なりそこないと、壊れた生徒   作:クレナイハルハ

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思い出せない、知らない懐かしさ

暁器ホルスとレイサ、ケイを連れた俺は電車に乗りアビドス地区を訪れていた。

アビドス地区といえば砂漠のイメージがあったがやはり暑い。来ているスーツの上着を脱いで歩くが、暑さが変わった気がしない。

暁器ホルス、彼女が示した柴関ラーメンに関する興味やこの世界が彼女の知らない世界という証明のためにこうしてアビドスにきた。

 

「アビドス、初めてきましたけど……凄い暑いですね……」

 

「大量の水分を所持して来て正解ですね、先生」 

 

「そう、だね」

 

背中に背負ったリュックに入った水のペットボトルの重さに少し苦しくなりながらもそう答えると、少し先に屋台のような物が見える。

柴関ラーメンという木造の看板と屋台が見えて、俺はようやくこの暑い中で歩くのが終わると感じた。

それなりに節約でバス等を使わず自転車や歩くことが多かったが、ここまで歩いたのは小さい頃の遠足ぶりじゃないだろうか?

帰ったら靴擦れとかなってないと良いんだけど……いや、それより砂がやばそうだな。

 

「先生、アリス見えました!あれが目的地です!」

 

「ありがとうケイ、取りあえずホルスさんの気になってた店にこれましたけどどうする?」

 

「え?」

 

何処は呆けた様子のホルスさんにそう問いかけると、ホルスさんは何処か気まずそうに視線を逸らす。

まぁ、彼女がこの場所にくるまで何回驚いたのか数えていないし、こうなるのも仕方ないと思う。

それに彼女の中では既に地図から消えたアビドスがこうして存在している事が、彼女のいたキヴォトスとは違う事が明確になってしまっている。

遅くなってから驚きと困惑、自分が別の世界に来てしまった事について考えているのだろう。

今の彼女を例えるなら、現代日本人が幻の大陸と呼ばれるアトランティスが実在する世界に転移し、アトランティスに上陸しようとしているものだ。

 

「あー、取りあえず食ってく?せっかくだし」

 

「はい!アリス、ラーメンが食べたいです!注文の呪文は既にゲームで覚えました!アリスに死角はありません!」

 

「わ、私も食べたいです……」

 

勢いよく手を上げるケイと、おずおずと手を上げるレイサ。

取りあえず食うことにはなりそうだがケイ、残すなよ?

たぶんだがゲームの量を見る限り、呪文のそれを注文したらそこからは地獄だぞ?

 

「取りあえずホルスさん、店に入って食べませんか。今回は俺が持ちますんで」

 

幸いなことにクランバトル倶楽部はかなりの売り上げが出ているため、これくらいの贅沢は問題ない。

 

「え、あぁ……はい、分かりました」

 

ホルスさんの了承も得られたので、俺たちは柴関ラーメンと掛かれた屋台の暖簾を潜る。

 

「あー、すんません。やってます?」

 

「おう、らっしゃい!」

 

片目に傷のある柴犬の店主、何度も画面越しに見てきた柴大将が両手組んで出迎えてくれた。

 

「4名なんですが」

 

「構わねぇよ、珍しいな。観光か?」

 

「あーまぁ、そんな感じです」

 

そう言いながらも振り返り、3人を手招きすると右隣にケイが座り左側にレイサが座りレイサの隣にホルスがボーッとした様子で入ってきた。

 

「先生!早速注文しましょう!アリスの準備は万端です!」

 

「あ、あの先生。メニュー表は……」

 

昨日、ちょうどラーメン屋を作りオリジナルラーメンを提供するゲームをしていたからか、目を輝かせるケイと、メニュー表が置かれてないことに戸惑うレイサ。

 

「大将、メニュー表とかって」

 

「ちょっと前に色々あって店が吹っ飛んじまってよ、今は柴関ラーメンしか提供出来ないんだ。悪いな、態々来てもらったのによ」

 

あー、まぁブルアカやってる人なら誰もが記憶にあるであろうエピソード。

便利屋68による柴関ラーメン誤爆事件である。

知っている身としては、納得してしまう理由だ。

 

「先生、ラーメンは製作に失敗すると爆発するのですか?」

 

「本当にゲームしてたのか?」

 

「アリスならこういいます!」

 

どうしよう、否定できない。

頭を抱えそうになるがぐっと耐える。

 

「だ、大丈夫だったんですか?」

 

「おう、店は無くなっちまったが元々はこの屋台で始めたんだ。昔に戻ったような感じでむしろ、若返ったような気でやれてるぜ。心配してくれてありがとうなお嬢ちゃん、優しいねぇ」

 

「いえ、私なんかは……」

 

柴大将の言葉に何処か苦しそうに視線をそらすレイサ、すると大将は俺の方を見ると口を開いた。

 

「前にシャーレの先生が来たことがあったが、アンタは同僚か?その子達から先生と呼ばれているし」

 

「そんな立派なもんじゃないですよ」

 

