なりそこないと、壊れた生徒   作:クレナイハルハ

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痛みの温度

 

目の前に存在する、フルアーマーアリスと呼ばれるアリスの姿と酷似した姿となっているケイに思考がうまく回らなくなる。

目の前の光景は、彼女の姿は幻じゃない。

本当の事だ、なのに何故だろうか。

此方へと手にもった銃を向ける彼女は、これまでの彼女とは違って、どこかアリスらしくなかった。

 

「早く、答えてください。答えなければ今すぐ貴方を殺して私も死にます、どこかの誰かも言ってましたよね、エッチなのはダメ……死刑だと!」

 

「ケイ、頼むから落ち着いて聞いてくれ。俺は彼女に……」

 

ケイに今の状況を説明しようとして、ふと今の自分の状況を思い出した。

裸で辛うじてあったタオルを腰に巻いた俺と、バスタオルを体に巻いたイロハが俺の背中を洗体タオルで洗っている。

しかも場所は温泉開発部が用意した個室の温泉の浴場だ……普通に通報されても可笑しくないな。

シャーレの先生だからこそ許されていた、いや主人公だからこそ許される行動。

それに、今の彼女なら俺がイロハに脅されてこのような形になったと知ったらあのいかにもヤバそうなライフルの引き金を引きかねない。

もし、ここでイロハに何かあったのならシャーレの先生どころかゲヘナのパンデモニウムソサエティーも敵となる。

それだけは、避けなければならない。

 

「その、助けて貰っていただけだ」

 

「助けて貰ったと……一体何を助けることで混浴なんてことになるのですか?」

 

何故か、ケイの目が余計に鋭くなったような気がしたが気のせいだろうか。

 

「この前の一件で、左目の視力が一時的にだがほぼ見えない状態なんだ。歩くのが少しだけ不安だった、まだ体も本調子じゃないからな、少し補助して貰っていたんだ。本当なら一人ではいるつもりだったんだが、彼女がそんなんじゃ危ないと言って助けて貰ってたんだ」

 

そう言いながら、背後のイロハへ向けて視線を向ける。

嘘をつく時、嘘のなかに少しの真実を織り混ぜることが、相手に嘘を信じさせるコツだと何処かで聞いたことがある。

左目が見えずらいのは本当だ、でも体が本調子じゃないのは嘘だ。

目と精神的な問題以外で体調の調子は悪くない。

頼む、イロハ合わせてくれ。

じゃなきゃケイが今にも引き金を引きかねない。

そんな俺の祈りが通じたのか、イロハはため息をつくと口を開いた。

 

「はぁ……その通りですよ。こんな状態の人を一人で入浴させたら、危ないじゃないですか。それにここで私がその人の世話をすれば、合法的に学校をサボれますからね」

 

「……療養、確かにイブキがそう言っていましたね」

 

そう呟くとケイはその手に構えていたライフル二丁を下げる。

ケイの呟いたイブキという単語にピクリと反応した様子を見せたイロハだったが即座にいつものような気だるげな様子に戻る。

 

「分かりました、そう言うことで納得しておきます。」

 

そう言いながら窓越しにそう言うと、ケイは持っていたライフル二丁を下げた。

笑いながら、いや笑ってはいるのだが一瞬だが目が暗くなったような……。

数秒もしない間に見えた気がしたが、見間違い?だろうか。

 

「では、その役目は関係者である私が引き継ぎます。すぐに行きますので、お待ちください」

 

そうニッコリと笑顔で話したケイは背中の翼を羽ばたかせ、飛び上がり中庭から姿を消した。

取りあえずイロハや俺をケイが撃ち抜くことも、この施設を破壊する未来も過ぎ去ったようだ。

安堵からか、それとも緊張が抜けたからか口から息を吐いた。

 

「合わせてくれてありがとう、感謝している」

 

「……イブキの件についてまだ聞きたいことがありますし。私は、まだここで()()()()()でいますからね」

 

「……」

 

サボる予定でいる、ね。

俺の所にいる、パンドラの箱が呼び出したイブキについての情報をもっと聞き出したいのだろうか。 

そのために、この場所へ残るのだとそう俺に宣言しているのだろう。

 

「学生の本分は、学校で学ぶことだと……そう思うが」

 

「おや、学校の外で学校では学べないことを学びに赴く事も学生ですよ?そうですね、()()()()とでもしましょうか」

 

苦し紛れに、これ以上はこちら側に踏み込んでこないよう告げるが何故かイロハはニヤリと笑いながら口を開いた。

 

「職場体験としてならばマコト先輩の命令を遂行していると考えられ、数日分の出席日数も勉強も必要なくサボることが出来ますからね」

 

クランバトル倶楽部まで着いてくるつもりだと、彼女はそう言いたいのか?

