結局、宇沢レイサから何があったのかを聞くことは出来なかった。
無理に踏み込むこともなかったのだけどな、あの後お腹の音を鳴らしたレイサとそれに連鎖するように鳴った俺とケイの腹の虫に、思わず全員で笑ってご飯を食べるために、ブラックマーケット内の飲食店へと向かった。
そうして飯を食べて帰ってきた俺が見たのは、見覚えのあるガチャ画面と封筒が写し出されたパンドラの箱だった。
これ以上、増えるのかという驚きと俺に背負いきれるのかという不安が襲う。
いくらケイが背負ってくれるのだとしても、彼女が倒れたなら?
潰れてしまう、それじゃあ、ダメなんだ。
本当に、先生はすげぇよ。
俺なんかよりはるかに多くの生徒と触れあって、名前を覚えて、全員と適切な接し方を実施してる。
俺には無理だ、俺には背負いきれない。
無理だよ、2人もいるんだぞ?
3人目なんて、俺には背負いきれるのかよ。
「また、暗い顔をしていますね先生」
「あの、暗い顔をしてますが、その……何か出来ることはありますか?」
2人の言葉に、手に持ったパンドラの箱から視線をあげる。そこには心配そうな表情を浮かべるレイサと何処か呆れた様子のケイがいた。
「先生、2人も3人も変わりません。一緒に背負うとアリスは約束しました……先生はアリスを信じてくれませんか?」
「違う!違うんだ……俺は怖いんだよ。ずっとケイに頼って、生徒を増やして……それだけケイが背負うモノは重くなる。俺はお前が押し潰されるのは嫌なんだ、その原因にはなりたくないんだよ」
心の底から、隠してもいない本心を告げる。
本当に俺は大人に成れない、こう言う弱いところは普通なら子供に見せるべきじゃないんだ。
大人は子供にとって頼りになるべきなのに、俺にはそうはなれない。
「情けないだろ、こんな奴が先生だなんて。笑っちゃうよな」
「先生……」
「俺はなり損ないだから、背負える数は少ない。でも背負わなきゃいけないんだよ、このパンドラの箱を持っている俺は、なり損ないでも、大人なんだから……呼ぶからには責任があるんだ」
そう言いながら、俺は彼女達を真っ直ぐ見る。
「すまない、2人とも。こんな俺でも、一緒に背負ってくれるか?俺はなり損ないだから、一人じゃ無理なんだ」
「先生、パーティーは多い方が嬉しいです。前にいった通り、アリスも一緒に背負います。それが勇者の役目ですから」
「私も、背負います。この宇沢レイサにお任せください、私も先生やアリスと一緒に頑張らせてください」
胸を張るケイと微笑むレイサに、何とかなるような気がして、少しだけ体にある重みが少なくなったような気がした。
「そう、か……なら、頼む。一緒に背負ってくれ」
頷く彼女達に本当に頼りきりで情けないと思いながらも、パンドラの箱に表示された封筒をタッチする。
パンドラの箱の画面に表示された封筒に触れた。トン!というタップ音と共に表示されている画面が変化しノイズが走る。
封筒の中から一枚の灰色の紙が表示された、いつもならここで召喚台詞が出てくる筈だが、召喚台詞が表示されない。
「え?」
もう一度パンドラの箱に指をタップしようとした瞬間、画面に無数のノイズが走り思わず手からパンドラの箱が床へとこぼれ落ちる。
急いで拾い上げようとしたが、部屋をパンドラの箱が放った2人を召喚した時より強く発光して、目の前が真っ白になる。
なんだ?前のケイとレイサとは何かが違う?
