─クランバトル倶楽部、潜入経過報告書─
報告者:棗イロハ
調査対象:丹花イブキ及びクランバトル倶楽部
備考:本学在籍の丹花イブキと酷似した容姿
を持つ生徒。
エデン条約での一件において虎丸と酷似した
戦車を操り現れた際に「パンデモニウム議長」
丹花イブキと名乗った存在は現在。
レポート01
クランバトル倶楽部の営業内容について調査完了。
ブラックマーケットに申し込んだ生徒二人組同士による戦闘、その勝敗への賭博。
また、施設運営にはカイザーPMCが大きく携わっている。そのためか施設内にはカイザーPMCのガンショップや様々な飲食店が施設内店舗を出店している。
また施設内での賭博戦闘で好成績を出した者には、カイザーPMCといった様々な勢力からのスカウトが行われている。
また、単に生徒を商品として扱う様子はなく、戦闘に参加した様々な生徒は1日宿として施設を利用可能。
ブラックマーケットとは思えない程に、施設内での治安は安定している。
会長の支持力もですが、施設の治安を守る部隊であるハウンズと呼ばれる生徒達による影響とも言える。
レポート02
調査対象について、クランバトル倶楽部会長の言葉からの推察と確定した内容について。
調査対象の名前は、丹花イブキ。
年齢、容姿共にゲヘナ学園に在籍する「丹花イブキ」と同様。
そして彼女は、我々が存在するこの世界とは異なる別の世界。
マルチバース理論などに存在する並行世界から来た存在と思われる。
会長は丹花イブキについての問いにたいして、並行世界から現れたことについて仄めかすような発言があり、そのように推察。
また彼女は私への接触を極度に控えている事、彼女が「パンデモニウムソサエティー議長」を名乗った事。
彼女が腰ベルトに下げた帽子と頭に被った帽子の数が、パンデモニウムソサエティーのメンバーの合計人数と一致すること。
恐らくは、私たちの身に何かあった世界の可能性が───。
夜中、棗イロハは自室のパソコンから目を離し眉間を指で少し揉むと疲労の籠った溜め息をついた。
ゲヘナ学園で生活していた私なら、休日の前の日くらいしか、こんな夜中まで起きるような事はない。
ましてや、仕事のために進んでこのような事をしているなんて。
ゲヘナのパンデモニウムの元へ送る調査に経過報告のメールを前に、椅子の背もたれに背中を預けて呆然と宙を見つめる。
マコト先輩に頼まれ、クランバトル倶楽部に存在するイブキと全く同じ容姿の彼女の調査を命じられた。
そしてここにいるイブキについて、会長である彼から聞いた話をどうにか纏めているが、文章が上手く纏まらずパソコンにはいくつもの文章が並んでいる。
そもそも、彼女たちの存在自体の前提が現実ではあり得ないのだ。
マルチバース理論、自分達の行動や些細な変化から無限に枝分かれした世界のひとつ。
そんな世界の何処かから来たイブキや、イブキのような各学園に存在する生徒と似た容姿の彼女たち。
みんなが、そうした自分が今いる世界から分岐した世界から来ている。
……ここまで色々な文章を書いてはいるが、それはまだ私の考えた推察にすぎない。
ここにいるイブキ、彼女が自分を避けているのは明確だった。
「はぁ、思ったよりクルものがありますね……コレ」
ゲヘナにいるイブキに声をかけたとき、話しかけたときの反応が脳裏に浮かぶ。
きっとイブキなら、声をかければ『イロハ先輩!』と喜んで駆け寄り、楽しそうに今日あった出来事を語ってくれるだろう。
でも、クランバトル倶楽部のイブキは違う。
目が合えば、彼女は目を逸らす。
声をかけても話は最小限で即座にその場から離れていく。
どれだけ会おうとしても、躱される。
会いに行けばもうそこに彼女はいないの連続だ。
避けられているのは、明確だった。
イブキからも、会長からも答えが聞けていない、答えは推察できてもそれはあくまでも私の考えたものであって事実ではない。
それにクランバトル倶楽部の会長はそもそも静養中、温泉開発部の宿でも詳細を聞く前に邪魔が入り分からず終い。
更には、トリニティへ出掛けた彼が吐血し重体となって運ばれてきた。
「はぁ、これ職業体験の幅を越えてるような……まぁ給料は良い額貰えてますしいいですけど──すこし、忙し過ぎませんか」
そう呟き、イロハは立ち上がるとエナジードリンクを片手に窓へ向かう。
窓から見える星をボーッと見つめながら、エナジードリンクを煽る。
あれから、ずっと考えている。
会長の言葉から、クランバトル倶楽部にいるイブキの過去を。