シャーレの先生という言葉に体がビクリと反応しそうだったが、押さえ込む事が出来て安堵していた時だった。

 

「謙虚だねぇ、んじゃ注文は柴関四つでいいかい?」

 

「はい!アリスいきます!スゥー……ヤサイマシマシアブラスクナメニンニクスクナメでお願いします!」

 

「おうよ!」

 

そう言いながら麺を茹でスープを作っていく柴大将を横目にホルスさんを確認する。

彼女は黙ってテーブルに座っているが、その表情までは伺えなかった。

それにしても、このアビドスで先生は遭難しながらシロコに出会ったのか。

聖地巡礼ではないけど、やっぱり本物のアビドスの風景と柴大将は凄いとしかいえないな。

これると思っていなかったのもあるが……そうだ、クランバトル倶楽部に柴関ラーメンを出店して貰えないだろうか。

週に1日から2日でいいから出店して貰えば、更に収入が上がるかもしれないし、アビドスのちょっとした復興の足掛かりになるかもしれない。

ラーメンがきっかけでアビドスを訪れる人達も出るかも知れないな、食べたら少し相談してみるか。

 

「お待ちどうさん」

 

そんな事を考えていると、ゴトッとラーメンのどんぶりが置かれた。

俺とレイサの前に通常サイズの柴関ラーメンが置かれる。恐らく醤油ベースのスープの匂いに空腹を刺激され、早く麺を啜りたい衝動にかられるのだがホルスさんとケイの前に置かれたラーメンに思わず動きが止まってしまった。

大盛用のラーメンどんぶりに、これでもかと野菜やチャーシュー、味玉やメンマがこれでもかとたっぷり乗せられていた。

 

「……は、はじめての大食いチャレンジ、アリス頑張ります!」

 

両手を握り、ぐっと気合いを入れる動作をするケイだがその顔には冷や汗が流れている。

一方でホルスさんはただ目の前のてんこ盛りな柴関ラーメンに困惑していた。

 

「あ、あの……」

 

「おっといけね……悪いなお嬢ちゃん。お嬢ちゃんの姿が知り合いと重なっちまってな、量が増えちまった。食いきれなくてもこっちで処理するから気にしないでくれ」

 

「あ、ありがとうございます。じゃあ食うか」

 

その言葉にドキリと感じつつ、俺はそう言いながら両手を合わせる。

改めて考えるなら暁器ホルスさんは過去のホシノと同じ姿をしているし、恐らくは梔子ユメと共にこの店に訪れる事もあった筈だ。

彼女がきっかけで、先生に彼女や俺らのことが伝わらなきゃ良いんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柴関ラーメン、なぜか気になってしまったその店に、この世界が私の知るキヴォトスではないことを確認するついでに訪れていた。

外食なんていつぶりだろうか、生活をカイザーPMCに保証して貰っているが支払われる給料は、食費や諸々を抜くとほぼ残らない金額だった。

それでも記憶喪失の私を態々雇ってくれて生活を保証してくれているのだから文句は無かった。

 

「お待ちどうさん」

 

ゴトッっとラーメンのどんぶりが置かれた音がして、前を見れば大人にケイと呼ばれる生徒と同じくらいの量を盛られた柴関ラーメンが置かれていた。

思わず大人とレイサと呼ばれる生徒の量を確認するが、明らかに私と彼女だけ多すぎる。

 

「あ、あの……」

 

「おっといけね……悪いなお嬢ちゃん。お嬢ちゃんの姿が知り合いと重なっちまってな、量が増えちまった。食いきれなくてもこっちで処理するから気にしないでくれ」

 

返答に困っていると、2人から先生と呼ばれる大人が私の変わりに感謝を伝えて挨拶をすると、それぞれがそれぞれのペースで麺を啜り始める。

ケイと呼ばれる生徒は最初から勢いよく麺を啜っており、大人とレイサはケイと呼ばれる生徒と比べれば遅いが、それなりに早いペースで麺を啜る。

そんな全員の美味しそうに食べる姿を見て、自分も箸を持ち麺を持ち上げ、一口啜る。

 

「おいしい、それに──」

 

なんで、食べた味の感想より先に懐かしいが先に来たのだろう?

そう思った瞬間、脳にノイズが走り何かが浮かび上がってくる。

これは、何処かのお店?

 

『どうかなどうかなホシノちゃん!このお店のラーメン、おいしいでしょー?』

 

私らしき人物の前に一人の生徒が座っていま食べているラーメンと似たモノを食べている。

 

『はい、おいしいですユメ先輩!』

 

『ふふふ、連れてきて良かったぁー、これからも来ようね?ホシノちゃん!』

 

『はい!』

 

笑顔を浮かべながら食事をするこの人は、一体誰なんだろう?

私にとって、関係がある人なのだろうか?