両目を瞑り、暫くして目蓋を開き床に落ちたパンドラの箱を拾い上げた次の瞬間にジャキっと頭に冷たい何かが押し付けられる。
「先生っ!」
「や、やめてください!」
「先生?この人が情報にあった?………」
頭に押し付けられたソレの予想がついて、心の奥底から恐怖で冷や汗が出てくる。
だって、頭に押し付けられたソレの予想がこの世界で簡単に想像できてしまう。
考えてみれば、今までの2人がこうならなかったのが奇跡なのかもしれない。
パンドラの箱がどう言った状態の生徒を呼び出すのか、分からない。
故に、呼び出した瞬間にこうなる可能性だってあったのだ。
「待ってっ、2人とも銃を下ろして」
横でそれぞれがスーパーノヴァとシューティングスターを構える2人に急いでそう指示を出して両手を上げながら、上を見ないようにして口を開いた。
「最初に、俺は先生じゃない。あと可能なら話し合いがしたい、銃を頭から退けて欲しい。俺は一発でも撃たれたら死ぬ、俺はまだ死にたくないから少しでいい、此方の話を聞いて欲しい」
後半ほぼ震えながらの言葉に、我ながら情けないと感じる。きっと先生ならこの状況でも堂々としているのだろう、でも俺には無理だ。
明確に目の前に死が迫っている、死神は身構えて居るときはこないという名言もあるが、逆に身構えてもいても死神はやって来ている。
「……分かりました」
その言葉と共に頭に頭に押し付けられていたソレの感触が消えて、俺は深く息を吐きながら膝をつき両手を地面について呼吸する。
そして少し呼吸を安定させてから、顔を上げて俺は目を見開いた。
だって目の前の彼女は、
でもそれより驚いた事がある、彼女の姿はちぐはぐだった。
短く切り揃えられた髪、その特徴的なそのオッドアイは鋭い眼光を放っており俺を睨み付けている。
身に付けているのはカイザーの特殊部隊員の着ていた
そして自身の体より大きくなりそうな|折り畳み式の盾を持っており、盾には擦れているが、恐らくは
「ホシ、ノ?」
「誰ですかそれは?」
「ホシノじゃ、ないのか」
「前にも同じような事があったような……誰と勘違いしているのか分かりませんが、私はカイザーPMC所属。
カイザーPMC所属?ってどういうことだ?俺の知るブルアカにそんなキャラは居なかったし、何より暁器ホルスと名乗る彼女の姿は、メインストーリーで明かされた小鳥遊ホシノの過去の姿だったのだ。
「じゃ、じゃあその盾はどうやって」
「これはカイザーPMC理事がある学園から押収したものだと聞いています、私はそれを頂いたので使っているだけです」
「じゃ、じゃあアビドスは……」
「アビドス?聞いたことがありません」
そ、そんなバカな!?
確かにアビドスはどの世界でも存在している筈だ。
そう思いながらも、手に持ったパンドラの箱を確認する、そこには確かにその名前があった。
─あの場所は忘失の彼方─
まさか、何処かの世界線にあるというのか?
ユメとホシノに続く入学生がこなかった世界が、いやそれだと彼女が暁器ホルスを名乗っている意味が分からない。
思い出せ、過去にみたブルアカの全てを。
そこに何かヒントが………っ。
思い出したのは、とあるバッドエンドスチル。
ボロボロで虚ろな瞳の彼女が何かを見つめているスチル、まさかね。
取りあえずこの称号から、彼女が何かしらを忘れてることで間違いはない、のか?
「取りあえず落ち着いて聞いて欲しい、ここは君がいたキヴォトスとは別のキヴォトスなんだ」
「悪いですが、そんな
そう言いながら、防弾ベストの中央に装着されたホルスターから拳銃を引き抜くと俺には向ける。だが、何故か拳銃を構えるその手は震えていた。
「ちっ、こんな時にまたっ!?」
引き金にかけられた指は引かれず、それを見た彼女は舌打ちをしながら震える腕を押さえるように掴む。
汗を浮かべ、イライラした様子で腕と俺を睨み付けてくる。
「その、良ければだけど座って落ち着いて話さないか?俺はまだ死にたくないし、この世界のニュースを見れば多少は納得してもらえると思うんだ」
「っ……わかり、ました」
今の状況では撃てないと判断したのか、諦めてくれたのか分からないが銃を持つ手を下ろしてくれた。
ようやく緊張の糸が解けたのか、俺は尻餅をついてしまい、中々立ち上がれない。
取りあえず殺されないと分かったからなのか、安心感からか涙が流れてしまう。
「大丈夫ですか先生!」
「立てますか?」
俺の元に駆け寄ってきたレイサと俺とホルスの間にスーパーノヴァを構えたケイがホルスを睨みながらそう聞いてくるので大丈夫だと伝えるがうまく足に力が入らない。
「こ、腰が抜けて立てないんだ。悪いんだけど立つの手伝ってくれケイ。たぶんレイサだけじゃ無理そうだから」
「ですが先生っ!」
「確かに怖かったけど、もう構えてないし。何より本当ならこんな反応しても可笑しくないんだよ、2人はたまたま理解が早かったからそうならなかっただけで」