だが何故?パンドラの箱が呼び出したイブキについて知りたいから?

それとも、パンデモニウムから戦力に俺たちを引き込むよう羽沼マコトからの指示があったのか?

わからない、もしイロハをクランバトル倶楽部に引き入れたなら、今後がどう変化するか、クランバトル倶楽部に何が起こるのか予想が出来ない。

1つだけ分かるとするなら、イブキに何らかの事が起きそうだということ。

 

「まずは、私と共に怠惰な療養生活をしましょう。少し私は頭を整理させますので、湯船へ行きましょうか。左手、貸してください」

 

イロハに促されるまま、身体についた石鹸を流して左手をイロハへ伸ばすと、イロハは左手を掴みそのまま湯船へと誘導を始めた。

 

「めんどくさいですが……あんな風に伝えてしまった手前、貴方を怪我させたら大変ですからね」

 

そう言いながら、イロハに手を引かれて温かな湯船へと身体を沈める。湯船に入るまでの段差や風呂の縁と床の段差も見えづらいときた……本当に左目の調子だけは悪いな。

見え方の差異で頭がいたくなりそうだ。

湯船に浸かり暫くボーッと天井を眺めていると、部屋の入り口の引きとがスパーンッ!と開かれるとバスタオルを体に巻いたケイが入ってきた。

 

「なんで!まだ、あなたが一緒に入ってるんですか!?」

 

「はぁ、あなたが戻ってくる前に私が離れてこの人が怪我したら大変でしょう……」

 

そんな分かりやすく怒った様子のケイに対してイロハはいつもの様子でため息を着きながらそう返事を返すと、湯船から立ち上がる。

 

「あの子も来たようですので、先に上がりますね。どうぞ二人でごゆっくり」

 

そう言いながら脱衣場へと向かうイロハを見送り、ケイは湯船へと向かってくる。

湯船に入ると、ケイは即座に俺の前に座り込んで俺の顔……正確には俺の左目を見つめていた。

 

「その目は、私が原因なんですよね……()()、私のせいで血を吐いてそんな身体の状態に───」

 

「お前のせいじゃない、()()は俺の決めた事だよ。それにあくまでも一時的だ」

 

彼女の言葉を、遮るように否定の言葉を口にする。

俺は、自分のエゴで彼女を生かした。

彼女をあの場から逃がすために、パンドラの箱を……Alternative Protocolを使った。

 

俺は深く息を吐いて、苦しそうな……悲しそうな顔で真っ直ぐに俺を見つめる彼女に俺は俯き言葉を紡ぐ。

 

「俺のこれに対して、何も感じるな」

 

「っ……それは、どういう」

 

俺の言葉に、ケイは目を見開くと震え、掠れた声でそう言葉を吐いた。

 

「お前のせいで俺がこうなった、だなんて考えるな」

 

大人の心配なんて、俺の心配なんてしなくていいんだ。

 

「苦しむ必要も、悲しむ必要もない」

 

自分のせいで、なんて苦しまなくていいんだ。

悲しまなくていいんだ。

あの場でシャーレの先生や天童アリスやゲーム開発部、ミレニアムサイエンススクールの少女達と対峙している光景から、ケイが起こした行動や目的が想像できる。

おそらく彼女は成ろうとしたのだろう、アリスがこの世界で平和に、名も無き神々の王女ではなく天童アリスとして生きるための生け贄に。

倒されるべき悪として君臨し、ミレニアムを挑発し倒される事で、アリスが無害であると、証明したかったのだろう。

 

「俺の事を、恨んでくれて構わない。」 

 

傷付くことも、視力が一時的に低くなった事も何もかも、気にしなくていいんだ。

 