イブキ、彼女が腰ベルトのベルトに下げた帽子。
傷だらけで、破れてもなお修復し持ち続けているソレに、彼女が身に付けている帽子、ベルトに下げた帽子にも見覚えがある。
ソレは私が身につけているもの。
ソレはマコト議長、チアキ、サツキが身に付けていた帽子。
会長、あの人は「もし」そう言った。
でも、そのもしは彼女がどんな道を辿ったのか、想像するのは簡単で、残酷だ。
何より、覚えている。
初めて私が、彼女を見た日。
イブキは、ようやく手にした希望が目の前で奪われたような表情を浮かべていた。
そう、マコト議長と私がゲヘナ学園に所属するイブキを迎えに来た、その時に。
その場からすぐに走り去る彼女の背中は、酷く寂しそうに見えた。
「なんで、そんなことになってるんですか………?」
窓、クランバトル倶楽部から近くにある倉庫らしき場所に明かりがついていた。
こんな時間に誰が?それにあの場所には、入ったことがありませんでしたね。
「……いってみますか」
夜の冷たい風が体に当たるなか、私は倉庫の入り口の扉を開いた。
入って、最初に目にしたのはエデン条約のあの日にイブキが操縦していたらしき戦車。
虎丸と同じ車種でも、その黒い装甲が虎丸とは別物だ。
そしてそんな虎丸の横に佇む、
装甲の所々が剥げ、電線のような物が飛び出し、何かしらの手を加えられているのが明らかだった。
「技術室?」
戦車荷台の更に奥にある、明かりが強い空間。
そこへ向かうが、何の物音も聞こえない。
電気の消し忘れ?
ふとそんなことを思いながら、明るい方へ向かうと見えたのはまるでミレニアムサイエンススクールを彷彿させる様々な工具が設置された部屋が広がっていた。
そしてそんな部家に設置されたデスクに、小さな影があった。
恐らくは何かしらのプログラムが組まれた画面、設計図らしきものを移したサブモニター。
大量の書類とアイディアらしき物が書かれたノートにペン。
そんな様々なものが広げられたデスクで自分の腕を枕に眠っているイブキ。
「………イブキ」
思わず、その名前を呼んでいた。
けれど、返事はない。
小さな身体を丸めるようにして、イブキは机に突っ伏して眠っている。
デスクの近くには、毛布と枕が置かれている。
恐らくは何度もこうして繰り返して、遅くまで起きていたのだろう。
近くに置かれた毛布を取り、彼女にかけるため側へ。
それは、ずっと彼女を世話していたが故に自然と起こした行動だった。
「わ、たしが……」
毛布を掛けたとき彼女の口から、寝言らしきものが聞こえた気がして少し耳を近付いてみる。
「わたしが、やらなきゃ……わたししか……」
耳を寄せたことを、後悔した。
その言葉は、果たして今と過去。
どちらへ向けたものか。
思わず、手を強く握っていた。
「並行世界の私、あなたは何をやってるんですか。イブキに、どうしてここまで」
『───知りたいかしら?』
背後から聞こえたその声に私は即座に振り返る。
あり得ない、聞こえる筈がない。
彼女がここにいる筈がない、ここへ赴く筈がない。
振り返るが、彼女──風紀委員長である彼女の姿がなかった。
幻聴?疲れているのでしょうか……。
『はじめまして、ね?棗イロハ』
また、聞こえた。
そして気付いた、先程までエンジンの着いていなかった黒い戦車が起動していた。
『私はHiNA、この戦車……虎丸零式の運転、イブキのサポートをしているAIよ』
「っずいぶんと、聞き覚えのある名前ですね。AIと聞きましたが、ずいぶんと流暢に喋るんですね……」
『そうでしょうね。さて、話の続きをしましょうか』
自らをHiNA、そう話すAIはそう言った。
「続き、ですか」
『そう、何故イブキがあなたを避けるか。彼女の過去に何があったのか』
「っ、それは」
彼女のイブキの過去について、その話を何故AIが知っているのか、分からない。
でも、そんな不明さよりイブキの過去への強い興味が勝った。
「聞かせて、くれるんですか」
『えぇ、あなたがここへ滞在する目的。イブキについて分かれば、あなたはゲヘナへ帰るでしょう?あなたがここへ滞在することがイブキにとって強いストレスになるわ、早くここから出ていって貰うためにもあなたに情報を渡す、じつに合理的ね』
「私が、イブキにとってストレスの原因……ですか」
『さっさとすませましょう。イブキの過去についてね』
私がいることが、イブキにとってのストレスになる。
その言葉に、拳を強く握り締めた。
『イブキはね、失ったの。エデン条約の時にゲヘナ学園へと放たれた
は?二発目の、巡航ミサイル?