そう言いうと、思うところがあったのか光の剣:スーパーノヴァを背負ったケイはレイサと反対側に回ると、レイサと共に俺を立ち上がらせると近くの椅子に座らせてくれた。
2人にお礼を言ってからパンドラの箱でニュースサイトを開いて、ホルスに見せる。
警戒した様子を見せていたホルスだったが、やがてパンドラの箱の受けとると表示されているニュースに目を通していく、そして驚いた様子で目を開いた。
「カイザーPMCが、アビドスから撤退っ!?そんな、いや、そもそもアビドスなんて地名はハイランダーと合併してもうないはず……こんな筈は……」
そう口に出して驚きながらパンドラの箱をスクロールするホルスは、やがて一つの記事を見たまま動かなくなった。
その記事は『アビドス地区の名店、柴関ラーメンが屋台にて営業再開中』
「しば、せき……?」
「その、どうかな。信じてもらえたか?」
「……いえ、まだです。この端末があなた方の都合の良い物が表示されている可能性は捨てきれません。この目で確認するまでは……」
「えっと、確認するなら明日になるかな。今日はもう遅いし」
そう言うと、ホルスは何を言っているんだと顔をしかめる。
「まだ昼でしょう?遅いなど言って時間を稼いだところで何も変わらな───」
そう言いうホルスを納得させるためか、ケイは部屋の窓へと向かうと閉じていたカーテンを開いた。
カーテンから差し込む太陽の光は当然なく、真っ暗な夜の闇が広がっていた。
「ウソ、そんな……」
「取りあえず、君は使ってない部屋かこの部屋で休んで貰う事になる、明日の朝にアビドスに出発しよう。そうすれば信じて貰えると思うし、2人もそれでいいか?」
「先生が良いなら構いません」
「私も同じです」
少し不服そうなレイサとケイを横目に、その日は休むことにした。
ホルスに毛布だけ渡して部屋に自室に戻った俺は布団に潜り込む。部屋の電気は消え、ベッドサイドランプの暖かい光だけが部屋を優しく照らしている。
体が先程の頭の感触が中々消えず震え出す、なんとか、気分を変えるためにも俺は前回少しだけ読んだ『何かを抱える子供との関わり方~変わるかもしれない五つのレッスン~』を取り出し、ベッドサイドランプの明かりを頼りにページを捲る。
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【Lesson2】期待するな、そして期待させるな
よく、子供の可能性を信じろなんて言う奴らが要るがそんな事はするな。
子供にとって大人からの期待なんて、無理やり背負わせられる重荷でしかない。
重荷を背負ってさせられる登山なんて、俺らはやりたくもねぇだろ?
決して『お前なら何とか出来る』、『きっと大丈夫』なんて言葉は使うなよ?『きっと』や『何とか』は一時的にソイツを元気付けるちっぽけで空虚な希望に過ぎねぇのさ。
いいか、もし寄り添う子供がすでに動く意志があるのなら、目標を決めさせろ。
だが、最初にデッカイ目標なんて掲げさせるなよ?
最初に遠くを見せたら、その長い道を歩いていくことになる、当然だが飽きるしやる気は次第に失せていく。
だからこそ、子供が何かを決めたなら応援するだけじゃなく明確で手を伸ばせる身近な景色を目指させろ。
納得は人生の全てにおいて、優先すると俺は考えている。
だからこそ、目標は絶対にソイツ自身に決めさせろ。じゃねぇと意味がねぇからなぁ。
さて、覚えるためにも口に出して復唱しろ?
「Lesson2、期待するな、そして期待させるな」
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「期待するな、そして期待させるな………か」
確かにそうだ。
大人の期待はいつだって子供にとってのプレッシャーになる。
何となく分かる気がして、俺は更にページを捲る。
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【Lesson3、信じろ】
いいか、お前が信じなきゃ誰がソイツを信じる?
信じるってのはな、
これは知り合いが言っていた事だが、人は誰かを信じる時、理屈ではなく『覚悟』で信じている。どうだ、地味だが深い言葉だろう?
お前が子供に関わるってのなら、そいつの歩いてきた過去だけじゃなく、これから先に踏み出す一歩まで全部を受け止める『覚悟』が必要なんだ。
俺たちは答えを先に知ってる大人じゃあない。
知らないけど、
そういう、ちっぽけな大人なんだ。
だからな、勘違いするな?
信じるってのは、そいつを導くことじゃねぇ。
信じて
言葉を交わさなくてもいい、目を合わせてなくてもいい。
でもな、今のままでもいい、お前はここに居ていいって、黙って伝えられるようでなきゃダメだ。
『信じる』ってのは、そいつを前に進ませる力じゃねぇ、
決して勘違いするな?
さぁ、復唱しろ?
