なりそこないと、壊れた生徒   作:クレナイハルハ

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サブタイトルには意味が四つあります。




なきうさぎ

レイサと共にイブキを連れ帰った俺を出迎えたのは、困惑した様子のホルスとケイだった。

 

「えっと、プリンを買って来たんだが……その、どうした?」

 

「その……」

 

「パーティーの新メンバーとの親愛度がかなりあがっていますね、先生!」

 

そう言う二人、正確には俺の隣に並んでいるレイサも俺の後ろを見ている……正確には俺の背中だ。

 

「何か文句でもあるのか、暁器ホルス」

 

「いや、ありませんけど……なんで背中に?」

 

「私が願い出て、それを先生は了承した。だよね?せーんせ!」

 

「アハハ、まぁそんな感じ」

 

そう言うのは、俺に背負われている……正確には途中で歩くのが疲れたと言われたから提案しておんぶしているイブキだ。

本当に、なんで召喚してすぐのマコトのような警戒心バリバリが短時間でこんなになるのだろうか?

特に変なことはしてないし、ゲームみたいに親愛度を上昇させるアイテムなんて持ってないぞ俺?

そう思っていると、ケイが少し困惑した様子で置いていったパンドラの箱を持ってきた。

 

「先生、帰ってきてすぐですがまたパーティーメンバーが現れたようです」

 

そう言いながらもケイが渡してきたパンドラの箱には、一枚の封筒が映し出されていた。

また?可笑しい、早すぎる。

今までは長い期間を空けたり、1日おきに現れたりと時間をかなり空けて現れていた。

でも、こんな短時間で封筒が現れるなんて……もしかして、生徒を召喚すれば召喚するほどに封筒が現れるのか?

そして召喚すれば召喚するほどに封筒が現れるまでの期間が短くなるのか?

これ以上生徒が増えるなんて、本当に……まてよ。

今、この場に揃っている生徒を改めて確認する。

ケイ、レイサ、ホルス、イブキ。

ブルーアーカイブというゲームに於けるパーティー編成は実際に戦場で敵を攻撃するストライカー4人、そしてストライカーにバフをかけたり、体力の回復や敵へのデバフに攻撃をしてくれるサポーター2人だ。

なら、次に現れるのはサポーター枠なのか?

いやでも俺が生きている目の前のブルーアーカイブの世界にサポーターもストライカーもない。

ゲームのような枠に分けられている訳でもなく、戦場にいない訳でもない。

どんな生徒が来る?

イブキに言ったが俺は、あくまでも居場所の無いと感じているかもしれないパンドラの箱が呼び出した生徒達の、この世界にとっての一時的な居場所になれれば良いと思っている。

これは、ケイ達と共に過ごしていて思った本心だ。

 

「その、イブキ。ついたし、一旦降りてくれないか」

 

「はーい」

 

そう言いながらイブキを床に下ろしてからパンドラの箱に表示された封筒を持ち上げ、全員に見えるように画面を向ける。

 

「2人が確認してくれた通り、新しい生徒みたいだな……」

 

「これが、私達を呼んだときに表示されていた物……そして、パンドラの箱か。先生の持っていたシッテムの箱と似て異なるもの、か」

 

パンドラの箱に表示された封筒を見つめるイブキ、無意識なのか口調は無邪気な子供のような物ではなく、会ったときと同じようなマコトのような口調に戻っている。

いつもの子供のような振る舞いは、周りに合わせたものなのか?それともこっちが演じていて、無邪気な方が本心?

分からないが、今考えるべきなのはそうじゃない。

 

「みんな、新しい生徒を呼ぶよ」

 

その言葉にその場いる4人の生徒は首を横に振ることはなかった。

ケイはアリスの笑みとは違う微笑みを浮かべ、レイサは新たな生徒と仲良くなれるかと不安そうにした、イブキには頭を撫でられている。

レイサはイブキと一緒に過ごした時間が留守番していたケイやホルスと比べて長いからか、イブキからの距離はかなり近くなっているようだ。

ホルスは、拳銃と盾を取り出すと手に持ち俺の隣に並んでくる。

 

「えっと、ホルス?」

 

「……私が言えることじゃありませんが、私やイブキのように此方に銃を向けてくる可能性があります。ここキヴォトスであなたは1発の銃弾でも命取りなんです、万が一にも呼び出した人が暴れたら大変ですから」

