クランバトル倶楽部、そこが俺の探していた……この世界で求めていた居場所。
そう理解してから、数日。
クランバトル倶楽部の校舎の屋上には二人の影があった。
「あー、日向ぼっこはいいなぁ」
屋上、空から照りつける太陽を遮るビーチパラソルの日陰へと設置され、サマーベッドへ横になっていた俺は、そんなことを呟きながらサングラス越しに空を眺める。
「どうぞ」
ベッドの横に設置されたもう1つのサマーベッドに座っているケイが、近くに置かれたクーラーBOXの中身で冷やされた炭酸ジュース、コーラを渡してくる。
氷で埋め尽くされているからかソレは手に取ればひんやりと、瓶ならではの涼しさが感じられる。
自販機で売っているようなペットボトルのソレではなく、瓶。
瓶のコーラは蓋が外れているので、受け取ってそのまま口内へ流し込む。
口内に流され、
「旨い、本当に旨いな。やっぱり炭酸飲料は良い」
「ふふ、そうでしょうね」
味覚が戻った。
あんなにも戻らなかった、味が分かるようになった。
最初に感じた味は柴関ラーメンだ。
柴大将がお見舞いに作ってきてくれた病人用に作られたラーメンの味。
ガツンと来る旨味の醤油ベーススープに、太くモチモチとして啜りやすい縮れ麺。
噛めば肉汁の出るチャーシューに、まろやかさのでる味玉。
本当に脳が殴られたような感覚だった。
途中から無言で食べていた気がするな。
ブラックキャット先生曰く、ずっと精神が追い詰められた極限状態にいた俺は、そこへ更に疲労とストレスを積み重ねたことで回復が阻害されていたらしい。
知らない内にそこまで自分を追い詰めていた事実に震え、こうしてキチンと休み始めた。
その結果、思っていたより早く味覚が回復し始めた。
「それにしても、何故瓶のコーラなのですか?ペットボトルの方が安価だったのでは……」
「まぁ、あれだ。瓶だからこその旨さってのがあるんだよ」
「そうなのですか」
ペットボトルではなく瓶であることに疑問を抱いていた様子で、こちらを見つめてくる。
「中身が同じだとしても、些細な変化によって価値を大きく変えるもんなんだよ」
そう言いながらコーラを更に呷る。
コーラを持つ俺の腕には、まだ点滴が繋がれている。
なんなら点滴スタンドがサマーベッドのすぐ側に固定されている。
味覚が戻ったからには、体の不調も含めて全回復した……というわけではなかった。
まだ体の血は足りていないらしい。
片目の眼帯はまだ外れていない、視野の違いがまだ大きく生活へ支障をきたしているからだ。
この目がこうして視野の不自由を招いているのだが、視野の問題より別の問題が現れつつある。
トリニティからクランバトル倶楽部に戻ったあの日から、視覚の事もあり常にハウンズやパンドラの箱が呼び出した生徒達に補助される形で生活していた。
日常での移動はまぁ、いいが。
問題は入浴だ。
流石に風呂場の移動で転ぶのは勘弁願いたい。
そういった事から風呂場での補助を頼みたい、そういうことから同性のブラックキャット先生やカイザーPMCの誰かを頼ろうとしたのだが何故かケイ達が猛反対した。
『私がいるじゃないですか!前も一緒に入りましたし!問題ありませんよね!!』
『その、私やイブキちゃんも入ったことありましたし……今更かと』
『せーんせ?イブキ達と一緒に入ろーよー!』
『は?ケイにレイサにイブキどういうことですか?』
『イブキー、よくわかんな~い♪』
『いやぁ、あの、その…アハハ』
『そのぉ、私達じゃダメなんですか?』
棗イロハとケイより前にレイサとイブキという例があった為か、それならブラックキャット先生やカイザーPMCに頼るよりも私達を頼った方が良い。
彼女たちの主張はそういうことだった。
そのため、ハウンズやパンドラの箱が呼び出した生徒に手伝って貰っている。
勿論、服は着用させてるがな。
問題は、イブキとケイだ。
どこで学んだのか水着で突撃してきて本当に困った。
頼むから濡れて良い服にしてくれ本当に頼むから。
ふと眠気を感じ、サマーベッドの近くに置いたミニテーブルに置いている小さなタオルケットを軽く体にかける。
「すまんが、寝るわ。少ししたら起こしてくれ」
「休んでるんじゃなくて自堕落になっているの間違いじゃないですかコレ」
「今は仕事ドクターストップだからな」
「物は言いようですね。まぁ、当番のお陰で私は仕事ではなくゲームが出来るので良いですけど」
取り出してゲームを始めるケイの姿は、非常に既視感がある。
何度もゲームのPVで見てきた桃緑の姉妹が非常に浮かぶが、それは記憶の片隅に置くことにして俺は眠気に身を任せた。
なり損ないが眠っている横でケイはゲームをしていたが、ふと気配を感じて画面から顔を上げる。
するとそこには、サマーベッドに寝ているなり損ない、そしてなり損ないのかけられたタオルケットに一緒に入り横になっているミユの姿が見えた。
「は?」
そして目があった。
「……スピー」
即座に目をつむり小さく寝息をつき始めるミユに、ケイは静かに立ち上がると、なり損ないの元で眠るふりを続けるミユの元へ向かう。
……えぇ、別に怒ってはいません。
怒っていませんとも。
羨ましいとか、そこ変われとか微塵も思っていませんとも。
ただ、目の前のウサギをどうしてやろうか考えてるだけですから。
「…そ、そのぉ…ウサギは寂しいと死んでしまう生き物です。私は、そのぉ、この人の飼いウサギですから」
ふふ、私は冷静です。
私はこの人と混浴しましたし?
