なりそこないと、壊れた生徒   作:クレナイハルハ

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選んだ答えは喪失のソリチュード

クランバトル倶楽部は営業中は色々な意味で騒がしい、それこそ賭けに勝って勝利の雄叫びをあげるもの。賭けに負けて、と゛お゛し゛て゛た゛よ゛お゛お゛お゛!となるもの。

試合に勝ち祝勝会をあげるもの、試合に負け涙を流すものなど、様々だ。

予想以上の盛り上りを見せているが、夜となると雰囲気がガラリと変わり静かだ。

電気のついてない校舎はあっという間に幽霊のでそうな心霊スポットへと早変わり。

幼い頃にテレビでみた夜中に学校で何かに追いかけられるような番組を思い出してしまいそうになる、本当に勘弁して欲しい。

いや、選んだのは俺だけど。

 

「先生、どうするんですか?」

 

「どうするって言われてもなぁ」

 

最近は司会でクランバトル倶楽部に来る生徒から人気を博しているケイが、テーブルの上に置かれたパンドラの箱から俺へと視線を向けて来た。

パンドラの箱に数日前から、見覚えのあるガチャ画面の封筒が表示されているのだ。

恐らくは、生徒の召喚だと思われるが果たして誰が来るのだろうか?

よくクロノススクールがニュースで先生の行動を伝えているがケイが目の前にいるのに、テレビでアリスが映り込んだのを見るに恐らくこのケイはこの世界とは違う世界のケイなのだろう。

本編でも、並行世界の先生とシロコが登場していたしありえない話じゃない。

なら、このパンドラの箱は並行世界の生徒を召喚する事が出来るのだろうか?

いや、まだ分からない。

今の俺とケイはこうした稼ぎの手段も手に入れた、もし生徒を召喚しても食いぶちに困ることはないだろう。

恐らくは召喚をしても問題はない、だけど。

俺は先生じゃない、大人にすらなりきれてないなり損ないだ、俺なんかが生徒の持つ全てを代わりに背負うなんて出来ない。

 

「ケイ、俺には二人も背負うなんて無理だ。俺は大人じゃない、無理して大人のふりをしているだけなんだ」

 

椅子に座り、俯きながら俺はそう話す。

正直な話、クランバトル倶楽部がここまで盛り上がったのだって時の運。

本来なら俺は、あの日このブルーアーカイブの世界にいることを自覚しないまま死ぬ可能性だってあった。

運が良かった、それだけなんだ。

 

「俺は"先生"じゃない、俺にはこれ以上誰かを背負うなんて出来ないんだよ」

 

運が良かったからケイを召喚できた、運が良かったからこうして生きている。

俺だけじゃ、生きていくことなんて出来なかった。

この世界で数週間生きてきた、いつ銃で撃たれて死ぬかも分からないこの世界は怖い。

簡単に引き金が引かれる世界だから、いつ死んでも可笑しくないんだ。

 

「なら、私が……アリスが一緒に背負います」

 

失望されたと思って俯いていると、思いがけない言葉がケイの口から出てきた。

 

「一人でダメならアリスが一緒に、いや先生ごと背負います。みんなを助けて、進むべき道を照らし導くのが、私が背負った()()の役目ですから」

 

「ケイ」

 

何処か儚げにそう微笑む彼女の姿に俺は、ようやく決心がつき、立ち上がってテーブルの上に置かれたパンドラの箱を手に取った。

 

「なら、最後までしっかり背負ってくれよケイ」

 

「勿論です。私はあなたと、先生と共に冒険をすると決めたんですから」

 

「んじゃ、新たなパーティーメンバーとのご対面といくか」

 

そう言いながら俺は、パンドラの箱の画面に表示された封筒に触れた。トン!というタップ音と共に、表示されている画面が変化する。

何度もノイズが走り、封筒の中から一枚の灰色の紙が表示される。

 

──正義を求める人の元に・・・・・・私あり・・・そう私こそがスーパースター。宇沢レイサ、見参です──

 