『パンデモニウムソサエティーはイブキを残して死亡、そうしてゲヘナ学園を代表する生徒にたった一人残されたイブキはパンデモニウムソサエティーの議長へ就任したわ。心の整理も着かないうちにね』
私達が、みんな……死んだ?
『トリニティへの憎悪に取り憑かれたゲヘナの生徒、そして貴方達を殺されたイブキは復讐に取り憑かれ、トリニティに対して徹底交戦を示し戦争をしたの』
私の脳の整理がされる前に、次々と未知の情報がAIから語られる。
『トリニティとゲヘナは戦争を続けたわ、ミレニアムサイエンススクールはその隙に色々とあって崩壊していたわ』
「そんなこと、先生が許す筈が───」
『貴方の言う先生は、シャーレの先生かしら。彼はエデン条約の調印式で撃たれ意識不明の重体となったわ。だから、止める人はいなかったの』
先生が、意識不明の重体。
『だから、イブキにとってあなたを見ることは強いストレスなのよ。自分にとって掛け替えのない先輩が、二度と会えないと思っていた人が目の前にいる。けれど、その人は自分の知っているイロハ先輩ではない』
頭が、情報を整理できない。
理解を、拒んでいる。
『これで分かったかしら?それじゃあ話は終わりよ。早く帰って貰えないかしら?貴方の居場所へ』
そこから先は、何を話したのか。
何をしたのか、覚えていない。
気がつけば私は、自室へと戻ってベッドに横になっていた。
イブキが経験したことは、全てが私の想像をはるかに越えていた……。
二発目の巡航ミサイル。
パンデモニウムソサエティーがイブキを残し死亡。
シャーレの先生が撃たれ意識不明の重体。
トリニティとゲヘナによる戦争。
ミレニアムの崩壊。
そんな世界が、存在する?
夢なら、よかった。
疲れていたから、変な夢を見ただけ。
そう思いたかった。
けれど、あれは紛れもなく現実だった。
「……イブキ」
眠っていたあの子の顔が、頭から離れなかった。
ミレニアムサイエンススクールのー室。
そこでは調月リオが静かに佇んでいた。
たった一人、誰もいない教室で腕組み誰かを待っている様子だった。
彼女はゲーム開発部に所属する生徒達からもたらされた情報と推測、リオ自身が経験した事から、リオは行動を起こしていた。
やがて部屋の扉が開き現れたのは、幼い容姿に目立つ龍のスカジャンを羽織ったメイド服を着た生徒。
ミレニアムサイエンススクール、三年。
C&Cコールサイン00、美甘ネル。
「待っていたわ、ネル」
「お前がアタシを呼ぶなんて、どうしたよ?しかもアタシを頼るなんてな」
「雑談は合理的では───いえ、何でもないわ。そうね、私も誰かを頼ることを覚えたと言うことよ」
「へぇ、そうかよ。んで、どうした?」
「単刀直入に言うわ、ネル。クランバトル倶楽部に潜入し会長とその周りの生徒について調べてきて頂戴」
「……ァア?例の大人がいるブラックマーケットの賭博場だったか?」
彼女は、頭を掻きながら怪訝な表情を浮かべていた。
「えぇ、そうよ。もし私やユズ……ゲーム開発部のあの子達の言葉や推察が正しければあの大人は───。いえ、これはあくまでも考察にすぎないわね。それと」
「あん?潜入だけでも疲れんのに、まだあんのかよ?」
「……その、コユキがセミナーの予算の一部をその、持ち逃げしてブラックマーケットへ向かったみたいなの。だから連れ戻して欲しい、お願い出来るかしら?」
パンドラの箱、情報更新。
虎丸・零式サポートAI『HiNA』
High quality
Navigate
Artificial Intelligence
略して『HiNA』、パンドラの箱から突如としてインストールされた虎丸零式のサポートAI。
空崎ヒナ(ナニカアッタイブキ世界)
イブキの居た世界で起こったトリニティとゲヘナによる戦争の中、先生が重態となり沈んでいた。
そんな中、たった一人でゲヘナを統治し指揮をするイブキの生き急ぎと危うさから無理やり復帰しイブキを補佐し戦闘を担っていた。
イブキがパンドラの箱に呼ばれる数日前、トリニティとの戦争最前線にて死亡。
イブキを残して死ぬ事への後悔、心配から気付けばパンドラの箱によって、イブキの作り出した虎丸零式のサポートするAI『にゃんにゃーんちゃん』を乗っ取る形で顕現した。