 

「そっか……確かにそうだ。ありがとうホルス」

 

そう言いながら、俺は手に持ったパンドラの箱に表示された封筒に触れる。

封筒が開き、中から一枚の灰色の紙が表示された次の瞬間、いつものように文章が表示された。

 

─こ、こちらRABBIT4…えっと、今私のことを呼びましたか?─

 

RABBITって事は、SRTか。

そして4ならミユなのか……確か、公式のPVでミユで涙を流しているPVがあったような。

そんなことを考えていると、パンドラの箱が光を放ったので目を瞑る。

そうした光が止むのを待とうとした時だった、何かが前の方から聞こえた。

まるで口から吐き出す息のような物が、短く繰り返し苦しそうに少しだけ息を吸う音。

目蓋を開けばそこには、ボロボロのSRTの制服を着た霞沢ミユが地面に座り込んでいた。

その虚ろな両目から涙を流し、苦しそうに呼吸して何かを探す様に目だけが周囲を見ている。

 

「……っ、は……はぁ、はぁ……!」

 

とても普通じゃない過呼吸のような状態のミユに、俺は刺激しないように近付いた方が良いといった思考が出来なかった。

 

「ミユッ!」

 

何が起こったのか、どうしてこうなっているのか分からない、でも。

慌てて駆け寄り、取りあえず彼女を落ち着かせるためにも背中に手を置いた。

 

「落ちついてっ、とにかくゆっくり深呼吸するんだっ!」

 

手が触れた瞬間にピクリと体が震える、ゆっくりと手を動かし背中を撫でる。ひたすらに繰り返し背中を撫でるが、それでも彼女の呼吸は変わらなかった。

 

「くっ、どうすれば……ミユ!」

 

確か、子供を落ち着かせるには心音を聞かせるといいとか聞いたことあったような……こんな状態で心音を聞かせるなんて難しすぎるっ!

なにか、なにかっ。

焦る中で、ふと職業体験で行った幼稚園で泣いていた子をなんとか泣き止ませた時の事を思い出した。

でも、アレをやれば間違いなく俺は後から銃を向けられても文句はいえないっ……でも、ここで過呼吸で死んだりするよりはマシだっ。

俺はすぐにミユ強く引き寄せて強く抱き締める、場所的に彼女の耳が俺の左胸にある心臓に当たるようにして背中を優しく撫でる。

 

「ミユ!ゆっくり、深呼吸をして、息をゆっくり吸うんだ」

 

出来るだけ優しく、刺激しないよう話す。

すぐ側にある彼女の顔が動き、俺の方を見て止まる。

目が合い、少しだけ羞恥心が出てきて視線を逸らしてしまう。

ゆっくりだがミユの虚ろな瞳が俺を映す、彼女は目を見開いた。

まぁ、知らない奴に抱き締められたら驚くか、そう思いながら彼女の背中を撫でる。

彼女の呼吸が短く浅いものから、ゆっくり長く、深い呼吸へと変わっていく。

 

「そうだ、ゆっくり……いい子だ。そのままゆっくり吸って……吐いて」

 

暫くそうしていると、落ち着いてきたのか震えも過呼吸も収まってきた。

 

「あ、あの……」

 

「わ、悪い。落ち着かせるためとはいえ、すぐ離れる」

 

「あ……」

 

そう言いながらすぐに彼女から離れる、こんな奴に抱き付かれるなんて嫌だろうし。

 

「あ、あの先生……」

 

「ホルスどうかしたのか?」

 

「さっきから何をしてるんですか」

 

「え、パンドラの箱に呼ばれた子が過呼吸を起こしてたから」

 

隣で立っていたホルスが眉をひそめ、呆れたような声で聞いてくる。目の前に過呼吸を起こしていた子がいるのに、なんでこんな取り乱していないのかと思い、振り返る。

レイサは顔を青くして震えており、ケイとイブキは何処か心配そうな表情を俺に浮かべていた。

何がなんだか分からず、困惑しているとホルスが口を開いた。

 

「さっきから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……とうとう頭でも狂いましたか先生?」

 

ひぃん!ホルスちゃんが辛辣だよぉ……。

て、え?なにもない、所?