あ、これ宇沢か。

見覚えのある、いや見覚えどころかネタバレですらある文章が表示された次の瞬間、パンドラの箱が光を放ち部屋が真っ白になる。

目を瞑り暫く光が止むのを待つ、その間ケイも無言のため状況が全くわからない。

あの文面なら間違いなく叫び声が響き渡って耳を塞ぐような展開になっていそうだ。

暫くして瞼を開くとパンドラの箱はスリープモードとなっており、俺の目の前には画面で何度も見た彼女の姿とはかけ離れた少女がいた。

画面越しに見てきた元気そうな姿は欠片も感じられないほどに静かな彼女は何日も寝ていないのか、目元には大きく腫れた隈があり、髪はくすんでいる。

トリニティの制服姿ではなく、ボロボロの黒いジャージを羽織っており、頭についていた筈の星形の髪留めも無かった。

彼女は視線だけ周囲を確認すると即座に持っていたショットガンを構える。

 

「あー、なんだ……レイサだよな?」

 

「先生、なんですか?」

 

そう声をかけると、彼女は瞳だけ此方に向けるが即座に視線を下へと戻す。

 

「違う、俺はなり損ないだよ」

 

「宇沢レイサ、です……学校はその、辞めました」

 

は?レイサが学校を辞めた?

トリニティ総合学園の所属じゃ無くなったって事か?そんなことを思いながらパンドラの箱を確認する、所持している生徒一覧が見れる画面には、ケイの他に目の前のレイサが表示されている。

レイサのアイコンをタップする、そこには彼女の名前が表記されており、ケイと同じように称号のようなものがセットされていた。

 

─ロストスターダスト─宇沢 レイサ

 

ロストスターダスト?つまりどういうことだ?

ケイはまだ名もなき神々の王女という名前から、記念PVに出た例のバッドエンドルート世界から来たのは恐らく間違いないだろう。

この場合、レイサはどうなる?

ロストだから何かしらを失ったのは想像できるが、まずは落ち着いて話せるようにした方が良いよな?

そんなことを思いながら、俺はレイサに椅子に座るよう進め飲み物を用意するため、現状はキッチンとして使っている元給湯室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エデン条約と呼ばれる条約がトリニティとゲヘナで締結される予定の日、私……宇沢レイサは地獄を見た。

ガスマスクをつけた何処の所属か分からない生徒との戦闘はすでに両手で数えられる数を越えていた。

何時間戦闘をし続けたのか分からない、シューティングスターを構える腕が震えるのをどうにか押さえてトリニティを守るために敵を撃つ。

トリニティに住み、店を開いている人達を守るための自警団。

今頑張らなきゃいつがんばるんですかと気合いをいれ直し戦場を駆け抜ける、戦闘中にずっと心配していたのは少し前にキヴォトスへやってきた大人である先生、そして二年前の因縁の相手と言っても過言ではない彼女のことだ。

あのミサイルが向かったのはエデン条約の調印式が行われている場所。

先生は私達と違ってヘイローを持たない、銃弾一発で死ぬ。

そんな先生のいる場所に、ミサイルが落ちたらどうなる?

嫌な想像を掻き消すように、目の前には現れたアリウス生徒へと向けたシューティングスターの引き金を引く。

引き金を引いて、引いて、引き続けて持っていた銃弾が底を突いた。

補給のために残り一発も残っていない、牽制にしかならないシューティングスターを抱えて補給地点へと戻る。

いつもより慌てていたからか、それとも動揺していたのかいつもより多く銃弾を消費してしまったことに、少しだけ反省しながら補給地点に向かった先で私は見た。

補給地点で休んでいるスズミさん、杏山カズサに放課後スイーツ部のみんなの姿。

 

よかった、皆さんが無事で。

 

