()()()()で『グランド☆ローラー』ってチームで参加させてもらった丸藤 カナっす!」

 

「あ、あぁ……あの時の」

 

そして不良生徒と男性の会話に私の考えていただらだらおサボりプランが、思考が外へ吹き飛ばされる。

この人があのイブキのような少女がいる、ブラックマーケットに存在する賭博施設、クランバトル倶楽部の創設者。

あのブログで話題に上がっていた、会長。

想像していた姿とは違い、思ったよりも弱そうな姿に少しだけ呆気にとられてしまう。

そうしている間にも、様々な不良生徒やスケバンが男性へと声をかけては、差し入れと称して様々な物を渡されていく。

そうして温泉開発部の運営している温泉旅館に着く頃には二人で抱えてギリギリ持てるぐらいの量を差し入れされていた。

……これ、四分の一程は報酬として請求しても良いですよね?

そうして温泉開発部の旅館へと訪れた時に私は目を見開いた。

この男性、クランバトル倶楽部会長に対して温泉旅館から出てきたのは温泉開発部部長、鬼怒川カスミだった。

更にはクランバトル倶楽部会長と親しげに会話をしており、彼が片目を悪くしていると知った瞬間にはカスミだけでなく副部長である下倉メグですらも心配していた様子だった。

 

これ、本当に温泉開発部なんですか?

 

下倉メグに案内され、私達が抱えてきた荷物は温泉開発部の部員が風呂桶に詰め込んでメグとクランバトル倶楽部会長の後ろを着いて運んでいいく。

ちなみに、何を勘繰ったのか鬼怒川カスミはもう一度私にどうしてここに来たのかを問う。

温泉にくる事にお風呂に入ることが目的では?

逆に他にやることってありますか?

そんなことを考えていたときだった、突如として鬼怒川カスミが慌てた様子で振り向くと大声で叫んだ。

 

「そこー!今は発破中止!入れるな!会長がお越しだ!安全の確保を最優先しろー!」

 

本当に彼女らは温泉開発部なんですか?私の知る彼女達と同一人物とは思えないのですが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

温泉開発部の部員に貸し切り風呂へ案内される彼の姿に私はふと思った。

パンデモニウムソサエティーである私にも貸し切り風呂が用意されてもよいのでは?ちなみに他の貸し切りは全部が予約済みでダメでした。

 

そんな時に私の頭脳に一つ案が落ちてきた。

 

いっそのこと、クランバトル倶楽部会長が入った貸し切り風呂に入れば良いのでは?

そうすればクランバトル倶楽部についての情報を聞き出せる、もし拒んだとしても私が貸し切り風呂に一緒にいることで拒否すれば、ちょっとした脅しをする事も出来る。

例えば、もし貸し切り風呂内で私が叫び声を上げたなら……など。

そうして聞き出した情報を、一週間はここでだらだらしてからマコト先輩に伝えれば良い。

 

え?だらだらする時間が増えてないか?

 

いやですねぇ、情報を手に入れるための潜入捜査とハニートラップですよ。一週間はかかります……さっさと聞き出して、だらだらしますか。

個人的にもあの自身をイブキと名乗った子についても聞き出したいところですから。早めに終わらせてしまいましょう。

そう思いながら私は準備を整え、他の温泉開発部部員には見られないように貸し切り風呂に入り、部屋の前には『貸切中』という札をかけた。

服を脱ぎ、バスタオルを巻き脱衣場に置かれていた風呂に浮かべる事が可能なお盆にお茶を入れたコップを置いて、浴場へと向かう。

そして浴室ドアの前で少し、深呼吸をしてから中に入る。

そこには湯船に入り、湯船から見える窓から中庭を見つめたまま一切動こうとしない彼がいた。

ドアが開いたことにすら気づいていないのか、振り返る素振りすら見えない。

近付き湯船に足を入れるが、彼は反応すらせずに中庭をボーッと見つめている。

 

ここまでされて何の反応もないとは……。

 

「水分でも取りながら入ったらどうですか?」

 

いい加減、近くにいるのだから気付いても可笑しくないのに反応せず中庭を見つめる彼に、思わずため息が出そうになるが、堪えてそう言いながらお茶をのせたお盆を流す。

 

「あぁ、ありがとう」

 

すると彼はお盆にのせられたお茶の入った小さなコップに対して警戒する様子すら見せずに感謝を告げ、口にした。

いや、そこはもう少し警戒するべきでは?

ようやくお茶を差し出された事に違和感を覚えたのか、彼が慌てて私のいる方向へと顔を向けた。

 

「おや、ようやく気付いたのですか?」

 

すると、彼は慌てて私から中庭へと視線を戻した。

 

「な、何故ここに……」

 

「お疲れのようですので、少しお背中を流させて頂こうかと……めんどくさいですが」

 

湯船に浸かっているよりは、一度湯船の外で体を冷ましつつ会話をすればより多くの情報を引き出せるでしょうし、誘わない手はありませんね。

 

「いや、さっき体は洗ったから問題は……」

 

「おや、女性の私にここまでさせて、更には恥までかかせるつもりですか?シャーレの先生が聞いたら、どう思うでしょうか?」

 

誘いを断ろうとしたクランバトル倶楽部会長にそう言えば、彼は諦めた様子で目を瞑ると言った。

 

「……お願いする」

 

そうして湯船から移動した私は、彼の背中をボディソープのついたボディタオルで擦る。

なるべくゆっくり、時間をかける。

 

「何が、聞きたいんだ」

 

背を向け表情は伺えないが、緊張した様子の彼の声に私は何を聞くべきか、考えた。

だが、考えるより先に口が開いていた。

 

「あの子は……何ですか」

 

「あの子?」

 

「あなたが探していた、イブキと瓜二つのあの子です」

 

クランバトル倶楽部についてよりも、あの日に見たパンデモニウムソサエティー議長を名乗るイブキが気になっていた。

何故、パンデモニウムソサエティー議長を名乗るのか?

何故、何処かマコト先輩のような話し方をしていたのか?

彼女の本当の名前はなんなのか?

そして、何故彼女とあなたが一緒に行動しているのか。

 





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