 

「い、いやいや!いるだろ目の前に!」

 

「何をいってるんですか?()()()()()()()、そうですよね?」

 

「はい、アリスの目にも何も映っていません。先生は呪い状態になったのですか?なら解呪のアイテムを探さなければ!」

 

「の、呪いっ!?う、うう嘘ですよね!?幽霊とか呪いなんて迷信です……よね!?」

 

「先生、イブキと休む?イブキがゆっくり休めるように一緒に寝てあげるよ?」

 

何もいないというホルスの言葉に、頷く全員に体が震える。確かに、確かに目の前にミユはいる。

ヘイローだってしっかりあるし、抱き締めたときにすり抜けることもなかった。

確実に目の前にいる……なのに、なんで皆には見えていないんだ?

困惑しながらミユの方を見てふと、思い出した。

確かミユは影が薄いという特徴?があった、それこそ誰にも認識されなくて人とぶつかったり自動ドアに認識されなかったりだ。

いや、ケイ(アリス)のセンサーに引っ掛からない影の薄さってなに!?

それで良いのか名もなき神々の王女!?

つまり、皆にはミユの姿が見えてないってことなのか?

 

「あー、みんな。少しの間だけ一人にしてくれないか?後で理由も話すから」

 

そう言うとケイやホルス達は、少しだけ心配そうな表情を浮かべつつも集まっていた部屋から出ていってくれた。

取りあえず、俺は水の入ったペットボトルを自分とミユの前に置く。

 

「えっと、まずミユで……合ってるんだよな?」

 

「はいっ、私は……SRT特殊学園の霞沢ミユです。あの、あなたは?それにここは……」

 

俺の問いかけに反応した彼女は、困惑しつつも周りを見渡す。

 

「まず、落ち着いて聞いて欲しい。ここは君がいたキヴォトスじゃない、別の世界のキヴォトスなんだ。君は俺が持つこのパンドラの箱に呼ばれて、この世界にきたんだ」

 

「パ、パンドラ?」

 

困惑しつつも、自分をこの世界で移動させた存在が気になるのかテーブルに置いたパンドラの箱を見つめるミユ。

 

「それで、その……ここは君のキヴォトスとは別の世界のキヴォトスだからさ、この世界の君が既にSRT特殊学園にいるんだ」

 

その言葉に驚いた様子を見せたミユだが、はっとした様子で呟いた言葉に俺は目を見開いた。

 

「マルチバース理論、ですか?その、昔に本で読んだことがあって」

 

「そんな感じかな。本と違うのは起こっている目の前の光景が現実で、さっきまで部屋にいたみんなも、君と同じでパンドラの箱に呼ばれた別の世界のキヴォトスの子達なんだ。みんな、この世界に居場所がなくて、ここにいる理由を探すために、ここで一緒に過ごしてる」

 

説明を区切り、パンドラの箱の画面を見る。

所持生徒一覧に映る彼女についた称号は、やはりゲームで見たことのないものだった。

 

─ファントム・トリガー─霞沢ミユ

 

幻の引き金?スナイパーらしいと言われたらそうかもしれないけど、本当に何かあった生徒なのかと不思議に感じてしまう。

でも、現れた時の過呼吸を起こしていた姿を見る限りパンドラの箱が呼び出した生徒の中では一番、心が危ういように感じる。

それにしても、さっきのみんなの様子からミユの影の薄いという特性が凄く強いのか皆に認識されなかった。

お陰で、みんなから俺は変な目で見られてしまったからな。

せめて、ミユがこのばにいることを証明できるようにしておきたいな。

 

「問題は、どうすればミユが全員から認識されるようにするかだな」

 

「……あの、あなたは?なんて呼べば」

 

「あー、その。なんと説明するべきか……」

 

みんなが俺を先生と呼ぶから、それで慣れて訂正するのを忘れ始めてたが俺はあくまでもなり損ないだ。

 

「皆さんは先生って呼んでましたし、その……同じように先生と呼べば良いでしょうか?」

 

「いや、俺は先生じゃない。まぁ、みんなから先生と呼ばれてるのはそうなんだが、実際に教師って訳じゃないんだよ。なり損ないだからな」

 

そう説明しながら彼女をせめて、認識されるようにするにはどうすれば良いか思考する。

 