全員が無事であることに安堵した、きっと先生も無事だ。

そんな気持ちが胸に広がる。

安堵してしまった、張っていた緊張の糸を緩めてしまった。

死神が身構えている時はこないのと同じように、絶望は希望が見えた瞬間に襲ってくるように。

滅びは、誰かが“もう大丈夫”と思った瞬間に意識の外から訪れる。

次の瞬間、補給地点へと現れたアリウス生徒達。

即座に足に力を込めて駆け出す、危険を知らせるために口を開き酸素を吸い叫ぶ。

大声ならきっとみんなに届く、そう思った瞬間に私を襲ったのは喉の奥の痙攣、突如こみ上げてきた咳に、体をくの字に曲げ足を止めて咳き込む。

今、彼女がいるのは風が吹けば様々な小さな埃や土煙が舞い上がる戦場となったトリニティ。

少し考えれば分かることだった、だが目の前の人達が危ないと感じたときに自分の声が出せなかった。

聞こえたのは、悲鳴や驚きの叫び声と何発も響く銃声だ。

咳き込み喉と体に感じる僅かな痛みと苦しみを耐えながら走り、補給地点へと襲撃をしてきたアリウス生徒へとタックルする。

私のタックルに驚いたのか、避けられず当たったアリウス生徒が前に膝をつく形で倒れて、私も彼女に覆い被さるように倒れる。

カラカラと、たまたま近くに転がった銃弾の入った弾倉を取り即座にシューティングスターへと装填して構えたとき目に入った一人の生徒の姿に私は体が動かなくなった。

さっきタックルしたアリウス生徒が銃を向けていた先に、傷口から血を流し地面に沈むヘイローの消えた杏山カズサの姿。

 

「杏山、カズサ……?」

 

その場が戦場なのも忘れて地面に倒れるカズサを助け起こして肩を揺するが、頭上のヘイローが灯ることも目を開くことも無かった。

何度も彼女の名前を叫び、体を揺するがピクリとも動かない。

頬を涙が伝う、アリウスが補給地点へと襲撃する所が見えていたのに、知らせられたのに、周知できなかった。

 

「っ、そうだ救護騎士団は!?」

 

慌てて周囲を見渡すが、何処にも救護騎士団の姿は見えない。

早くカズサを救護騎士団へと運ぶために背負おうとするが、難しく更には此方へと向かってくるアリウス生徒が見えて即座に構えたシューティングスターの引き金を引く。

早く、早く杏山カズサを救護騎士団に連れていかないと。

そう考え、無事を祈る私の願いを裏切るようにゾロゾロと現れるアリウス生徒達の姿。

 

「そこを、退いて……下さいっ!」

 

杏山カズサを早く救護騎士団に連れていく為にも、私はシューティングスターを構え直し、此方へと向かってくるアリウス生徒に向けて引き金を引いていく。

そうしてアリウス生徒を倒し終え、私は杏山カズサを背負ってトリニティ総合学園へと走る。

既に体力は底を突きかけているが、彼女を助けられるならと体力の残り僅かな体にムチを打って走る。

彼女を背負い、ふらふらと蛇行しながら救護騎士団のいるであろうトリニティ総合学園へと走る。

肩で息をしながらようやくたどり着いたトリニティ総合学園で救護騎士団へと杏山カズサを届けた私は、トリニティ自警団のスズミさんと合流し再び私はアリウス生徒との戦闘に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エデン条約での一件が終わり、少しの時が過ぎた。エデン条約事件はトリニティ、ゲヘナどちらも多くの犠牲者を出し終息した。

 

『シャーレの先生が昏睡状態となり、本日で■■日、連邦生徒会は────』

 

テレビから流れるクロノススクールのニュースを消して、今日も私は病院の入院患者達がいる部屋の一つ、集中医療室に入る。

ベットに眠る少女にはいくつもの点滴が繋がれ、また点滴から更に繋がった機械からは機械の音だけが響く。規則正しく鳴る心電図の電子音、モニターには、彼女が辛うじて生きていることを示し映していた。

 

「杏山、カズサ……」

 

あの日、私がアリウス生徒の襲撃を防げず銃撃を受けた杏山カズサは、銃弾が当たった場所が酷かったのか、それとも精神的なものからなのか一度も目を覚まさず昏睡状態となっていた。

病室には、恐らくは彼女の友達である放課後スイーツ部の人達がお見舞いで持って来たのであろうお菓子や、様々な小物が置かれている。

 

「私が……」

 

ベッドの横にある椅子に座り、口に呼吸器を着けた彼女の手に触れる。

あの日私が、彼女をこうした。

私のせいで、私があのときに咳き込まなければ、みんなにアリウス生徒が襲撃してくる事を伝えることが出来ていたら。

もっと後の事を考えて、銃弾を使いすぎずに戦闘していれば、杏山カズサを軽傷で助けられたのではないか?

