あれから想定外な事に、柴大将からの了承の連絡がありクランバトル倶楽部にて、出張柴関ラーメンが週に2回出店することになった。
流石に柴大将一人でブラックマーケットまで来て貰うのは申し訳ないし、何かあった後でアビドスから恨みを買うのは勘弁願いたい。
なので、出店の日はホルスとレイサが迎えに向かい帰りもアビドス地区まで送る事となっている。
最初こそ、生徒同士を争わせて勝敗を賭けさせるという内容に良い顔をしなかった大将だが数日、出店をすると納得した様子というか、張り切った様子で営業するようになった。
なんでも、知らないうちにクランバトル倶楽部は多くのヘルメット団やスケバンの少女達にとっての遊び場となっており、次飯を食うのがいつか分からなかった者達にとっての救いの場となっていたらしい。
そういえば、従業員もほどんどがブラックマーケットで暮らしていた少女達だっただろうか?
「お疲れさまでした、先生」
「今日の
「疲れましたねぇ」
そう言いながら、話すホルスにケイ、レイサは元の服の上にダークグレーのブレザーを羽織っている。
ダークグレーのブレザーはクランバトル倶楽部の制服のような物だ、ダークグレーな理由はもちろんカッコいいから、なんて簡単な理由じゃない。
俺は大人のなり損ないで、先生にもなれない中途半端なやつだからダークグレーに。
スーツだとゲマトリアを連想してしまうし、最初に着ていた白いスーツはそれこそ先生や連邦生徒会であるシャーレに寄ってしまう。
だからこそ、普通の服の上から羽織れるブレザーにしたのだ。
ちなみに今日は参加チームが少なく、午前のみの営業だ。
仕事は早く終わりたいと思うものであり、可能なら行きたくないと思うものだと俺は思うし。
どうしても気分が沈んで仕事に行きたくなくて、腹痛とか熱とかで1日だけでも休もうと思ってしまう人なんだ、本当に俺は大人になんてなれるとは思えない。
社会人もなれるとは思えない、やっぱりなり損ないだな。
「取りあえずみんなお疲れさま、今日も良い売り上げだった。本当ならこのままオフの時間にしたいんだが、少し話がある」
そういうと、三人がソファに腰を下ろすのでそんな三人に見える用に手に持っていたパンドラの箱の画面を見せる。
封筒が映し出されたパンドラの箱を見た彼女達はそれぞれが違う反応を見せる。
「ぱんぱかぱーん!新しいパーティーメンバーが加入しました!」
ケイはアリスのように嬉しそうに笑い。
「ど、どんな人が来るんでしょう……仲良く、できるといいな」
レイサは新たな生徒と上手くやっていけるか、仲良くできるか悩み。
「これがパンドラの箱、私もパンドラの箱に映るあの封筒によってこのキヴォトスへと呼ばれた。目にするのは初めてですね」
そう、新たに現れるであろう生徒よりも、タブレット端末自体に興味があるのか興味深そうにパンドラの箱を見つめるホルス。
ここまで増えると、もう一人増えても別に変わらないのでは?大丈夫なのではと思ってしまう。
背負う物が更に重くなることを自覚しつつ、俺はパンドラの箱を手に持ち口を開いた。
「この通り、パンドラの箱が新たな生徒を呼び出す準備が出来たらしい……更に別の世界の生徒が増えるとは思ってなかったけどな。今から呼ぼうと思うけど、反対の意見は……無さそうだな」
新たな生徒を呼ぶことに反対意見を持つものがいないことに安堵しつつ、更に背負う物が大きく、増えていく事に恐怖を感じる。
でも、俺は決めたんだ。
背負ってくれると言ったケイが、支えきれない状況にしないために、みんなと一緒に頑張ると。
「それじゃあ、呼ぶぞ」
そう言いながらも、パンドラの箱に映った封筒にトンっと指を置く。すると封筒が開き、一つの文章が表示される。
ホルスの時のように多くの砂嵐やノイズが表示されること無く現れた文章。
──イブキ登場!先生、おっまたせー!──
これはイブキだな、でも彼女がケイやレイサ、ホルスのように何かが違う生徒なら、どんな感じなのだろうか。