分からない、分からないけど何故か目の前の生徒から目をそらせなかった。

 

「あーその、大丈夫か?」

 

肩に誰かの手が触れる感触と共に聞こえてきた声にハッとして肩の手を伸ばしてきた大人の方を向く。

 

「大丈夫、とは?」

 

そう問いかけようとしたとき、頬を伝う覚えのある感覚にあわてて箸を持っていない手でその、頬に触れると濡れていた。

 

「取りあえずまぁ、大丈夫ならいい。ゆっくり食べろ、その後にこれからについて話そうか」

 

「そう、ですね」

 

大人の言葉に頷き、私は箸を動かす。

口に広がる柴関ラーメンは間違いなく、過去食べてきたなかで一番美味しい食事だったと、そう思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四人の観光客が帰ったあと、柴関ラーメンで片付けをしていた柴大将はふとあの場にいた見覚えのある一人の少女の姿を思い出す。

 

「まるで、昔の嬢ちゃんだったな」

 

制服を着ていない生徒を連れた先生と呼ばれるあの男から心配されていた彼女は、常連であるアビドス高校の生徒の一人の昔の姿と非常に似ていた。

まるで、昔からそのまま連れてきたような。

でもずっと沈んだ様子の彼女は、見てられなくて元気付けたく思い、ふと彼女が好きだった盛り付けで出してみたのだ。

そうしたらラーメンを食べて突如として涙をながし始め驚いたが問題なく、おいしいと話すのに安堵した。

その後に食べ終わった生徒さんの一人が暫くは動けそうにないと言う事もあり、少し話がしたいと先生と呼ばれる彼からある提案を受けた。

自分の経営する施設に週に1、2回程出店してラーメンを出して貰えないかというものだ。

話を聞いていたところ、彼は驚くことにブラックマーケットに住んでおりブラックマーケットでクランバトル倶楽部なる施設を運営しているとのこと。

そのクランバトル倶楽部に週に2日程出店し、ラーメンを売ってほしいという。

彼は柴関ラーメンが美味しいのもそうですが、このラーメンをきっかけにアビドスに訪れる人達を増やすことも出来るのではないかと考えていると言っていた。

考えて、やるかやらないかはこの電話番号に返事をくださいと渡されたメモを取り出して眺める。

やがて柴大将は番号へと連絡をいれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アビドスの帰り道、少ない人数のいる電車の振動に揺られ寝てしまったレイサとケイが悪夢を見ないか心配になる。

こんなところであんな状態なれば即座にヴァルれ!止まキューレ警察不可避だ。

ここまで上手くやれてきただけにそうなったら怖い。

 

「本当にここは……私の知るキヴォトスとは違う、別の世界なんですね」

 

ずっと俯いていたホルスさんは何処か諦めたような、ボーッとした様子でそう口を開いた。 

 

「信じて、貰えたか?」

 

「もう、受け入れるしかありません。()じゃなくて現実、なんですから」

 

そう言うと、ふとホルスさんは視線を下ろす。

彼女の片手が震えていた、俺に拳銃を向けたときと同じように、震える手に反対の手を重ねて押さえるホルス。

 

「貴方は、貴方達はこれを感じてその上でこうして生きているのですか?」

 

「そう、だな。それしか、道がなかったとも言えるけどな」

 

そうしきゃ、死ぬかもしれないと思って我武者羅に頑張った。そうしたら、たまたまクランバトル倶楽部がうまく行って、こうして今日を生きることが出来ている。

 

「強いですね……私は今まで、カイザーPMCの理事に言われた仕事を言われたようにして生きてきました。それしか私の意味はないって思って。でも、もう私には指示をしてくれる人はいませんし、やるべき事もわかりません。怖いんです、未来が……どうして生きていけば良いのか、分からない」

 

そう言いながらも腕だけではなく体を震わせ俯き肩を震わせる彼女に、俺は何と答えたら良いか分からなかった。

簡単に元気付けることは出来ない。

『きっと』や『大丈夫』なんて言葉は空虚な希望を与えるだけだと、そう本で学んだから。

だから、俺が彼女にすべきなのは、彼女がこれから生きていくための道標を示すこと。

遠くではなく、身近な所から。

 

「なら、一緒に探していかないか。ホルスさんが何をしたいのか、何が出来るのか……俺やレイサ、ケイもこの世界に来て、自分の意味が分からなくて、なんでこの世界に自分がいるのか探すためにこうして一緒にいる。だから、少しだけ俺たちと生きることを頑張ってみないか?」

 

俺の言葉を聞いたホルスさんは、暫くの沈黙のあと顔を上げて俺を見ると口を開いた。

 

「私、あなたに銃を突き付けたのにいいんですか?私が一緒でも、良いんですか?」

 

「キヴォトスじゃあ、普通のことなんだろ?なら問題ないだろ」

 

そう話すと彼女は頷き、俺をまっすぐ見据えて言った。

 

「元カイザーPMC所属、暁器ホルスです。よろしくお願いします、その……先生」

 

そう言いながらも、少しだけ頬を染めそう話す彼女に俺は頷いて返した。

 

 





パンドラの箱、更新情報なし。

先生、新たな生徒です。どうか、一緒にいて上げてください、よろしくお願いします。

ご愛読ありがとうございます。
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