もっと私が頑張れば、もっと私が早く動けていれば。

そんな後悔ばかりが、毎日ここに通う私の中で渦巻いて増え続けている。

放課後スイーツ部の人達や杏山カズサと仲の良かった人達と会うたびに申し訳なくて、目を逸らしてしまう。

あれから、ずっとあの日の光景を夢にみるその度に飛び起きて、あの時の光景がフラッシュバックして、嘔吐する。

苦しくて、苦しくて、弱い自分が嫌になる。

トリニティの騎士?スーパースター?

トリニティの審判者?自警団のエース?

正義の使徒?

私にそんな名乗りを言う資格なんてない、守りたいと思ったものすら守れない。

守れなかった私なんかに名乗れない。

あれから、シャーレの先生もエデン条約事件で銃撃され意識不明の重態となりキヴォトスの犯罪発生率が急上昇しトリニティでも以前より犯罪が増え、私も自警団としてパトロールする時間や戦闘が増えた。

荒れている、キヴォトス全体が。

 

「そろそろ、いかないと……」

 

重い体をどうにか動かして病室の扉を開ける。

 

「ぅぁっ!?」

 

放課後スイーツ部の栗村アイリ、柚鳥ナツ、伊原木ヨシミがその手にビニール袋を持って病室の前に立ったいた。

きっと杏山カズサのお見舞いに来たんだろう、即座に私は頭を下げて無言で彼らの隙間から出る。

アハハ、嫌われちゃってますよね。

当然です、私は彼女たちを、杏山カズサを守れ無かったのだから。

 

「あ……行っちゃった」

 

「また、話せませんでしたね……」

 

「彼女は、かなり無理をしている。カズサが起きたら、少しは元に戻ると思うが……」

 

かつての笑顔と元気な姿はなく、静かで誰とも話さず一人で過ごすようになった、どこか思い詰めた様子の宇沢レイサを心配した放課後スイーツ部の思いは、レイサには届いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日、なぜ補給地点がバレ、アリウス生徒が襲撃したのか?

それは、補給地点で捕まっていたアリウス生徒が情報を流して、補給地点で休憩する生徒達を襲うよう計画したらしい。

捕まえたから……意識があるのに捕まえたのがダメでした。

 

「───さん!」

 

シューティングスターを構えて引き金を引く、もう一度引き金を引く。

立ち上がらないように、絶対に行動できないように、銃を持ち撃つ気力すら無くなるように、気絶するように何度も、何度も何度も引き金を引く。

この人に意識があったら、また同じことを繰り返す事になる。

嫌だ、嫌だ、嫌だ、イヤだ、いやだ………。

確実に動けないように、反撃できないように──。

 

「レイサさんッ!!もう止めてください!」

 

「あぇ、スズミさん?」

 

スズミさんにが背中から回して私のシューティングスターを持つ腕を締め上げ、何が起こったのか分からず困惑したまま私は目の前の景色をみて、自分が何をしたのか理解した。

目の前で仰向けに倒れ、ピクリとも動かないヘイローが消え気絶した一人のヘルメット団の少女。

そして周りで私を見て、恐怖の表情を浮かべて体を震わせ中には涙を流している拘束されたスケバン達。

 

「ぁ、わ、私は………」

 

持っていたシューティングスターが手からこぼれ落ち地面に落ちてカン!と金属らしい音を鳴らす。

 

「レイサさんもう大丈夫です!彼女たちに反撃の意思はありません!」

 