若干の不安を感じるなか、パンドラの箱が光を放ち部屋を照らす。全員が瞼を閉じて光から目をそらす。
光が収まる頃だと思い、瞼を開くとそこには無邪気な笑みを浮かべた子供らしい元気一杯なイブキはいなかった。
警戒した様子でボロボロの銃をこちらに向ける少女の服装は、ゲームとは離れていた。
所々が破れているボロボロのコートを羽織り、袖口はしっかりと捲られ彼女の腰に巻かれたベルトには、四つの帽子がつけられている。
「さて、聞かせてもらおう……。どこぞの何某かなど興味はない、貴様等は何を企てる何者であるか、それだけを答えろ、さもなくば死ね」
ゲームで見た彼女とは違う、威圧的で高圧的な彼女の姿に俺は思わず言葉を失ってしまう。
でもこの喋り方、見たことがあるような……なんだろう、どことなく
「まずは落ち着いて、銃を下げて俺の話を聞いてほしい」
「先に私をここへと拉致した貴様らの言う通りにするとでも?」
そう言い、銃をこちらへと向け直す彼女にホルスの時と似ていると感じる。
慣れることはなく、冷や汗が背中を伝うのを感じつつ俺は口を開いた。
「ならそのままでいいから聞いてくれ、ここは君のいたキヴォトスじゃない。そして君をこの世界に呼んだのは俺じゃなく、これなんだ」
そう言いながらパンドラの箱をイブキに見えるように持つ。
「今から話すことは嘘じゃない、ここにいる三人も君と同じように、このパンドラの箱が別の世界に存在するキヴォトスから呼んだんだ。君の名前を教えてほしい」
「……ゲヘナ学園1年、パンデモニウムソサエティ所属、議長の丹花イブキだ」
議長?いや、そもそもなんで1年生の彼女が?マコトは?イロハは?
そんな疑問が頭に浮かび続けるなか、確認したパンドラの箱。ガチャの画面から変わりキャラクターの一覧に追加されたイブキにも見慣れない称号がつけられていた。
─名もなき神々の王女─天童 アリス(Key)
─ロストスターダスト─宇沢レイサ
─あの場所は忘失の彼方─
─咲き残るは、我が鎮魂花─丹花イブキ
なんだ、これ?
「と、とにかく話が必要だと思う。聞いて直ぐに俺達を疑うだろうし、どうか座って話せないか?」
そう言いながら彼女に、ソファに座るよう勧める。彼女は近くのにソファに座ると、両手を組み冷めた瞳で俺を睨み口を開いた。
「それで、話を聞かせて貰おうか」
エデン条約、トリニティ総合学園とゲヘナ学園との間に締結される筈であった調印式の日。
私は……大切な"家族"を失った。
ゲヘナ学園へと放たれた
今でも覚えている、私がトリニティの聖堂でトリニティ総合学園の人のお話を聞いた時だ。
その時、私は重要な仕事を任されていた。
マコト先輩の着ているコート、これを調印式が終わるまで持っているという仕事だ。
いつもマコト先輩が着ているコートを任せて貰うなんて仕事は私にしか出来ないとイロハ先輩が言ってくれたので、絶対に落とさないようギュッと抱きしめる。
ふと、何かが近付いてくるような大きな物音が聞こえ、不思議に思い首をかしげた時だった。
「イブキッ!」
大声で私の名前を呼びながら私を抱きしめ一緒に床に倒れるマコト先輩。
どうしたのかと思った次の瞬間、耳を劈く爆音と吹いてくる熱風。
間近で聞こえる、マコト先輩の苦しそうな声と何か焼ける焦げ臭い臭い。
暫くの間、動けずにいるなか私はようやく誰かに裏切られた事に気付いた。
そしてそんな裏切り者から身を挺して守ってくれたのは、目の前で苦しそうな声を漏らすマコト先輩だ。
マコト先輩の胸に、顔を包み込むようにして守ってもらっているからかマコト先輩がどのような表情を浮かべているのか分からない。
暫くして、覆い被さっていたマコト先輩がゴロリと横に仰向けに倒れる。それと同時に何かが割れる音が聞こえた、まるでお皿が落ちて割れるような、銃弾でガラスが割れるような。
そんな音と共に体が震え、嫌な予感がしてマコト先輩に近寄る。
マコト先輩の瞳は開いている、なのになんでヘイローが、消えてるの?