「その……なり損ない、さん?」

 

ふと、ゲームでのエピソードで彼女に関する一つの行動を思い出した。

ミユの絆ストーリーでミユの認識度を上げるため、シャーレの先生は鈴をつけたらどうかと助言する。

するとミユが取り出したのは、ペット用の鈴のついた首輪。それを身に着けて外に出たミユはシャーレ付近のさまざまな人から認識されていた。

認識された為にシャーレ付近に住む人々が先生は生徒に首輪を着けて野外プレイをしている、そんなあらぬ誤解をされてしまうという内容だ。

もしかして首輪を着けたら認識される?いやいや、待て俺!確かにそれだと彼女をみんなに認識させることが出来るだろうが、その場合間違いなく俺は変な目でみられる。

 

「な、なり損ないさん?」

 

そもそも鈴がついた首輪(ペット用)なんて、どうやって探せばいいんだよ?

いくらブラックマーケットでも……ありそうだが、そもそも首輪を着けて本当に認識度が上がるなんて保証はあるのか?

下手にミユにちょっと首輪着けてみてくれなんて言った日には、ミユやみんなから俺への評価は一気に地に落ちる。

どうするか目をつむり唸りながら思考していると、俺の服が引かれる感触がして思考を中断すると、ミユが目の前まで迫っていた。

 

「うわっ!?」

 

「はっ、はぁっ!みえて、ますか?みえて、ますか!?」

 

パンドラに呼ばれた時のように声を震わせながら短く浅い呼吸を繰り返し、縋るような声で自身が見えているのか聞いてくるミユに、思わず直ぐに頷いて返す。

すると彼女は安堵したように、強張った表情を綻ばせながら床に崩れ落ち深呼吸する。

 

「ミユ、大丈夫か!?」

 

「良かった、また……忘れられちゃったかもってっ!そう思ったら、体が震えて……怖くてっ」

 

「大丈夫だ、俺には見えてるから」

 

こんな姿の彼女を見ていたら、さっきまで考えていた周りや、ケイ達からどう思われるかという考えが消えていく。

彼女がこうなった理由、過去に恐らくは彼女の特性である影の薄さが強く関わっているのだろう、それさえ取り除ければ少しは安心出来るのなら。

 

「……ミユ、お前もし自分の影の薄さを少し改善できるかもしれない方法があるなら……やるか」

 

「っ!?そんな、方法なんて……あるんですか?」

 

「ある。恐らくは、君の影の薄さを少し改善できるかもしれない。でもな、それには大きな代償が」

 

「やります!お願いします、やらせて下さ──」

 

「待て待て待て!下手したら(社会的に)死ぬぐらいの辛さ(羞恥心)というか……ともかく、後から絶対に後悔するぞ!?それでもか!?」

 

「もう、お願いします。私は、私はもう……忘れられたくないんですっ!」

 

必死に、涙を大粒で流しながら俺にしがみついてくるミユ、俺はクランバトル倶楽部の客やケイ達からゴミを見る目で見られる未来を覚悟して、ミユと共にペット用の鈴のついた首輪を求めてブラックマーケットを探す事にした。

当然、ケイ達の誰かを連れて外に出るべきだと言われた為に守りも攻撃も切りかえられるホルスをつれていくことになり、ブラックマーケット内の店を2、3店舗程めぐりそれを見つけた。

ボロボロだが、確かにまだ使えるであろう鈴のついた首輪。

ペット用なのか、それとも人用なのか……流石に後者は勘弁して欲しい。

店員さんに話を聞くに、ペット用の物らしく一安心しつつミユも付けられそう?なのかは分からないが大きさは大丈夫そうなので購入した。

 

「先生、ペットでも買うんですか?急に首輪を買うなんて」

 

「あー、ペットを飼うんじゃないんだ。取りあえずその場で見ててくれ」

 

店を出た俺は手をつないでいるミユにさっき買ってきた首輪を渡す。

チリンという鈴の音と共に差し出された首輪を受け取ったミユは首をかしげ困った様子で俺を見つめてくる。

 

「あの……?」

 

「これを付けて見てくれ」

 

「は、はい!?」

 

「先生、流石に家の外でも何もない場所に声をかけて会話することは止めてください。変な目で見られます」

 