目の前のヘルメット団の体に、何度も銃撃されたことを物語るように、服が破れており跡が残っており肌が見える部分にはいくつもの青い痣が出来ている。

目の前の惨状を生み出したのが、自分だと信じられなかった。

その後、その場にいたヘルメット団やスケバンの少女達を正義実現委員会に引き渡した後、私はスズミさんに自警団として動くのを暫く控えるべきだと言われた。

 

「レイサさん、暫くは自警団の活動は控えた方が良いと思います。あれから眠れていないのでしょう?」

 

アハハ、これはもう辞めろって事ですよね。

自警団なのに、過剰に銃を撃って過剰な制圧をした。

そんな私はもう自警団に居場所が無いんです。

 

「隈も酷いですし、戦闘中に周りの声が聞こえなくなる事も増えましたし少し休んで───」

 

あれ、私って居場所はあるのでしょうか?

杏山カズサを守れず、放課後スイーツ部を悲しませ、トリニティで暴れていたとはいえ、過剰な制圧攻撃を行った。

こんな私は、もうトリニティに居場所なんて、ないですよね………。

次の日、私はトリニティ総合学園を退学しあの制服を脱いで黒いジャージを着るようになりました。

家には帰らず、トリニティを歩き事件が起きたなら、暴れている人達を二度と暴れないように制圧して、路地裏で倒れ込むようにして睡眠を取り、あの日の夢を見て飛び起きる。

トリニティを彷徨い、暴れている人達を制圧して動けないようにしてまた彷徨う。

着ている服はボロボロになり、顔の隈は酷くなっていった。

もう今がいつで、あれからどれくらいの月日が流れたのかも分からない。

でも、暴れている人達を制圧することだけは変わらなかった。そうしていつしか、トリニティから私はこう呼ばれるようになった。

バーサーカー、星滅。

アハハ……キャスパリーグの事を言えなくなってしまいました……。

でも、それで良いと思ってしまう。

もう杏山カズサのようになる人を増やさなくて済むなら、そう呼ばれても良かった。

トリニティを辞めてから、どれだけ時間が過ぎたのは分からない。

ふと、路地裏で膝に埋めていた顔を見上げれば青ではなく赤い空が広がっていた。

何か、あったのでしょうか?

いつから空が赤くなっていたのでしょう?

いつから、道で人とすれ違うことが無くなった?

いつから、昼間の賑やかな声が聞こえなくなった?

突如として胸に大きく生まれた焦りと嫌な予感から、私は立ち上がり急いで路地裏から出た。

大丈夫、大丈夫な筈。

走って、走ってやがて杏山カズサが入院していた病院へとたどり着いた。

でも、目の前にあったのは半壊し機能を失った病院だった。

全力で走った足は震えて、口は体に酸素を取り入れようと短く、繰り返し深く呼吸を要求する。

水をくれと、休ませろと体が訴えるのを無視してフラフラと病院に入る。

半分だけ開き、残り半分はガラスが割れて機能を停止している自動ドアを通り階段を上がり目的の部屋へと向かう。

一切の声のしない病院、充満するある臭いに鼻が刺激され、呼吸を拒み、暫く何も入れていない筈の胃からナニカが迫り上がってくる。

迫り上がってくるそれを耐え、震える足で階段を登りやがて彼女の部屋のある階へとたどり着いた。

割れた花瓶、倒れた医療器具、立ち込めるあの異臭。

焦りと行くなと訴える自分の一部を押し込め、彼女の病室の扉を震えながら開く。

病室は、天井も壁も崩れていなかった。

 

でも───。

 

「あ……」

 

ベットの近くに置かれた花瓶に入った花達は萎れて枯れている。

置かれた小物は埃を被り、ベットの上に横になったままの彼女に繋がれていた点滴は、無くなったのに繋がれ、彼女の体に繋げられた電子音を鳴らしていた医療器具のモニターは、真っ黒だった。

 

「あぁ……杏山、カズサっ」

 

目から、とっくの前に流れなくなったと思っていた涙が頬を伝う。

ゆっくりと、彼女の手に触れる。

彼女の手の温かさはもう感じられず、ただ冷たかった。

 

杏山カズサは、もう─────。

 