「マコト、せんぱい?」
体を揺する、マコト先輩は起きない。
「マコトせんぱい」
さっきより強く、大きくマコト先輩の体を揺する。でもマコト先輩は起きない、ピクリとも動かない。
「あ、あぁっ……」
悟ってしまった、分かってしまった。
誰もにいつか訪れる平等な終わり、だけどいつ来るのか、いつまで訪れないのか分からない"死"。
分かるのは、ソレがいつも自分の知らないウチに直ぐそばまでやってくるということ。
マコト先輩は、私を庇って死んだのだ。
一気に襲ってくる喪失感とこれまでマコト先輩と過ごしてきた日々の記憶だ。
全部が全部大切で、愛おしくて手放したくないもの。
目から涙が流れ頬を伝い、地面へと水滴が落ちていく。
悲しみの声を押し殺し、目の前の信じたくない現実を見つめる。
その時だった、いくつもの足音と銃撃音が聞こえてきて私はようやくこの場が戦場なのだと気付いた。
私はせめて何か、マコト先輩の物を持っていけないかと考えたときマコト先輩が倒れたときに、近くに落ちたマコト先輩が持っていた帽子が目に入った。
コートと一緒にマコト先輩の帽子を抱えて、泣きながら聖堂を離れた。
この日、私以外のパンデモニウムソサエティの全員がマコト先輩と同じ場所に行ってしまった。
その日から私がパンデモニウムソサエティの議長として指揮を取ることになった。
私はマコト先輩の帽子とコートを身に纏い、指揮をした。虎の威を借る狐と言われても構わない、せめてこのコートと帽子は他の誰にも渡したくなかった。
腰のベルトに繋げて吊るしている三つの帽子もそうだ、イロハ先輩、チアキ先輩、サツキ先輩の唯一の形見。
絶対に手放してなるものか。
だから、これらを守るために私は子供でいる事を捨てた。
「これより私が指揮を取る、文句は言わせん」
そう言いはなった私に異を唱えるものは誰もいなかった。
裏切り者であり、マコト先輩たちを殺したトリニティの襲撃を絶対に許してなるものか。
周りが息飲む様子を見せるなか、私は指示を出しトリニティに対して徹底交戦の意を示した。
先生は既にエデン条約の調印式で撃たれ意識不明の重態となり、この争いを止めるような者は誰もいなかった。
そうしてトリニティと徹底的に敵対し、気がつけば半壊のゲヘナ学園の校舎で私は議長の大きすぎる椅子に座っていた。
空は赤く染まり、既にどれだけの生徒が生きているのか、そして死んでいるのか分からない。
正に終わりといった空が広がる中でも、私は帽子を被りコートを羽織っている。
ふと、頭の帽子と腰に吊るしている三つの帽子を抱きしめる。
「どうして、私は……」
その時だった、ふと見ればとっくに崩れた筈の部屋の入り口の扉に真っ白な扉が設置されていた。
「白い、扉……マコト先輩ならデザインがゲヘナと合わないって別の色にするよう指示するのかな」
そう思いながら私は帽子を被り直し、何故か吸い寄せられるように白い扉に前へと向かう。
何故か分からないけどこの扉を開こうと手が伸びてドアノブを捻る。
次の瞬間、私は半壊したゲヘナ学園ではなく何処かの学園?らしき一室に立っていた。
転移させられた?これ程の技術力があるとしたらミレニアムサイエンススクールの生徒の仕業か?
でも態々私を呼び出す理由はなんだ?