周りをキョロキョロと見渡し、若干恥ずかしそうにするホルスを横目に、ミユは受け取った首輪を見つめたまま動かない。

 

「その、これを付けるのはその……」

 

「影の薄さ、なんとかしたいんだろ?騙されたと思ってやってみろ。それに失敗しても、どうせ周りに首輪を着けてるのを見られる事はないんだからさ」

 

そういうと、ミユは自分の影の薄さから周りに見られていないことを思い出したのか恐る恐る首輪を首に巻いて留め具を着ける。

 

「そ、その……どうですか?」

 

うーん、なんだろうか。

ここがブラックマーケットだからなのか、それとも単純に彼女のせいか犯罪感が凄い。

凄く嫌だ、なんか異世界ラノベとかに出てくる奴隷商人みたいに見られそうで凄くやだ。

今度こそヴァルれ!止まキューレ警察だ!されても可笑しくない光景のせいか冷や汗が止まらない。

さて、効果はどうだろうか?

そう思っていると後ろからズザザザーっと地面が擦れる音がして振り返ると、焦った様子で後退りしたのか、少し離れたホルスがいた。

 

「なっ!?なっ!なぁぁぁぁぁあ!?!?」

 

ホルスはミユと俺を交互に見て顔が赤くなっていく、これは成功か!?

 

「何をやってるんですか先生!首輪なんて……そんな、最低ですハレンチです死刑です!!それにその子は何処から!?さっきまでいませんでしたよね!?」

 

「あの……ずっと一緒にいましたよ?」

 

「ずっと!?先生と私だけじゃ……」

 

ミユの言葉に反応しさっきから居たことに驚くホルスと、自分の声と姿が認識されていることに驚ぬミユ。

 

「わ、私の姿が見えて?それに声もっ!なり損ないさん!」

 

「取りあえず、上手く行ったみたいだな……」

 

いや、なんで成功したのか分からないがこれで皆にミユを紹介できそうだ。

首輪について言及されるのは、今は考えたくないな。

そう思っていると、ミユは自身が見られていることそして声も届くことが嬉しかったのか泣きながら抱き付いて来たので、安心させるように背中を撫でる。

 

「ホルス、この子がさっきパンドラの箱が呼び出した新しい子だよ」

 

「この子が?でもさっきはいませんでしたよね?」

 

「あー、それについては帰ってから話すよ。説明、かなり複雑だし。てか、首輪を着けたら見えるようになるってなんて、みんなになんて説明すれば……」

 

ケイやイブキ、レイサにどう説明すべきか頭を悩ませながら、二人と共にクランバトル倶楽部へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、作戦中に感じた小さな()()()だった。

 

ミヤコちゃん達から通信が、こない?

 

そんな疑問をけっして口に出さず心の中で呟く。

自分の役割はスナイパーだ、指示された狙撃ポイントで待機している状況。

そして、作戦での予定時刻を過ぎても仲間からの指示が来なかった。

想定外のトラブル?作戦が失敗した?

様々な予測が浮かぶ中で、通信が来ないために味方の安否が分からないなかで不安と心配でスナイパーライフルを握る腕が少しだけ震えそうになる。

 

「こ、こちらRABBIT4。作戦状況はどうなっていますか?」

 

通信は、返ってこない。

不安になり、スナイパーライフルのスコープを、RABBIT1、2のいる戦場へと向ける。

そこで見てしまった、地面に倒れ起き上がる気配を見せない地面に仰向けで倒れたミヤコとその側で頭を抱え、戦意を喪失させ座り込むサキの姿を。

 

「そ、んな……」

 

目が良いから、スコープ越しに更に強く見えてしまうのだ。

ヘイローの消えた月雪ミヤコが、気絶ではなくもう起きることのない怪我をしている事が見えてしまう、分かってしまうのだ。

存在感の薄かった私は、ミヤコちゃんがいるからここまでこれた。

ミヤコちゃんが私を気に掛けてくれたから、私はここで頑張ってこれた。

なのに、彼女がいなかったら………。

涙が流れ、戦意が喪失していく。でもせめて、ミヤコちゃんが面倒を見てくれてきた皆を逃がしたい。

震える手で、涙を拭いスナイパーライフルを握りしめサキへと向かって来る敵へと照準を合わせる。

 