崩れ落ちた私は頬から流れる涙と口から漏れる嗚咽を、埃を被ったベットに顔を押し付ける事で押し込めた。

でも、押し込められなかった。

静かな病室には自分の嗚咽と鼻を啜る音がやけに強く響いて聞こえた。

自分はどう呼ばれても、どうなっても良かった。

彼女が、杏山カズサが生きてくれていれば、目を覚ましてくれるならもう二度と会えなくても良いって、杏山カズサが目を覚ました後トリニティで安全に暮らせるなら、それで良いって。

でも、私は()()()()()()

彼女の近くにいて、彼女に何があっても守れるようにしていればよかった。

ただ、目の前の彼女を失ったことが悲しくてその原因を作った自分を許せなくて、自分が許せなくて、苦しくて。

変わりになれたならと何度も思ってきた。

なんで、なんで私じゃなかったんですか?

杏山カズサじゃなくて、私がこうなるべきだったんじゃ無いんですか?どうすれば良かったんですか?

だれか、おしえてください。

わたしは……わたしはどうすればよかったんですか?

泣いて、泣いて、泣いて……身体中の水分が消えていくのを感じて、やがて目から涙が流れることも無くなった。

私はベッドから顔を上げて頭に着けていた星の髪飾りをとって彼女の胸に置き、萎れているが花びらが散ること無く残った一輪の花をそっと置いた。

 

「杏山カズサ、貴方にとって私はもう忘れたい思い出ですよね。残念とは思いません、当然です、全部私が悪いんです……だからっ、私の事は忘れて下さい」

 

目蓋を閉じた彼女にそう言いながら、()()()()()をかける。

今、私は笑えているだろうか。彼女への最後の言葉くらい、いつものように笑って言いたい。

病室を出ようとしたとき、扉が変わっていることに気づいた。

埃も汚れもない、真っ白なドアに本来ならば警戒する筈なのに私はフラフラと吸い寄せられるようにして、ドアノブに触れて捻る。

次の瞬間、目の前の景色が一瞬で変わり病室ではなく明るく電気の通った一室だった。

目の前には白いスーツに青いネクタイを着けた、何処か先生と似た雰囲気の大人の男と大きな銃?を背負った床に届くほどに長い髪と赤い瞳、ヘイローが特徴的な少女がいた。

 

「あー、なんだ……レイサだよな?」

 

ここが何処なのか分からず、戸惑っていると男の人が私の名前を呼ぶのが聞こえた。

そういえば、名前で呼んで貰うの凄く久しぶりですね。

この人は、先生の持っていたタブレットと似たものを持っている、もしかして。

 

「先生、なんですか?」

 

「違う、俺はなり損ないだよ」

 

「宇沢レイサ、です……学校はその、辞めました」

 

この人に、何かをして貰うなんて良いのだろうか?

もう何処の生徒でもない私なんかが、先生のような人にお世話になっても良いんでしょうか?

困らせてしまったと後悔していると私の言葉に戸惑った様子を見せた先生らしきあの人は、即座に立ち上がって私に言った。

 

「あー、ケイ。俺は飲み物とってくるから」

 

「アリスはケイではなくアリスです先生。先生、アリスはコーラが飲みたいです」

 

「はいはい、持ってくるからレイサのこと頼んだ」

 

そう言いながら女の子から先生と呼ばれた男性は部屋を出ていった。

やがて、先生からケイと呼ばれた彼女が私の元へと歩み寄ってくる。

 

「困惑していますか?」

 

「えっと、その……」

 

「自己紹介がまだでしたね、私は天童アリス、職業は勇者です!まだ見習いですが、いつかは魔王を倒し、世界を救うんです!」

 

「アリス?でも、あの人はケイって」

 

「アリスはアリスです、深く詮索しないで下さると助かります」

 

自己紹介したときの子供のような無邪気な笑みとは違い、静かに真顔でそう話すアリスさんに思わず私は頷いてしまう。

 

「最初に言っておきますが、ここは貴方のいたキヴォトスではありません」

 

「え?」

 

「アリスも貴方と同じ、別のキヴォトスから先生……正確には先生が持つタブレット端末『パンドラの箱』に呼ばれこの世界にきました」

 