そんな思考を進める私の前にいたのは、先生が持っていたタブレット端末と似た物を持っている大人と3人の生徒だった。
自らをなり損ないと言う大人は、所持しているタブレット端末『パンドラの箱』が今いるキヴォトスとは別の世界にあるキヴォトスにいる私をこの世界に呼んだのだと言う。
なんでも、パンドラの箱に表示される封筒に触れると、別の世界にいるキヴォトスにいる生徒をこの世界に呼び出すことが出来るらしい。
大人と共にいる三人も、私のように別の世界のキヴォトスにいたところこの世界に来たのだという。
そして大人もまた、偶然パンドラの箱を手にしただけで、先生ではないらしい。
その時だ、私の中で一つの強い思いが生まれた。
もう一度、もう一度だけマコト先輩達に会いたい。
会って話がしたい。
「聞くが、今このキヴォトスでエデン条約の調印式はどうなっている」
「まだ、始まってないし行うとしてももう少し先の話だと───」
大人の言葉に、私は気が付けば部屋を、飛び出していた。
大人の言葉を信じるならここはブラックマーケット、時刻は正午なら走れば夜になる前にゲヘナに着くことが出来る。
ただ、会いたい……あって話がしたい。
走って、走って、走って……気が付けば私はゲヘナへとたどり着いていた。
肩で息をしながら、懐かしさを感じる綺麗な道路を歩いていると少し先で騒ぎが聞こえて見る。
この煩さが懐かしくて、久しぶりだ。
すると、そんな騒ぎの中央に懐かしい後ろ姿が見えた。
「あぁ……マコト先輩」
あの日、私を庇って死んでしまったあの人が生きている。よく見ればマコト先輩の後ろにはめんどくさそうな表情を浮かべるイロハ先輩やカメラを片手にニヤリと笑うチアキ先輩、いつもの催眠術の道具を持っているサツキ先輩。
あの日、もう会えなくなった人たちがいる。
目の前で生きている、それだけで嬉しくて泣きそうになってしまう。
涙の溜まった目をコートの袖で拭ったとき、マコト先輩が此方を見つめて、いつも私を見た時に浮かべる笑顔を浮かべて口を開いた。
「キキッ、イブキ!迎えに来たぞ!」
嘘、もしかしてマコト先輩。私の事がイブキだと分かって……。
衝撃と困惑、そして嬉しさで思わず駆け出しそうになったその時だった。
トットットット、と聞きなれた足跡が背後から近付いて来るのが分かり、そして私の横を見覚えのある金髪にリボンのついた帽子を被った誰かが通りすぎマコト先輩へと飛び付いた。
「マコト先輩!」
「キキキッ、イブキ。帰るぞ」
「帰ったらおやつだよね?やったー!楽しみ~!」
そうだ、この世界には
ここは私の知らないキヴォトス、分かっていた。
分かっていた筈だった、でも一目見たくて話したくてここまで来た。
でも、あの人達の側には既にこの世界の私がいた。
子供っぽくて、周りに可愛がられて本当に
そもそも、この世界から見たら私が異物だ。
目の前のマコト先輩たちは私の知る先輩達じゃない、もとからこの世界に私の居場所なんて無い、私はここにいちゃいけないんだ。
早くこの場から去らないと、そんな思いから私は、その場から早足で離れる。
マコト先輩達のいた場所から少し離れた場所にあった公園のブランコに座った私の目からは、未だに涙が流れていた。
ふと、近付いてくる足音が聞こえて顔を上げると、そこには私を呼んだ大人と大人と共にいた、青と紫の髪色が印象的な生徒がいた。
「先生!いました!!」
「はぁ、はぁ……いた。無事に、見つかって良かった」
大人は余程走ったのか、肩で息をしながら立っており大人としての余裕は感じられない。
「何故、追ってきた……私なんて放って置けば良かっただろう」
震える声でそう口を開こうとしたとき、大人は近寄ってくると、しゃがみ私に目線を会わせて言った。
「君の過去に何があったのかは知らないし聞くつもりもない」
そう話す大人は隣のブランコに座るとつかれた様子で息を深く吐く。そして大空を見上げたまま、私を見ることなく話を続ける。