「こ、こちらRABBIT4!RABBIT2!早くその場からにげてくださいっ!」

 

通信機越しにそう声をかけるが、スコープに映る彼女からの返事は返ってこない。その場からピクリとも動こうとしない。

 

「な、なんでっ!RABBIT3、RABBIT2の援護をっ!」

 

いくら通信機に呼び掛けても、通信機からの返事は返ってこない。

誰からも、返事が返ってこない。

誰にも、私の声が届かない。

息が、苦しい……いくら迫ってくる敵を撃ってもサキちゃんが動かないと助からないのに、どれだけ必死に訴えても私の声が届かない。

スナイパーとしてありえないほどに、大きな声を上げているのに、通信機からの返事は全くない。

 

この日、私達RABBIT小隊は壊滅した。

 

サキちゃんはPTSDとなり自主退学し、精神病院へと入院。

モエちゃんはヘリで戦場を移動中に撃墜され死亡。

ミヤコちゃんは、サキちゃんを庇って攻撃を受け死亡した。

その日からだ、私の存在感の薄さに拍車がかかったのは。

いくら大声を上げても、人の前に飛び出しても誰も私に気付かない。

そうして私は、誰の瞳にも映らなくなった。

誰とも会話できなくて、誰にも相談できなくて、生き延びて……。

なんで、こうなったんだろう?

まともなご飯を食べれなくなって、どれくらいたったんだろう?

私はみんなともう一度SRT特殊学園に通いたくて頑張ってた、ミヤコちゃんの力になりたくて頑張ってた。

なのに、なんでこんな風になったの?

気がつけば私は人目も気にせず地面に座り込んで、いた。

指先が震える、肺が酸素を取り込むことを拒否し息が苦しくなる。

 

どうして……そっか、そうなんだ。

 

私達は、私は……苦しむために生まれて───。

 

苦しくなる呼吸の中で、最後の()()が崩れそうな気がしたとき指先が何かに触れた気がして次の瞬間。

気が付けば私を見ている大人が私を抱き締めていた、優しく背中を撫でられ耳から聞こえる心臓の鼓動に呼吸がだんだんと楽になっていく。

そうして落ち着いた私は目の前の大人が、私を認識できていることに気付いた。

大人は周りの生徒から先生と呼ばれており、本人曰くなり損ないらしい。

そしてここは私がいたキヴォトスとは違うキヴォトスだと言う。

マルチバース理論、昔に本で呼んだことのあるために大人の話は理解することが出来た。

この人がなんで先生と呼ばれているのか、分からず話していたときだった。

大人、なり損ないさんは私の存在感の薄さを治せるかもしれないと言った。

私は藁にも縋る思いで懇願した、私の影の薄さが少しでも良くなるなら……そう思った。

そうしてブラックマーケットで見つけたペット用の首輪を差し出されたとき、私はこの人が可笑しくなったのだと思った。

でも、真剣な瞳で治したいんだろ?それにどうせ失敗しても周りに見られないんだからという言葉に乗せられ、私は首輪を首に着けた。

首元から鳴るリン♪という鈴の音に、羞恥心が沸き上がる中、先生と行動を共にしていたホルスと呼ばれている生徒が私を見て驚きの声をあげた。

なんと私を認識できたばかりか、いつもの声で会話が出来たのだ。

首輪を探し、先生と行動を共にしていた生徒が私を認識できるようになった、そんな漫画のような可笑しな現実、影の薄さを変えてくれたなり損ないさんへの感謝しかない。

手を繋いで拠点へと帰るなか、私はなり損ないさんへと顔を向けて口を開いた。

 

「その、ありがとうございます。これから、よろしくお願いします、先生」

 

そういうと、先生はどこか苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、何も言わず頷いた。




パンドラの箱、情報更新

─ファントム・トリガー─霞沢ミユ
"先生"がエデン条約三章に関わっていた際に発生した問題を解決するため動員されたRABBIT小隊が壊滅し、一人だけ生き残ってしまった姿。
存在感の薄さに拍車がかかっており、鈴のついた首輪を着ける事でようやく周囲から認識されるようになる。
一人で行動すること、仲間との通信が途切れることに異様に拒否反応を起こす。

先生、どうかこの子をお願いします

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