今いるこの場所は、私がさっきまでいたキヴォトスじゃない?そんな突拍子もない、夢のような話に困惑してしまう。

でも、真剣に話すアリスちゃんの言葉が嘘とは思えなかった。

 

「正確には、あの人も"先生"ではありません」

 

「え、でもアリスちゃんは先生って」

 

私の知る先生とは違うのに、何処か似た雰囲気を感じさせてくるあの人は、先生じゃない。

先生と呼んでいたアリスちゃんから語られた言葉に首をかしげてしまう。

 

「あの人は、自分を大人ではないと言っていました。先生どころか大人にすら、なれてない……なり損ないだと」

 

「じゃあ、なんでアリスさんは──」

 

「アリスで大丈夫です!」

 

「ぅア、アリスは、あの人を先生と呼んでるんですか?」

 

その言葉に、アリスは先程までの真剣な顔とも無邪気な笑みとも違う。

何処か浮世離れした笑顔で、何処か遠くを眺めながら言った。

 

「アリスは、()()()()()()。間違えて、全部を後悔して、もうどうしようもないと思っていた時に、あの人に呼ばれて会いました」

 

「っ」

 

このキヴォトスに来る前、先程までの自分の状況と思っていたことを思い出して、私は自分と彼女が似た状況であの人に呼ばれたことに驚いた。

 

「あの人も、アリスたちと同じです。突如としてパンドラの箱を手にして、アリスたちを呼び出しました。この世界になんで呼ばれたのか、その意味を探しているんです」

 

「この世界に、呼ばれた理由……」

 

駄目だ、分からない。

でも、別のキヴォトスに……あの人とアリスの元に私の居場所なんてあるんでしょうか?

バーサーカーだなんて呼ばれるような、トリニティを自主退学したような私が。

ガチャリとドアノブが開いて、外から戻ってきたあの人は手に3本のペットボトルを抱えていた。

 

「お待たせ、ほれケイ。あとレイサも」

 

「ぱんぱかぱーん!先生はおつかいクエストを達成しました、報酬としてアリスを撫でる権利を与えます!」

 

「ほれ、レイサも。あ、炭酸は駄目だったか?」

 

「い、いえ大丈夫です……」

 

「無視しないで下さい先生!」

 

ジュースを受け取り、男の人へと頭を差し出すアリスを素通りして私には持っていたペットボトルのうち1本を差し出され、反射的に受け取ってしまう。炭酸は普通に好きですし、何よりさっきまで全力で走り体は水分を求めている。

キャップを開けてコーラを口に含む、コーラの甘みと炭酸の刺激が、私の目の前の光景が現実だと教えてくれる。

目の前ではアリスが頭を差し出したのに撫でられなかったことに若干頬を赤くして怒り「先生なら撫でるところです」「なり損ないの俺に撫でられて嬉しいかよ?」と困惑しながら頭を撫でられていた。

何故だろうか、最初だけ作られた感じの笑顔だったのに撫でられる内に作られてない笑顔になるアリスに、目の前の男性が悪い人ではないのだと感じて自然と信頼できる人だと思い始めてしまっている。

 

「ここに、私の居場所はあるんでしょうか」

 

ふと、そんな言葉が口から漏れて慌てて口を閉じる。仲良く?している二人が先程までのようなじゃれあいを止めて、静かに私を見てくる。

また、失敗しちゃいました、あの人とアリスの楽しい時間に水を差してしまった自分の空気の読めない呟きに、思わず自己嫌悪で自分の膝を眺める。

 

「俺たちもこの世界にいる意味を探してる」

 

アリスを撫でていた男の人は、持っていたペットボトルをテーブルに置くと私の前まで近寄ると膝をついて俯く私を下から見上げてきた。

その顔は、何処か安心感を感じさせてくる何となく大丈夫だと思ってしまうような顔だった。

 

「ある人が言ってたんだ……人は誰でも、自分のいるべき世界を、居場所を探している。そこは偽りのない、陽の当たる場所だ。そこへ行く為に、人は旅を続ける」

 

私だけじゃなくて、みんなが居場所を探している?