「大人なら……ちゃんとした人なら君の話を受け止めるかもしれない。でも俺はそれをしないよ」
「ずいぶんと、酷いことを言うな。このような可憐な乙女がこうして落ち込んで涙まで流しているのだ。励ましの言葉でもかけるのが、大人の、"先生"の役目じゃあないのか?」
一緒にいた3人の生徒から先生と呼ばれていた人物からの、知っている先生のような行動をしない大人に、気が付けばそう口をしていた。
「言えてなかったから言うけど、俺は先生じゃない。責任が嫌で、逃げてばっかの先生どころか、大人にすら成れない……なり損ないだ。こんな俺が先生とか、あり得ないだろ?」
そう苦笑しながら話す先生の顔は私を真っ直ぐに見つめると、言った。
「それに、俺が何か言ったとしてもさ。君は納得しないだろうし、何も解決しないだろ」
確かに、そうかもしれない。
まるで見透かされてるような気がして、大人から視線をそらす。
大人は、私が視線をそらしたことを気にも留めず話を続ける。
「俺はなり損ないだけどさ、パンドラの箱が呼び出す生徒の先生みたいな感じになってしまってる。そしていつもパンドラの箱が呼んだみんなに助けられて、こうして今も生きている」
ふと、先生の見ている視線の先を見れば二匹の鳥が公園に生える木の一つのとまり羽繕いをしていた。
鳥は少しの間、羽繕いをすると即座にその場から羽ばたいて大空高く飛び上がっていく。
「だから、せめて居場所を失くしたり分からなくなってる人がいられる居場所に……渡り鳥が留まる木みたいな存在になりたいんだ」
先生が飛んでいく鳥から目を離し、私の方を見つめる。
その優しそうな笑顔に心臓がドクンと跳ねる。
あれ、もしかして……。
私の中の大切な何か、ソレがこの人に取られたような、そんな気がして…少し顔が熱いのに何故か大人から目が離せない。
居場所をなくした人の居場所、この世界に呼び出された私の、他の世界のキヴォトスからやってきた私のような人達の居場所。
「例え、いつか飛び立っていくのだとしても、離れていくのだとしても……いつもそこにあって、確かに自分の場所になってくれる場所。それがなり損ないの俺でも、なれるかもしれないモノだから」
この大人は確かに、私の知る"先生"じゃない。
みんなの味方、困っていたら手を差しのべて、生徒のためなら無茶だってする連邦生徒会の、みんなの味方であるシャーレの先生じゃない。
でもこの人は、私のような……別の世界にあるキヴォトスから来た、この世界に居場所のない私たちにとっては──。
「だからその、イブキさえ良ければ……居場所になれると……その、思う。だからっ」
この人こそが、この世界に居場所のない生徒にとっての
「アハハッ!何を今さら不安そうにしてるの?
口から出たのはまるで、いつしかの過去の自分のような言葉だった。
私の言葉に目の前の大人、先生はポカンと口を開け間抜けた表情を浮かべる。
それが面白くて、私はブランコから降りて先生の手に近寄り手を伸ばして、その手を握る。
「先生、私の居場所に……イブキと一緒にいてくれるんだよね?」
「君が望むならな……こんななり損ないなんかより、本物の先生が良いと思うけどな」
「"先生"と一緒にいたいと思ってるんじゃないよ?きっとそこの生徒もそうじゃない?貴方が"先生"で大人だから一緒に居るんじゃなくて、イブキにとって、自分にとっての……側にいて安心できる。しっかりと自分の居場所だと思わせてくれるからあなたは
私の言葉に、先生は少し難しそうな顔をしていると、先生と一緒に来た生徒が私の繋ぐ手とは反対の手に恐る恐ると自分の手を繋ぐ。
「その、早く帰りませんか?その、みんなで」
そう話す生徒と私を少し困ったような様子で見つめた先生はやがて、歩きだした。
この日、私はこの世界で居場所を見つけた。
目の前でイブキに抱き付かれ、上機嫌となったマコト先輩に、棗イロハは少しだけ呆れていた。
相変わらずマコト先輩はイブキに甘いですね……?