だって俺は、ケイの覚悟を蔑ろにした。

身体の体調と片目を一時的に壊してでも、彼女を生かすことを、自分の元へ取り戻すことを選んだ。

 

俺は俺のエゴで、彼女の思いを……願いを奪ったんだ。

 

「これは俺の───」

 

俺の、自己満足みたいなものだから。

 

「止めて下さいっ」

 

バシャリという音と共に聞こえたその言葉は、少し浴室に反響する程に大きく震えた声だった。俯いていた顔を上げケイへと視線を向ける。

 

「そんなこと……言わないで下さいっ」

 

湯船から立ち上がったケイは、その目から涙を流しながらも怒った様子で此方へ歩きて距離を詰めてくる。そんな怒った様子の彼女に圧倒されたのか、身体が動かない。

何故、近付いてくるのか分からず固まっているとケイはゆっくりと此方へと両手を伸ばし、俺の背中へ手を回し、ゆっくりと抱き締めてきた。

身体が密着し、俺の頭を抱き締めるようにケイが肩に顔をのせる。

 

異性に抱き付かれるという現実が、処理できない。

 

なんでこんなことになっている?俺は彼女に恨まれてるんじゃないのか?

部屋へ籠ったと聞いて、俺やみんなと会うのが気不味いのだと思っていた。

犠牲となろうとしたことを止めたから、恨まれているのかと思った。

だって俺は彼女が自分を助けるなと言う懇願を、蹴り捨て彼女を生かすことを、助けることを選んだのだから。

予想とは、真逆のケイの行動に混乱する。

そんな混乱の中で、何故か俺はこうして抱き締められたのはいつが最後だっただろうかと、そんなことを思った。

就職が決まったとき?それとも行きたかった高校の受験に受かった時だろうか、親に……母親に抱き締められたことを思い出した。

 

「悲しく思わせてください」

 

ケイの震えた言葉が、耳元に木霊する。

 

「苦しませてください……あなたを…感じさせてくださいっ……」

 

ケイの声は震えていた。

 

「約束、したじゃないですか」

 

ケイの腕に、少しだけ力が入り更に身体が密着する。

 

「一人でダメなら私が一緒に、あなたを……先生ごと背負いますと!みんなを助けて、進むべき道を照らし導くのが、私が背負った役目だと」

 

ケイの震えは、少しずつ止まっていった。

そして静かに、俺から離れる。

湯気の向こうで、ケイはまっすぐ俺を見た。

 

「鍵は王女となり……貴方を知った。名もなき神々の王女、AL-1S天童アリスが……いえクランバトル倶楽部のケイが宣言しますっ!私はあなたを背負っていきます、名もなき神々の王女でも、天童アリスでもない……私が、私の意思で!」

 

そう言うと、涙を流し続けていたケイが目蓋を閉じ、涙を目尻に溜めながら笑う。

 

「それが……それが私の()()()()です。これからもケイと一緒に……冒険して下さい、先生」

 

ケイの言葉に、俺はしばらく何も返せなかった。

湯気に包まれた浴室の中で、ただ彼女の顔を見つめる。

泣きながら、それでも笑っている。

まるで、どこかの誰かみたいに。

 

「……あぁ、なり損ないの俺なんかで良いのであれば──」

 

やっとのことで、それだけ言葉が出た。

 

「貴方だから、いいんですよ」

 

ケイの言葉が、浴室に木霊した。

 

そのときだった、脱衣所の方からため息が聞こえた。

 

「いやぁ……なんか良い話っぽくまとまってますけど」

 

先程まで聞きいていた、気だるい声。

 

見れば脱衣場のドアから顔を除かせたイロハがおり、その表情は──。

 

「そろそろ上がってもらえます?怪我人をのぼせさせる気ですか」

 

半目でこちらを見ながら、心底めんどくさそうと言うよりは、まるで苦虫を噛み潰したような表情をしていた。

 




パンドラの箱、更新情報なし

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お待ちしています。





読者の皆様にクイズです、私の小説のタグにオリジナルキャラクターと付いています。
クランバトル倶楽部の特殊部隊ハウンズの事だと皆さんは思っていますよね?実はハウンズには一人だけオリジナルキャラクターではない子がいます。どのこか分かりますか?

次の話はその子についての話になる予定ですのでお楽しみに。

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