一番最初に出会ったここの生徒ですし?
ちっとも嫉妬なんてしてませんが???
「ケイせんぱーい……せーんせー!少しお話ししたいことが…………」
そんなことを考えていると背後から聞こえてきた声に振り返ると屋上の入り口に立つイブキの姿が見えた。
イブキは倶楽部の仕事だったはずだ。
なのに来たということは、倶楽部に何かあった?
でも慌てていない様子ですし、急ぎではあるけど緊急ではないということでしょうか?
目の前のウサギを一度、置いておくとしましょう。
「イブキ、先生は先程寝付いたので私が対応します。どうかしましたか?」
「あのねケイ先輩、倶楽部ですっごい金額を賭け続けてる子がいて、とてもブラックマーケットの生徒とは思えないの。この人なんだけど」
そういいながらイブキがタブレット端末を操作し、監視カメラの映像へと切り変わる。
そして現れた映像へ映っていたのは、ミレニアムサイエンススクールの情報で見たことのある生徒の姿。
ニハハッ!という特徴的な笑い声を上げながら、楽しそうに賭けを行う一人の生徒の姿だった。
「………はぁ、これは私だけじゃ無理ですね。ミユどいてください、先生を起こします」
「ふぇぇぇん……」
昼寝から起こされ、何があったかと話と映像を見せられた俺は、大きく息を吐きながらサマーベットへ背中を預ける。
「なぁ、俺は本当に呪いとかそういうのにやられてるのか?少し寝てただけだぞ?」
「なら、今度私と百鬼夜行にお祓いにでもいきますか?」
「そうだな、真剣に考えとこう」
ケイにそう答えながら目を瞑り、考える。
黒崎コユキ、クランバトル倶楽部のような賭場に来ることは予測してなかった訳じゃない。
むしろイベントのバニーチェイサーを前提に考えるなら、予想できる未来だ。
だとしたら、俺に出来る行動は黒崎コユキが問題をおこさないよう監視することかつ、問題をおこさない様にコントロールすることだろう。
いつでも奴をミレニアム側に引き渡すことが出来るよう、急いでVIPルームでも作ってそこで生活させるか。
ヘルメット団やスケバンといったブラックマーケットで生きる生徒達の専用宿泊場とは別に一部屋を用意する。
可能なら電子機器は最小限にして、そこでだらだらとしてもらうとしよう。
そうだな……。
「ケイ、コユキを囲う檻を用意しよう。」
そう言うとケイは驚くと同時に困ったような表情を浮かべた。
「捕まえるというのは同感ですが……それでは恐らく迎えに来たミレニアムやシャーレの先生の反感を買うのでは……」
「冗談だ、本物の檻を用意する訳じゃない。イブキ、急いでクランバトル倶楽部と関わりのある店を調べて今から指定する種類の家具と指定のクッションやぬいぐるみがあれば、それを買って一つ部屋を作ってくれ。力が必要なら俺やホルス達に声をかけていい」
「せーんせ?どういうこと?それに指定の家具って」
困惑した様子のイブキを手招きして耳元に小声で用意する家具の指定する内容を聞かせる。
するとイブキはより困惑したのか、まるで某宇宙猫のような表情を浮かべた。
「うまく行くかは分からないが、今思い付くのはこれしかない。そうだな……」
いつもの少し小悪魔じみた表情から一変して、口を開けて困惑する姿に少し笑いながらイブキの頭を撫でる。
「作戦名は、ニートの兎作戦だ」
パンドラの箱、更新情報なし
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