ふと、視界の隅に映った人陰に私は目を見開いた。
そこには、マコト先輩の着ているコートと帽子と同じデザインにみえるゲヘナ学園の制服を着て、虚ろな瞳で涙を流して此方を見つめてるイブキとそっくりな人物がいた。
思わず呼吸がとまる、そして確認のためにもマコト先輩の方を見ればイブキと談笑するマコト先輩の姿があった。
おかしい、そう思いながら先程のイブキ?のような少女がいた方向を見れば、彼女は私たちに背を向けて走り出していた。
それを見て怪しいと思うより、心配が先に感じられた。
いつもの笑顔のイブキとはかけ離れたイブキの表情、虚ろな瞳から流していた涙。
まるで、一瞬手にした希望を奪われて絶望するような、最近読んだ小説のヒロインのキャラクターのような表情。
彼女が気になり、少しだけ後を追ってみようかと考え、買い物をするとマコト先輩に伝えてその場から離れる。
彼女が走っていった方向へと歩いていると、背後から誰かが走って近付いてくる音が聞こえて振り返ると私服姿の何処かの生徒?らしき少女と共に肩を大きく上下させて走る大人の男がいた。
シャーレの先生とは違う、大人の男性に少し驚いていると大人は此方へと駆け寄ってきた。
「はぁ、はぁ、なぁ!ここら辺で金髪の女の子見なかったか!?小さい子で、コートと帽子を被った子を、探してて!」
息を切らせ、途切れ途切れになりながら話す姿に先程のイブキのような少女が脳裏に過る。
「あなたの探している人かは分かりませんが……」
「ありがとう!」
そう言いながらも彼女が走っていった方向を指差すと、男性は私へと感謝を告げると即座に駆け出していった。
何がなんなのか分からないが、さっきの子は大丈夫だろう。
そう思いながらたまたま近くにあったエンジェル24に入る、元々イブキを迎えに来たついでに秘密のサボリ部屋のジュース類の補充をしようと思っていたのでついでだ。
ジュース類の入った袋を持って、先程の大人達が走っていった方向に向かう。
いつもならめんどくさいと思う筈なのに、向かう足は早かった。
さっきの大人もそうだが、あのイブキとそっくりな少女が心配で気になったのもあった。
そうして目にしたのは、先程の虚ろな瞳と涙が消え落ち着いた様子の少女が先程の大人と手を繋いで歩くイブキとそっくりな少女。
取りあえず、あの時のような心配になる表情から少しだけ落ち着いた様子に安堵していたときに聞こえた言葉に、気が付けば握っていたエンジェル24のビニール袋が手から離れていた。
「
「だから俺は……はぁ。まぁ、あそこに売ってるか分からないし、せっかくなら皆の分も買って帰るか」
「えっと、いいと思います。ホルスさんもアリスもその……甘いものは好きだと思いますし」
せん、せい?
彼女はあの大人の事を先生と?"先生"の偽物?
それにあの子は自分の事をイブキって……どういうこと?
同性同名?だとしてもあそこまでイブキに似ているのはあり得ない。
ゲヘナ学園へのスパイとして送り込むための?
だとしてもあり得ない、あり得ないほどに彼女の仕草一つ一つが自分の知るイブキと同じだった。
そして何故か、あの少女が偽物だとも思えなかった。
「何がなんだか、分かりません。彼女は、それにあの大人は一体……」
いや、今はこの事より目前まで迫った大きな問題。
エデン条約の方に集中しなければ……はぁ、めんどくさいですね。
パンドラの箱、情報更新
─咲き残るは、我が鎮魂花─丹花イブキ
エデン条約編で撃たれたミサイルがきっかけで、イブキを除いたパンデモニウムソサエティの全員が亡くなったことがきっかけとなり、荒れた姿。
マコトのような話し方をすることがあり、マコトの残したコートと帽子を身に纏いイロハ、チアキ、サツキの遺品である帽子を常に身に付けている。
先生、緊急です。
もう一人生徒をお願いします。
かなり不味い状態でこのままでは生徒さんの心が壊れてしまいます、急いで先生の元に呼んで上げてください。
ご愛読ありがとうございます。
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