「Lesson3、信じろ」
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「信じろ、か」
これに関しては宇沢レイサとの会話にはいかすことが出来そうだ。
まぁ、こんなの読んだところで俺は大人のなり損ない。
そう簡単に変わることができないと知っているからこそ、善処しようと思いながらも行動できない。
1歩を踏み出せないのだろう、本当に俺は……情けないな。
そう思っていた時だった、部屋をノックする音が聞こえて扉を開くと枕を抱えたパジャマ姿のレイサとケイがいた。
「ごめんなさい、先生……その」
「先生、私も……」
「……わかったよ」
申し訳なさそうに俯きながら話すレイサとケイ、2人を部屋にいれると2人は部屋にしかれた布団に間を空けて入る。
俺はそんな2人の間に入って、2人にも被さるよう布団を被る。
この世界に彼女達を呼んで数日、彼女たちはどちらも過去に何かを抱えていて、それが原因で悪夢を見て寝付けないことが多い。
最初の相談はレイサだった、夜に悪夢をみて飛び起きてしまう。
1人で寝ようとすると悪夢に魘されて飛び起きてしまうのだ、レイサは特に頻度が高く週に2回はこうなる。
眠るのが怖いのだと、最初は誰かと一緒に……それこそケイと寝たらよいと伝えようとしたのだが、何故か俺の部屋で寝ることになっていた。
その話を聞いたケイが、自分も飛び起きることはないが悪夢を見続けていることを訴え、眠れない日はこうして添い寝することになってしまっていた。
正直に言ってケイとレイサで寝ればいいんじゃないかとは思うがどうやら俺がいることに意味があるらしい
なり損ないでも、先生というテクスチャが機能しているのか、それともそれなりの体格のある人間であることが重要なのかはわからない。
睡眠不足はメンタルにも身体にも悪影響を及ぼしてしまう、故に俺は黙って受け入れるしかないのだ。
ベッドサイドランプを消して暫くすると、眠った筈のケイからうわ言のような物が聞こえてくる。
「アリス、私は……私は」
そしてそんな彼女に連鎖するように、寝ているのに荒い呼吸をし始めるレイサ。
俺は黙って2人の頭を撫でながら、2人の顔が強ばったものから力の抜けた物に変わるのを見届けて、俺はようやく睡魔に身を任せられる。
どうか、早く2人が一人で寝られるように祈る。
真っ暗な部屋でソファに横になり毛布を被っていた私は、ふと元学校だというこの部屋に何処か落ち着けなかった。
暁器ホルス、私の一番昔の記憶は砂漠をさ迷っていた所をカイザーPMCに発見されたと病院で説明を受けたときだ。
なんでも、私は記憶喪失になっているらしい。
何処で生まれて、何処に居たのかも分からない私はカイザーPMCの理事に拾われた。
カイザーPMCに不思議な場所に連れてこられた私は、全身真っ黒なスーツを着た異形の存在から、何かの神秘の実験に協力して欲しいと契約書を渡された。
私はどうして良いかわからずにいると、カイザーPMCは私にサインをさせた。
身寄りのない私の生活を保障してくれる変わりに、契約を結べと言われて私は契約を結んだ。
実験に関しては正直覚えてない。
気がつけば私は、カイザーPMC理事の部隊で暁器ホルスという名前で働いていた。
暫く働いて、私は功績を褒められ一つの盾を貰った。
折り畳み式のそれは、なんでもある学校から差し押さえた物の一つらしく私に使って欲しいらしい。
手に持ったソレは、何故か見た目のそれ以上に重く最初から持っていたのではないかと言うほどに、持ったときに違和感を感じられなかった。
まるで自分の一部のような、不思議な感覚だった。
そんな私を、理事と黒い人は笑ってみていたのが何故か分からない。
ひたすら、カイザーPMCの兵士として戦闘に駆り出されとある施設の"先生"と呼ばれる大人。
先生を始末する任務を受けた私は、先生を守ろうとする学園の生徒を戦闘不能にしてきた。
任務を実行するなかで、ようやくシャーレの先生をある建物の一室に追い込んだ時だった。
触れようとしたドアが変化し、ドアに触れた瞬間に私の意思とは関係なく手はのぶを捻りドアを開いていた。
そして目の前には、シャーレの先生と同じようなタブレット端末を持ち2人の生徒を連れた大人がいた。
そしてソイツはここが、私のいたキヴォトスではない、そんな子供の絵空事のような事を話してきた。
ありえない。
そう思って大人に銃を向けたとき、また私の腕が震えていた。
ふと、毛布の中にある自分の両手を見る。
理由は分からないが、私の体は……腕は時折震えが止まらなくなる。
何が原因で起こるのか、病院で様々な治療を受けても症状は変わらなかった。
それにしても私は……どうして柴関ラーメンの文字に手が止まってしまったのだろう。
その屋台と柴犬の店主の写真に懐かしさを感じたのだろう?
分からない、でも………明日に分かるような気がした。
パンドラの箱、情報更新
─あの場所は忘失の彼方─
ナニカアッタセカイの小鳥遊ホシノ。
あるショックから記憶喪失となり、彷徨い歩いていたところをカイザーに拾われ、カイザーを経由して黒服やゲマトリアに神秘の実験を施された姿。
過去ホシノの姿をしており、手にはカイザーPMCから素晴らしい功績を出した報酬として『IRON HORUS』を与えられている。
唯一の生徒2人を失ったアビドスは…………。
先生、どうか彼女をお願いします。
ご愛読ありがとうございます。
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