 

「答えを出す事、居場所を探す事は何年かかったっていいんだよ、みんな悩んで答えを見つけていくんだし。まぁ、俺はまだ見つけられてないがな」

 

「アリスもです」

 

そう苦笑しながら、アリスが先生と言っていたあの人が私をまっすぐ見て言った。

 

「お前が生きてる限り、いつだってその時いるそこがお前の場所になる。だから、一緒に探そうぜ?見つかる日まではここが、俺たちがレイサの居場所になってやれるから」

 

その言葉に、私はようやく自分の居場所を見つけられたような気がして、私は頷いていた。

 

「よろしく、お願いしますね。"先生"」

 

そう言いながら私は笑う、きっと昔みたいに笑えているような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

居場所があるのかと呟く彼女の姿に、何とか元気付けられないかと思い、思わずそれっぽい仮○ライダー語録で励ましたが上手くいったのだろうか?

やはり、俺なんかに先生は無理だな。

気が利いた励まし方なんて出来ないし、本当にブルアカの先生は大人だよ。

何人もの生徒を救って、やがてはこの世界すらも救ってしまうんだからな。

俺のような大人のなり損ないには無理な話だ。

 

そんな事を考えていると、彼女……レイサは口を開いた。

 

「よろしく、お願いしますね。"先生"」

 

光のない瞳で笑う宇沢レイサの姿にとてつもない痛々しさが、漂う雰囲気が少しだけ弱まったような気がした。

 

良かった、これで取りあえずは大丈夫そ……いや、ちょっと待て。

 

「せ、先生!?いや俺は先生じゃないんだぞ?教員免許だって無いし、俺は、なり損ないみたいな──」

 

「ぱんぱかぱーん!レイサがパーティーに合流しました!さっそくこの施設について紹介……するのはもう夜ですし止めます。今日はここか私の部屋で寝ましょう!」

 

「よ、よろしくお願いしますね。あ、アリス」

 

そう言いながら共に部屋を出ていく二人を見送り、俺は取りあえず空になった3本のペットボトルをゴミ箱へと放る。

 

「はぁ……メンタルケアとかカウンセリング関連の本でも買うべきか?」

 

そう思いながら、俺は恐らくはパンドラの箱を手に自分の部屋へと向かう。

もうケイとレイサがあそこまで仲良くなってるのが意外だが、俺よりもケイの方が悩み聞いて答えたりするの出来そうだ。

ヨシッ、宇沢のメンタルケアはお前に任せたぞケイ。

 

それにしても、レイサまで先生呼びか。

 

俺はなり損ないだから先生だなんて呼ばれるのは勘弁して欲しい、本来の先生と被るからせめて他の呼び方をして欲しい所だ。

そんな事を考えながら、俺は明日からのレイサ込みでの行動について考えながら布団に潜った。

次の日、何故か別の部屋で寝ていた筈の二人が俺を挟むように一緒の布団に寝ていて色々な意味で声にならない悲鳴が出るのはもう少し後の事だった。

 

 





パンドラの箱、情報更新

─ロストスターダスト─宇沢レイサ
エデン条約中、自身のミスがきっかけで杏山カズサが昏睡状態となり、自身の無力感に絶望しトリニティに居場所がないと思い込み自主退学した「宇沢レイサ」。
トリニティ地区内で暴れる生徒を制圧しては放浪繰り返しており、常に周囲の安全を気にし過度な武力を行使して敵を完全に制圧することが特徴的。

新たな生徒です、彼女をどうかよろしくお願いしますね、先生。

先生の皆さん、天井って自由ですか?(マ○ュ)
人生でゲームのガチャ天井を初めてしたのはブルアカの復刻のメイドゲーム開発部です。
そして今回は天井でなんとか水着トリニティを揃えることが出来ました(無課金先生です)。
その分、アリス(6周年PVの姿)の為の貯金はし直しですね。
あとブルアカサークル、アマノイワトのサークルに入ってくださる方募集中です、良ければどうぞ。

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